月夜の海に舟浮かべ

「疾風。」
「ん?何だよ?蜉蝣。」
「今日の夜は暇だろ?これからデートに行かないか。」
「は?こんな真夜中にどこに行くんだよ?」
もう夜もだいぶ更けている時分に、突然デートに行こうと蜉蝣は言い出す。そんな蜉蝣に
疾風は意味が分からないというような表情で、言葉を返した。
「陸だと陸酔いして、デートどころじゃねぇからな。小舟で海に出て酒盛りってのはどう
だ?」
「海の上で酒飲むのか。それは悪くねぇな。」
「じゃあ、雁番のやつにそのこと伝えて、早速海に出るか。」
「おう!」
今日の雁番は義丸であった。義丸にこれから二人で海に出るので、自分達の舟は気にしな
くてよいと伝えた後、二人は小舟に乗って海へと漕ぎ出す。最近はだいぶ暑くなってきた
ので、袴は穿かず、ちょうど鯨捕りに出るような格好で二人は舟に乗り込んだ。

ある程度沖の方まで来ると、二人は漕ぐのを止める。陸の明かりが届かないような場所ま
で来たので、あたりは何も見えないほど真っ暗であった。しかし、今日は雲一つない天気
で月は明るく、たくさんの星も瞬いている。ここまで夜空がハッキリと見えるのなら、む
しろ明かりはない方が好都合だと、蜉蝣も疾風も星空を見上げた。
「おー、月と星で意外と明るいな。」
「そうだな。」
「よし、せっかく月も星もあんなに綺麗なんだし、酒でも飲むか!」
「ま、今日はそれが目的だからな。」
酒を飲む気満々な疾風に、蜉蝣は口元に笑みを浮かべながらそう返す。どちらも酒には強
いが、ハイペースで量を飲む疾風とゆっくりと景色を味わいながら飲む蜉蝣では、明らか
に疾風の方が酔いが回るのが早かった。
「んー、何かちょっと酔っぱらってきたかも。」
「ちょっとじゃなくて、だいぶ酔っぱらってるだろ、お前は。」
「そんなことねーよ。まだ、全然イケるし。」
「顔、だいぶ赤いぞ。」
「なんでこんな真っ暗なのに、そんなこと分かるんだよー?」
「月が明るいからな。それに俺は夜目がきくから、それくらいは見える。」
そう言う蜉蝣だが、疾風には蜉蝣の顔色が分かるほど見えてはいなかった。蜉蝣の顔色を
確かめたいと、疾風はぐっと顔を近づける。
「うーん、こんなに近くで見てもあんまり分かんねぇぞ。」
「俺はよく分かるけどな。」
「片目でしか見てないのにすげぇな。もうちょっと近づけば・・・」
あまりに顔を近づけてくる疾風に蜉蝣はドキドキしてきてしまう。酒を飲んでいることも
あり、そのドキドキ感は一番分かりやすいところにも伝わっていた。
「あれ・・・?」
「ど、どうした?」
顔を近づけていることで、体もだいぶ密着した状態になっていたので、疾風は蜉蝣のその
変化に気づく。そのことに気づいた疾風は悪戯っ子のように笑いながら、蜉蝣をからかっ
た。
「なーに、こんなに勃たせてんだよ?やらしいことでも考えてたのか?」
「別にそんなんじゃねぇよ。というか、お前がこんなに体密着させて、顔を近づけてくる
から・・・」
「俺の所為でこんなになってるってことか。」
そう自分で口にした瞬間、疾風も何だかドキドキしてきてしまう。意識すれば、もちろん
疾風の方も反応するわけで、疾風はそのことを全く隠そうとはしなかった。
「お前がそんなこと言うから、俺も勃ってきちゃっただろうが。」
「俺の所為かよ?」
「お前のが俺の所為でそうなってんだから、俺のがお前の所為でそうなったっておかしく
ないだろう。」
「まあ、確かにそうかもな。」
こういう状況になると、ドキドキ感よりムラムラ感の方が強くなってしまい、どうしよう
もなくなる。
「勃っちゃったもんはしょうがねぇ。するか!」
「ふっ、どんな誘い文句だよ?ま、お前らしいけどな。」
酔っぱらいの勢いと海の上で二人きりという状況に、二人は迷うことなくそういうことを
し始める。今日は袴を穿いてきていなかったので、そういうことをするにはもってこいの
状況であった。

