月のない夜更け。今日は特に見張りなどの仕事のない蜉蝣は、暇を持て余していた。先程
までは水軍館で本を読んでいたのだが、陸酔いがひどく、とても読んでいられる状態では
なくなってしまったのだ。
(暇だな。今夜仕事がない奴は・・・)
そんなことを考えながら、波打ち際で一休みをしていると、水軍館の方から疾風が歩いて
来るのに気づく。
(疾風も今日は仕事がなかったはずだな。)
これは都合がいいと、蜉蝣はその回転の速い頭を働かせる。ざっと立ち上がると、少し慌
てた様子を装って、蜉蝣は疾風のもとまで駆けていった。
「おっ、蜉蝣。何してんだ?こんなところで。」
「ちょうどよかった。お前を探してたんだ。」
「俺を?どうして?」
「さっき、お頭から指示があってな。七人岬のあたりで、何か怪しい者が出るらしくて、
軽く見回りに行って来いって言われたんだ。今、手が空いてるのは、俺とお前くらいだろ
う?」
「し、七人岬・・・・?」
蜉蝣の言葉を聞いて、疾風は青ざめる。七人岬に出る怪しい者など、幽霊か妖怪に決まっ
ている。水軍一、怖い話や幽霊・妖怪の類が苦手な疾風は、ずりずりと後ずさりをする。
「それ、どうしても行かなきゃダメか・・・?」
「出来れば一緒に来て欲しいが、お前がどうしても怖いから無理っていうんなら、俺一人
で行くけどな。」
ニヤリと笑いながら、蜉蝣はそんなことを言う。負けず嫌いな疾風は、そういう言い方を
されると嫌だとは言えないことを知ってのことだ。案の定、疾風はムッとしたような顔を
して、行くと言い出した。
「べ、別に怖くなんかねぇからな!!行ってやるよ!!」
「そうか。じゃあ、今から行くか。」
「お、おう。」
疾風が行くと言ったのを聞いて、蜉蝣は七人岬に向かって歩き出す。本当は心の底から行
きたくないが、行くと言ってしまった以上行かないわけにはいかない。前を歩く蜉蝣から
出来るだけ離れないように、疾風も歩き始めた。
七人岬に近づくにつれて、蜉蝣と疾風の距離は縮まっていく。その岬が見えるところまで
来ると、疾風はしっかりと蜉蝣の腕にしがみついていた。
(本当可愛いなあ。こりゃこの後も相当楽しめそうだ。)
「疾風。」
「お、おう。何だ?」
「あまり海から離れると、陸酔いしそうだから、そこらへんの波打ち際で少しの間見張る
って感じでいいか?」
「べ、別に構わないぜ。」
構わないと言いつつも、疾風は決して蜉蝣から離れようとしない。疾風を腕にしがみつか
せたまま、蜉蝣はギリギリ波が足に触れるか触れないか程度のところに腰を下ろす。周り
には明かりは何もなく、暗闇の中に波の音が静かに響いているだけであった。
(あああ、やっぱ怖ぇーよ。こんないかにも出そうなところの見張りとか、本当耐えらん
ねーよぉ。)
ひしっと腕にしがみつきながら、小さく震えている疾風を見て、蜉蝣は少々からかいたく
なる。手始めに、海の方を見て警戒している疾風の耳にふっと息を吹きかけてみる。
「うわあああっ!!!!」
蜉蝣のそんな悪戯に本気で驚いた疾風は、思いっきり蜉蝣に抱きつく。相当ビビっている
ようで、蜉蝣の胸に顔を埋めながらぶるぶると震えていた。
(ヤバイ、可愛すぎる・・・)
「そんなに怖いのか?」
「うるせー!!怖いもんは怖いんだ!!悪ぃか!!」
「別に悪いだなんて一言も言ってないだろ。お前が怖がりなのは、子供の頃から知ってる
し。」
「あー、もう何でこんなとこの見張りなんてしなくちゃいけないんだよー。早く帰りてぇ
よぉ。」
本当に怖いようで、その声はほぼ半べそ状態で、蜉蝣を見上げる瞳はひどく潤んでいた。
そんな疾風の態度と表情に蜉蝣はムラっとしてしまう。
「疾風、たとえ幽霊や妖怪が近くに居たとしても、絶対に側に寄ってこない方法があるん
だが、知りたいか?」
