酔いどれ日和

毛利が成人して少しした頃、種ヶ島の提案で飲み会をしようということになった。君島も
いることもあり、誰かの部屋でゆっくり飲みたいということで、二日以上予定が空いてい
る日で予定を合わせ、越知と毛利が二人で住んでいる部屋で宅飲みをすることになった。
「ちゃーい☆お酒、ぎょーさん買って来たで!」
「種ヶ島さん、お久しぶりです。はは、元気そうでなによりですわ。」
「君島と遠野ももう少しで着くそうだ。」
「全員集まるのは結構久しぶりだよな。」
それぞれのパートナーとは、一緒に住んでいたり、しょっちゅう訪れたりでよく顔を合わ
せているが、各ペアが皆揃うことはなかなかなかった。しかし、今でも連絡は取り合い、
時間が合えば、こんなふうに集まったりしている。
「ホンマいろいろ買って来たんですね。」
「このメンツ、結構好みが分かれとるからな。俺はカクテル系が好きやし、竜次は焼酎が
好きやろ?ツッキーは日本酒飲んどるイメージやし、サンサンとアツはワインとかシャン
パンみたいなのが好きやしな。」
「何やイメージ通りって感じですね。」
それぞれが好きな酒の種類を聞いて、毛利はクスっと笑う。
「ワイン系はあの二人に任せとるんやけど、毛利はどんなんが好き?」
「んー、あんまりいろんなお酒飲んだことないんでよく分からないんですけど、いかにも
お酒っちゅーよりは、甘い系のが好きかもしれんです。」
「甘い系のも結構買ってあるから大丈夫やと思うで。」
テーブルの上に買って来た酒を並べながら、種ヶ島と毛利はそんな会話を交わす。
「つまみ的なものは、俺と毛利である程度用意した。」
「お、結構な種類用意したんだな。大変だっただろ?」
「酒の種類が多いのは予想してたからな。酒の種類によって合うつまみも違うだろう。」
「確かにな。よし、これらも持って行っておくか。」
キッチンに用意してあったつまみ類を越知と大曲はテーブルに持って行く。概ね準備が終
わったあたりで、玄関のチャイムが鳴る。
ピンポーン
「あの二人だろうな。ちょっと出てくる。」
「おう。」
家主である越知は、ドアを開けに玄関に向かう。ドアを開けると見知った顔が二人揃って
立っていた。
「よう、久しぶりだな。」
「お邪魔します。」
「ああ、もうほぼ準備は済んでいる。」
「おや、遅れてしまって申し訳ありません。」
「君島は仕事場から直に来てるからな。」
それなのに二人揃って来るあたり、何だかんだ仲が良いのだなと越知はほっこりする。君
島と遠野を部屋に招き入れると、準備の出来ているリビングへと向かった。
「あ、キミさん、遠野さん、お疲れ様です!」
「随分たくさん用意したじゃねーか。」
「アツとサンサンも持ってきたやろー?ココに置いて、早よ座りや。」
「ふふ、皆さん相変わらず元気なようで安心しました。」
それぞれお気に入りの赤ワインとシャンパンをテーブルの上に置くと、君島と遠野は空い
ている席に座る。越知も毛利の隣に腰を下ろす。
「よっしゃ、全員揃ったし、好きなお酒入れて乾杯するで!」
各々コップであったり、グラスであったり、御猪口であったり、飲む酒の種類に合わせた
ものに入れて、それを手に持つ。
「そんじゃ、このメンバーが久しぶりに揃ったことに乾杯ー!!」
『乾杯!!』
持っているコップやグラスを掲げたり、コツンとぶつけたりして、乾杯をする。誰もが楽
しげな笑みを浮かべ、楽しい飲み会が始まった。

早い者は三杯目、遅い者でも一杯目は飲み終わる頃、皆それぞれ酔いが回ってきていた。
とは言えども、酒に強い、弱い、そこまででもないの差はあるので、酔い方は三者三葉で
あった。
「月光さーん、何やちょっとふわふわしてきました。」
「そうか。それなら、ここに来るといい。」
酔ったような口調で甘えるようにそう言ってくる毛利を、越知はあぐらをかいた膝の上に
座らせる。越知の膝の上に座ると、毛利は越知に寄りかかり、両手で甘いお酒の入ったコ
ップを持つ。
「えへへ、ありがとさんですぅ。」
「いやいや、甘やかしすぎだし。」
「さして問題はない。」
「あはは、ツッキー酔ってるのか酔っとらんのか分からんなあ。」
