What is your dream ?

「あーあ、今日のデートは無理か。」
窓の外を見てへこんだ様子でぼやいているのは滝。今日は鳳とデートに行く約束をしてい
たのだが、あいにく天気は雨。これでは出かけられないとベッドにつっぷした。
「楽しみにしてたのになあ・・・」
とことん落ち込んでいると、突然机の上に置いていていた携帯が鳴り出した。電話の着信
音なので、滝はベッドから起き、電話を取る。
「もしもし?」
『あ、滝さんですか?』
「長太郎!?」
『今、電話大丈夫ですか?』
「うん、全然平気。今日、残念だったねー。この雨じゃ出かけられそうにないよ。」
『そうですね。あの、今電話したのってそのことなんですけど・・・もし、滝さんがよか
ったら、うちに来ませんか?せっかくの休みですし、一緒に遊びましょうよ。』
「いいの?」
『はい!むしろ俺としては来てくれた方が嬉しいです。どうですか?』
「長太郎がいいなら行く。俺だって長太郎に会いたいし。」
『ありがとうございます!いつ来てくれてもいいので、用意が出来たら来てください。待
ってますから。』
「了解。出来るだけ早く行くよ。」
鳳が電話してきたのは、デートに行かない代わりに自宅で遊ぼうという提案をするためだ
った。こんな願ってもない誘いを滝が断るわけがない。慌てて用意をし、朝食を食べ、外
へ飛び出した。外は大雨であるが、滝の心はまさに快晴。鳳に会えるという嬉しさが滝の
テンションをいつも以上に上げていた。

ピンポーン
かなり急ぎ足で来たため、少し息が切れていた。ゆっくりと深呼吸をし、呼吸を整えなが
らインターホンを押す。するとすぐに鳳が玄関のドアを開けた。
「おはようございます、滝さん。」
「おはよう長太郎。」
「どうぞ上がってください。」
「ありがとう。お邪魔します。」
滝は玄関を上がるとくるっと後ろを向いてしゃがみ、綺麗に靴をそろえた。さすがA型。
こういうところに几帳面さが表れている。そんな滝を傍らで待つ鳳は、さすがだなあとい
う表情をする。一度、レギュラーメンバー全員でパーティーをしたことがあったが、ここ
まで几帳面に靴をそろえた者はいなかったであろう。
「ごめんね、長太郎。待たせちゃって。」
「いえ。それじゃあ、俺の部屋に行きましょうか。」
「うん。」
まずは部屋に行って何をするか決めようと、鳳は滝を自分の部屋まで案内する。鳳の部屋
は常に綺麗で、机の横にはバイオリンやその楽譜などが置かれていた。
「やっぱ、長太郎の部屋って綺麗だよね。」
「そんなことないですよ。譜面とかもその辺に置きっぱですし。」
「でも、この程度なら散らかってるって言わないよ。俺、この部屋の雰囲気すごく好きだ
なあ。」
「本当ですか?そう言ってもらえると嬉しいです。」
照れたように笑いながら鳳はそんなことを言う。やはり自分の部屋を褒められるのは嬉し
いものだ。テレビを見るときに使う小さなソファに滝を座らせると、鳳はお茶を取ってく
ると言っていったん部屋を出て行った。
「長太郎の部屋、何度来ても居心地いいよなぁ。教科書とかもキチンとしまってあるし、
だからって生活感がないようには感じないし。」
鳳が部屋を出て行っている間、滝は大人しくソファに座っているということはしなかった。
