月と猫の赤い糸 ��

クリスマスが終わり、クリスマスムードが落ち着いてきた頃、越知はあと一週間ほどで迎
える大切な日のために思案を巡らせていた。その日に贈りたい物は既に決めているのだが、
それをどのように用意したらよいのか迷っていた。そんなとき、中学生が話している会話
を耳にし、一つ相談してみようと考える。
(突然話しかけたら、やはり怖がられてしまうだろうか・・・)
しかし、時間もそこまで多くはない。早めに相談を持ちかけないと、間に合わなくなって
しまうと越知は思いきって声をかけることにする。当然のことながら、毛利にバレては元
も子もないので、毛利が他の者とテレビを見ていたり、昼寝をしているタイミングを見計
らってそれを実行する。話しかけたいその中学生を探していると、廊下で二人そろってい
るところに出くわした。
『うわっ・・・』
突然越知を目の前にし、廊下を歩いていた甲斐と平古場は驚いたような声を上げる。
「先輩、いつ見ても迫力あるやっし。」
「いつも一緒にいる先輩は、今日は一緒じゃないばぁ?」
越知が探していたのは、甲斐と平古場であった。
「ああ。ちょうどよかった。お前達に折り入って頼みがあるんだが・・・」
「先輩がわったーに頼み事?」
「というか、ほとんど話したことないやんに、本当にわったーでいいば?」
「ああ。ここじゃ少し話しづらいので、どこかに移動するとしよう。」
突然越知に頼み事があると言われ、甲斐と平古場は顔を見合わせながら首を傾げる。とも
かく話を聞いてみないことには分からないと、言われるまま二人は越知について行った。
「突然、連れ出してしまってすまない。」
「別に今は自由時間だから平気やし。」
「わったーに頼み事って何か?」
越知が二人を連れて来たのは、合宿所内のカフェであった。ドリンクを頼んで、席につく
と越知は二人に頼みたいことを話し始める。
「年明け早々に毛利が誕生日を迎える。そのプレゼントについて、お前達に相談したくて
な。」
「毛利先輩って、先輩といつも一緒にいるあの人のことばぁ?」
「そうだ。」
平古場のそんな言葉に、いつも一緒にいると認識されているのか越知は少し照れたような
気分になる。それはさておき、事の本題を話し進める。
「誕生日プレゼントとして、シルバーリングを贈りたいと思っているのだが、いろいろ問
題があってな。」
シルバーリングという言葉を聞いて、どうして自分達に声をかけたのか二人は理解した。
「先輩、俺の特技がシルバーアクセサリー作りってこと、もしかして知ってる?」
「他の中学生が話をしているのを小耳に挟んだ。その認識は正しいのだろうか?」
「間違ってはないさー。それで、どんな問題があるんば?」
「初めは普通に買っておきたいと思ったのだが、まず指輪のサイズが分からない。少し前
にそれとなく聞いてみたのが、普段つけないから分からないと言われてしまってな。」
「あー、確かに普段つけなかったり、興味がなかったりする奴は自分でもサイズ分からん
かったりするよな。」
「だぁるなー。」
「それから、自分自身も今までそのようなものを買ったこともつけたこともないので、プ
レゼントとしてどのようなものを買ったらよいのか分からない。しかし、特別な日である
ので、贈りたいと思うのだが・・・」
なかなか難しいことを言ってくると思いつつも、シルバーアクセサリー作りが特技な甲斐
とオシャレな平古場にとっては、そこまで大きな問題ではなかった。
「サイズが分からないなら、フリーサイズなデザインのリングにすれば問題ないよな?」
「おう。デザインは好みだと思うけど、好きなものに関するデザインとかだと、わりと失
敗ないやし。まあ、何が好きかにもよるけど。」
「好きなものか・・・」