毛利を腕の中に収めるような形で越知は御猪口を口に持っていく。しばらくニコニコしな
がら、コップの中身を飲んでいた毛利だったが、ふとテーブルの上にコップを置いて喋り
出す。
「月光さん、ホンマ優しくてかっこええなあ。この体勢、月光さんとくっつけるからメッ
チャええ気分やけど、たまにこういう体位でもするからちょっと恥ずかしいかも。こない
なこと考えとったら、何や月光さんにちゅうして欲しくなってきたわ。あー、せやけど、
他の先輩達もいるからなー。そないなわがまま言うたら月光さん困ってまうよなー。」
毛利的には心の中で思っているだけのつもりだが、全て声に出ているため、目の前にいる
大曲や種ヶ島は笑いを堪えていた。
「毛利。」
「はい、何ですか?」
越知に名前を呼ばれ、毛利はニパっと笑いながら越知の顔を見る。
「全部声に出ている。」
「へっ?あちゃー、またやってもうた。」
「だが、そんなにして欲しいのなら・・・」
毛利が上を向いているのをいいことに、越知はその顎を指で固定し、そのままちゅっと口
づける。普段なら真っ赤になって恥ずかしがるような状況であるが、酒に酔っていること
もあって、顔を赤らめながらもあからさまに嬉しそうな反応を見せる。
「えっへへ、月光さんにちゅうしてもろたぁ!メッチャ嬉しいわぁ!ホンマに月光さんの
こと大好きでっせ。はあー、ホンマ幸せやあ。」
「愛情深いダブルスペアヤバイな。メッチャイチャイチャしよるやん。」
「本当勘弁しろし。」
大曲、種ヶ島ペアもそれなりに飲んでいることもあり、この状況を呆れるというよりは楽
しんでいる。そんな越知、毛利ペアに感化されている者がもう一人いた。
「愛情深いダブルスですか。それなら、私達も負けてないですよね、遠野くん。」
「あぁ?あ、君島いつの間にそんなに飲んでんだよ?」
突然わけの分からないことを言い出す君島に、遠野は君島の飲んでいたシャンパンの瓶を
見る。既に瓶の中の中身は半分以上なくなっていた。
「お前、そんなに強くねぇんだからそんなペースで飲むのはまずいだろ。」
「別に問題ないですよ。」
「サンサンってあんまりお酒強くないんやったっけ?」
「弱いわけじゃねーけど、酔い方がな。」
「確かにそこまで酔ってるところは見たことないかもしれねーな。」
仕事があるときは、セーブしながら飲酒をする君島であったが、今日は気の知れたメンバ
ーで次の日も休みのため、少し羽目を外すような形で飲んでいた。
「種ヶ島。」
「ん?なにー?」
「この後の君島、動画でも撮っておくといいぜ。面白いから。」
ニヤリと笑いながら、遠野はそんなことを言う。どういうことだろうと思いながらも、種
ヶ島はスマホを手にして、君島と遠野にカメラを向ける。すると、君島は種ヶ島のことも
大曲のことも全く気にせず、遠野の首に抱きつく。
「遠野くん、好き。」
『えっ!?』
君島の放つ言葉に大曲も種ヶ島も驚く。君島が遠野のことを好きなことは知っているが、
そんなにも素直にそれを口にしているのを聞いたのは初めてだった。その後も君島は、遠
野に抱きついたまま、何度も何度もその言葉を繰り返す。
「遠野くん、好きです。大好き。好き、好きです。」
しばらく黙ってそれを見ていた種ヶ島と大曲であったが、どうしても我慢出来なくなり、
種ヶ島は笑いながらツッコミを入れてしまう。
「あはは、サンサンの語彙力ひっど!好きとしか言うてへんやん!」
「まあ、いつもの君島だったらもっと気の利いたというか、詩的な雰囲気の言葉を言いそ
うだけどな。」
「サンサン、そんなにアツのこと好きなん?どんだけ好きか教えて。」
遠野に抱きついたまま、ちらりと種ヶ島を見て、君島は少し考える。しかし、酔っている
状態ではいつもと同じようには考えられず、今思いつく言葉をそのまま口にする。
「私は遠野くんのこと、すごく好きです。」
「んっふっ・・・せやから、語彙力・・・」
結局それしか言えない君島に種ヶ島はツボってしまう。これはなかなかひどい酔い方だな
と大曲も笑いを堪えていた。あまりにも二人が可笑しくて仕方がないような反応をするの
で、君島はぶすっとして何とか他の言葉を考えようとする。
