触れたい、触れられたい(岳人×忍足)

とある休日、岳人と忍足はスケートリンクに来ていた。テニスだけではなく、ウィンター
スポーツも得意な岳人は、スケートも例外なく得意なスポーツの一つであった。
「よーし、体慣らしはだいたいオッケーだし、そろそろ本格的に滑り始めるか。」
「え、今までのは何だったん?普通に滑っとったやん。」
「あんなのウォーミングアップにしかなんねぇよ。そうだ、せっかく侑士と一緒に来てん
だから、侑士も一緒に滑るか!」
「えっ?」
ここからが本番とばかりに、岳人は忍足の手をしっかりと掴み滑り出す。次の瞬間、忍足
の体は物凄い勢いで氷の上を滑っていた。
「なっ!?えっ!?が、岳人っ!!」
「ははは、やっぱ、スケートはこれくらい飛ばして滑らねぇとな!」
「あ、危ないって!!こないに人がいっぱいいるところでっ!」
「大丈夫、大丈夫。侑士は俺にしっかり掴まってれば、全然問題ないぜ。」
岳人の言う通り、かなりのスピードを出しているにも関わらず、他の人にぶつかりそうに
なるということは全くない。しかし、こんなにも早いスピードでスケートを滑ったことが
ない忍足にとっては、かなりスリリングな状況であった。
(ホンマ岳人は、ありえんことを平気でやってのけるなあ・・・)
この状況で、手を離されることは怖すぎるので、忍足はぎゅっと強い力で岳人の手を握る。
予測はしていたものの、こんなにも素直に強く握られるとは思っていなかったので、岳人
は嬉しさを隠せず、忍足の方を向きながらニッと笑う。
「そんなに俺の手強く握っちゃって、怖いのか?侑士。」
「あ、アホっ!!何でこっち向いとんねん!!ちゃんと前見て滑れ!!」
「へーき、へーき。よっと。」
前を見ていなくても、人や障害物を岳人は軽々とよけて滑る。もう心臓がいくつあっても
足りないとばかりに、忍足の心臓はドキドキと高鳴っていた。しばらくスピードスケート
を楽しんだ後、岳人はスピードを落としながら、忍足の腕を引き、後ろを向いて滑りなが
ら、もう一方の手を取った。
「今度は何すんねん?」
「へへへ、さっきのはどっちかと言えばスピードスケートって感じだっただろ?」
「せやな。」
「今度はフィギアスケートってなイメージでやってみようかと思って。」
「は・・・?」
「行くぜ、侑士!」
「ちょっ・・・待っ・・・!!」
両手で忍足の手を掴みながら、岳人はフィギュアスケートの選手のように自由自在に氷の
上を滑ってみせる。もちろん手を握られているため、忍足も岳人の動きに合わせて、氷の
上を滑らされる。
「んじゃ、俺、スピンするから一旦手離すぜ。」
「な、何言うとんねん!!こんな状況で、手離すとかありえんやろ!!」
「大丈夫だって。せーの・・・・」
「あっ・・・」
忍足の焦る言葉にも耳を貸さず、岳人は忍足の手から自分の手を離す。そして、その勢い
のまま、大きくジャンプし、スピンをして見せた。そして、華麗に着地をすると、コント
ロールの利かなくなっている忍足の前に移動し、その手を取ってくるっとターンをする。
一般人とは思えない岳人のパフォーマンスに周りの人々は拍手を送っていた。
「ほーら、平気だっただろ?」
「・・・マジで、心臓止まるかと思ったわ。」
「大袈裟だなあ、侑士は。」
「次、手ぇ離したら、本気で怒るからな。」
手を握っている間は、少しは楽しめるものの、離されたらもう恐怖の方が上に立ってしま
う。半泣き状態でそんなことを言ってくる忍足に、岳人は萌えるなあと思いながら、ぎゅ
うっとしっかり手を握ってやった。
「侑士がそこまで言うならこの後はずっと握っててやるよ。その代わり、俺の好きなよう
に滑らせてもらうからな!」
「・・・勝手にすればええやろ。」
一人で滑っていたら絶対に味わえない感覚に、忍足はスリルと楽しさを同時に感じ、岳人
の手を強く握り返すのであった。

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