それを聞いて越知は毛利の好きなものを思い浮かべる。スタンプラリー、植物観察、プロ
レス・・・思いつくものは指輪のデザインには繋がらず、越知は困ったような顔になる。
「難しいな。」
「んー、ならシンプルなのが無難か?」
「けど、誕生日プレゼントにするなら、ちょっと凝ってる方がよくね?」
「だぁるなー。俺だったら、こういうのってすぐ思い浮かぶんだけどなー。」
甲斐と平古場のそんな会話を聞いて、越知はもう一つ頼みたかったことを口にする。
「可能であれば、シルバーリングを作ってもらえないだろうか。シルバーアクセサリー作
りが得意というのも聞いているが、センスがよくデザインも出来るという話も聞いた。」
「それは、凛の方だな。凛、デザイン得意やし。」
「まあ、人よりはちょっと自信あるけど。」
「材料費や制作費などはもちろん出す。そうしなければ、お前達からのプレゼントになっ
てしまうからな。期間はかなり短いが、頼まれてくれないだろうか。」
まさか高校生の先輩にそんなことを頼まれるとは思っていなかったので、二人は少々プレ
ッシャーを感じるが、なかなか面白そうだと思った。期待通りに出来るかは分からないが
やってみようと顔を見合わせて頷く。
「いいぜ。俺がデザインして、裕次郎が作るって感じでいいば?」
「ああ。引き受けてくれてありがとう。とても助かる。」
「得意と言っても素人だから、期待通りになるかは分からんけど、頑張ってみるさー。」
「ただ、デザインするにしても作るにしても、もうちょい情報が欲しいな。」
「毛利先輩にはバレちゃダメだろうから、上手いこと聞き出さんとだな。」
無理な頼み事をしているにも関わらず、どこか楽しそうな二人を見て、越知はホッとした
ような気分とどんなものが出来るのだろうかとドキドキした気分を同時に感じる。頼んで
みてよかったと思いながら、越知は二人には分からないくらいの表情で微笑んだ。

次の日の昼、いつも通り越知は毛利と昼食をとろうとする。今日はレストランで昼食をと
る者が多く、かなり席が埋まっていた。
「ギリギリ空いててよかったですね!」
「ああ。」
「メニューに親子丼あったし、今日はラッキーな日やね。」
それぞれ好きなものを注文し、たまたま空いていた席に座る。早速食べ始めようと箸を持
つと、越知の目に昨日やりとりをした甲斐と平古場の姿が映った。それと同時に向こうも
気がついたようで、トレイにハンバーガーを乗せながらこちらに向かってくる。
「席がかなり埋まってるみたいやんに、ここで一緒に食べてもいいばぁ?」
「さして問題はない。」
「今日は混んでるみたいやからね。ええよ。」
「どうも。」
これはチャンスだと、甲斐と平古場は目を合わせる。自分達は他の学校のデータマン達の
ようにこっそり情報を収集するということは出来ない。それならば、持ち前にコミュ力を
活用し、直接聞いてみようと考えた。越知と毛利と向かい合わせに座り、持ってきたハン
バーガーを食べ始め、それとなく会話を進めていく。
「先輩らは、練習がないときは何してるんば?やっぱ、自主練とか?」
「自主練もするけど、俺はテレビでプロレス見たり、合宿所の外散歩しながら、植物観察
したりするんが好きやなー。月光さんも散歩が好きやから、よう一緒に散歩するで。」
「へぇ。他に好きなものとかある?」
「スタンプラリーも好きなんやけど、ここじゃさすがに出来へんからな。やったら、絶対
おもろいと思うんやけど。」
ポンポンと好きなものの話をしてくれるのだが、越知が難しいと言っていた通り、指輪の
デザインに出来そうな情報は少ない。困ったなーと思いながら、もくもくとハンバーガー
を食べ進めていると、毛利の方からいろいろ話し出す。
