We are in Okinawa!〜その5〜

遂に最終日。今日は昼過ぎには東京に帰ることになっている。朝練を終えた後、部屋に戻
って、荷物をすべて整理してから今日も沖縄の街に行く。今日はお土産店が並んでいる国
際通りに行く予定だ。
「今日で沖縄ともお別れかー。寂しいなあ。」
「せやなあ。でも、ホテルに泊まりっぱなしってのも結構疲れるもんやな。」
「岳人と忍足は、昨日エッチしてたからじゃないのー。」
チェック・アウトを済ませたメンバーがそろって外に出る時、岳人と忍足の話を聞き、ジ
ローがつっこんだ。
「な、何言うとんのや!?ジロー!!」
「だって、昨日聞いちゃったもん♪」
「何聞かれてんだよお前ら。ダッセー。」
跡部が笑いながら、二人に言うと今度は宍戸が跡部につっこむ。
「それ、お前が言えたことじゃねーよ。」
「何でだよ?宍戸。」
あまり大声では言えないので、宍戸は耳元で小さな声で跡部に言った。
「俺らも聞かれてたんだよ。滝とかに。」
「マジかよ。」
「どうやら窓が開いてたらしいぜ。」
「そうか。まあ、見られてたわけじゃないんだからいいんじゃねーの?」
「そういう問題か?」
こんな会話をちょっと離れて聞いていて、ドキドキしている者が二人。滝と鳳だ。この二
人も昨日の夜ヤってしまった組の中に入っている。特に滝は昨日の朝、そのことで宍戸を
からかっていたため、聞かれたり、見られたりしていたら大変だということはよーく分か
っていた。
「俺達は、バレてないよな?」
「たぶん・・・大丈夫だと思います。」
「なあ、滝。」
「えっ、何?ジロー。」
「昨日の夜中、どこ行ってたの?」
ジローのこの発言に他のメンバーも過敏に反応した。
「お風呂、入んないで寝ちゃったから・・・大浴場に行ってたんだけど。」
「長太郎も?」
「あっ、はい。俺も風呂入んないで寝ちゃったんで・・・」
「ふーん、そうなんだ。」
素直にうなづくジローだったが、岳人と忍足のことや自分達のこともあったので、ただ行っ
ただけだとはさらさら思っていない。ちなみにジローの勝手な行動に振り回され中の樺地
は結局、あの後、ほとんど眠れなく少し寝不足気味だった。
「何か樺地眠そうだな。昨日、眠れなかったのか?」
「ウ、ウス・・・。」
「あれぇ?樺地、熟睡してなかったっけ?」
ジローは樺地は寝ているものだと信じきっていた。?をいっぱい頭に浮かべながら、昨日
と同じタクシーに乗り込んだ。タクシーも部屋のメンバーと同じである。四人ずつ乗るの
はやはりちょっとキツイのだが、太郎と一緒に乗るよりかは誰もがマシだと思っていた。

