戦国パラレル和歌(甲斐×平古場)

 風を切り 小舟で海へ 漕ぎ出さむ 今日はどこまで 行こうか問はむ 甲斐裕次郎
(風を切って、二人で小舟で海へと漕ぎ出そう。
        今日はどこまで遊びに行こうかお前に聞いてからな。)
 わだつみの 上に小舟を 浮かべけり 二人でならば どこへも行けむ 平古場凛
(広い海の上に小舟を浮かべて遊びに行く。
        俺とお前ならこの海のどこへだって行けるさー。)

水軍の仕事が特にない日。甲斐と平古場は、小舟に乗って海へ出る。仕事でしょっちゅう
海へ出ているが、二人にとっては特に仕事がない時でも海にいるのは普通なのだ。
「今日はいー風が吹いてるな。」
「だなー。」
「今日はどこまで遊びに行くば?」
櫓を手にし、甲斐は平古場に尋ねる。他の者ならこの広い海のどこに何があるかなど分か
るはずがないのだが、この海を治めている水軍の精鋭である二人は違った。どこに行けば
魚がたくさんいるか、どこに探検しがいのある沈没船があるか等、だいたいのことは把握
していた。
「そうだなー、とりあえず風に任せてみるか?」
「さすがうちの手引だなー。じゃあ、軽く沖へ出たらあとは風任せで行くか。」
「おう!」
風を読むことが仕事の平古場は、どこまで行くかは風に任せるという他の者が聞いたら、
無謀とも思われる提案をする。しかし、この二人にとっては、それは全く無謀ではないこ
とだった。
「裕次郎は今日は何したい?魚釣り?宝探し?」
「宝探しは面白そーだな。風がいーとこまで運んでくれるといいけどな。」
「今日の風は運んでくれるさー。風は俺達の味方だからな。」
まるで風の声を聞いているかのように、平古場はそうきっぱりと言い放つ。
「さっすが凛!いいこと言うな。」
「まあ、いー風が吹こうが吹くまいが、裕次郎と一緒だったら、どこ行っても楽しいけど
な。」
「嬉しいこと言ってくれるじゃん。俺も凛と一緒なら、どこ行っても、何してても楽しい
ぜ!」
どちらも一緒ならば、どこでも楽しいということを、恥ずかしげもなく口にする。互いに
口にしたその言葉が嬉しくて、二人は顔を見合わせて笑った。
「へへへ、何かちょっと照れるけど嬉しいさー。」
「だなー。なあ、凛。」
「何か?裕次郎。」
名前を呼ばれ、平古場が顔を自分の方へ向けた瞬間、甲斐は平古場の唇に口づける。
「へへ、奪ってやったぜ。」
「いきなりそーいうことするなよ!ビックリして、櫓落としそうになったさー!」
「大丈夫さー。俺はちゃんと持ってるし。」
「もぉ・・・」
恥ずかしさから顔を真っ赤に染めて、平古場はちょっと怒ったような顔を見せる。しかし、
それは完全な照れ隠しであって、甲斐のキスが嫌ということは全くなかった。それが分か
っているがゆえに、甲斐は可愛らしく頬を染めている平古場の顔を十分に堪能する。
穏やかな海の上、二人を乗せた小舟はゆっくりと沖へ沖へと向かうのであった。

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