昨日約束した通り、大曲と種ヶ島は水族館へやってきた。
「おー、なかなかええやん。」
「確かにいい雰囲気ではあるな。」
「海の中にいるみたいでええな。」
大きな水槽に囲まれ、あたりは青く染まっている。全体的に青く薄暗い感じは、デートに
持ってこいの雰囲気だ。
「見てみぃ竜次。ここのサンゴ、メッチャ綺麗やで!」
「ああ、結構いろんな種類があるみてぇだし。」
「こないにカラフルやとお花畑みたいやんな。」
色とりどりのサンゴが並ぶ水槽に種ヶ島の目を釘付けだ。そんなサンゴを『お花畑』と表
現する種ヶ島を大曲は可愛いと思ってしまう。
「あっ、あそこに綺麗な魚いるで。あっちにはいわしの群れみたいのもいるな。そこの魚
は美味そうやん。」
「ちょっと落ち着けし。そんなあっちこっち目移りしてねぇで、もっとゆっくり見ろし。」
次から次へと違うものを指差す種ヶ島に大曲は苦笑する。まだ入ってから少ししか経って
いないが、種ヶ島は相当楽しんでいるようだ。
「あっちの水槽も気になるな。竜次、行くで☆」
大曲の言葉を聞いているのかいないのか、種ヶ島はテンションの高い状態で、奥へ向かっ
て歩き出す。奥へ進むと、トンネルのような水槽が二人を迎える。頭の上で様々な魚が泳
いでいる様はまるで海の底にいるような気分を味わえる。
「おー、頭の上サメが泳いでるで。」
「そうだな。ここもすげぇいろんな種類の魚がいるし。」
「せやな。あっ、あそこにいる魚・・・・」
気になる魚がいるらしく、種ヶ島は水槽に手をつきより近くで見ようとする。水槽に手が
触れる前に、大曲は種ヶ島の手を後ろからぎゅっと握った。
「えっ!?な、何やのん、いきなり。」
「水槽に触んなし。」
「触ったらアカンの?」
「多分ダメではねぇけど、指紋で汚れたら見づらくなるだろーが。」
「あ、あー、なるほど。」
それなら口で言ってくれれば触らないのにと思いながら、種ヶ島はドキドキとその胸を高
鳴らせる。水槽を触らないことは理解出来たのだが、大曲はその手を離そうとしない。
(竜次、何で手離してくれんのやろ?手ぇ握られてるのも、竜次がメッチャ近いのもドキ
ドキするわー。)
種ヶ島の手を握ったまま、大曲は水槽の手前の台に手をつく。まるで手を重ねられている
ような状態に種ヶ島はドギマギする。
(普段は何考えてんのかよく分かんねーけど、こういうときは本当分かりやすいし。こう
いうとこは可愛いよな。)
「で、どの魚が何だって?」
「へっ!?あー、もう竜次のせいで見失ったわ。」
「じゃあ、別のとこ移動してみるか。」
すっと手を離すと、種ヶ島は重ねられていた手と大曲を交互に見る。少し熱くなったその
手をもう片方の手でぎゅっと握り、種ヶ島は大曲の体温の余韻に浸る。
「何してるんだし?行くぞ。」
(何や手ぇ熱いわー。急にあないなことされると、どうしたらええか分からんな。)
大曲の後を追いかけ、種ヶ島は次の水槽へと進む。大きな魚から小さな魚まで、様々な魚
が二人の目を楽しませる。変わった魚や興味のある魚を見つけるたびに種ヶ島ははしゃぎ、
大曲に話しかける。魚を見ているより、種ヶ島を見ている方がよっぽど面白いと思いなが
ら、大曲は種ヶ島と過ごすこの時間を楽しんだ。
「はあー、ちょい休憩。水族館、メッチャ楽しいな☆」
「お前はどこ見てても楽しそうだな。」
「メッチャ楽しいで!ちょうどここのベンチ、目の前にクラゲいるやん。ええな。」
はしゃぎ疲れた種ヶ島が腰を下ろしたベンチの前には、縦長の水槽の中でクラゲがふわふ
わと泳いでいた。そんな種ヶ島の隣に腰かけ、大曲もクラゲに目をやる。
「休憩するにはちょうどいいし。」
「・・・・・。」
「どうした?」
種ヶ島に話しかけても返事がないので、大曲は種ヶ島の方を見る。次の瞬間、こてんと種
ヶ島の頭が肩にもたれる。
「おい・・・」
