ここは、様々な種族が住む世界。人族、獣族、鳥族、魚族、虫族、花族などが共生してい
る。人族以外は、二つのモードを持っており、感情や気分、状況によってモードが変わる。
それぞれの種族が、その種族特有の特徴を持っており、その特徴を生かしながら環境に順
応している。よく晴れたある日、人族の家の庭で、様々な種族のメンバーがバーベキュー
をして楽しんでいた。
「さあ、どんどん火炙りにさせちゃうよー!!」
「まだまだ肉はたくさんありますので、たくさん食べて行ってください。」
テンション高く肉を焼いているのは、獣族でヘビモードになっている遠野だ。処刑関連の
事柄が好きで、肉を焼くことを処刑と称して、皆の肉をどんどん焼いていっている。この
バーベキューを主催しているのは人族の君島で、仲の良い他の種族との交流の場としてこ
のような場を設けている。
「サンサンが準備する肉、高級やからホンマ美味いわー☆」
「だな。こうして定期的にバーベキューしてくれんの本当助かるし。」
遠野が焼いた肉をパクパクと口に運び、舌鼓を打っているのは、魚族の種ヶ島と鳥族の大
曲だ。それぞれ人ではないものの、種族ごとの特殊能力が使える以外はほぼ人と変わらな
いので、美味しい肉がたくさん食べれるというのは、非常に嬉しい機会なのだ。
「お前用に少し冷ましておいた。これを食べるといい。」
「ありがとうございます!ヤマネコモードだと文字通り猫舌なんで、助かりますわ。」
仲良く肉を分け合っているのは、花族の越知と獣族の毛利だ。花族は光合成が出来るもの
の、人のような食事をするのも好きなので、越知も進んで肉を口にしていた。獣族は言わ
ずもがなだ。
「それにしても、サンサンとアツがこないに仲良くなっとるなんて思わなかったわー。」
どちらとも昔からそれなりに交流があった種ヶ島は、一緒に肉を提供してくれている二人
を見て、ニコニコしながらそんなことを言う。
「別に仲良くはないです。遠野くんは処刑処刑とうるさいですし、人の話を聞かず自分勝
手で。それに、普段のモードがヘビモードなので、にょろにょろしたものが苦手な私にと
っては、あまり好ましいものではないんですよ。」
「おっ、随分なこと言ってくれるじゃねーか。そんなに処刑されてぇか。」
「そういうところですよ。」
確かに話だけを聞いていると、あまり仲は良くなさそうだと、この中では一番親交が浅い
毛利は首を傾げる。
「せやけど、キミさんと遠野さんって一緒に住んどるんですよね?」
仲良くないのにどうしてだろうと、毛利は純粋に疑問をぶつける。それは確かに気になる
ところだと、他のメンバーも君島と遠野を見る。
「君島が俺の呪いを解いちまったからな。」
『呪い!?』
思ってもみない遠野の言葉に、君島以外の四人は同時に声を上げる。
「呪いって何だし。そんな物騒なもんかけられてたのかよ?」
「物騒ではないぜ。一応、俺を守るためにかけられてたもんだからな。」
「へぇ、呪いとかホンマにあるんやな。ちゅーか、誰がかけたん?」
「俺のばあちゃんだ。俺のばあちゃんは花族の呪術師だからな。」
それを聞いて、そこにいたメンバーは更に驚く。遠野の祖母が呪術師ということにも驚い
たが、それ以上に花族だということに驚いていた。
「えっ!?アツって獣族とちゃうの?いつもヘビモードでおるやん。」
「俺、獣族と花族のハーフだぞ。まあ、その呪いのせいで、ヘビモードでしかいられなか
ったから、そう思われてても仕方ねぇけどな。」
それは初耳だと、昔から親交のあった種ヶ島は驚いたような顔を見せる。
「呪いの内容は、花族のモードになれないというものか。親族がそのような呪いをかける
くらいだ。何か理由があったのだろう。」