「あ、アレです!私は遠野くんのこと・・・世界で一番大好きです。」
「なっ・・・!?」
「おっ、今のは今までのに比べたらだいぶマシやん?」
「つーか、今ので遠野が結構ダメージ受けてるぞ。」
どんなに好き好き言われても、面白いものを見るような表情にしかなっていなかった遠野
が、ここに来て初めて顔を赤らめ動揺するような反応を見せる。
「今の言われて嬉しいですか?遠野くん。」
「はあ?別に・・・」
「世界で一番大好きですよ、遠野くん。」
「そんなこと言われたの初めてやんなあ?アツ。」
「う、うるせー!!」
「ふふ、可愛いですね。何だかキスしたくなってきました。」
完全に酔っ払っている君島は、顔を真っ赤にしている遠野の顎を掴み、容赦なく口づけを
施す。これは面白いことになっていると、種ヶ島はスマホでその様子を撮影する。
「んんっ・・・んん――っ!!」
「あはは、今日のサンサン、ホンマおもろいなあ☆ツッキーと毛利に負けないくらいイチ
ャイチャしよるやん。」
「こういう酔い方すること、遠野は知ってたみてぇだけどな。」
「アツと飲むときはいつもこうなるんちゃうん?」
「ふっ、そりゃ大変だな。」
なかなか遠野を離さない君島を見ながら、大曲と種ヶ島は楽しげにそんな会話をする。も
ちろん、カメラは回したままだ。激しい口づけから解放されると、遠野は顔を真っ赤にし
ながら二人を睨む。
「ハァ・・・テメーら、ちょっとは助けに入るとか止めるとかしろよ!」
「えー、アツが動画撮っとけ言うとったやん。」
「キスして満足したのか、君島もう寝てるぞ。」
「コイツ、いつもそうなんだよ。散々煽っておいて、すぐ寝やがる。」
遠野から離れると、君島はその場で横になり眠ってしまう。とりあえず、眼鏡は外してお
いてやろうと、遠野は君島の眼鏡を外し自分の鞄の中にしまった。
「毛利も寝てしまったようだ。」
「わっ、ビックリした。ツッキー、会話に入ってこんから、ずっと毛利とイチャイチャし
てるんやと思っとったわ。」
急に越知に声をかけられた種ヶ島は驚いたようにそう言う。越知の方に目をやると、確か
に毛利が越知に寄りかかり気持ちよさそうに眠っていた。
「寝てるんなら、横にしてやった方がいいんじゃねーの?」
「そうだな。横にした後、何かかけるものを持ってくるな。」
眠ってしまった毛利を自分の横に寝かせると、越知は毛布を取りに行く。二枚の薄い毛布
を持って戻って来ると、越知はそれを君島と毛利にかけてやった。
「ありがとな。」
「サンサンの代わりにお礼言うアツさすがやなあ。」
「からかってやるなし。二人は寝ちまったけど、俺らはもうちょっと飲んでようぜ。」
「そうだな。」
眠ってしまった二人を起こさないように、起きている四人は少しボリュームを下げながら
飲みを続ける。もう一、二杯飲み終えると、種ヶ島が先程よりもだいぶ酔った感じになっ
てくる。
「なあ、竜次ぃ。」
「何だし?」
「さっき、ツッキーと毛利、サンサンとアツ、どっちもちゅうしとったやろー?せやから、
俺も竜次とちゅうしたいー。」
「はあ?勘弁しろし。」
「してやればいいじゃねーか。動画撮っといてやるぜ?」
「それはマジでやめろ。ったく、しゃーねーなあ。」
一度は断ったものの、大曲自身もそれなりに飲んでることもあり遠野にもそう言われ、し
てやることにする。種ヶ島を自分の方へ向かせ顎を上げると、首を傾け、ちゅっと軽くキ
スをする。
「これでいいだろ。」
「足りひんー。さっきのサンサンみたいに、もっと大人なヤツして欲しいー。」
「デカ勘弁しろし。」
そう言いながらも、大曲はぐいっと種ヶ島の下唇を下げ、もっと深いキスをしてやる。
「んっ・・・んぁ・・・んんっ・・・」
目の前で大人なキスをしているのを見るのはなかなかドキドキするなーと思いながら、越
知も遠野も黙って、その様子を眺めていた。
「ふあっ・・・ハァ・・・」
「これで満足か?」
「おーきに、竜次!メッチャ気持ちよかったわ!」
「そういうこと言うなし。」
「ふあ〜、何や竜次にちゅうされてドキドキしたら、酒回って眠なってきたわー。」
大曲に大人なキスをしてもらい、満足した種ヶ島は眠気を訴える。
「寝とけ寝とけ。」