揺り起こそうかとも考えたが、昨夜のことを思い出し、大曲はすぐに起こすということは
しなかった。そのままではちょっとしたはずみに倒れてしまいそうなので、大曲は種ヶ島
の腰に腕を回し、しっかりと支えてやる。もたれかかる頭は目と鼻の先にあり、その近さ
に大曲の鼓動はほんの少しだけ速くなる。
(こんなとこで寝るとかさすがだし。まあ、昨日も結構遅くまで起きてちまったからな。
あんだけはしゃいでたし仕方ねぇか。)
すーすーと気持ちよさそうな寝息をたてる種ヶ島の様子を大曲はじっと眺める。種ヶ島の
頭が少し動くと、その顔が大曲の方へ向いた。目を閉じ、小さく開かれた口元はまるで口
づけを待っているような表情に見え、大曲はドキドキしてしまう。
(あー、これはヤバイな。すげぇキスしてぇ。いや、さすがにそれはダメだし。普通に部
屋だったら、迷わずするんだけどな。)
そんなことを考えながら、大曲は種ヶ島にキスをしたい欲求を必死にこらえる。せめてこ
の顔を写真にでも収めておきたいなあと思っていると、ふと目の前にある水槽が目に入る。
(ここでスマホ出してコイツの写真撮っても、傍から見るとクラゲを撮ってるように見え
るんじゃね?)
スマホを覗かない限りは、普通のカメラで撮っているのかインカメラで撮っているのかは
分からない。それだったら撮っておこうと大曲はスマホを出し、水槽にカメラを向けるふ
りをしながら、インカメラを起動する。右手では種ヶ島の腰を抱いているので、左手でス
マホを操作し、種ヶ島の寝顔がしっかり入るようにして、画面上のシャッターを押した。
(おー、結構よく撮れてるんじゃねぇ?せっかくだし、もう何枚か撮っておくか。)
種ヶ島が全く起きる気配を見せないので、大曲は何枚か写真を撮る。そのうちの何枚かは
あえて自分も入るように撮ってみた。普段はそんなことはしないのだが、久しぶりに二人
で出かけているというテンションがそうさせていた。
「気持ちよさそうに寝てるし。しばらくこのままにしといてやるか。」
そんなことを呟いて、大曲は再び種ヶ島に視線を移す。近くにあるクラゲの水槽には目も
くれず、大曲はずっと種ヶ島の寝顔を眺めていた。
「んん・・・あれ・・・?」
「やっと起きたか。クラゲには癒し効果があるって言うけど、さすがに癒されすぎだし。」
種ヶ島が目を覚ましたのは、それから一時間ほど経ってからであった。目の前にある大曲
の顔とクラゲの水槽。ここは水族館だと気づき、種ヶ島はパチッと目を覚ます。
「えっ!?俺、寝てたん!?」
「ああ。がっつりな。」
「竜次、何で起こしてくれへんの?え、どれくらい寝てたん?」
「小一時間ってとこか?」
「ガチで寝てるやん!えー、ほなら、その間竜次何してたん?暇やったやろ?」
こんなところで一時間も寝てしまったのかと、種ヶ島は焦る。しかし、大曲は不機嫌にな
っている様子もなく、むしろ、どこか上機嫌であった。
「ずっと眺めてたし。」
「一時間も!?」
「一時間どころか何時間でも見てられるし。」
「えー、そんなに好きなん?どこがそんなに好きやねん?」
「可愛いところとかか?」
「確かに可愛いかもしれんけど、これ、そんなに見てられるもんなんか?」
クラゲをずっと眺めていたと思っている種ヶ島は、不思議そうにそんなことを口にする。
目の前の水槽を見ながらそう言う種ヶ島を見て、大曲はふっと笑う。
「クラゲじゃねぇし。」
「えっ・・・?」
「ほら、起きたんなら行くぞ。」
ポンっと種ヶ島の頭を撫でるようにして、大曲は立ち上がる。意味ありげな笑みとその行
動で、種ヶ島は何時間も眺めていられると大曲が言ったものが何かを理解する。その瞬間、
種ヶ島の顔はぶわっと赤く染まる。
(クラゲじゃなかったら、俺ってことやろ?うわあ、恥っず。)
恥ずかしいがそれ以上に嬉しくて、種ヶ島は緩む口元を押さえながら大曲の後を追う。し