どんなものがあるのかなあと部屋の中を歩き回って、物色している。
「お待たせしました。」
「あっ、おかえり。」
「何してるんスか?」
本棚の前で何かをしきりに眺めている滝を不思議に思い、その理由を尋ねる。滝はそこに
立てかけてあった写真に目を奪われていたのだ。
「これ、長太郎だよね?」
滝が指差したのは、フォトスタンドに入っている鳳が幼い頃の写真。まだ幼稚園生くらい
の鳳が飼い猫を抱いて、愛らしい姿で笑っている。確かにこんなものを見つけてしまって
は静かに座っていることなど出来ないであろう。
「な、何見てるんですか!?恥ずかしいっスよ。」
慌ててその写真をそこから取り、腕の中に抱えると真っ赤な顔をして滝を見た。そんな鳳
の姿も写真の鳳に負けず劣らず可愛い。
「なんで?可愛いじゃんその写真。」
「全然可愛くなんかないです!!」
「そんなことないよ。ねぇ、もう一回見せて?」
「嫌ですよ。・・・恥ずかしいですもん。」
幼い頃の写真を見られるのが相当恥ずかしいようで、鳳は必死でその写真を隠した。しか
し、滝はその写真を見つけてから鳳が来るまでずっと眺めていたのだ。実はもうそれで満
足している。
「ならいいや。別に写真じゃなくても小さくなくても、今の長太郎も十分可愛いからね。」
「た、滝さん・・・」
そんなことを言われてしまっては言い返す言葉がなくなってしまう。伏せるようにしてそ
の写真を置くと、鳳は滝をテーブルがあるところまで連れて行った。せっかくお茶を入れ
てきたのだ。飲んでもらわないと淹れてきた意味がなくなってしまう。
「もうあの写真のことは忘れて、お茶でも飲んでください。」
「えー、あの写真を忘れるってのは出来ないなぁ。」
「滝さんっ。」
「あはは、冗談冗談。わあ、このお茶すごく綺麗な色してるね。ハーブティーか何か?」
「はい。滝さんハーブティーとか平気ですか?」
「うん、大丈夫。むしろ、好きだよ。」
鳳が淹れてきたお茶は真っ赤な色をしたハーブティーだった。いろんなハーブがブレンド
されているようで、なかなか香りはいいようだ。
「へぇ、匂いは結構強いけど、味はそうでもないね。さっぱりしてておいしい。」
「そうですか?よかったです。」
お茶を飲みつつリラックスすると、これから何をするかを話し始める。まだ、お茶がだい
ぶ残ってしまっているので、ボードゲームなどの類のものは出来ないが、テレビを見たり、
音楽を聴いたりは出来そうだ。
「うーん、これから何しよっか?」
「そうですね・・・DVDでも見ます?」
「それもいいけど、テレビとか見てると画面に集中しちゃってあんまり長太郎と話せなく
なっちゃうからなあ。」
「えっと、それじゃあ、音楽聞きながら話をするってのはどうですか?」
「ああ、それならいいかもね。音楽ってどんなの?」
「俺が持ってるCDだとかなりクラシック系になっちゃいますけどいいですか?」
「うん。長太郎のお気に入りのやつかけて。」
というわけで、このあとは音楽をかけながら話をするということになった。鳳と話がたく
さん出来るということで滝の顔は実に嬉しそうだ。鳳はいったん立ち上がり、壁の方にあ
るCDデッキにお気に入りのCDを入れると再生ボタンをポチっと押した。