「ふっ・・・ぁ・・・んっ・・・んむっ・・・・」
深い深い接吻を交わし合いながら、蜉蝣と疾風はお互いの熱を擦り合っていた。同じよう
にしているつもりでも、疾風には余裕がなく、蜉蝣のモノをきゅっと握ってほとんど手を
動かせていない状況であった。
「んっ・・・あっ・・・かげ・・ろ・・・」
「手動かせないくらい、余裕ねぇのか?」
「やっ・・・だ、だってよ・・・・あっ・・・」
「お前、口吸われて触られるのに弱いもんなあ。」
「んあっ・・・ああ・・・んんんっ・・・!!」
直接的な刺激が少なくとも、疾風の反応を見ているだけでだいぶクるなあと思いながら、
蜉蝣は疾風のモノを擦る。接吻の合間に甘い声を漏らしながら、疾風はビクビクとその身
と熱を震わせる。
「んんっ・・・んっ・・・んんっ・・・!!」
「そんなに感じまくって、そろそろイキそうか?」
「はっ・・・やだっ・・・まだ、まだイか・・・ない・・・・」
「別に我慢しなくたっていいんだぞ?そんな必要ないしよ。」
「今日は・・・蜉蝣のが・・・入ってから・・・イクんだよっ・・・!」
特にそんな必要は全くないのだが、疾風がそうしたいと言うのならそうさせてやろうと、
蜉蝣は手でモノ自身を弄るのをやめ、すっとその指を疾風の双丘の間へと持っていく。
「じゃあ、さっさと慣らして入れた方がいいな。」
「ハァ・・・んっ・・・うう・・・・」
くぷっと指を入れてやると、疾風は一瞬顔をしかめた後、ゆっくりと息を吐く。軽く締め
つけられはするが、それほどキツイというほどではなかった。
「俺のを入れてからイキたいんだったら、慣らしてる間にイクなよ?」
ニヤリと笑って、蜉蝣は疾風のそこを慣らしていく。だんだんと激しくなる蜉蝣の指の動
きに、疾風は大きな反応を見せながら蜉蝣の着物をぎゅうっと掴む。
「ひあっ・・・あっ・・・ふあっ・・・ぁ・・・」
「随分とよさそうじゃねぇか。指で弄られて気持ちいいのか?」
「ハァ・・・よくないわけ・・・ねぇだろっ・・・!!」
「お前の好きなトコ、触っていいか?」
疾風の返事を聞く前に蜉蝣はその部分をぐりっと抉る。あまりに直接的な快感に疾風の絶
頂感は一気に高まるが、何とかそれを堪えようとする。
「ああぁっ・・・だ、ダメっ・・・そこは・・・ダメぇ・・・・」
「ダメって可愛いな。そう言われると逆にしたくなっちまうぜ?」
「ふああぁっ・・・嫌っ・・・あっ・・・そこはっ・・・そこ弄られたらっ・・・イッち
ゃうから・・・・ダメぇっ・・・」
ビクビクとしながら、可愛い反応を見せる疾風にかなりツボっている蜉蝣であったが、あ
まり弄っていると、本当に達してしまいそうなので、そこを弄るのはやめてやる。強い快
感の余韻に呼吸を乱しながら、疾風は涙目で蜉蝣の顔を見た。
「すごいそそる表情だぜ。」
「んっ・・・」