遠野の話を聞き、越知は冷静にそう分析する。その通りだと遠野は頷く。
「越知の言う通りだ。違う種族同士のハーフの影響か、ちょっと感覚がバグってるみたい
な感じでよ。花族のモードだと、痛みを感じない・・・つーより痛みを快感と認識しちま
うらしくてな。」
肉を焼きながら、少しだけ恥ずかしそうに遠野はそう口にする。
「なるほど、花族のモードだと生粋のドMになってまうっちゅーことやな。」
「からかうなし。そりゃ今くらいの年齢ならそのくらいで済むかもだけどよ、ガキだとワ
ンチャン死ぬだろ、その性質は。そりゃ、呪いでも何でもかけて抑えたくなるわな。」
冗談めいたことを言う種ヶ島に、笑いごとではないと大曲は注意する。
「呪いの内容と理由は分かったんですけど、キミさんはどないしてその呪いを解いたんで
すか?」
遠野は君島が呪いを解いたと言っていた。その方法が気になると、毛利は質問を重ねる。
「俺もこの呪いが解けるとは思ってなかったんだよ。呪いが解ける条件が無茶苦茶でよ。
さっき大曲が言った通り、子どものままだと危ねぇからだろうな。年齢は16歳を越えて
からってのが第一の条件だ。」
「何や眠り姫の話みたいですね。」
「あれは呪いにかかる年齢やけどな。」
まるでおとぎ話のようだと、毛利や種ヶ島はワクワクした表情で遠野の話に耳を傾ける。
「ばあちゃんから言われたのは、16歳を越えた後で、『俺のことを嫌いかつ心から愛せ
る』、『俺のことを多少傷付けても罪悪感を感じず、但し俺のことをしっかり守れる』、
『本質的な欲望を解放しながら、それをコントロール出来る』・・・この条件を満たせる
人物に出会ったときに呪いは解けるってな。」
「その条件、どれも矛盾してねぇか?普通に考えて無理だろ。」
「俺もそう思ってた。だから、一生解けることはないと思ってたし、別にそれで困ること
はねぇと思ってたんだけどよ・・・」
「サンサンと出会ったときに解けてまったんやな!すごいやん!」
種ヶ島の言葉に、そこにいるメンバーは、この会話に入ってこようとしない君島に一斉に
視線を向ける。
「・・・ワクワクした目で見るのはやめてください。私からは何も話すことはないですよ。」
「どうやったらそんな矛盾した感情抱けるんだし。」
「そないな難しい条件の呪いを解くって、何や運命の相手みたいでええですね!」
純粋な毛利の言葉に、君島と遠野はドキッとしてしまう。
「そういや俺、アツとサンサンがどんなふうに出会ったのか知らんのやけど、よかったら
教えてくれへん?」
「確かにそれは気になるし。」
「俺も聞きたいです!」
「さして興味は・・・」
「仕方ねぇなあ。そんなに知りてぇなら、少しだけ話してやるよ。」
「ちょっと遠野くん!」
「別に話しちゃいけない内容でもねぇだろ。」
少し長くなりそうなので、遠野は今焼いている肉を皿に乗せるとそれ以上焼くのは止め、
君島との出会いを話し始めた。
(ヤベェ、完全に迷っちまった。)
森の中を散歩していた遠野は、いつもとは違う道を通ってみようという好奇心から、入っ
たことのない場所へ入り帰り道が分からなくなってしまう。
「木の上に行きゃあ、少しは方向分かるか。」
ヘビモードの遠野にとって木を登ることは造作もなく、さっと高い場所にある太い枝に立
ち、辺りを見回す。
「意外と見えねぇもんだな。あ、もう少しあっちの方に行けば・・・」
身を乗り出しながら動こうとしたため、遠野は足を踏み外してしまう。とは言えども、ヘ
ビの身のこなしを再現出来るため、問題なく地面に着地するはずであった。しかし、着地
しようとした場所に小さなリスがいるのに気づく。
(ヤベっ、避けねぇと!!)
