「あー、降ってきちゃったな。」
「降ってきちゃいましたねー。」
保健委員会で必要なものを買いに町にやってきた左近と伏木蔵は、水滴を落とす空を見上
げる。必要なものを全て買い終え、さあ帰ろうと思った瞬間、雨が降ってきてしまった。
ただ出かけているだけであれば、多少濡れても構わないとそのまま帰るのだが、今日は濡
れてはいけないものも買っている。困ったなあと、屋根のある場所で雨宿りをしていると、
聞き慣れた声が耳に入った。
「あっ、きり丸。」
「左近先輩に伏木蔵。こんなところで何してるんすか?」
「見ての通り、雨宿りだ。傘持ってなくてな。」
「なら、傘買いません?お安くしときますよー。」
傘を持っていない二人を見て、きり丸はこれはチャンスとアルバイトで売っていた傘を二
人に売りつけようとする。
「そりゃありがたいな。一つ買うよ。」
「一つでいいんすか?」
「そんなにお金持って来てないしな。」
そう言いながら、左近はきり丸に傘の代金を払う。少し大き目の傘をきり丸は左近に渡し
た。
「毎度ありー。んじゃ、俺はまだバイトがあるんで。」
「ああ、ありがとな。」
傘を渡すと、きり丸はバイトの続きをしなければいけないとその場から離れる。きり丸を
見送った後、左近と伏木蔵は大き目の傘を差し、忍術学園に向かって歩き出した。
「傘、買えてよかったですね。左近先輩。」
「そうだな。今日は珍しくツイてるな。」
「あー、だから、雨が降っちゃったんですかね。」
「雨が先だから、何とも言えないけどな。」
いつもは不運であるが、今日は少しラッキーだと二人は見合わせて笑う。町を出て、畑の
見える道を歩いていると、伏木蔵がぬかるみに足を取られる。
「あっ・・・!!」
バシャンっ!!
傘は左近が持っていたので、傘を持ったまま倒れるという危ない状態にはならなかったが、
伏木蔵は派手に転んでしまった。
「おいおい、大丈夫か?」
「すいません、足が滑っちゃって・・・痛っ。」
立ち上がろうとした瞬間、左の足首にひどい痛みが走る。転んだ拍子に足を挫いてしまっ
たようだ。
「どうした?足、ケガしたか?」
「だ、大丈夫です!ちょっと捻っただけなんで・・・っ!!」
「大丈夫じゃないだろ。ほら。」
傘を肩にかけるようにし、左近は伏木蔵に背中を向けるようにしゃがむ。
「転んで泥だらけになっちゃってるんで、おぶってもらったら左近先輩も泥だらけになっ
ちゃいますよ。」
「そんなの今更気にしてどうする。ケガしてる後輩をこんな雨の中、歩かせるわけにはい
かないだろ。」
「すいません・・・ありがとうございます。」
左近の言葉に甘え、伏木蔵は左近の背中におぶさる。傘はおぶわれている伏木蔵が手にし、
左近の両手は伏木蔵を支えるために使われていた。
「左近先輩は優しいですね。」
「べ、別に当然のことをしてるだけだ。保健委員だしな。」
「迷惑ばっかかけちゃって、すいません。」
「それはお互い様だって。それに、ぼくとしては伏木蔵に頼られるのは結構嬉しいことだ
し。」
「本当ですか?」
「そんなことで嘘ついたって仕方ないだろ。」
照れながら左近はそんなことを言う。左近の言葉を聞いて、伏木蔵は嬉しそうな笑顔を浮
かべる。と、二人の目の前が急に明るくなった。
『あっ。』
「雨、止んだみたいですね。」
「そうだな。」
「あっ!!左近先輩、見て下さい!虹が出てますよ!!」
左近におぶわれたまま、伏木蔵は空を指差す。そこには大きな虹がかかっていた。
「おー、本当だ。虹が見れるなんて、ラッキーだな。」
「はい!今日は不運なこともいつも通りありましたけど、ラッキーなこともいっぱいです
ね。」
「ああ、そうだな。」
空にかかるくっきりとした虹を見て、二人の顔は花が咲いたように笑顔になる。
「あんなに綺麗な虹、左近先輩と一緒にいるときに見れてよかったです。」
「えっ?」
「見て嬉しいものは、好きな人と一緒に見れた方が嬉しさ倍増ですから。」
恥ずかしげもなくそんなことを言ってくる伏木蔵に、左近は顔を赤く染めながら言葉を返
す。
「確かにそうかもな。」
「左近先輩もそう思いますか?」
「まあな。」
「えへへ、嬉しいです。」
左近も同じ気持ちであると聞いて、伏木蔵はさらに嬉しそうな表情になる。雨に振られた
ことも、転んで足を挫いたことも、泥だらけになってしまったことも、今目の前にある虹
のおかげでどうでもよくなった。そんな虹に向かうように、二人は忍術学園までの道をゆ
っくりと辿るのであった。