国際通りに着くと自分の好きなところをまわる・・・といきたいところだが、時間がない
ので、全員で行動することになった。
「ねぇねぇ、あそこ入ってみようよ。」
ジローが指さしたところは、紅イモお菓子の専門店。中にはお饅頭やパイ、タルトなどが
ずらっと並んでいる。それも、ほとんどのものが試食できるといううれしい特典つき。8
人は、いろいろなお菓子を食べ比べて、自分が気に入ったものを購入した。
「このタルトうまいぜ。」
「本当だ。俺、これ買おうかな。」
「これもおいしいですよ。タルトに近いですけどちょっと違うみたいですね。」
「なあなあ、こっちにあるのもうまいぜ。」
自分の好きなものを自分が好きなだけ買う。自分達レギュラー以外のテニス部員にお土産
を買っていくという気は全くないようだ。だが、太郎だけは大量にお土産を購入した。や
はり監督なので部員全員に何かしらあげたいようだ。一つ百円なので200人分となると
二万円。さすが、監督。
「いっぱい買ったし、次のお店行こう!」
先頭きって外に飛び出たのはジローだ。次の店に向かう途中、宍戸があるものに目を止めた。
「どうした?宍戸。」
「いや、このネックレスカッコイイなあと思って。」
「あー、それ玉泉洞で見たよ。でも、高いから俺は買わなかったけど。」
「ふーん。で、いくらなんだ?」
「3800円。」
「確かにちょっと高ぇな。どうしよう・・・。」
さまざまな色の石にシルバーで装飾がされているそのネックレスは宍戸が買うにはちょっ
と高すぎた。諦めようとしたその時、跡部が水色の石がついたネックレスを指差し、宍戸
を見る。
「お前にはこの色が似合うんじゃねぇ?」
「でも、高いからやっぱ買うのやめる。」
「でも、欲しいんだろ?」
「欲しいけど・・・」
「すいません。この水色のヤツ、二つください。」
「はい。二つで7980円ね。」
跡部は財布から一万円を出し、おつりとそのネックレスを受け取った。
「ほらよ。」
「えっ、マジで!!いいのか、跡部!?」
「ああ。やっぱ、俺の目に狂いはねぇな。お前、その色よく似合ってるぜ。」
「うわあ、スッゲーうれしい!サンキュー、跡部!!」
「俺とおそろいだ。これなら文句ねぇよな?」
何が文句ないのかよく分からない。自分も買ったんだから金のことは気にするなという意
味なのであろうか?何はともあれ、宍戸は欲しいと思っていたものが手に入り大喜びだ。
少し進むと一行は市場通りに入る。ここにもお土産屋さんがいっぱいあって、いろいろな
ジャンルのものが売ってそうなところに一行は入っていった。
「ここもいろんなものがありますね。」
「そうだな。」
「あっ、滝さん!」
「何だよ?長太郎。」
「このブレスレット、滝さんにすごくよく似合うと思うんですけど。」
鳳が手に取ったのはホタル石のついた黒いブレスレットだった。ホタル石とはまるで海の
色が宝石になったような輝きを放つ石だ。滝もこのブレスレットを見て、とてもキレイだ
と思い、買おうかと考えた。
「俺に似合うかな?」
滝はそのブレスレットを手に取り、自分の手首にあててみる。鳳はそれを見て、純粋無垢
な笑顔で答える。
「はい!とっても似合ってます。」
「そう?じゃあ、買おうかな。」
照れたような表情で笑って、滝はそのブレスレットを持ってレジに向かった。その間に鳳
は、他のお土産を見る。外に出されている棚を見ていると、ふと気になるものを見つけた。
(ミンサー織のハンカチだ。)
これに目を奪われているのは鳳だけではなかった。宍戸に忍足、樺地もこのハンカチにと
ても興味を持っていた。何故なら、ミンサー織とは女の人が男の人にプレゼントするもの
で、四つと五つを組み合わせた織り方から『いつの世まで』という意味が込められている
からだ。いわば、好きな人にいつまでも一緒にいてくださいということを伝える、一つの
証みたいなものだ。
「これ、買おうかな。」
「何や、鳳も買うんかい。」
「お前らも買うのか?」
同時に手を伸ばしたので、お互いに手が当たってしまい、いったん引っ込めざるを得なか
った。
「宍戸は跡部にか?」
「ま、まあな。長太郎、お前は誰にあげんだよ?」
「えっと、俺は・・・滝さんに・・・。」
「この前まで、宍戸、宍戸、言ってったのにこっち来てからえらい変わりようやな。」
「べ、別にいいじゃないですか!宍戸先輩は先輩として好きなんです。」
「それなら俺にとっても好都合だな。あんまりベタベタされると跡部がさあ・・・。」
「もう宍戸先輩のことはキッパリ諦めましたから。やっぱ、跡部さんにはかないません
よ。」
「で、滝に乗り換えたっちゅーわけか。」
「乗り換えただなんて、俺はもう滝さん一筋です!」
三人が話している間に、樺地はそのハンカチを一つ取って買ってしまった。もちろん、樺
地のあげる相手はジローだ。他の三人もそれぞれハンカチを買って、好きな相手にあげるた
めに隠しながら持って外へ出た。
「侑士ー!!」
「何や岳人?」
「俺ね、携帯のストラップ買ったんだあ。それでね、可愛かったから侑士にも買ったのー。」
岳人は珊瑚のついたストップを出して、忍足に渡した。忍足も照れながら、ミンサー織の
ハンカチを出す。
「おおきにな、岳人。それから・・・これミンサー織のハンカチなんやけど受け取っても
らえるか?」
「ありがとう、侑士!俺、ミンサー織の意味知ってるぜ。マジでサンキュー♪」
岳人はもとからミンサー織の意味を知っていたらしく、忍足からもらえたのでかなり喜ん
でいる。あまりのうれしさに思わずムーンサルトをしてしまった。
「岳人、こんなところで危ないで。」
「うれしいんだからしょうがねぇじゃん。」
これと同時に宍戸も跡部にハンカチを渡していた。
「あ、跡部。これ、ハンカチなんだけど・・・・」
「ハンカチ?さっきのネックレスのお返しってか。別にそんな無理しなくてもいいんだぜ。」
跡部のこの無神経な発言に宍戸はちょっとむっときた。素直じゃないので、一言怒ったよ
うな口調でつっかかったあと、道の向こうにあるお土産店になんとなく向かう。
「そうだよ!!どうせ、俺は安物しか買えねぇよ。とにかく受け取れアホ!」
「何怒ってんだ?」
首をかしげる跡部に岳人と忍足がつっこむ。
「跡部、何宍戸怒らせてんの?それ、ミンサー織のハンカチだろ?俺も侑士からもらった
ぜ。」
「ミンサー織?」
「跡部、ミンサー織知らんのか?」
「ああ。知らねぇ。」
「ミンサー織は、女の人から男の人にあげるもので、『いつの世まで』っていう意味があ
るんだぜ。ようするに跡部はすごい宍戸に愛されてるってことだよ。」
「・・・・・。」
これを聞いて、跡部は宍戸を追いかけ後ろから思いっきり抱き締めた。
「何だよ、跡部・・・。」
宍戸はまだ不機嫌模様だ。それも道端で堂々と抱き締めるので、恥ずかしさからもイライ
ラが募る。
「さっきのハンカチ、ちゃんと受け取る。さっきは、あんなこと言ってゴメンな。」
「何、今更謝って・・・」
「すっげぇ、うれしいぜ宍戸。このハンカチ大事にする。」
ここまで言われてさっきのことを許さないわけにはいかないだろう。宍戸は振り返って、
跡部に笑顔を見せた。
「さっきのことはなかったことにしてやる。そのかわり、さっき言ったことはちゃんと守
れよ。」
「ああ。サンキュー宍戸。」
跡部は宍戸に軽くキスをする。宍戸は道端でされたということで、一気に顔が赤くなった。
「あ、跡部ー!!」
また、怒りモードになってしまった宍戸だが、本当に怒ってはいないということは誰が見
ても丸分かりだった。そんな二人を尻目に他のペアもラブラブな雰囲気に・・・。
「滝さん・・・。」
「ん、何?」
「あの・・・これ・・・」
「ハンカチ?これ、ミンサー織だよね?」
「あっ、はい。」
「俺にくれるの?」
「はい!俺の気持ちです。」
鳳は勇気を出して言った。滝はこれ以上無い最高の微笑みで鳳に向かって、笑いかけた。
「ありがとう。長太郎。とっても、うれしいよ。」
あまりにもキレイな滝の笑顔を見て、鳳は真っ赤になってしまった。そのうえ、滝は鳳の
首に手を回し、背伸びをして唇にキスをする。
「!!」
「ご褒美♪」
キスまでされて、鳳はもうヘロヘロだった。こんなに幸せなことがあっていいのかと自分
の唇をそっと触る。そこには滝の唇の感触がハッキリと残っていた。
「ウス。」
「何々?俺に何かくれるの、樺地。」
「ウス。」
樺地もジローにハンカチを渡した。包みを開けて中身を出すと、ジローの顔はまるでひま
わりが咲いたかのようにパアッと明るくなって無邪気な笑顔を浮かべる。
「うわあ!!うれCー!!ありがとー、樺地ぃ!!」
「ウス。」
とてもうれしがっているジローの表情を見て、樺地もうれしくなり、珍しくうれしそうな表
情を浮かべた。ジローの笑顔はあの表情の薄い樺地の顔をも緩ませるのだ。
こんな目立ちまくりの行動をしたあと、全員はお昼を食べ、空港に向かう。一時五十分発
の東京行きの飛行機に乗り、氷帝テニス部正レギュラー+監督は沖縄の地をあとにした。

