木の上で 光る望月 眺めける 白き光は 君に似たるか 向日岳人
(木の上に上って、真ん丸の満月を眺める。あの綺麗な月の光は侑士にそっくりだ。)
忍びには ふさはしくなき 夜なれど 君と見る月 心を捉えり 忍足侑士
(月が明るすぎて忍びには不向きな夜やけど、自分と見る月はすごく綺麗やと思うで。)
涼しげな風が吹く秋の夜。岳人と忍足は高い木の枝に座り、ぽっかりと浮かぶ満月を眺め
ていた。
「今日はすっげぇ月が綺麗だな!」
「せやなあ。こないに明るいと忍べへんな。」
「今日は別に仕事じゃねぇし、構わねぇんじゃねぇの?」
月明かりの明るい夜は、忍びにとってはあまり好まれるものではない。しかし、今日は特
に仕事はない。それならば、この綺麗な月夜を満喫しようと岳人はそんなことを言う。
「確かに忍務がなけりゃいい月やんなあ。真ん丸やし、メッチャ綺麗に光っとるし。」
白く光る月を見つめながら、忍足は穏やかな笑みを浮かべてそう呟く。そんな忍足の横顔
に、岳人はドキっとしてしまう。自分が言葉を発した後、しばらく岳人が口を開かないの
で、忍足は岳人の方に目をやった。
「どないしたん?岳人。」
「へっ?何が?」
「急に黙りこくって、ぼーっとしとるから。」
「いやー、侑士やっぱ綺麗だなーと思って。」
恥ずかしげもなくそんなことを言ってくる岳人の言葉に、忍足は顔を赤く染める。しかし、
そんなことで動揺しているのを見せるのは悔しいと、忍足は平静を装ってつっこみを入れ
る。
「何言うとんねん。綺麗なのは月やろ。」
「月も綺麗だけどさ、侑士が綺麗ってのも本当だぜ。」
ニッと笑いながら、岳人は言う。恥ずかしい気持ちと嬉しい気持ちが交錯して、忍足は岳
人から目をそらすように空の月へ目をやった。
「その月を見てる感じがいいんだよなー。侑士の顔が月の光に照らされてて、超いい感じ
♪」
(ホンマに敵わへん・・・)
岳人の言葉にこれ以上冷静さが保てないと、忍足は小さな溜め息をつく。
「どうした?」
「もー、アカンわ、ホンマ。」
「何がだよ?」
「岳人がさっきからおかしなことばっか言うてくるから、ドキドキしてしゃあないわ。」
「おかしなことなんて言ってねぇよ。思ってること言ってるだけだぜ?」
「そういうところがずるいねん。別にかっこつけてるわけやないのに、口説くようなこと
ばっか言って・・・」
「ふーん、侑士はこういうこと言われるとドキドキすんのか。」
忍足の弱点を見つけたと言わんばかりに、岳人はニヤニヤと笑う。そして、忍足の耳に唇
は近づけると、いつもより少し低い声で囁く。
「好きだぜ、侑士。」
「〜〜〜〜っ!!」
ばっと耳を押さえ、忍足は顔から耳にかけてを真っ赤にして、岳人を見る。あまりに驚い
たような顔を見せる忍足がおかしくて、岳人は吹き出した。
「あははは、すごい顔だぜ、侑士!」
「う、うるさい!!岳人がいけないんやろ!」
普段はあれほど冷静な忍足がここまで取り乱すのが面白くて、岳人は大笑い。
そんな騒がしい二人を、月は静かに光を放ちながら、優しく見守るのであった。