ばらく歩いて行くと、魚が展示されている水槽が途切れ、出口が見えてきた。
「水槽はほぼ終わりみてぇだな。」
「せやな。おっ、お土産売ってるとこあるやん。見に行こ。」
出口の近くにお土産ショップを見つけ、種ヶ島は迷わず向かう。わりと広いスペースのお
土産ショップには、様々な種類のお土産がところせましと並んでいる。
「いろんなもんあるなー。」
「せっかくだし、合宿所のやつらに何か土産買ってくか。」
「ええんちゃう?クッキーとかにしよか。」
「せんべいとかもあるし。お頭は抹茶のやつかせんべいとかのがよさそうだよな。」
「あー、確かに。ほなら、どっちも買っていこか。」
「そうだな。」
合宿所の高校生にお土産を買っていこうと、二人はかごにいくつかのお菓子を入れる。店
の中を見て回っていると、種ヶ島がぬいぐるみコーナーであるものを見つける。
「うわあ、竜次見てみぃ。これ、竜次にそっくりやで☆」
そう言いながら種ヶ島が手にしていたのは、デフォルメされたメンダコのぬいぐるみであ
った。様々な色があるが、種ヶ島が手にしているのは茶色のものだ。
「はあ?似てねぇし。」
「メッチャ似てるて。このフォルム、そっくりやん。」
可愛らしいぬいぐるみであるが、これに似ていると言われるのはそこまで嬉しくはないと、
大曲は不服そうな顔をする。目についた一つのぬいぐるみを手に取ってみると、種ヶ島と
は異なる感想が口をつく。
「俺よりお前に似てるし。」
そう言いながら大曲が持っているのは、白のメンダコのぬいぐるみであった。白のぬいぐ
るみは茶色のものより少し丸みを帯びていて、その色と形が種ヶ島の髪を連想させる。
(持ってみると意外といい柔らかさだし。可愛いし、悪くねぇな。)
「買うか。」
「えっ、ずるい!俺も買う!」
思わず口をついて出た言葉に、種ヶ島はすぐに反応する。大曲は白のメンダコを種ヶ島は
茶色のメンダコをそれぞれかごの中に入れた。別のコーナーに移動すると、種ヶ島がまた
何かを見つける。
「竜次、クラゲの誕生日ストラップあるで。」
「何だし、それ。」
「このクラゲの上の飾りのところに、月と日が入ってるんやで。5月29日と10月27
日は・・・・」
5月の列と10月の列から種ヶ島は自分と大曲の誕生日のストラップを探し出す。そして、
5月29日の方を大曲に渡す。
「はい、竜次の分。」
「俺の誕生日じゃねぇけど。」
「俺が竜次の誕生日のつけて、竜次が俺の誕生日のつけた方がええやん?」
「何でだし。」
「なあ、ええやろ?竜次。」
甘えるような口調でそう言われ、大曲は断れなくなってしまう。
「勘弁しろし。」
そう言いながらも種ヶ島が差し出すストラップを受け取る。受け取ってもらえたことが嬉
しくて種ヶ島はにこーと笑う。
「おそろいやな☆」
「嫌だっつっても買うんだろ。」
「ちゃい☆」
今日の記念にと種ヶ島は誕生日の刻まれたクラゲのストラップもかごの中に入れる。そろ
そろお土産はこれくらいにしておくかと二人はレジに向かった。
大曲と種ヶ島が合宿所に戻ると、何人かの高校生メンバーが休憩ルームに集まっていた。
これは都合がよいと二人は買ってきたお土産を配ることにする。
「随分大荷物だな。どこへ行ってきたんだ?」
「水族館やで。これはみんなへのお土産や。」
「へー、ありがとうございます!」
遠野の問いかけに種ヶ島は答え、お土産を配り始める。魚の形のクッキーを受け取り、毛
利は嬉しそうにお礼を言う。
「ふん、くだらん・・・」
「お頭には一応せんべいと抹茶のお菓子を買ってきたんですが。」
「ほー、それはいいですなあ。」
「勝手に置いておけ。」
興味のなさそうな平等院も自分好みのお土産があることを聞いて、大曲から受け取ること
にする。もらったお菓子を食べながら、君島は二人に持っている袋がまだだいぶ膨らんで
いることに気づく。
「そちらの袋は別のお土産が入っているのですか?」