バイオリンの音から始まったその曲は透明感があり、心の中にすーっと染みこんでいくよ
うな曲であった。いい曲だねと滝は戻ってきた鳳に微笑みながら言う。滝もこういう曲が
好みのようだ。
「すごく綺麗な曲だね。」
「はい。今この曲練習中なんですよ。でも、なかなか難しくて。」
「すごいね。こんな曲も弾けちゃうんだ。」
こんなに難しそうな曲をバイオリンで弾けるというのはすごいことだと滝は感心する。し
かし、鳳はピアノとバイオリンが趣味なのだ。これくらい出来ても全然おかしくはない。
「うーん、で、何について話そうか?」
「討論会じゃないんですから、そこまで決める必要ないんじゃないですか?」
「えー、でも、何か話題があった方がいいじゃん。」
「それじゃあ・・・将来の夢とか?」
「また、随分大きな話題だね。」
鳳の出した話題に滝はちょっと困惑しながらも、半分は賛成。しかし、将来の夢といって
もまだ完璧には定まっていないので、もう少し限定したかった。
「将来の夢だと幅が広すぎるっていうか・・・俺がまだそういうことちゃんと考えてない
んだよね。あっ、そうだ!だったら、将来の夢じゃなくて、将来どんな結婚をしたいかと
か、どんな人が理想かとかそういう話はどう?」
恋愛話が好きな滝はこういう類の話を一度鳳としてみたかった。こんな話をしておけば、
鳳がどんなふうにしたらトキめいてくれるのか、嬉しがってくれるのかがよく分かる。
「長太郎はどんな人と結婚したい?」
「えっ・・・そんなこと言われても、今好きなのは滝さんですし・・・でも、あえて言う
なら浮気しない人ですかね?」
「へぇ、そっか。知ってる?長太郎。さそり座ってね、浮気しない星座ナンバー1なんだ
よ。」
「そうなんですか!?」
「うん。でも、嫉妬深い星座ナンバー1でもあるんだよねー。」
ついこの間、こういう関係の本を読んだので、滝はそれに載っていたことを鳳に話す。他
にも様々な星座ランキングがあったのだが、滝の星座であるさそり座は何故かこういう恋
愛関係においての順位が高かった。
「滝さんはどうなんですか?」
「えっ、俺?うーん、あえて好みのタイプをいうなら大和撫子って感じの子かな?でも、
うちの学校で一番大和撫子っぽい要素もってるのって樺地じゃん?今の女子で大和撫子っ
ぽい子っていないし。俺的に樺地はちょっとなあって感じなんだよ。でもまあ、後輩とし
ては好きだけどね。」
「でも俺・・・全然大和撫子っぽくないですよ。」
滝の言葉は聞いて、鳳は不安気な表情になる。確かに鳳は大和撫子とは言えないが、人に
とことん尽くすという姿勢は大和撫子以上であろう。
「長太郎は別だよ。むしろ、好みって実は自分のなりたいって思ってる理想なのかもね。
だから、俺が大和撫子目指そうかなーなんて。」
冗談めいた口調で滝はそんなことを言う。それを聞いて鳳はホッとした。滝の場合は外見
は着物を着たり、仕草をそう振舞ったりすれば、充分に大和撫子であるが、性格の面で考
えるとそうはいかないだろう。
「俺は今のままの滝さんでも充分いいと思いますよ。」
「本当に?長太郎にそう言ってもらえると嬉しいな。あっ、じゃあさ、結婚生活はこんな
のがいいっていうのある?」
「そうですね・・・」
しばらく鳳は考える。結婚生活といってもそう簡単には思い浮かばない。
「うーん、そんなに際立ってこうしたいってのはないですけど、誕生日とかクリスマスと
かバレンタインとか、毎年毎年一緒に祝っていけたらいいなあとは思いますね。」
「あー、それは確かに思う。こういうイベントの度により仲よくなれたらいいよね。」
「滝さんもそう思いますか?」
「思う思う。あっ、あとさ、これは本当に日常的なことなんだけど、ちゃんと一緒にご飯
食べて、一緒に寝て、たまにはデートに行ったりとかもしたいよね。」
「分かりますそれ!!俺もそうしたいですよ。」
結婚生活というかこの二人の場合はつきあってる時にも出来そうなことばかりだ。こんな
話で盛り上がっていると二人の頭にふととある考えがよぎる。
「てかさ・・・」
「何ですか?」
「こんなにしたいこととかかぶってるなら、俺達結婚してもよくない?」
「・・・・・へっ?」
「あっ、でも、今の法律じゃまだ無理か〜。残念。でも、一緒に暮らしたりはしたいよな。」
にっこり笑って話す滝だが、鳳は結婚という言葉を聞いて、頬を赤く染めている。そこま
で恥ずかしがる必要はないのにそんなふうな反応をする鳳を滝は本当に可愛いと思う。
「何そんなに照れてるの?」
「だって、滝さんが結婚なんて言うから・・・」
「可愛い〜長太郎。でも、一緒に住むのはちょっと考えて欲しいなあ。」
「滝さんとだったら、俺は別にいいですよ。」
「本当?あっ、じゃあ俺の将来の夢、長太郎のお嫁さんになること!」
「お、お嫁さんですか?」
「うん、でもするときは俺が上ー。」
「た、滝さん・・・でも、俺、滝さんがお嫁さんになってくれたらすごく嬉しいです!」
「ホントに?それじゃあ、約束の印〜。」
「わっ、滝さ・・・・」
そう言いながら滝は鳳に口づけた。そうした瞬間、滝の目にあるものが映る。鳳の後ろの
窓から大きな虹が見えるのだ。
「長太郎、外!!」
「い、いきなりどうしたんですか?」
「虹だよ、虹!!雨やんでる!!」
「えっ?」
後ろを見てみると窓の外に大きな虹がかかっているのが見える。雨は完璧にやんでいた。
「すごいですね。」
「ねぇ、長太郎。今から出かけよう。虹の下でデート♪」
「いいですね。行きましょう!」
雨がやんだのを知り、二人は出かけて行った。だいぶ時間がたっているが今からでも十分
デートは楽しめる。小さな夢を語り合い、気持ちはポカポカ。外はちょうど小春日和な暖
かさになっている。そんな秋にしては気候のいい日、二人は虹の下で夢の続きを語り合う
のであった。

                                END.

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