ギリギリのところで体を捻ったため、バランスを崩す。リスを避けることは出来たが、運
悪く思いきり膝をついたところに大きめの石があり、左膝をその石に強打してしまう。
「あああぁっ!!」
思ったよりその石が尖っていたため、膝はざっくりと裂け、加えて打ち身の痛みが遠野を
襲う。傷を負ってしまった膝を抱え、遠野はその場に倒れ込む。
「うう・・・」
(痛ってぇ・・・動けねぇ・・・誰か・・・)
あまりの痛みに声も上げられず、倒れ込んだままでいると、ガサガサと茂みの向こうから
誰かがやってくる。
「っ!!だ、大丈夫ですか!?」
遠野が落ちたときの叫び声を聞いて、たまたま近くを歩いていた君島が何事かと声の主を
探し、遠野のもとへやってきた。遠野の左膝から血が流れているのを見て、君島はひとま
ず持っているもので応急処置をする。
「すみません、今持っているものだとこれくらいしか出来なくて。私の家が森を出てすぐ
の場所なので、そこでもっとちゃんと手当てしましょう。」
「わりぃ。ありがとう・・・」
「本当は背負えたらいいんですけど、ちょっと難しそうなので、肩を貸します。動けます
か?」
「たぶん大丈夫だ。」
自分より少し大きい遠野を見て、無理に背負おうとするよりは、肩を貸した方がいいだろ
うと君島は判断する。左膝に負担をかけないように身体を起こすと、肩を貸す。遠野が肩
に腕を回すと君島は何故かゾワっとする感覚を覚える。
(何だろう?この感じ・・・いや、今はとにかく家に戻らないと。)
遠野に肩を貸し、君島はゆっくりと家に戻る。家に帰ると自分の部屋に遠野を運び、ベッ
ドに座らせ、遠野の膝の手当てを行う。
「いや、マジでサンキュー。助かったぜ。」
「おそらく骨折などはしていないでしょうが、一応、かかりつけの医師を呼んで診てもら
いましょう。」
「そこまでしてもらわなくても・・・」
「いえ、何故そんなことになっていたかは分かりませんが、切り傷も結構深かったので、
診てもらった方がいいです。」
「分かった。わりぃな。見ず知らずのやつにここまでしてもらって。」
キチンとお礼や謝罪を口にし、よく見ると非常に整った顔をしている遠野を見て、君島は
どちらかと言えば好ましい印象を抱く。しかし、君島は先程から感じているゾワゾワとす
る感覚が拭えなかった。
「お前、名前は?」
「えっ?ああ、君島育斗です。人族です。」
「俺は遠野篤京だ。一応、獣族・・・で、今はヘビモードだ。」
遠野の言葉を聞いて、君島は先程から感じている謎の嫌悪感に近い感覚の正体を理解する。
「あー、なるほど・・・」
「お前、ヘビが苦手か?」
「えっ!?いや、その・・・」
「別に隠さなくていいぜ。そうだったら、俺に肩貸すのも嫌だっただろ?動けるようにな
ったら、すぐ出てくから安心しろよ。」
怪我人にそんなことを言わせてしまっているのを申し訳なく思いながらも、自分の感覚に
嘘はつけない。
(別に見た目がにょろにょろしてるわけでもないのにこの感覚。獣族のモードの影響って
すごいんだな。)
人族にはモードなどないので、君島はその強い影響を興味深いものだと認識する。そうい
えば人族以外は二つのモードがあったはずだと君島はふと思い出す。
「確か獣族・・・というよりは、人族以外は全部ですけど、二つのモードがあるんですよ
ね?遠野くんのもう一つのモードは何ですか?」
「・・・・・・」
自分が特殊なことは分かっているので、遠野は君島のその質問に困惑した表情を浮かべな
がら口を噤む。どう答えようか俯きながら考えていると、ズキズキと痛む左膝に思っても
みない感覚が走る。
「んんっ・・・!!」
(えっ、えっ!?何だよ、この感じ!?膝が・・・)
「遠野くん?」
膝を押さえて俯いている遠野を心配し、傷が痛むのかと君島は慌てて駆け寄る。遠野の手
に重ねるように包帯の巻かれている膝に手を添えると、遠野の身体がビクっと跳ねる。
「ああっ!!」
「だ、大丈夫ですか?そんなに痛みます?」
「き、君島ぁ・・・」
顔を上げた遠野の表情は、何故か赤く染まり、目は潤み、呼吸は乱れていた。痛みを感じ
ている表情とは思えないその表情に君島の胸はドキンと高鳴る。
(甘い香りがする。これは・・・リンゴ?)
先程感じていたゾワゾワ感はなくなり、代わりに甘いリンゴのような香りが遠野の周りに
漂っていることに君島は気づく。
(痛いはずの膝が気持ちイイ・・・これ、呪いが解けてねぇか?)
