新春は 喜ばしきこと 数多あり 最たるものは 君生まれし日 芥川慈郎
(お正月はたくさん嬉しいことがあるけど、
俺にとって一番嬉しいのは、樺地の誕生日だよ。)
年の端の おめでたうとの 言葉には 二重の祝い 込められたらむ 樺地崇弘
(年の始めにあなたが「おめでとう!」と言う。
その言葉にはきっと二つの意味が込められているんだろう。)
新しい年になってから、三日目。ジローは跡部の城の門番をしている樺地のもとへ駆け寄
った。
「樺地!」
「・・・・・・」
名前を呼ばれ、樺地をそちらの方へ目をやる。そこには珍しく目を覚ましているジローの
姿があった。パタパタと駆け寄ってくるジローに、樺地はぺこりと頭を下げる。
「おめでとう、樺地!」
明るい笑顔を浮かべながら、ジローは樺地にそう言い放つ。その言葉を新年のあいさつと
受け取った樺地は同じ言葉を返そうとする。
「お・・・・」
「今日は樺地の誕生日だよな!はい、これ、プレゼント!!」
樺地の言葉を遮り、ジローはそう言いながら用意してきたプレゼントを渡す。そう言われ
てしまっては樺地はお礼の言葉を述べるしかなかった。
「ありがとう・・・ございます・・・・」
「なあなあ、樺地今日他の奴に誕生日おめでとうって言われた?」
「いえ・・・今はお正月のあいさつの方が先に来るんで・・・・」
「じゃあ、俺が一番最初だな!」
「ウス。」
一番始めに誕生日を祝う言葉が言えたということで、ジローはにぱぁと子供のような笑顔
を見せる。そんなジローの顔を見て、樺地の顔もほころんだ。
「お正月はいっぱい嬉しいことがあるけど、俺は樺地の誕生日が一番嬉しいぜ!」
「新しい年が・・・来ることよりも・・・ですか?」
「当たり前じゃん。だって、樺地が生まれた日だぜ?超めでたいじゃん!」
自分の誕生日が、新年が来るよりもめでたいと言われ、樺地の胸はほんのりときめく。誕
生日を祝われることがこんなにも嬉しいことだったのかと、樺地は心の底から思った。
「今日はずっと樺地と一緒にいてやるよ。今日も一人で門番してなきゃなんだろ?」
「ウス。」
「誕生日に一人じゃさびC〜じゃん?だから一緒にいるぜ!」
「ありがとうございます・・・」
ジローの言葉が全て嬉しくて、樺地はもう一度お礼を言う。いつも通り、しばらくしてジ
ローは樺地の隣で眠ってしまったが、樺地はそれでも十分であった。
初春とは言えどもまだまだ寒いこの季節。樺地の心の中には一足早く暖かい春風が吹き始
めた。