「月光さんと散歩しとるとき、たまに猫がおったりするんやけど、その猫がまた可愛くて
な・・・」
「先輩、猫好きなんばぁ?」
突然猫の話をし出すので、平古場はそう尋ねてみる。猫であれば、デザインに使えるかも
しれないという期待を込めてそう口にした。
「好きやで。もともとそこまでえらい好きって感じやなかったんやけど、月光さんが猫が
好きで、猫見とる月光さんがすごく嬉しそうで、そんな月光さん見とるとこっちまで嬉し
くなるっちゅーか・・・せやから、最近は猫メッチャ好きやねん。」
猫の話なのか越知の話なのか分からないが、そんな話をする毛利の顔は実に楽しそうだ。
隣でそんな話を聞いている越知はどんな顔をしているのだろうと、甲斐と平古場はちらり
とそちらの方を見る。毛利が話していると、そばを食べる箸を止めるが、その表情はいつ
もとほぼ変わらず無表情のままだ。少なくとも甲斐と平古場にはそう見えた。
「あと、月光さんは囲碁が好きで、中学生が対局してたりすると観戦してたりするで。」
毛利に自由に喋らせていると、出てくる話題は越知のことばかりだ。誕生日プレゼントに
指輪をあげたいという時点で、越知が毛利を好いていることは分かっていたが、それ以上
に毛利が越知を好きだということが、毛利の話からひしひしと伝わってくる。
「先輩は、越知先輩のこと話してるとでーじ楽しそうさー。」
「だぁるなー。毛利先輩から見て、越知先輩はどんなイメージなんばぁ?」
「月光さんのイメージ?せやなぁ・・・やっぱ、お月さんやろか。どんなときも優しく見
守っててくれるとことか、新月みたいに静かでクールなときもあれば、満月みたいに大き
くてあったかい雰囲気のときもあるし、んで、日食のときみたいに、たまに太陽を隠して
まうくらい強いとこを見せてくれるとことか。」
「なるほど、ちょっと分かるさー。」
「名前もそんな感じやしな。」
毛利の言葉に二人は頷く。この話を聞いて、二人の頭の中で指輪のデザインに繋がるイマ
ジネーションが湧いてくる。
(猫と月ってのは、デザイン的に悪くないさー。)
(先輩の好きなもの、どう考えても越知先輩が一番さー。だったら、越知先輩のイメージ
で作るのが正解やし。)
あともう少しだけ残っていたハンバーガーをさくっと食べ終えると、甲斐も平古場もその
場を去る準備をする。
「先輩は越知先輩のこといっぺーかなさんやっさー(すごい好きなんだな)」
「あんくとぅやー(そうだな)。」
わざと沖縄方言で甲斐と平古場はそんなことを言い、顔を見合わせて笑う。当然のことな
がら、越知も毛利もその言葉の意味は分からなかった。
「へっ!?何て??」
「何でもないやっし。先輩達と話せて楽しかったさー。」
「にふぇー。また、面白い話聞かせて欲しいさー。」
そう言いながら、二人は席を立つ。楽しそうに去っていく二人を眺めながら、毛利は首を
傾げる。
「何て言ったんですかね?あの二人。」
「俺にも分からなかった。沖縄の方言は難しいな。」
「そうですね。あっ、俺達も昼飯食べちゃいましょうか。」
「ああ。」
話に夢中であまり箸が進んでいなかったので、毛利も越知もまだかなり残っている昼食を
食べ始める。今の会話であの二人が何か思いついてくれればいいがと、越知は胸をドキド
キさせながら、食べかけのそばをすすった。

その日の夜、平古場は机に向かい、紙にペンを走らせていた。そんな様子を甲斐はすぐ後
ろから覗いている。
「外から見えるとこはシンプルでいいと思うんばぁよ。で、フリーサイズにするんだった
ら、この部分を猫の手みたいにして、猫が指をぎゅっとしてるみたいにするんはどうか?」
「おー、でーじ可愛いし。やしが、ちょっとシンプルすぎん?」
「いやいや、ここからが裕次郎の腕の見せ所やし。指輪の幅をちょっと広めにして、その
