雨の夜 (長次×仙蔵)

しとしとと雨が降る夜、仙蔵は長次の部屋に泊まりに来ていた。長次は小平太と同室であ
るが、今日は委員会の仕事があると言って外出していた。優しい雨の音を聞きながら、長
次も仙蔵も本を読んでいた。
「長次が読んでいる本は面白いか?」
「ああ・・・」
「なら、これが読み終わったら、読ませてもらおうかな。」
「仙蔵が読んでいるのは、どうなんだ?」
「なかなか興味深いぞ。」
「そうか・・・」
長次は低い机に寄りかかり、胡坐を汲組んで座っている。そんな長次の足に頭を乗せ、仙
蔵は寝転がりながら、図書室で借りた本を読んでいた。本に視線を向けると、自然と長次
の顔も視界に入るため、仙蔵はこの体勢がお気に入りであった。そんな状態で、長次の顔
を見ていると仙蔵はあることに気づく。
「長次、今日は随分とご機嫌だな。」
他の人が見れば、いつもの仏頂面と変わらないのだが、仙蔵からすればその違いは一目瞭
然であった。真下にある仙蔵に視線を向けると、長次はいつもよりは少しハッキリした声
で言葉を放つ。
「今日は、仙蔵が部屋にいるからな。」
「私がいるから、そんなに機嫌がいいのか?」
「そうだ。」
それを聞いて、仙蔵は体を起こし長次と向かい合うように座る。そして、長次の持ってい
る本を少し下の方にのけ、ちゅっと軽く長次に口づけた。
「私もとても機嫌がいいぞ。」
「仙蔵。」
「お前の部屋にいるからな。」
先程長次が放った言葉を少し変えて、ニッと笑いながら仙蔵はそう口にする。あまりに可
愛らしい行動に長次の胸はひどくときめく。読んでいた本を床に置き、ぎゅっと仙蔵の体
を抱きしめた。
「これだと本が読めないぞ?」
「今はいい・・・」
「図書委員長とは思えない発言だな。」
「仙蔵が・・・」
「私が何だ?」
「仙蔵が・・・悪い・・・」
もそもそと答える長次に仙蔵はくすくす笑う。本が読めなくなっても、長次と触れ合って
いられるのであれば、そちらの方が数倍よかった。そんな気持ちを表すために、仙蔵は長
次の背中に腕を回し、ぎゅっと抱きしめ返す。
「仙蔵は温かいな。」
「そうか?」
「色が真っ白で体温低そうなのに、こうやってるとすごく温かく感じる。」
「別に体温低いわけじゃないし、それに・・・」
「何だ?」
「長次にこういうふうにされていたら、体温上がるのは当然だろう?」
少し照れくさそうにはにかみながら仙蔵はそう言う。どうしてこう煽るようなことを言っ
てくるのだろうと、長次の心臓は速いリズムを刻み出す。もっと仙蔵をよく感じたいと、
長次は長くサラサラな仙蔵の髪を指で梳き、額のすぐ側の髪に口づけた。
「仙蔵の髪、いい匂いがする。」
「と、特に何もしていないがな。」
突然ドギマギとした反応を示す仙蔵に、長次は首を傾げる。この程度のことを言っただけ
では、いつも冷静な仙蔵は、それほど大きな反応は示さない。不思議に思いながら、何度
か髪を梳いていると、時折肩がピクンと震えることに気づく。
「どうした?」
「な、何がだ?」
「何かいつもとは様子が違うぞ。」
「へっ!?い、いや、その・・・・」
何故か顔を赤らめる仙蔵を見て、長次はさらに不思議に思う。しばらくの沈黙があった後、
仙蔵は口を開く。
「長次に、髪を触られるのが・・・」
「ああ。」
「・・・・ちょっと気持ちよくて。」
相当恥ずかしいようで、仙蔵は顔を隠すように長次の肩に顔を埋め、背中に回している手
に力を込める。仙蔵の言葉と行動に、長次の心臓は壊れそうなほど高鳴る。
「触るの・・・やめた方がいいか?」
「いや、やめなくていい・・・」
ドキドキとそう問いかける長次の言葉に仙蔵は顔を埋めたまま、ハッキリとそう答える。
触れ合っているため、どちらの鼓動もかなり速くなっていることがお互いに感じられた。
しばらくの間、長次は仙蔵の髪を梳き続け、仙蔵はその心地よい感覚に浸る。どちらも特
に言葉を発していないため、静かに降る雨の音だけが二人の耳に響いていた。
「何か・・・」
「どうした?」
「こういうときに聞く雨の音は心地いいものだな。」
「ああ、確かに。」
「もともとこういう夜は嫌いじゃないが、今日はまた格別だと思う・・・」
「私もそう思うぞ。こういう雨の夜は大好きだ。」
長次の言葉に仙蔵はニッコリと笑ってそう答える。今日は本当にいい夜だなあと思いつつ、
二人は今二人でいられるこの幸せな時間を、存分に堪能するのであった。

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