「これは自分らのお土産やで☆ほら、かわええやろ?」
そう言いながら、種ヶ島はメンダコのぬいぐるみを出す。茶色のものも白のものも出し、
そこにいるメンバーに自慢する。
「ちなみに茶色いのが俺ので、白いのは竜次のやで。」
「余計なこと言うなし。」
種ヶ島がぬいぐるみを買ってくるというのはそこまで違和感はないが、大曲も買ったとな
るとそれはまた意外なことだと、そこにいるメンバーの誰もが思う。そして、もう一つ思
うことがあるが、三年生メンバーは誰も口には出来なかった。
「そのぬいぐるみ、大曲さんと修二さんに似てますね。」
誰もが思っていたことを毛利がさらっと口にする。それを聞いて、種ヶ島は嬉しそうな反
応を見せる。
「せやろ?これ、竜次にそっくりやと思うねん。竜次はこっちのが俺に似てるて言うんや
けど。」
「メッチャ分かります!茶色いのは大曲さんで、白いのは修二さんにそっくりです。月光
さんもそう思いますよね?」
「ああ。」
越知だけでなく、遠野や君島も同じことを思っていた。平等院は興味なさそうにしている
が、デュークは越知達と同じ意見だ。
「仲がいいですなあ。」
そんなぬいぐるみを合わせて買ってくるとは、なかなか出来ることではないとデュークは
そう口にする。全くだと他のメンバーも頷いた。何だか少し恥ずかしくなってしまい、大
曲はこの場から離れたくなる。
「土産も配ったし、そろそろいいだろ。早く荷物置きに行こうや。」
「ちゃい☆あ、他のやつに会ったら、そのお土産渡しといてなー。」
鬼や入江などはその場にいなかったので、そんなことを頼んで種ヶ島は大曲と部屋へ向か
う。二人が見えなくなると、毛利は越知の隣に腰かけ、甘えるような口調で頼み事をする。
「月光さん、俺も月光さんと水族館行きたいです。」
「そうだな。今度一緒に行くとしよう。」
「よっしゃ。楽しみにしてますね!」
越知と水族館デートの約束をし、毛利はご機嫌な様子で二人からもらったお菓子を食べる。
何だかんだで本当にあの二人は仲がいいよなーと思いながら、そこにいるメンバーはもら
ったお土産に手を伸ばした。
部屋に到着すると、種ヶ島と大曲は荷物を置き一息つく。
「はあー、水族館メッチャ楽しかったー!」
ぐーっと伸びをしながら、種ヶ島はそう叫ぶ。買ったお土産と持って行っていた荷物の整
理をしながら、大曲はつっこむ。
「もうちょっと静かにしろや。」
「竜次と水族館デート出来て、ホンマ楽しかったで。おーきにな。」
「まあ、俺も楽しかったし。」
「あー、でも、せっかくデートみたいなことしたんやから、自撮りの一枚でもしておけば
よかったわー。もったいないなー。竜次とツーショ撮りたかったわ。」
魚に夢中になり、写真を撮ることなど全く頭になかった種ヶ島は残念そうにそんなことを
言う。本当は自分だけで楽しもうと思ったが、あまりにも種ヶ島が残念そうにしているの
で、大曲はスマホを取り出し、種ヶ島に画像を送った。
ピロン、ピロン
「ん?何や?」
通知音がなるスマホを手に取り、種ヶ島はその内容を確認する。
「っ!?」
送られてきた画像を見て、種ヶ島は目を疑う。そこには、大曲の肩を借りてぐっすり眠っ
ている自分と笑顔ではないもののかなり上機嫌な表情の大曲が写っていた。大曲が自撮り
をするなどありえないと思っていたので、種ヶ島はこの状況を飲み込めないでいた。
「えっ!?なっ・・・ちょっ・・・」
「ふっ、落ち着けし。」
「これ、竜次・・・えー、どないしよ。待って待って。」
かなり動揺している種ヶ島を見て、大曲は何だか可笑しくなってしまう。深呼吸をして、
もう一度スマホの画像を見ると、種ヶ島は物凄い宝物を見つけたかのような表情になり、
目をキラキラとさせる。
「はあー、やばぁ。竜次とのツーショや。どないしよ、メッチャ嬉しすぎて心臓爆発しそ
うや。」
「大袈裟だし。」