「そんな方法があんのかよ!?」
「ああ。」
「知りたい知りたいっ!!つーか、知ってんだったら早くそれしろよ!!」
「ほう。していいんだな?」
何をするのか分からないが、とりあえず幽霊や妖怪が寄って来ないのであれば是非それを
して欲しいと、疾風は蜉蝣に訴える。すると、蜉蝣は疾風の頬に手を添えて、ふっと笑い
ながら唇を重ねた。
「んっ・・・んん・・・!?」
突然のことに疾風は怖いと思っていたことも忘れてしまう程驚く。しばらく口内を探られ
た後、ゆっくりと唇を離されると、疾風は顔を真っ赤にして蜉蝣を見た。
「い、いきなり何すんだっ!!」
「幽霊や妖怪はな、やらしいことをしていると側に寄って来ないんだ。」
「それ・・・本当か?」
嘘っぽいとも思ったが、博識な蜉蝣の言うことだ。もしかしたら、本当かもしれないと、
疾風はそう聞き返す。当然のことながら、蜉蝣は本当だと頷いた。
「そうか・・・知らなかった。」
「どうする?するか?」
こんなところで、そういうことをするのはどうかと思ったが、背に腹は代えられない。自
分の一番苦手としている幽霊や妖怪が寄って来ないのならと、疾風は蜉蝣の誘いに頷いた。
「本当にそれで、幽霊が寄って来ないんだったら・・・する。」
「お前がそう言うんだったらしてやるよ。」
ここまで上手くいくとは思っていなかったので、蜉蝣は心の中でガッツポーズをし、疾風
の肩を抱く。そして、もう一度疾風の唇に軽い接吻をすると、袴の紐に手をかけた。
袴を脱がしてしまい、下帯もするりと外す。そんなことをされても、疾風は蜉蝣から決し
て離れようとはせず、しっかりと蜉蝣の首に腕を回し、その身を任せていた。
「今日は随分と大人しいんだな。」
「だ、だって・・・そういうことしないと、幽霊とか寄ってくんだろ?」
「ああ。そうだな。」
本気で信じている疾風を可愛いと思いながら、蜉蝣は疾風の熱をきゅっと握る。どんなに
怖いと思っていても、物理的な刺激を与えられれば反応してしまう。まだそれほど熱を帯
びていないそれを手の中に収めたまま、蜉蝣はゆっくりとその手を動かし始めた。
「んっ・・・ふぁ・・・・」
敏感な熱を擦られ、疾風はふるりとその身を震わせ、甘い声を漏らす。次第に大きさを増
し、硬くなっていく熱に、蜉蝣は何とも言えない高揚感を覚える。いつの間にか、蜉蝣自
身も疾風の熱に負けず劣らず大きくなっていた。
「疾風。」
「な、何・・・?」
「俺のと一緒に、擦っていいか?」
「へっ・・・?」
次の瞬間、疾風のそれは自分のそれより熱い何かに触れる。それが蜉蝣の熱だと分かると、
疾風の心臓はドキンと跳ねた。
「蜉蝣の・・・あちぃ・・・」
「お前のだって相当熱いぞ?」
「何か・・・変な気分だな。」
先程まで、あれほど怖がって半べそ状態だった疾風の顔に笑顔が戻る。そんな疾風の笑顔
に胸を高鳴らせながら、蜉蝣は二人分の熱を先程よりももう少し強い力で擦り始めた。
「あっ・・・はぁっ・・・!!」
「たまにはこういうのも悪くないな。」
「やっ・・・あんっ・・・さっきより、何かっ・・・・」
「さっきより、気持ちイイって?」
低く妖しさを存分に含んだ声で、蜉蝣は疾風の耳元で囁く。そんな蜉蝣の声に、疾風はぞ
くぞくと甘い痺れが全身に駆け抜けるの感じ、ぎゅっと目をつぶる。
「んんっ・・・ああっ・・・・!!」
「まだイクには少し早いぞ。」
「ハァ・・・あ・・・でもよぉ・・・こんなのっ・・・・」
と、突然強い風が吹き、がさがさと木々が揺れる。その音に驚いた疾風は、ぎゅうっと蜉
蝣の首に抱きつき、そのまま達してしまった。
「ひあっ・・・あああっ!!」
「くっ・・・」
そんな疾風につられ、蜉蝣も思わず達してしまう。鼓動がいつもより速いリズムを刻んで