飛行機の中、8人は昨日の夜、だいぶ遅くまで起きていたということもあり、みんなぐっ
すりと眠ってしまっている。自分の好きな人の隣に座っているので、お互いに頭を寄りか
からせて仲良さ気に眠る。そんなメンバーの寝顔を見て、太郎は大満足だった。
沖縄につれてきてよかった。私もいろいろできて満足できたし。あの地酒というのはなか
なかよいものだったな。合宿としてはあまり効果がなかったが、チーム内の結束が強まっ
たのは確かだろう。もうそろそろ引退のメンバーだ。これくらいの褒美はしてやらないと
な。でも、今度はテニス部とは関係なしにつれて行ってやりたいものだ。
意外と太郎は指導者としては、とてもよい人材なのかもしれない。まあ、コートにあんな
スーツ姿で現れるのはどうかと思うが・・・。ともかく、太郎としてはこの沖縄合宿は大
成功なようだ。他のメンバーにとっても滅多にできない経験ができたので、かなりおいし
い合宿となった。まあ、一つだけ心配されることがあるとすれば、平日をはさんだ旅行だ
たので、そのとき行われた授業の遅れだけだろう。なにはともあれ、この楽しい合宿が正
レギュラーメンバーにとって、最高の思い出になったのは間違いない。

                                END.

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