真冬の寒い夜、跡部と宍戸はそれぞれ飼い犬を連れて散歩をしていた。今日は空が雲で覆
われ、月も星も全く見えない状態であった。
「何かこうやって一緒に散歩すんの久しぶりだな。」
「そうだな。まあ、マルガレーテとお前んちの犬も割と仲がいいみてぇだから、たまには
一緒に遊ばせてやらねぇと。」
「だな。けど、こんなに寒くなるとは思わなかったぜ。」
真っ白な息を吐きながら、宍戸は苦笑する。こんなに寒い中でも、宍戸の犬も跡部の犬も
散歩を出来るのは嬉しいようで、尻尾を振りながら元気よく歩いていた。
「あんまり天気もよくねぇみてぇだし、今日は早めに戻るのもありかもな。」
「そうだな。」
雲に覆われた空を見上げると、宍戸の顔に何かが触れる。
「冷たっ!!」
「雨でも降ってきたか?」
「かなあ。あっ!」
「どうした?」
「雨じゃねぇ。雪だ!雪が降ってきた!!」
夜空からはらはらと舞い落ちる粉雪に宍戸はテンション高くそう口にする。そんな宍戸の
声に反応し、二匹の犬はきゃんきゃんとはしゃぐような声を上げる。
「お前がはしゃぐからこいつらも騒ぎ出したじゃねぇか。」
「だって、雪だぜ?やっぱ、テンション上がるじゃん!」
先程まで寒い寒いと言っていた宍戸だが、雪を見て一気に笑顔になった。そんな宍戸を見
て、跡部も顔を緩ませる。
「ったく、ガキみてぇにはしゃぎやがって。」
「そんなこと言って、お前だって結構嬉しそうじゃん。」
「雨が降るよりは、マシだと思うだけだぜ。」
「素直じゃねぇなあ。お前もこいつらみたいに素直に喜べばいいのに。」
自分の犬をわしゃわしゃと撫でながら宍戸はそんなことを言う。しばらく雪がちらつく夜
道を歩いていたが、ふと宍戸が跡部の方を向く。
「跡部。」
「何だ?」
「やっぱ、雪降ってると寒いからよ・・・」
その後はしっかりと言葉にはせずに、宍戸は黙って手を差し出す。言わずとも宍戸が何を
して欲しいかを理解する。
「仕方ねぇなあ。ほら。」
顔がニヤけそうになるのを抑えながら、跡部は差し出された手を握る。手を繋いでもらえ、
宍戸はそこまで大きく表さないが、嬉しそうな表情を浮かべる。外にいるために跡部の手
も宍戸の手も冷たかったが、お互いの手を握り合っているだけでじんわりと温まっていく
気がした。
「ちょっと雪強くなってきたな。」
「ああ。このまま降り続いたら積もるかもしれねぇな。」
「おー、それはちょっと楽しみかも。」
雪が積もれば、普段は出来ない遊びが出来ると、宍戸はニコニコしながらそう言う。こう
いうところは本当に子供らしくて可愛いなあと、跡部は宍戸の笑顔に魅せられていた。強
くなる雪を顔を上げて眺めているため、宍戸の顔にはその粒が残るほどに雪がかかる。
「おい、宍戸。」
ふと足を止め、跡部は宍戸の名を呼ぶ。宍戸が立ち止まると、跡部は顔にかかった雪を取
り除くかのように宍戸の顔に口づける。
「なっ・・・!?」
「顔、雪だらけだからちょっとは取ってやろうと思ってな。」
「い、意味分かんねぇ。口じゃなくて、手で取りゃいいじゃねぇか。」
「あいにく俺の両手は今ふさがってる。お前だってそうだろ?」
片方の手は散歩中の犬のリードを握り、もう片方の手は宍戸の手を握っている。もちろん
それは宍戸も同じだ。だからと言って、キスをするかのごとく口で取ることはないじゃな
いかと、宍戸の顔は赤く染まる。
「お、ここにも付いてるぜ。」
本当はついていないのだが、跡部はそんなことを言いながら、宍戸の唇にキスをする。誰
も見てはいないとは言えども、外でされるのは恥ずかしい。唇が離れると、リードを持つ
手を口元に持っていき、宍戸は真っ赤になって跡部を見た。
「やめろよ・・・こんなとこで。」
「お前があまりにも可愛いからな。どうしてもしたくなっちまった。」
「雪かかって冷たいはずなのに、顔、激あちぃ・・・」
「ちょうどいいじゃねぇか。寒さを感じなくて。」
からかうようにそう言う跡部から目をそらすと、尻尾を振りながらマルガレーテが宍戸の
犬の顔を舐めていた。
「ちょっ、お前ら真似すんなよ!」
「はは、仲が良くていいじゃねぇか。ペットは飼い主に似るって言うしな。」
「ったく・・・まあ、いいや。なんかもう散歩って気分じゃねぇし、そろそろ帰ろうぜ。」
「ああ。家のがもっといろいろ出来るからな。」
「ち、違ぇーよ!そういうつもりで言ったんじゃねぇ!!」
「照れんなって。」
「照れてねぇ!!」
恥ずかしさから少し大きな声になる宍戸だが、そんな声を降り止まない雪が吸い込んでい
く。今日は宍戸の犬も一緒に跡部の家に泊まる予定だ。跡部の行動や言葉にドキドキしな
がらも、明日雪が積もったら、跡部と何して遊ぼうかと、宍戸はわくわくしながら考える
のであった。