いるのを感じながら、蜉蝣は呼吸を整えようと深呼吸をした。
「今のはちょっと不意打ちだったな。」
「ハァ・・・やっぱ、怖ぇーよぉ・・・」
「大丈夫だ。今のはただの風だ。」
「けど・・・」
「そんなに怖いんだったら、そんなのも忘れてしまうくらいよくしてやるぞ。」
そう言いながら、蜉蝣は疾風と自分の二人分の精ですっかりドロドロになった手を、剥き
出しになっている双丘の中心へと持っていく。ひやりと濡れた感触が、今しがた達したこ
とでひくついている蕾に触れる。
「ひっ・・・ぁ・・・・」
「これだけ濡れていれば、楽に慣らせるだろ。」
「あっ・・・かげろっ・・・やだ・・・」
「別にやめても構わないが、ここでやめたら七人岬や船幽霊が寄ってくるかもしれないな。」
「・・・っ!?」
それはもっと嫌だと、疾風の顔は強張る。おずおずと慣らしやすいようにと足を開き、続
きをしてもらうことを促した。
「やっぱ・・・やめるな。」
「いいのか?別にお前が嫌なら、無理にはしないぞ。」
分かっていながら、蜉蝣はわざとそんなことを言う。これ以上、何もされずにいたら、幽
霊や妖怪が寄ってきてしまうかもしれないと、疾風は怒鳴るように続きをしてくれるよう
にせがむ。
「いいから、早く続きしろよ!!幽霊が寄って来ちまうだろ!!」
あまりに必死な疾風が可愛くて仕方がないと、蜉蝣は声を殺して笑う。そこまで言うなら
存分に続きをしてやろうと、蜉蝣は蕾の入口で止めていた指をぐっと中へと差し込んだ。
「ふあっ・・・ああっ!!」
「何だ、結構余裕そうじゃねぇか。」
「うっ・・・あ・・・あっ・・・・」
「熱くて絡みつくみてぇに指を締めつけて。お前のココは本当にやらしいなあ。」
「っるせ・・・・お前のがよっぽど・・・・」
「俺の方がよっぽど、何だって?」
そう言いながら、蜉蝣は疾風の中に入れた指を曲げる。疾風の中を完璧に知りつくしてい
る蜉蝣は、的確に疾風の一番弱い部分をぎゅっと押した。
「ああっ・・・んああぁっ!!」
「どうした?答えろよ。」
「お前っ・・・ずりぃ・・・・」
「あっ。」
疾風の言葉を聞き流すかのように、蜉蝣は何かに気づいたような声をあげる。こういうこ
とをしているとは言えども、ここは七人岬だ。びくびくしながら、疾風は蜉蝣に聞き返す。
「な、何だよっ・・・?」
「お前の後ろに、ウミボウズが・・・・」
蜉蝣がそう口にした瞬間、疾風の蕾はきゅうぅっと締まる。そのタイミングを逃さず、蜉
蝣はさらに奥の方にある疾風のスイッチを押した。
「やあぁっ・・・無理無理っ!!ひあっ・・・ああぁっ!!」
「何が無理なんだ?こんなに感じてるくせに。」
「怖い怖いっ・・・マジ無理だってぇ・・・・あっ・・・ふあぁっ・・・!!」
心理的には恐怖しか感じられないが、肉体的には蜉蝣の与える快感をしっかり享受してい
る。そんな逆説的な状況に、疾風の頭は混乱していた。
「ああっ・・・蜉蝣っ・・・かげろぉ・・・・」
「俺が居るんだ。そんなに怖がらなくても大丈夫だ。」
「やだっ・・・怖い・・・ウミボウズも船幽霊も無理ぃ・・・・」
子供のように泣きながら、疾風はそんなことを訴える。しかし、その表情に浮かぶのはた
だの恐怖だけではなかった。潤んだ瞳に、紅潮した頬。そこには明らかに官能に濡れた大
人の色気が漂っていた。
(何て顔するんだ、疾風の奴。こんな顔見せられたら、我慢出来なくなっちまう。)
「蜉蝣ぉ・・・」
切なげな声で名前を呼ばれ、蜉蝣の理性の糸はプツリと切れる。内側からずるりと指を抜
くと、蜉蝣は疾風の腰をしっかりと捉えた。
「そんなに怖いんだったら、さっさと一つに繋がろうぜ。そしたら、少しは安心出来るだ
ろ?」
「んっ・・・うん・・・」
とにかくこのどうしようもなく怖い状況をどうにかして欲しいと、疾風は蜉蝣の言葉に頷