裏の部分にこんな絵を彫って欲しいんばぁよ。」
そう言いながら、平古場は紙に絵を描き始める。枠線のように四角を描き、その中に猫が
夜空を見上げている様を描く。猫の視線の先には三日月があり、猫の尻尾と三日月の下側
は糸のようなもので結ばれていて、途中の部分がハートの形になっている。
「猫が毛利先輩で、三日月が越知先輩のイメージば?」
「やさやさ。」
「さっすが凛やし!でーじ上等なデザインさー。」
「作るのはいけそうか?」
「ちょっと難しそうだけど、たぶんいけると思うさー。」
「明日、先輩にこれでいいか確認しに行くか。」
「そうだな。あっ、せっかくやし、この指輪ペアリングにするか。」
「おー、その方が毛利先輩喜びそうやっし。やしが、二つも作るとなると、期間的に大丈
夫か?」
「平気やし。年末年始で休みも多いしな。」
なかなかいい感じのデザインが考えられたと平古場も甲斐も楽しそうに笑う。あとは、こ
れを形にするだけだと、甲斐は気合を入れ、平古場も手伝えるところは手伝おうと決めた。

越知に指輪のデザインを確認してもらい、それで問題ないことを確認すると、甲斐は早速
制作に取り掛かる。越知の分も作っていることもあり、完成したのは前日の1月2日であ
った。越知と毛利が一緒にいないタイミングを見計らい、甲斐と平古場は完成した指輪を
越知に渡す。
「ギリギリになっちゃって、スイマセン。」
「いや、かなり無茶な頼み事だったのに、きちんと間に合わせてくれて感謝している。あ
りがとう。」
「毛利先輩、喜んでくれるといいな。」
「ああ。とてもよいデザインだったので、おそらく喜んでもらえると思う。あのようなデ
ザインを考えられるとは、さすがだな。」
「褒めてもらえて嬉しいさー。」
越知に褒められ、平古場は嬉しそうに笑う。甲斐も平古場が褒められることは自分のこと
のように嬉しく感じるので、同じように笑っていた。
「先輩。」
「何だ?」
「わったーから見ても、毛利先輩は先輩のこと大好きと思ってるように見えるさー。その
指輪も先輩からのプレゼントなわけだから、絶対喜ぶと思うけど、先輩が毛利先輩をどれ
だけ想ってるかを伝えたら、もっと喜んでもらえると思うし。」
毛利が越知を好きだということは誰が見ても分かるので、平古場はそんなことを言う。プ
レゼントももちろん嬉しいが、好きな人に言葉で想いを伝えてもらえるということも、こ
の上なく嬉しいことだ。その嬉しさを知っているからこそ、平古場はそんなアドバイスを
する。
「そうだな・・・プレゼントを渡す際に伝えてみるとしよう。」
越知が頷くと、少し離れたところから毛利の声が聞こえる。
「あー、月光さん、こんなところにおった!」
「わったーはこのへんで。」
「明日の誕生日楽しんで欲しいさー。」
「ああ、ありがとう。」
空気を読んで、甲斐と平古場はその場から立ち去る。甲斐と平古場と入れ替わりに、毛利
が越知のもとへやって来た。毛利が近くに来る前に越知は二人から受け取った指輪をポケ
ットにしまう。
「月光さん、また沖縄の中学生と話しとったんですか?」
「いや、ほんの挨拶程度だ。」
「そうですか。あっ、さっき散歩しとったら、可愛い猫がおったんですよ!写メ撮ったん
で見てください。」
「ほう、それは是非見せて欲しいものだな。」
可愛い猫がいたので、それを共有したいと毛利は嬉しそうにスマホを出し、越知に写真を
見せる。毛利が撮ってきた猫も毛利自身も本当に可愛らしいと思いながら、越知はほのぼ
のとした気分になった。

夕食などを済ませ、部屋へと戻った越知と毛利であるが、部屋に戻ってしばらくすると、
毛利は越知の布団で眠ってしまう。
(日付が変わると同時に渡そうと思ったが、眠ってしまったのなら仕方ないな。)
