触れたい、触れられたい(鉢屋×雷蔵)

「本当よく寝ちゃってるなあ。」
授業のない午後、雷蔵は自分の部屋で鉢屋がぐっすりと眠っているのを眺めていた。いつ
もの通り鉢屋は雷蔵の変装をしている。
「普通なら自分の寝顔なんて見れるはずないのに、三郎といるとそれが出来ちゃうからな
あ。僕ってこんな寝顔なのかぁ。」
自分の変装をしているということは、今眠っている顔は自分の寝顔とほとんど同じだと言
っても過言ではない。変な感じだなあと思いながら、雷蔵は鉢屋の頬っぺたをつんつんと
つついた。
「ん〜・・・」
「おっと、起きちゃうかな?」
「んー・・・Zzzzz・・・」
「意外と起きないんだなあ。」
手をパタパタさせて唸るような声を上げるので、起きてしまったかとも思ったが、鉢屋は
そのまま眠り続ける。そんな鉢屋を見て、雷蔵はくすくす笑う。
「こんなによく寝てると何だか悪戯でもしたくなっちゃうなあ。」
もともと変装している顔なので、落書きをしたところで意味がない。むしろ、自分の顔に
落書きをしているような気分になってしまって、残念な気持ちになる。そんな悪戯ではな
くもっと他の悪戯はないかと、雷蔵は少し考えた。
「ちょっとだけなら、大丈夫かな?」
そんなことを呟き、雷蔵は鉢屋の顔にぐっと顔を近づける。そして、柔らかい頬にそっと
口づける。次の瞬間、雷蔵の体はぐいっと何かに引っ張られた。
「うっわ・・・・」
「随分可愛い悪戯してくれてるじゃん、雷蔵。」
「さ、三郎!?」
先程まではあんなにぐっすり眠っていた鉢屋が目を覚まし、雷蔵の手を引いたのだ。まさ
か起きるとは思っていなかったので、雷蔵はひどく驚いたような顔を見せる。目を覚まし
た鉢屋はニヤニヤと笑いながら、そんな雷蔵の顔を眺めていた。
「いくら眠いと言っても、仮にも忍者の卵だぞ?最初に頬をつつかれたときに起きてるさ。」
「お、起きてたの!?狸寝入りとかずるい!!」
「雷蔵が気づかないのがいけないんだぞ。それにしても、私の顔に接吻する雷蔵、超可愛
かった。」
「っ!!??」
一番言われたくないことを言われ、雷蔵の顔は羞恥の色に染まる。
「雷蔵の顔真っ赤だな。」
「さ、三郎が・・・意地悪するから・・・・」
「意地悪なんかしてないさ。私が思っていることを素直に口にしているだけだぞ。でも、
今の雷蔵の顔・・・」
雷蔵の顎をぐいっと上げ、鉢屋はニヤリと笑う。かなりの至近距離で、じっと顔を見つめ
られ、雷蔵の心臓はバクバクと速くなっていく。
「すっごい私好みだ。このまま口でも吸いたくなってしまうほどだ。」
「うう・・・」
唇が触れ合うすれすれのところまで、鉢屋は雷蔵の顔に自分の顔を近づける。口づけられ
ると思い、雷蔵はぎゅっと目をつぶった。しかし、しばらく待っても唇が触れ合うような
感覚はない。
(あ、あれ・・・?)
ゆっくりと目を開けると、鉢屋の顔は先程と同じくらい近くにある。その近さにドキッと
し、雷蔵は再び目をつぶった。目の前にあるのは自分の顔なのだが、表情は自分と違う。
それは紛れもなく鉢屋のものであった。
「雷蔵。」
鉢屋に名前を呼ばれ、雷蔵はもう一度目を開ける。その時にはもう鉢屋の顔は先程よりは
離れた場所にあった。少し離れた位置から、鉢屋は両手で雷蔵の顔に触れる。
「この顔は私の大好きな顔だ。雷蔵の顔なら本当どんな顔でも可愛いと思うぞ。」
「どうして、そう僕が恥ずかしいと思うことばっか言うかな。」
「そりゃ恥ずかしがってる雷蔵の顔も好きだからな。」
「もう・・・ずるいよ、三郎。」
雷蔵とて鉢屋が嫌いなわけではない。むしろ、大好きなのだ。そんな鉢屋に自分の顔が好
きだと言われたら、やはり胸はときめいてしまう。ぎゅうっと鉢屋の制服を掴むと、雷蔵
は鉢屋の唇にキスをする。
「っ!!」
「ぼ、僕だって、三郎の顔好きなんだからね!僕の顔だけど、三郎は三郎だもん。」
「やってくれるなあ、雷蔵。今のは不意打ちすぎるだろ。」
思ってもみない雷蔵の行動に、鉢屋の顔も赤く染まる。鏡に映したように二人の顔は同じ
ように赤く染まり、お互いの姿をその目で捉える。しばらく見つめ合っていると、何だか
可笑しくなってしまい二人はぷっと吹き出し、声を上げて笑い始める。先程までは静かだ
った部屋に笑い声が響き、明るい空気が二人を包むのであった。

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