触れたい、触れられたい(小平太×滝夜叉丸)

下級生が実習の為、今日の体育委員会は小平太と滝夜叉丸の二人で仕事を行わなければな
らなかった。しかし、今日はこれといって大きな仕事はなく、軽く用具の点検をした後、
会計委員会に渡す書類を書くのみであった。
「よし、こんなもんか。」
書類を作るのが苦手な小平太の代わりに、滝夜叉丸がその仕事を行う。トントンと机の上
で紙を揃えると、滝夜叉丸は小平太に声をかける。
「七松先輩、書類終わりました。」
「おー、お疲れ。ありがとな。助かった。」
「いえ、私にとっては大した仕事ではないので。」
いつもの自信に満ちた声色で、滝夜叉丸はそんなことを言う。滝夜叉丸の仕事が終わった
ことを聞いて、小平太は書類を確認するのではなく、座っている滝夜叉丸を立ち上がらせ
た。
「頑張った滝夜叉丸にご褒美をやろう!」
「へっ・・・?」
立ち上がらせた滝夜叉丸の体をひょいっと持ち上げ、小平太はそのまま上に向かって手を
伸ばす。持ち上げられたまま、そんなことをされれば、当然体は空中に高く浮くような形
になる。
「わわっ!!な、何やってるんですか!?七松先輩!!」
「滝夜叉丸頑張って仕事してくれたから、高い高いしてやろうと思ってな。」
「しなくていいですから!!」
「遠慮するな!」
「してないですからっ!!って、うわあっ!!」
「ほーら、高い高―い!!」
四年生である滝夜叉丸を、まるで幼子にしているかのように小平太は高い高いをする。幼
い頃にされれば楽しいその遊びも、今の年齢でされると何とも言えない感覚に陥る。
「や、やめてくださいっ!!」
「どうだ、楽しいだろう?」
「高い高いは小さい子の遊びですから!!」
「そうかぁ?」
滝夜叉丸の必死の訴えを聞いて、小平太はいったん高い高いをするのをやめる。そのタイ
ミングを見計らい、滝夜叉丸は小平太の首にしがみつくように腕を回した。
「ハァ・・・もう相変わらず無茶苦茶ですね。」
「滝夜叉丸は、高い高いした後はいっつもこうするな。」
「は?私、そんなに高い高いされた覚えないですけど・・・」
「滝夜叉丸が一年か二年のときとか、よくやってやったじゃないか。」
そうだったかなあと、記憶を辿ってみると、確かに事あるごとに小平太に高い高いをされ
ていたこと思い出した。そういえば、そのときもそれほど嬉しいことではなく、早くやめ
て欲しいと小平太の首にしがみつくことが多かったなあという記憶が蘇る。
「あー・・・確かにそうだったかもしれないです。」
「だろ?何で高い高いした後、私に抱きつくんだ?」
「べ、別に抱きついてるわけじゃないですよ!高い高いされるのが、あまり好きではなく
て・・・こうすれば七松先輩やめてくれるじゃないですか。」
「高い高いは嫌いなのか。初耳だな。」
「昔からやめてくださいって言ってるでしょう!全然話聞いてないじゃないですか。」
「んー、だって、抱き上げながら見る滝夜叉丸の顔が好きだからな。滝夜叉丸は私より小
さいからそうしないとその顔は見れないだろ?」
何とも自分勝手なことを言ってくる小平太に、滝夜叉丸は少々呆れつつも、ほんの少し嬉
しいと思ってしまう。自分の顔に自信のある滝夜叉丸のこと、その顔が好きだと言われた
ら嬉しくないわけがない。
「だ、抱き上げるのは構いませんけど・・・今後は高い高いはやめてください。」
「そうか。うん、分かった。その代わり・・・」
「その代わり、何ですか?」
「私がこうやって抱き上げたら、今みたいに手を首に回してくれ。」
「何故ですか?」
「私はそうされるのが好きだからな!滝夜叉丸がそうしてくれると、普通に抱き上げる時
より顔が近づくし、赤くなった滝夜叉丸の可愛い顔が超至近距離で見れるからな!」
いつも通りの明るい笑顔で小平太は言う。それを聞いて恥ずかしいと思う滝夜叉丸であっ
たが、そんな素振りは見せず、ほんの少し小平太から視線を外しながら頷く。
「な、七松先輩がそこまで言うなら仕方ないです。高い高いを無理矢理されるよりは、全
然マシですからね。」
「じゃあ、今度からそうしよう!決まりだな!」
滝夜叉丸の言葉を聞いて、小平太は本当に嬉しそうに笑う。小平太にとっては、とにかく
滝夜叉丸の可愛い顔が見れれば構わないのだ。どうやっても流されてしまうなあと思いつ
つ、滝夜叉丸は小平太の首に腕を回したまま、その嬉しそうな笑顔を眺めるのであった。

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