ちゅっと疾風の唇に口づけてやると、蜉蝣は疾風の体を反転させ、舟に縁を掴ませる。そ
の体勢にされた瞬間、疾風はビクッとし、今までにない抵抗を見せる。
「やっ・・・これは嫌だっ!!」
「もう十分に慣らしてあるから、大丈夫だろ?」
「違うっ・・・この体勢は嫌だ!こんな真っ暗な海見ながらとか、超無理!!何か出て来
て引きずり込まれたりなんかしたら、どうすんだよっ!!」
お化けや幽霊が苦手な疾風にとって、夜の何も見えない海は恐怖の対象でしかなかった。
このまま怖がらせたままするのも悪くはないが、今回はそういう趣旨ではない。黒い海を
怖がる疾風の肩をぐいっと引っ張ると、舟の底にそのまま押し倒した。
「これなら大丈夫だろ?」
舟の底に仰向けに押し倒されて疾風の視界に入るのは、蜉蝣の姿と満天の星空であった。
これなら怖いことはないと、疾風は安心したような表情でコクンと頷いた。そんな疾風の
足を大きく開かせると、蜉蝣はすっかり大きくなっている楔を疾風の入口に押し当てる。
「あっ・・・」
「今入れてやるからな。イっていいぜ。」
そう言うと蜉蝣は一気に身を進め、疾風の中に自身をしっかりと埋める。ずっと達するの
を我慢していた疾風は、そんな刺激に耐えきれず、背中を仰け反らせながら熱を放った。
「あっ・・・ああぁぁ―――っ!!」
「本当に入れた瞬間、イっちまったな。」
「ハァ・・・ハァ・・・かげろ・・・ぉ・・・・」
「動くのは少し待った方がいいか?」
激しく呼吸を乱しながら、疾風が着物を掴んでくるので、蜉蝣はそう尋ねる。しかし、疾
風首を横に振り、蜉蝣に向かって腕を伸ばした。
「待たなくて・・・いい。動けよ・・・」
「了解。」
疾風が抱きつきやすいように蜉蝣は上半身を下げ、ちゅっと疾風の額に接吻をする。そん
な蜉蝣の首に腕を回し、疾風は蜉蝣が動きやすいように軽く腰を浮かせた。
「イったばかりだから、中の締めつけがすごくて気持ちいいぜ。」
「んっ・・・俺もまだ気持ちいいの・・・おさまらねぇ・・・・」
「これからまたもっと気持ちよくしてやるよ。」
「ふあっ・・・あっ・・・んっ・・・・」
濡れた音が響くほど、蜉蝣は疾風の中を激しく穿つ。大きな動きに合わせ、小舟は大きく
揺れ、二人にまた違う刺激をもたらす。
「海の上でってのも悪くねぇな。波でイイ感じに舟が揺れるしよ。」
「んっ・・・ふぁ・・・確かにっ・・・・舟が揺れると、また違うとこにあたって・・・
イイかも・・・」
「だろう?疾風がよけりゃ俺だって気持ちいいんだ。」
「だったら・・・」
「何だ?」
「もっともっと・・・たくさん・・・・よくなろうぜ?」
色っぽい笑みを浮かべながら、疾風はそんなことを口にする。そんなことを言われれば、
蜉蝣の熱はさらに元気になる。月に照らされた真っ暗な海の上で、蜉蝣は疾風の身体を存
分に味わい、疾風は蜉蝣の腕の中で甘い声を上げ続けた。