一生解けるはずがないと思っていた自分にかけられた呪いが解けているかもしれないと、
遠野はひどく戸惑う。何とか膝の気持ちいい感覚を鎮めようと、遠野は数度大きく深呼吸
をする。
「ハァ・・・も、もう大丈夫だ・・・」
「遠野くん・・・」
「さっきの質問の答えと、ちょっと信じられねぇかもしれねぇが、もう少し俺のこと、詳
しく話す。」
何とか落ち着きを取り戻した遠野は、自分が獣族と花族のハーフであること、とある理由
で花族のモードにならないように呪いがかけられていたこと、その呪いが今解けてしまっ
たかもしれないことを君島に話す。
「なるほど。話を聞いただけでは信じられなかったかもしれませんが、今しがたの遠野く
んの様子を見る限りでは一つも嘘はなさそうですね。」
「俺自身、今メチャクチャ戸惑ってる。」
「でも、遠野くんのヘビモードはちょっと苦手かもしれませんが、今の花族のモードは、
結構好きかもしれません。」
正直にそう告げる君島の言葉に、遠野の胸はひどくときめいてしまう。一生出会うことは
ないと思っていた呪いを解いてくれる相手にこんなにも早く出会ってしまった。それが自
分にとってプラスなのかマイナスなのかは分からないが、君島とは一緒にいるべきだと本
能が告げていた。
「なあ、君島。」
「何ですか?」
ぐいっ・・・
君島の胸元を掴み、遠野は君島にキスをする。遠野の突然の行動とそのキスが蜜を舐めて
いるかのように甘いことに君島は驚く。
「ちょっ!?」
「俺の花族のモードは『リンゴモード』だ。罪の果実の味、最高だろう?」
あまりに甘美で艶やかな遠野の誘い文句に君島は言葉を失う。ヘビに誘われ、罪の果実を
口にしてしまった君島は、一瞬で堕ちてしまう。
「君島、俺をお前の側に置いてくれ。」
「ええ、いいですよ。」
これからのことなど後で考えればいいと、君島は遠野の希望に頷いていた。そこから、二
人は共に過ごすようになった。
君島と出会ったときの話を、話せそうなところだけをかいつまんで遠野はそこにいるメン
バーに話す。遠野が話し終えると、今まで黙っていた君島が口を開く。
「遠野くんをうちに住まわせるようにしたのは別にいいのですが、慣れてくると処刑の話
ばかりして、好きな死刑執行人ランキングや好きな拷問器具ランキングなどを、聞いても
いないのにずっとしてくるんです。それに少々うんざりしていますね。」
心底迷惑そうに君島はそう話す。確かにそれは大変そうだと、大曲や越知、毛利は苦笑す
る。
「今まで聞いてくれる人がいなかったから嬉しかったんちゃうん?ちゅーか、今のアツと
サンサンの話聞いてて気づいたんやけどな・・・」
「何だし?」
「アツが処刑好きなのって、花族の方の性質が関係してるんちゃう?処刑とか拷問の話見
たり聞いたりして思うのって、うわ、メッチャ痛そーやん?せやけど、痛いが気持ちええ
って感じるんやったら、アツからしたら気持ちよさそうってなるのかなーと思て。」
それを聞いて、遠野の顔はボッと赤く染まる。そんなことを考えたことはなかったが、呪
いで抑えられていたとはいえ、花族のモードの特徴がそうであるならば、無意識下でそう
感じていてもおかしくないと思ったからだ。
「い、いや、そんなことは・・・」
「なくはないですよね?今の種ヶ島くんの話、私は納得出来ますよ。」
君島にもそう言われ、遠野は何も言えなくなってしまう。真っ赤になっている遠野が少し
可哀想だと感じ、毛利は助け舟を出す。
「遠野さん、俺、もっと肉食べたいです!」
「お、おう。話し終わったし、また焼いてやるよ。」
話をするために止めていた手を動かし、遠野は再び肉を焼き始める。しかし、さっきのこ
とでドギマギしてしまっている遠野は、誤って利き手とは逆の手で熱い網に触れてしまう。
「熱っ・・・」
火傷をしてしまったことに気づき、そばにいた君島は氷を手に取り、遠野の手を握るよう
