触れたい、触れられたい(竹谷×孫兵)

委員会が終わり、一年生達を帰らせた後、竹谷と孫兵は飼育小屋の片付けをする。ある程
度片付けが終わると、二人は小屋の中心あたりに座り、一息つく。
「今日もお疲れ様です。竹谷先輩。」
「おう、孫兵もお疲れ。」
お互いを労うような言葉を交わし、二人は笑みを交わす。委員会は終わったが、もう少し
だけ一緒にいたいと思い、どちらも自分の長屋に帰る素振りは見せなかった。
「竹谷先輩。」
「どうした?孫兵。」
「ちょっと確認したいことがあるんですけど、確認してみてもいいですか?」
「確認したいこと?別に構わないけど。」
ペットのことでも尋ねられるのかと思っていた竹谷であったが、その後、孫兵のとった行
動は竹谷が予想だにしていないことであった。目の前にいる竹谷の背中に腕を回し、孫兵
はぎゅうっと竹谷に抱きつく。
「ま、孫兵!?」
「ああ、やっぱり温かいですね。」
「い、いきなりどうしたんだよ!?」
突然孫兵に抱きつかれ、竹谷はテンパる。しかし、孫兵は特に照れた様子も見せず、いつ
も通りの落ち着いた声で言葉を続けた。
「ジュンコも他のペット達も、爬虫類や虫なので、肌に触れていても温かいなんて感じる
ことはほとんどないんです。」
「まあ・・・そりゃそうだろうな。」
「それが嫌ということもないですし、むしろ心地よく感じることが多いんですが・・・」
「あ、ああ。」
「温かい肌に触れるとどんな感じなのかなあと少し気になりまして。」
そう言って、孫兵は竹谷に抱きついたまま、竹谷の顔を見上げる。上目遣いで見つめられ
るその状態に、竹谷の心臓はドキドキと速いリズムを刻み出す。
「それで・・・温かい肌に触れてみて、どうだったんだ?」
「うーん。」
「やっぱり体温が低い動物の方が好きか?」
「いえ、もちろんジュンコ達の冷たい肌も好きですけど・・・」
「けど?」
「竹谷先輩の温かい感じもすごく好きです。何ていうか・・・心臓の音もすごくよく聞こ
えて、生きてるって感じが触れているところ全部から伝わって、すごく・・・心地いいで
す。」
「そ、そうか。」
生き物が大好きな孫兵にとっては、生きている感じがするものがとても心地よく感じられ
る。竹谷の体温や鼓動も例外ではなかった。ぎゅうっと抱きつかれながらそんなことを言
われ、竹谷の体温は嫌でも上がってきてしまう。
「なんだか竹谷先輩、体温上がってませんか?」
「そりゃ、お前がそんなふうに抱きつかれたら、ドキドキして体温も上がるって。」
「あ、すいません。なら、離れますね。」
「い、いや、離れなくていい!」
孫兵が離れようとするのを、竹谷はとっさに制止する。あまりにも必死な様子で竹谷がそ
んなことを言うので、孫兵はきょとんとする。
「あ、いや・・・何だ、その・・・・」
「このままでいた方がいいですか?」
「ああ。」
「分かりました。」
このままでいた方がいいということを聞いて、孫兵は嬉しそうな笑みを浮かべる。そして、
竹谷の胸に顔を埋め、抱きつく腕にほんの少し力を込める。
(やっぱり、この感じすごく落ち着く・・・)
「孫兵。」
「はい、何ですか?」
「俺も、孫兵にそうされてると、すごく心地いいし、嬉しいって感じるぞ。」
とりあず自分の感じてることも伝えておこうと、孫兵からは視線を外すような形で、竹谷
はそう口にする。照れたようなニュアンスを含むその言葉に、孫兵も少し恥ずかしくなり、
顔を上げることはせずに、その言葉に返事を返す。
「竹谷先輩もぼくと同じですね。」
「そうだな。」
「・・・・二人のときは、たまにこういうふうにしていいですか?」
「お、おう!もちろんだ!」
「ありがとうございます。」
触れ合うところから感じるいいようもない心地よさ。お互いを想っているがゆえに感じら
れるその幸せなひとときを、二人は心ゆくまで楽しむのであった。

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