蜉蝣が疾風の中で果てると同時に、疾風も達し、そのまま気を失うように眠ってしまう。
もともとかなり酒を飲んでいたこともあり、疾風がこうなってしまうことは蜉蝣の中では
想定内のことであった。
「やっぱり寝ちまったか。」
寝ている疾風の下肢を自分の手拭いを濡らしてしっかりと拭いてやる。それを海の水で洗
った後、蜉蝣は再び酒の入った御猪口に手を伸ばす。
「した後の一杯はまた格別だな。ふっ、本当ガキみてぇな顔して寝てやがる。」
月を見つつ、疾風の寝顔をつまみにしながら、蜉蝣はもう少しの間、海の上での酒盛りを
楽しむ。今日はいいデートが出来たなあとしみじみ思いながら、また一口酒を口へと運ん
だ。

次の日の朝、網問や間切、重や航などの若い衆の間では、昨晩海で妖怪が出たという噂で
持ち切りだった。
「疾風兄ぃ聞きました?昨日の夜にうちの海で妖怪が出たって話。」
「は、はあ!?そんなことあるわけねぇだろ!!」
「けど、かなり信憑性があるって感じらしいですよ。」
「町の人も言ってたしね。」
「た、ただの噂だろ、噂!!だ、だって、俺、昨日海に出てたけどそんなことは・・・」
若いメンバーが全員でそんなことを話してくるので、疾風はかなりビクビクしていた。気
づかなかっただけで、実はいたのではないかと考えてしまい、どうしようもなく怖くなっ
てくる。
「か、蜉蝣!!お前は妖怪が出たとかいたとか気づいたか?」
「いや、昨日はうみ坊とかも特にいなかったし、見てないな。」
「ほらな!!やっぱ、何かの間違いなんだよ!!」
網問達の言っていることを必死に否定しようとしている疾風を見て、蜉蝣はくすくす笑う。
若い衆と疾風のやりとりを見ながら、義丸は蜉蝣に声をかけた。
「蜉蝣さん。」
「ん?どうした?義丸。」
「アイツらの言っていることなんですけどね・・・」
疾風や若い衆には聞こえないように、義丸はこそっと蜉蝣に妖怪が出たという噂の真相を
話す。
「あの噂の出どころ、どうやらヤケアトツムタケらしいです。」
「またか。」
「いや、それが完全に嘘というわけじゃなくてですねぇ・・・」
「やっぱり本当に妖怪が出てたのか?」
義丸は昨日雁番だったが故に何かを見て知っているのだろうと、蜉蝣は尋ねる。そう尋ね
られ、義丸は困ったような笑みを浮かべた。
「昨日、蜉蝣さんや疾風さんの舟以外にもう一艘舟を見つけたんですよ。それが、結構蜉
蝣さん達の舟の近くにいたんですよね。でも、昨日は蜉蝣さんも疾風さんもかなり飲んで
た上に、アレなことしてたでしょう?」
「あー、まあ、そうだな。さすがにあの暗さでは気づけなかった。」
「わたしは遠眼鏡で見ていたんで、気づいたんですけどね。それでですね、その妖怪の噂
の内容ってのが、暗闇の中に浮かぶ舟の上で、髪の長い妖怪が人を食べてたっていう感じ
なんですよ。食べられている人は、かなり切羽詰まった声を上げてたとか上げてないとか。」
そこまで聞いて、蜉蝣は義丸の言わんとしていることを理解した。昨日はいつも頭にして
いる手拭いを外していたし、着物もかなり着乱れていた。真っ暗な海の上で、そういうこ
とをしているとは全く考えないものが、その光景を見たら妖怪を見たと勘違いするのも仕
方がないと蜉蝣は考える。
「誰もいないと思ってたし、かなり飲んでたから、疾風も結構デカイ声上げてたなあ。」
「まあ、そうなりますよね。」
「ということはだ。昨日海に出たっていう妖怪の正体は、俺か?」
「おそらく。」
「俺が妖怪の正体か。こりゃまいったな。」
噂の真相が昨日自分達がしていたこと起因だということを知り、蜉蝣は苦笑する。そんな
ことを知るよしもない若い衆と疾風は、まだそのことでわいわいと騒いでいた。
「まあ、それでヤケアトツムタケの奴らも変なこと出来ずに帰ったみたいですけどね。結
果的にはよかったんじゃないですか?」
「そういうことにしておくか。」
ちょっとした噂が流れてしまっているだけで、実害はないと蜉蝣と義丸は騒ぎまくるメン
バーを見ながら笑う。今度海で飲むときは、そういうことにも注意を払わなければいけな
いなあと考えながら、蜉蝣は妖怪話にビクビクしている疾風をしばらくの間眺めていた。

                                END.

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