く。捉えた腰はゆっくり自分の楔の上へ下ろさせると、蜉蝣はすっかり熱を持ち、かなり
の質量を持っているそれを疾風の中へと捩じ込んだ。
「うっ・・・あ・・・ああぁんっ!!」
「くっ・・・まだ少しキツイな・・・」
「か・・げろ・・・・」
「少し力を抜いてくれないか?疾風。」
幽霊や妖怪への恐怖から、疾風の体には無駄な力が入ってしまっていた。このままでは自
分も疾風も少し辛いと、蜉蝣は疾風の頭を優しく撫でながらそんなことを言う。
「ふっ・・・ハァ・・・・」
蜉蝣の首にしがみつきながらも、疾風は懸命に無駄な力を抜こうとする。ゆっくりと息を
吐くと、だいぶ体の力が抜けた。その瞬間を逃すことなく、蜉蝣は自身を根本まで疾風の
中へと埋める。
「ひ・・あっ・・・!!」
「一応、全部入ったぞ。」
「んんっ・・・あっ・・・・」
自分の内側で脈打つ蜉蝣の熱。あまりの熱さとその質量に、疾風の頭はぼーっとしてきて
しまう。
(蜉蝣の・・・すげぇあちぃ。それにでかくて、中が・・・)
「大丈夫か?疾風。」
「大丈・・夫・・・だと・・・思う。」
「なら、少し動くぞ。」
「う・・・うん・・・・」
疾風の腰を支えながら、蜉蝣は疾風の中を存分に堪能する。幾度も突き上げ、柔らかく、
しかしそれでいて、程よい力で締めつけてくる内側を擦り上げる。蜉蝣の熱が中を激しく
擦るたび、疾風は気を失いそうな程の快感に濡れた声を上げる。
「んあっ・・・あっ・・・ああっ・・・!!」
「ハァ・・・疾風っ・・・」
「か、かげろぉ・・・ふっ・・・ああぁ・・・・」
あまりの快感に、幽霊や妖怪に対する恐怖などすっかり忘れかけていた疾風であったが、
ふと足の先が満ちて来た海の波に触れる。突然感じる冷たく濡れた感触。その感覚にひど
く驚き、疾風は悲鳴にも似た声を上げながら、思いきり蜉蝣に抱きついた。
「ひっ・・・やああぁっ!!」
「・・・・・っ!!」
恐怖のためか、疾風の蕾はひどく強い力で蜉蝣の楔を締めつけた。そんな刺激に耐えられ
ず、蜉蝣は疾風の中に熱い蜜を放つ。足に感じた冷たさとは対照的に、熱い雫で満たされ
る身体の中。二つの予想外の刺激に疾風も熱の先から真っ白な雫を迸らせる。
「んっ・・・ああぁ――っ!!」
ひどく熱を持った身体で抱き合いながら、しばらく息を乱していた二人であったが、すぐ
にその呼吸は整ってくる。ある程度落ち着くと、蜉蝣は疾風の中から自身を引き抜こうと
する。
「やっ・・・まだ、抜くなっ!!蜉蝣!!」
「でも、もう・・・・」
「まだ繋がっててぇんだよぉ・・・・抜いたら、終わりじゃねぇか・・・」
波が足に触れたことで完全にこの状況の怖さを思い出してしまった疾風は、今蜉蝣と離れ
るなど考えられなかった。しかも、抜いてしまったらこの行為はそこで終わってしまう。
そうなれば、幽霊や妖怪が寄ってくる隙を作ってしまうことになる。それは絶対無理だと
疾風は半泣き状態で、蜉蝣に訴えた。
「それは、もう一度してもいいってことか?」
「いい・・・何回もしてもいいからぁ・・・・まだ離れたくねぇよぉ・・・・」
率直な疾風のおねだりに、蜉蝣に熱は一気に硬さを取り戻す。ここまでいい反応が見られ
るとは思っていなかったので、蜉蝣は口元が緩むのを抑えられなかった。
「お前がそこまで言うなら、仕方ないな。」
「ふあっ・・・あっ・・・!?」
「今度は波が足に触れないように、しっかりと抱え上げててやるよ。」
もっと楽に動けるようにと、蜉蝣は疾風を砂の上へと押し倒し、しっかりと足を抱え上げ
てやる。仰向けに倒されても、疾風は蜉蝣の首にしっかりと抱きつき、決して離れようと
はしなかった。そんな疾風の態度にやられ、蜉蝣は何度も疾風の中の心地よさを繰り返し
味わうのであった。
