乱れ舞ふ 花のうちにて 忍びけり 消え去る前に その身捉えむ 跡部景吾
(乱れ舞う桜の中にお前は忍んで隠れている。
姿を現したなら、消え去る前にその身を捉えよう。)
忍びゆえ 花に隠れて 現れむ 気づけば君に 捉えられたり 宍戸亮
(忍びだから、桜吹雪に紛れてお前の前に現れてみる。
気づくといつの間にかお前に捕まっていた。)
桜がひらひらと舞う木の下で跡部は宍戸を探していた。今日は忍びの仕事はさせず、二人
きりで山へ花見に来ているのだ。
「おい、宍戸。隠れてねぇで、さっさと出てきやがれ。」
忍びであるがゆえ、宍戸は身を隠すのが得意であった。跡部の声を聞きつつ、宍戸は花に
紛れる。
「宍戸!」
もう一度跡部が宍戸の名を呼ぶと、ザアァっと強い風が吹き抜ける。枝を激しく揺らされ、
桜の木は大量の花びらを辺りに舞い散らす。その大量の花びらに紛れ、宍戸はやっと姿を
現した。
「そこか。」
花の中に宍戸の姿を見つけ、跡部はその身を捉えた。
「わっ・・・」
「捕まえたぜ。」
宍戸の体をしっかりと抱きしめながら、跡部はそう囁く。思ったより強い力で抱きしめら
れ、宍戸は全く身動きが取れなかった。
「そんなにしっかり抱きしめなくても・・・」
「アーン?逃げられちゃ困るからな。」
「さすがにもう逃げねぇって。」
そう宍戸が言っても、跡部は全く腕の力を緩めようとはしない。
「テメェは優秀な忍びだからな。油断したら消えちまうだろ。」
「消えねぇよ。今日は忍務じゃねぇんだし。テメェと花見に来たんだぜ?」
「このままでも花は見られるだろうが。」
「確かにそうだけどよ・・・・」
跡部の言葉に納得しつつも、この体勢は少し恥ずかしいと宍戸は思う。ふとそのまま上を
見上げると、雪のように桜の花びらが舞っていた。
「まあ、別にいいか。」
今目の前に広がっている光景が予想以上に美しく、宍戸はぼーっとしながらそう口にする。
この光景を前にしたら、どんな体勢で見ていようがどうでもよくなってしまう。そんな光
景に見惚れていると、跡部が口を開く。
「なんか花の中にいるテメェ見てたらよ・・・」
「ああ。」
「あまりにも自然で、そのまま花と一緒に風に吹かれてどこかに消えちまうんじゃねぇか
と思って、一瞬不安になった。」
「ふっ、何だよそれ?」
「だから、しばらくの間はこのまま離さねぇ。」
「しょうがねぇなあ。」
意外な跡部の言葉に少々驚きつつも、宍戸はそれが嬉しかった。そう思っていたのなら仕
方ないと、宍戸は自分の体の前に回されている跡部の手に自分の手を重ねる。
「んじゃ、このまましばらくお花見を楽しもうぜ。」
「ああ。」
桜が舞い散る木の下で、二人はしばらく春らしく美しい光景を楽しむのであった。