(早く跡部の仕事終わらないかなー。)
ここは氷帝学園生徒会室。跡部と一緒に帰る約束をしていた宍戸は、そこで跡部の仕事が
終わるのを待っていた。
「もう少しで終わるから、ちょっと待ってろ。」
「お、おう。」
何というタイミングで話しかけてくるのだろうと、宍戸は少しドキっとする。跡部が仕事
をするのを眺めながら、宍戸はぼんやりと跡部のことを考えていた。
(そういえば、最近あんまり跡部に頭撫でてもらったりとかされてねぇな。いや、別にそ
んなにして欲しいとか思ってるわけじゃねぇけど。)
心の中で考えていることも若干ツンデレじみている宍戸に、跡部は意味ありげな笑みを浮
かべながら近づく。そして、帽子をかぶっていない頭をぐりぐりと撫でながら、仕事が終
わったことを伝えた。
「仕事、終わったぜ。」
「本当あともう少しだったんだな。てか、頭撫でんのやめろよ!」
「あーん?本当は撫でて欲しかったくせに、何言ってんだよ?」
ニヤニヤしながら、跡部は宍戸にそう返す。跡部に頭を撫でられて少し嬉しくなっている
自分が悔しくて、宍戸はぷいっとそっぽを向きながら、跡部の手を払いのけた。
「全く素直じゃねぇなあ。」
「誰もそんなこと頼んでねーし!」
「まあ、いい。とりあえず帰るか。随分待たせちまったみてぇだしな。」
「本当だぜ。」
帰る準備をして、宍戸は跡部より先に生徒会室のドアへと向かう。ドアノブに手をかけた
ところで、宍戸はふとその動きを止める。
(あー、ここで帰ると跡部と二人きりじゃなくなっちまうんだよなあ。もうちょっとだけ、
跡部と二人きりでいてぇ気もするけど・・・そんなこと言えねぇしなぁ。)
「どうした?宍戸。」
「べ、別に何でもねーよ。」
「ふーん、俺様とまだ二人きりでいたくて、帰りたくねぇってわけか。」
「なっ!?」
心を読まれたと思い、宍戸はひどく驚く。いつの間にか、宍戸はドアを背にするような体
勢にされていた。そんな体勢になっている宍戸の顔の横に跡部は手をつく。
「お前が触って欲しいと思うところにピンポイントで触ってやるよ。ほら、どこに触れて
欲しいか考えてみな。」
「そんなこと出来るわけねぇだろ。」
「信じる信じねぇは勝手だが、やってみないと分からねぇだろ?」
出来るわけないと思いつつ、宍戸は跡部の言う通り、自分の体で触れて欲しいところを考
えてみた。まずは、特に触られても問題のない肩と頭の中で考えてみる。すると、跡部は
宍戸の肩に手を置いた。
「っ!?」
「次は?」
「い、今のはまぐれだろ!!」
「それはどうかな。」
その後、宍戸は手、腰、髪、頬と順番に触れて欲しいところを思い浮かべる。思った通り
の順番で跡部は宍戸に触れた。さすがにこれは信じざるを得ないと、宍戸はドキドキしな
がら跡部の言っていることを認めた。
「・・・マジかよ。」
「フン、俺様のインサイト舐めんなよ。テメェの考えてることなんて全部お見通しだぜ。」
「じゃ、じゃあ・・・・」
そう言いながら、宍戸はぎゅっと目を閉じて、顔を軽く上げる。これは自分じゃなくても
分かるだろうと思いつつ、跡部は宍戸の唇に優しく口づけてやった。
「テメェは本当分かりやすいぜ。言ってることは素直じゃないくせにな。」
「う、ウルセー。とりあえず、今日はもう帰るぞ!」
「テメェが引きとめたんだろうが。ま、テメェとしては今ので色々満足したってことだろ
うがな。」
図星をさされて、宍戸はカァっと顔を赤く染める。それを誤魔化すかのように、宍戸はガ
チャッと生徒会室のドアを開け、廊下へ出た。
「全然満足なんてしてねーんだからな!俺をあんなに待たせた罰だ。とりあえず、今日の
夕飯奢れよ!!」
「フッ、構わないぜ。テメェの食べたいもん、何でも奢ってやるよ。」
まだ納得いっていない部分もあるが、何でも好きなものを奢ってもらえるということで、
宍戸の機嫌はいくらかよくなる。宍戸の一挙一動が可愛いなあと思いながら、跡部は昇降
口に向かって、宍戸と廊下を歩くのであった。