雷の夜 (滝×鳳)

「いやー、すごい雷だね。」
「そうですね。まだ、ちょっと遠いところで鳴ってるみたいですけど、さっきより近づい
てきてる気がします。」
外では雷がピカピカゴロゴロ鳴っている中、滝と鳳はお風呂に入って濡れた髪を拭きなが
らベッドに腰かけた。明日が休日のため、鳳は滝の家に泊まりに来たのだ。夕方まではそ
れほどでもなかったが、夜になって天気が崩れ、激しい雷が鳴っている。
「家にいるなら別に問題はないけど、停電とかしちゃうとちょっと困るね。」
軽く窓の外を眺めながら、滝はそう口にする。軽くカーテンを開けて覗いて見ていたのだ
が、一際明るく窓の外が光る。そして、光ったのとほぼ同時に窓を揺らすほどの大きな音
が鳴り響いた。
「っ!!」
あまりの音の大きさと衝撃に、鳳はビクッとして驚く。滝も同じくらい驚いたが、そんな
様子は全く見せず、鳳をからかう。
「長太郎、今、ビクッとしたでしょ?」
「か、かなり近くに落ちたみたいだったので・・・」
「まあ、今のは相当近くだよねー。光と音の差がほとんどなかったから。」
そんな話をしていると、チカチカっと電気が点滅し、明かりが消えてしまう。
「あっ、停電しちゃったみたいだね。」
「さっきの雷でですかね?」
「たぶんねー。お風呂入る前にアロマキャンドルつけてて正解だったね。ロウソクの火で
そこまで真っ暗になってないし。」
「コレついてなかったら、真っ暗になってましたね。」
鳳とお風呂に入りに行く前に、滝はお気に入りのアロマキャンドルに火をつけていた。入
浴し終わった後、良い香りの中でくつろぐためにつけたのだが、今回はそれが明かりの代
わりとなっていた。
「これくらいの明かりがあれば、長太郎の顔も見えるし、ある程度のものは見えるから特
に問題はないかな。」
「まだ、雷が近くで鳴ってるんで、音とかがちょっと怖いですけどね。」
「長太郎はビックリしやすいもんね。」
ピカっ!!ゴロゴロゴロっ!!
「うわっ!!」
滝がそんなことを言っている側から、再び近くに雷が落ち、眩しいほどの稲光と大きな雷
鳴が響く。声を上げるほどに驚いた鳳は、思わず滝にしがみついた。
「ほら、またこんなにビックリしてるし。」
「あっ、すいません。」
「気にしなくていいよ。ビックリしてる長太郎の顔、可愛いし。」
鳳にしがみつかれ、滝はニコニコとしながらそんなことを言う。外ではうるさいくらいに
雷が鳴っているが、アロマキャンドルの淡い光で照らされた薄暗い部屋はなかなかいい雰
囲気だ。そんな雰囲気といつもより近くにいる鳳に、滝の鼓動はいつもより速くなる。
「長太郎。」
「何ですか?」
「ちょっと目を閉じて。」
滝に言われるまま、鳳は素直に目を閉じる。目を閉じた瞬間、ぐっと体を押され、特に構
えていなかった鳳はそのままベッドに倒れた。
「わっ・・・」
ベッドに倒れた鳳を組み敷くような形で、滝はベッドに手をつく。押し倒されるような体
勢になり、鳳の心臓はドキンと跳ねる。
「薄暗くていい雰囲気だし、ちょっと悪戯したくなっちゃった。」
「悪戯って、どういう・・・」
「こんなふうにされてて分からない?」
「え、えっと・・・・」
楽しそうに話す滝に鳳はドギマギしてしまう。もちろんこの状態がどういう状況か分かっ
ていないわけではない。恥ずかしそうなそれでいて緊張しているような鳳の表情を見て、
滝の胸はきゅんとする。そんな可愛い表情をした鳳の唇に軽く口づけると、滝は言葉を続
けた。
「こういう系統の悪戯だけど?」
「それは・・・分かってますけど。」
「こういうことしてた方が雷怖くないかなあって。」
雷の所為ではなく、滝の言葉で鳳の心臓はドキドキと速くなっていく。ロウソクの明かり
だけではハッキリとは分からないが、鳳の顔はかなり赤く染まっていた。
「嫌?」
「嫌じゃ・・・ないです。」
上擦った声で鳳はそう答える。そんな鳳の頭を滝はニコッと笑って優しく撫でた。
「なら、俺が雷のことなんて忘れさせてあげる。」
「・・・はい。」
淡い明かりに照らされた滝の顔を見上げて鳳は頷く。まだ雷はそこまで遠くに離れていっ
ていないので、時折大きな音が薄暗い部屋に響くが、そんなものはもう鳳の耳には入って
いなかった。雷の音よりも大きく響くのは、自分の心臓の音と耳元で囁かれる滝の声。気
づくと雷が鳴っていることなど完璧に忘れて、鳳の心と体は滝のことでいっぱいになって
いった。

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