結局、疾風が気を失うまでしてしまった蜉蝣は、海の水で汚れた体を拭き、着物を着せた
後、そのまま疾風を抱いて水軍館まで戻っていった。蜉蝣自身もかなり疲れてしまったの
で、陸酔いをする暇なく、疾風の隣で眠りにつく。次の日、蜉蝣はかなり気分よく起きる
ことが出来たが、疾風は想像以上の腰の痛さに身悶える。
「うおっ・・・超腰痛ぇー。」
「あー、昨日やりすぎちまったからな。」
「そうかあ。そうだよなあ・・・・あー、今日の仕事、キツイかも。」
「俺の責任だからな。お前の分の仕事で出来ないのがあれば、俺がやってやる。」
「そうしてくれると助かるぜ。とりあえず、飯でも食いに行くか。」
「ああ。」
とりあえず、朝食を食べに行こうと二人は食堂へと向かう。食堂にはもう若い者が集まっ
て、先に食べ始めていた。舳丸と重の前が空いていたので、二人はそこに腰かける。ふと
舳丸の方をやると、膝の上に何かが乗っているのに気づく。
「ん?舳丸、膝の上に乗ってるのって・・・・」
「ああ。朝、海に潜ってたらたまたま会いまして。せっかくだから一緒にご飯食べるって
ことになって連れて来たんですよ。」
舳丸の膝の上に乗っていたのは、ウミボウズのうみ坊であった。ウミボウズが目の前に居
ることに気づいて、疾風は思わずガタンと立ち上がる。
「ウ、ウミボウズっ・・・!?」
「大丈夫ですよ。こいつは特に害はないんで。初めは泳げなかったですしね。」
「そうだな。忍術学園の1年は組が臨海学校が来たときに一回ここに来たんだよな。」
蜉蝣がそう話しかけると、うみ坊はピャッと舳丸の胸に顔を隠す。一体どうしたんだろう
と、舳丸、重、蜉蝣は首を傾げる。
「どうした?うみ坊。」
そう重が尋ねると、うみ坊はちらっと疾風の方を見て、その後で蜉蝣の顔を見る。
「昨日、この人がこの人のこと食べてたの。」
『食べてた?』
「この人が、いやいやって言ってるのに、がばあって。」
だから怖いのと、うみ坊はまた舳丸の胸に顔を隠す。何を言ってるんだろうと、舳丸と重
は顔を見合わせる。少し考えて、蜉蝣と疾風はうみ坊が何を言っているかを理解する。
「〜〜〜〜っ!!!!」
「ああ。それは食べてたんじゃない。まあ、ある意味では食べてるって言えるかもしれな
いけどな。」
「じゃあ、何してたの?」
「それは言えないな。お前はまだ子供だし。」
「????」
そこまで聞いて、舳丸と重はこの二人が昨日の夜、何をしていたかを理解してしまう。こ
れはこれ以上つっこんだことは聞いてはいけないと、二人は目と目で言葉を交わす。
「よーし、うみ坊。飯も食い終わったし、体乾いちゃうといけないし、海に戻るか。」
「う、うん。」
「それじゃあ、蜉蝣さん、疾風さん、お先に失礼します。」
「ああ。俺らも食べ終わったら、すぐに行くとお頭に伝えておいてくれ。」
『はい。』
二人を残して、舳丸と重、そしてうみ坊は食堂を出て行く。残された蜉蝣と疾風は、朝食
を食べ始めながら、軽く言葉を交わす。
「やっぱ、見られてたんだな。」
「昨日ウミボウズが居るって言ったの嘘じゃなかったんだな。」
「まあな。でも、その後の疾風、本当に可愛かったからなあ。別に見られていたこと自体
は特に問題ではないだろ。」
「いや、あるだろ!!まあ、俺らの前に姿を出さなかったのは正しかったけどな。」
「そしたら、もっと怖がってる疾風が見れたかもしれないな。」
「いやいやいや、もうあんなの勘弁だって!!マジ怖かったし。」
「ははは、俺はたくさん出来て満足だけどな。むしろ、またしたいくらいだ。」
「絶対、今度はついていかねぇからなっ!!」
ぎゃあぎゃあと騒ぎながら、二人は時間をかけて朝食を取る。周りの若い衆は、聞いて聞
かぬふりをして、二人の様子を遠くから眺めるのであった。
END.