晴れの昼 (舳丸×重)

眩しい太陽が燦々と照りつける海で、舳丸は浜辺から少し離れた場所で見張りをしていた。
水練の者は水の中での移動が他の者に比べて容易に出来るため、他の者では見張れない場
所を担当することが多い。今日は舳丸がその当番であった。
「今のところは特に問題はないな。」
ゴツゴツとした岩場に腰かけながら、舳丸は穏やかな海を眺める。そんな舳丸のもとへ、
自分の仕事を終えた重がやってきた。
「舳丸は今日は見張り?」
「ああ。」
「俺はもう仕事終わったから自由時間。」
「そうか。あんまり遠くに行くなよ。」
「今日は遠泳はしない予定。舳丸がそこにいるなら、ここで遊ぶ。」
それなら心配はないかと舳丸は見張りを続ける。そんな舳丸のすぐ側で、重は海の中に潜
ったり、出たりを繰り返していた。
「舳丸。」
「どうした?」
「海の底でこんなの見つけた。」
そう言いながら、重は丸くつるつるとした何かを舳丸に見せる。石とは少し違うその物体
に重は興味津津だ。
「ああ、それはたぶんガラスだ。海の中で波にもまれて他の岩や石に当たって擦れて、そ
んなふうになるんだ。」
「へぇ、そうなんだ。どおりで普通の石よりキラキラしてるわけだ。」
海の底で拾ってきたそれを重は舳丸の横に置く。そして、再び海の中へ潜る。海の底には
丸く削れたガラスがいくつもあるようで、重はそれを拾ってきては舳丸の横に並べていっ
た。いつの間にかたくさんのガラスが並んでいるのを見て、舳丸はまるで動物がキラキラ
したものを集めて並べているようだと、くすっと笑う。
「随分、集めたな。」
「いっぱいあったからさ。」
「何だか宝物を拾ってくる犬とか猫みたいだな。綺麗なものたくさん集めて、飼い主に褒
めて褒めてって言ってるみたいな。」
こんなに集めたのなら褒めてやろうと、舳丸はペットにするかのように重の頭をわしゃわ
しゃと撫でる。ペット扱いされ、重はぷぅっと頬っぺを膨らませて舳丸の手を払う。
「動物扱いするなよ。」
「そんなことはないぞ。素直にお前が可愛いと思ってだな。」
「可愛いとかも違う。せっかく面白い形の見つけてきたのに。」
「へぇ、どんなのだ?」
不機嫌な口調の重にも舳丸はいつも通りの冷静な口調で質問を返す。ぶすっとしながらも、
舳丸に見せたくて取ってきているので、重は素直にそのガラスを差し出した。重の手に握
られていたのは、ハートの形をした赤い色のついたガラスであった。
「ほう、確かに面白い形だな。」
「だろ?これも舳丸にあげる。」
「ありがとな。珍しいもの拾って来て、えらいぞ重。」
ハートのガラスをもらい、舳丸は再び動物にするように重の頭を撫でながら褒める。頭を
撫でられたり、褒められたりするのは嬉しいことではあるが、ペット扱いは納得がいかな
い。ぷいっと舳丸から顔を背けると、重は舳丸の手の届かないところへ移動する。
「それ、完全にペットにするような感じじゃん!もう舳丸には綺麗なのあげない!!」
「分かった分かった。もうペットにするみたいにはしないから戻ってこい。」
可愛いなあと思いつつ、舳丸は手招きをしながら重に声をかける。まだ納得はいかないが、
重は素直に舳丸のすぐそばまで戻ってくる。手の届く場所まで重が戻ってくると、舳丸は
重の頭をがしっと捉え、唇にちゅっとキスをする。
「っ!!??」
「ありがとう、重。」
思いきりキスをされ、かなりの至近距離で微笑みながらそんなことを言われ、重は真っ赤
になる。確かにペット扱いではないが、これはこれで恥ずかしすぎると重は何も言えなく
なってしまう。
「ふっ、さっきもらったハートみたいに真っ赤だぞ?」
「だ、だって・・・」
「わたしはまだ見張りがあるから、お前はまだ遊んでるといい。」
「う、うん。」
重からすっと手を離すと、重は少し名残惜しそうに舳丸の顔を見る。しかし、見張りの邪
魔をしてはいけないと、再び海に潜ろうと決める。
「舳丸。」
「どうした?」
「さっきは、もうあげないって言っちゃったけど、また綺麗なの見つけたら舳丸にあげる
な。」
そう言って重はバシャっと海に潜る。まだまだ子供っぽくて可愛らしいなあと、舳丸はふ
っと口元に笑みを浮かべて、重の潜る海を眺める。雲一つない空に浮かぶ太陽が照らすそ
の水面は、眩しいくらいにキラキラと輝いていた。

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