毛利が眠っているので、机の椅子に座り、ポケットにしまっておいたプレゼントを出す。
丁寧にラッピングされたその箱は本当に店で買ったような状態になっていた。そこまでの
準備をしてくれた中学生に感謝しながら、越知は毛利を見る。
(喜んでもらえるだろうか。)
日付が変わるまであと二時間と少しあるので、越知はラケットの手入れや読書をして、そ
の時を待つことにした。
(そろそろだな。)
日付が変わる頃に越知は眠っている毛利のもとへ向かう。眠っていたとしても、すぐにそ
の言葉を伝えたかったのだ。
(まだぐっすり眠っているな。)
横向きに眠り、気持ちよさそうな寝息を立てている毛利の頭を優しく撫で、今日伝えるべ
き言葉を口にする。もちろん目を覚ましてからも改めて伝えるつもりであった。
「誕生日おめでとう、毛利。」
「んん・・・月光さん・・・・」
寝言のようにそう呟いたかと思うと、毛利はゆっくり目を開ける。
「すまない、起こしてしまったか?」
「あー、おはようございます。月光さん・・・」
「いや、まだ夜中だ。まだ、眠っていてもよい時間だが・・・」
「せやけど、月光さん、俺に何か言うてはりませんでした?」
毛利にそう言われ、ハッと気づく。毛利が起きたのなら、先程言った言葉をもう一度伝え、
プレゼントも渡そうと考える。
「毛利。」
「はい。」
「誕生日おめでとう。」
越知のその言葉を聞いて、毛利は今日が自分の誕生日であることに気がつく。
「あっ、今日は俺の誕生日や!ありがとうございます!」
今しがたまで眠っていたので、そんな反応になるのも無理はないと越知はふっと笑う。ま
だ、布団に寝転がっている毛利にプレゼントを渡してよいか聞いてみる。
「プレゼントを渡したいのだが構わないか?」
「ホンマですか!?月光さんから誕生日プレゼントもらえるなんて、メッチャ嬉しいです!」
まだあげてもいないのに、がばっと体を起こし、毛利はそんなことを言う。準備していた
プレゼントを手に取ると、越知はそれを毛利の前に差し出す。
「受け取ってもらえるだろうか。」
「はい!ありがとうございます、月光さん!」
越知の手にも毛利の手にも少し小さな箱を毛利は受け取る。赤いリボンで飾られたその箱
は、外から見ただけでは何が入っているか分からない。
「開けてみてもええですか?」
「もちろんだ。」
ドキドキしながら、毛利は赤いリボンを解き、箱を開ける。箱の中にはさらに箱が入って
いた。紙の箱ではなく宝箱じみた箱をパカッと開けると、そこには一つには三日月、もう
一つには猫の肉球が彫られた二つのシルバーリングが並んでいた。
「うわー、ペアリングやぁ。」
まるで恋人同士である者が贈るようなプレゼントに毛利は目を輝かせる。
「ペアリング?」
甲斐と平古場に頼んだのは毛利の指輪であり、ペアリングを頼んではいない。しかし、毛
利の手元を見てみると、確かにそこには二つの指輪があった。
「これ、どっちが俺ので、どっちが月光さんのですかね?月光さんはお月さんみたいやか
ら、三日月の方ですかね?」
「お前が好きな方でいい。」
「ほんなら、俺は猫みたいな方にしますわ。あ、でも、俺と月光さんじゃサイズちゃいま
すよね?というか、月光さん、俺の指輪のサイズ知ってましたっけ?」
「おそらくそれは問題ないはずだ。」
デザイン案を見せてはもらったが、完成品を見るのは越知もこれが初めてであった。毛利
が肉球の方を選んだので、越知は三日月の彫ってある方を手に取ってみる。デザイン案の
通り、手の平側に来る方は猫の手のようなデザインで輪にはなっておらず、サイズがある
程度調節出来るようになっていた。
「後ろが繋がっていないので、ある程度サイズは変えられるようになっている。」