「こんな恋人同士みたいな写真、いつの間に撮ったん?」
「お前が長いこと人の肩で寝てたからな。こんなのもあるし。」
ピロン
今度は種ヶ島単体の寝顔の写真を送りつける。かなり近距離で撮られたであろうその写真
に種ヶ島は恥ずかしくなる。
「盗撮やでー、竜次。」
「いや、普通に堂々と撮ったからな。つーか、こんな顔至近距離で長いこと見せられてた
こっちの身にもなれや。」
そう言いながら、大曲は種ヶ島をクローゼットの方へ寄せ、トンと顔の横に手をつく。壁
ドン状態のその状況に種ヶ島はドキドキしてきてしまう。
「すげぇキスしたいの我慢してたし。」
「すればよかったやん。」
「はあ?外で出来るかよ。ここまで我慢したの褒めるべきだし。」
「そんなにしたいん?」
「そりゃな。」
素直にキスしたいアピールをしてくる大曲に種ヶ島はきゅんきゅんする。スマホをポケッ
トにしまうと、その手で大曲の手を取り、恋人繋ぎのように指を絡める。ぎゅっとその手
を握ると、大曲もその手を握り返した。
「ええで、竜次。今ならしてくれるんやろ?」
「ああ。」
目を閉じほんの少しだけ上向き加減に顔を上げる。水族館で見た寝顔よりハッキリとした
キス待ち顔に大曲は我慢出来なくなる。ぴったりと種ヶ島の唇に自分の唇重ねる。もう一
方の手も同じように恋人繋ぎをし、大曲はその手を壁に押しつけた。
「んっ・・・」
かなり我慢していたこともあり、大曲は夢中になって種ヶ島にキスをする。しっかりと手
を握られ、何度も角度を変えてキスをされる。息つく暇も与えられず、種ヶ島は呼吸がだ
んだんと荒くなる。
「ふっ・・・ん・・・んぅ・・・」
(やっぱ、可愛いし。こんな顔見せられたら、止められなくなっちまう。)
薄っすらと目を開けて、大曲は種ヶ島の顔を眺める。満足するまで種ヶ島の唇を堪能する
と大曲は絡めている指の力を抜き、ゆっくりと顔を離す。
「ふ・・はぁ・・・竜次・・・・」
「何て顔してるんだし。」
「やって、竜次のキス、メッチャよかったし。手ぇぎゅっとされてんのも、何や恋人同士
みたいで嬉しかったわ。」
「恋人同士か・・・」
「ああ、竜次はあんまりそういうのにこだわるの嫌やったんやっけ。悪い悪い。」
「別に謝るようなことじゃねぇし。何つーか・・・」
絡めたままの指を再び握り直し、触れるか触れないかくらい顔を近づけ、大曲は言葉を続
ける。
「恋人みたいなこんな思いも出来て、親友みたいで、ライバルでもあって、仲間でもある
し・・・恋人っつー枠組みにはハマらねぇなあと思ってよ。むしろ、恋人以上の関係じゃ
ねぇ?」
「何やそれ・・・」
「ああ、やっぱお前からしたら不満か?」
「んなわけないやん。あー、もう、ホンマ竜次ずるいわー。」
顔を真っ赤にして、嬉しいのか困っているのか分からないような表情で、種ヶ島はうつむ
く。
「竜次が思ってる以上に、俺、竜次のことが大好きなんやで。それなのに、竜次はもっと
もっと竜次を好きになるようなことばっか言うて・・・どんだけ好きにさせたら気が済む
ねん。」
「何だしそれ。だったら言わせてもらうけどよ、無防備に人の肩借りてぐっすり眠ったり、
おそろいのぬいぐるみやストラップ欲しがったり、ほんの出来心で撮った写真送ってやっ
たら感動するレベルで喜んで、挙句の果てに顔真っ赤にして大好きとか言ってくる奴が目
の前にいるんだぞ。そんなの余計に好きになるに決まってんだろーが。」
何故かケンカ腰の口調で、大曲は抑えきれない想いをぶつける。お互いを好きな気持ちが
溢れてどちらもどうしようもなくなる。
「ほなら、どっちが好きか勝負しよか。」
「上等。負けねぇし。」
結局、好きを伝え合う勝負をすることになる。もちろんそれは一番分かりやすく伝えやす
い方法でだ。夕食前の時間にも関わらず、二人はもうしばらく二人きりの時間を楽しむの
であった。
END.