にして、網に触れてしまった箇所に押し当てる。
「あっ・・・」
その瞬間、ぶわっとリンゴの甘い香りが辺りに広がる。
『!?』
「ちょ、君島、こ、これぐらい何ともねぇから・・・」
「ダメですよ。ちゃんと冷やさないと跡になります。」
「でも、痛いところ、そんなに冷たいの押し当てられてると・・・」
顔を真っ赤にしてビクビクと小さく震えている遠野を見て、大曲、種ヶ島、越知、毛利は
ドキドキしてしまう。リンゴの香りが強くなると同時に、焼いていた肉から火が上がる。
「イチャイチャしとるとこ悪いんやけど、肉燃えとるで!」
「うわっ!!やっべ・・・」
肉が燃えていることに気づき、遠野はヘビモードに戻る。燃えてしまって炭になった肉は
捨ててしまい、遠野はもう一度別の肉を焼き直す。黙々と肉を焼く遠野を尻目に四人はこ
そこそと話す。
「花族の方のモードのアツ、初めて見たけど思ったよりアレやな。」
「違う意味でも危なっかしいし。そりゃ君島が側に置くのも分かるわ。」
「あないに強い匂いさせるっちゅーことは、ホンマにキミさんのこと大好きなんですね。」
「ああ。あそこまで強い匂いをさせるのはなかなかだな。」
何を話しているかは聞こえないが、こそこそしているのは分かるのでそれを邪魔するかの
ように、遠野は焼き上がった肉を四人の前に置く。
「何こそこそ話してやがる。ほら、焼けたぞ。」
「あ、ありがとうございます!」
「焼いてばっかやけど、サンサンとアツは食べへんの?」
「君島は結構食べてるぞ。俺は後で新鮮なレバーと熱々のアップルパイを食わせてもらう
予定だからな。」
ちらりと君島の方を見ると、確かに食べている形跡があった。むしろ、話に入らない時間
が多いので、一番食べていると言っても過言ではない。
「ていうか、遠野さんの花族のモードリンゴモードやのに、アップルパイが好物なんです
ね。」
「ああ?別にそれは関係ねぇだろ。」
「いや、何やオモロ―と思て。」
「お前は何が好きなんだよ?」
「んー、親子丼や野菜天丼も好きですけど、やっぱり一番は月光さんの蜜ですね!」
「虫族みたいなこと言うじゃねーか。獣族のくせに。」
毛利もおかしなことを言っていると、遠野はふっと笑う。そんな二人の会話を聞いて、君
島は前々から気になっていたことを越知に尋ねる。
「寿三郎の言っている蜜というのは、何のことですか?」
「何とは限定しないが体液だな。花族の体液は文字通りどれも蜜だからな。」
「ああ、やっぱりそうなのですね。」
「何だ?思い当たるふしでもあるのか?お前は人族だから、毛利のように食事として摂取
するようなことはないだろう?」
「いえ、遠野くんと触れ合った後、肌艶が良くなったり体調がいつもより良くなることが
多いので。」
ぼかしてはいるが、遠野とそういうことをしているのだろうなということに越知は気づく。
「もともとの効能はあるだろうが、花族の蜜はそのときどきの気持ちや意思によって、特
別な効能をもたらすことがある。もし、そのような効果を感じているのなら、遠野はお前
のことをそれだけ大切に想っているのだろうな。」
「そ、そうですか・・・」
冷静にそう語る越知の言葉を聞いて、君島はドキドキしてしまう。そんな話を聞くと、も
っと意識して遠野の蜜を味わいたくなる。
「何やみんなおもろい話しとるなあ。どのペアも仲良くてええな!」
「そうだな。思ったより君島と遠野がいい雰囲気で安心したし。」
「はは、俺らも負けてられへんな☆海帰ったら、存分にイチャイチャしよか。」
「フッ、勘弁しろし。」
遠野の焼いてくれた肉を口に運びながら、大曲と種ヶ島はそんな会話を交わす。美味しい
ものを食べながら、他のメンバーの話を聞いていたいと、そこにいるメンバーはもうしば
らくバーベキューを続けるのであった。
END.