「あっ、ホンマですね!ちゅーか、この後ろの部分猫の手になってるやないですか!こな
いに可愛いデザインの指輪、よう見つけましたね。」
手に持った指輪をまじまじと見ながら、毛利は嬉しそうにそんなことを口にする。猫の手
になっている方から指輪を見ていると、毛利はもう一つの細工に気がついた。
「わあ、月光さん月光さん!!これ、見てください!!指輪の裏側に絵が描いてありまっ
せ!猫がお月さん見てて、猫の尻尾とお月さんが繋がっとる。しかも、繋がってる糸がハ
ートになってまっせ。うわー、すごー。」
指輪の裏にそんな絵が描かれているとは思っていなかったので、毛利は素直に感動するよ
うな声を上げる。もう一つの指輪にも同じ絵柄が彫られていたので、越知もそれを眺めた。
(こんなに細かい絵柄を指輪の裏側に表現するとは恐れ入ったな。デザインもすごいと思
ったが、それを形にする技術もなかなかのものだ。)
甲斐と平古場の腕に心底感心しながら、越知は試しにその指輪をはめてみる。中に絵が彫
られているにも関わらず、そこが触れている部分に違和感はない。このような指輪を短期
間で二つも作り上げたことにただただ感心するしかなかった。自分は指輪をはめてしまっ
たので、越知は毛利の隣に座り、毛利の持っている指輪を眺めることにする。
「この猫はまるでお前のようだな。」
毛利の持っている指輪を見ながら、越知はそんなことを呟く。この猫と言っているのは、
指輪の裏に描かれた猫のことだ。
「ほんなら、このお月さんは月光さんですか?」
「そうだな。」
「・・・・・。」
そんな越知の言葉に毛利は何も言えなくなり、顔を真っ赤にする。そう思っているような
デザインのペアリングを贈ってくるというのは、自分のことを好いてくれていなければ、
なかなか出来ることではない。そのことが嬉しくてたまらず、毛利は真っ赤な顔で越知を
見た。
「月光さん。」
「何だ?毛利。」
「この指輪、月光さんがつけてくれません?」
「ああ。構わない。」
そう言いながら、越知は毛利から指輪を受け取り、毛利の指にそれをはめる。サイズはフ
リーなので、どの指にもつけることは可能だが、越知がはめたのは毛利の左手の薬指であ
った。
「・・・月光さん、何も考えずにつけてます?」
「どういうことだ?指輪をつけるのはこの指だろう?」
「それ、本気で言うてます?」
「好きな者とペアリングをつけるという状況で、この指以外ありえるのか?」
「っ!!あってます・・・・。」
冗談抜きに越知が左手の薬指につけてくるので、毛利はさらに顔を真っ赤にして頷くこと
しか出来なかった。左手の薬指につけられた指輪を眺めながら、毛利はこの上ない嬉しさ
と激しい胸の高鳴りを感じる。
「毛利。」
「はい。」
「今日はお前の誕生日だ。プレゼントの他に何かして欲しいことはあるか?」
「ほんなら・・・」
「何だ?」
「今日は月光さんとぎょーさんイチャイチャしたいです。」
「それは今からでもよいのか?」
「今からがええです!」
即答する毛利に越知はふっと微笑む。左手で光る指輪にちゅっとキスをすると、そっとそ
の場に押し倒した。
「こういうことで間違いないか?」
「はい・・・」
「今日はお前の望むことなら何でもしてやる。して欲しいことがあったら、何でも言うん
だぞ。」
精神の暗殺者とは思えないような優しい瞳で見下ろされ、毛利の胸はきゅんきゅんととき
めく。こんなふうに誕生日を祝ってもらえることを心から嬉しく思いながら、毛利は越知
の首にぎゅうっと抱きついた。
                    to be continued

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