「んー、じゃあ、ちょっとだけ寝かせてもらうわ。ふあ〜、おやすみ〜。」
大曲の横にゴロンと寝転がり、種ヶ島は目を閉じる。酒を飲んでることもあり、程なくし
て気持ち良さそうな寝息が聞こえてくる。
「種ヶ島も寝ちまったな。」
「もう一枚毛布を持って来よう。」
「いや、こうなること予想して、タオルケット持って来てあるから大丈夫だ。」
鞄からタオルケットを出すと、大曲は隣に横になっている種ヶ島にかけてやる。さすがだ
なあと越知は素直に感心する。
「遠野も大曲もだいぶ強いのだな。もうかなり飲んでいるだろう?」
「まあな。それを言うなら、お前だってずっと日本酒飲んでるわりには余裕じゃねーか。」
「これか?これは水だ。日本酒を飲んでいたのは、始めの一、二杯だけだ。」
「は?嘘だろ?だって、そこにある瓶の・・・」
遠野が指差す瓶を越知は手に取り、渡してやる。どう見ても日本酒のような見た目だが、
そこには確かに水と書いてあった。
「完全に騙されてたし。そりゃ余裕なわけだ。」
「別にこのメンツだし、もっと飲んどきゃいいじゃねーか。」
「一応この部屋の家主だからな。毛利をベッドに運ぶとなったときも、俺が酔っていては
出来ないだろう?」
「そりゃそうだけどよ。つーか、そんな素面に近い状態なのに、毛利とあんなにイチャつ
いてたのかよ?」
それはそれで面白いと大曲はクスッと笑う。
「さして問題はないだろう?」
「ここでそれを言うのかよ?まあ、別に問題はねぇけどよ。強いて言うなら君島が感化さ
れて、遠野が大変だったってくらいじゃねぇ?」
「君島は酔うといつもあんな感じだから気にしてねーよ。」
大曲の言葉に遠野は飄々とそう返す。それはそれで大変そうだけどなーと大曲と越知は顔
を見合わせる。
「君島があんなふうに酔っているのを見たのは初めてだったから、少し驚いたな。」
「同感だし。普段溜め込んでる気持ちが出ちまってる感じか?」
「さあな。でもまあ・・・」
「何だし?」
赤ワインを片手に遠野は言いよどむ。少しの間を置いて、ふっと笑いながら言葉を続ける。
「俺は昔からずっと君島のこと好きだったからよ、あんなにたくさん好きって言われるの
は、メチャクチャ嬉しいと思っちまうんだよな。」
見たこともない表情で恥ずかしそうに笑う遠野を見て、大曲と越知はほんの少しドキッと
してしまう。
「お前、そんな顔するんだな。ちょっとビックリしたし。」
「まるで恋する乙女だな。」
「はあ!?何言ってやがる。」
大曲と越知の言葉に、遠野は少し顔を赤らめそんなことはないといった口調で言い返す。
「そりゃそんだけ君島のこと好きだったら、『世界で一番』のやつは相当響くよな。」
「そりゃな。けど、君島のヤツ、酔ってるときに言ったこととかしたことは、何にも覚え
てないんだけどな。」
ほんの少し残念そうな表情をして遠野はそう呟く。そんな遠野の言葉を聞いて、寝ていた
はずの種ヶ島が起き上がる。
「大丈夫やで!アツ。さっきのサンサン、ちゃんと動画撮っといたし、あとでサンサンに
も送っとくわ☆ついでに、今さっきアツが言ってたこともな!」
「お前、起きてたのかよ?」
「いや、少しの間ちゃんと寝てたんやで?竜次達の話し声聞きながら、ほんのちょっと目
を開けたら、ツッキーはずーっと毛利の頭撫でとるわ、サンサンはアツの手握って寝てる
わで、見えないとこでどんだけイチャイチャしとんねん!と思て、こっそり動画撮ってた
んよ。そしたら、アツがメッチャ乙女なこと言いよるから思わず起きてもうた。」
これはもう寝ていられないといった勢いで種ヶ島はそう口にする。そして、その勢いのま
ま、スマホを操作し、このメンバーのメッセージグループに撮った動画を送る。
ピロン、ピロン・・・
「今、送んのかよ。フッ、思ったよりよく撮れてるじゃねーか。」
「君島のヤツ、明日起きて見たら大慌てだろうなぁ。つーか、客観的に見ると結構ヤバイ
な。」
君島が自分に抱きつき好きを繰り返している動画を見て、遠野は顔を赤らめる。しかし、
それ以上にこれを見た君島の反応が楽しみだと遠野は口元を緩ませた。
ピロン・・・
「ん?何や?」
自分にも動画が送られてきて、種ヶ島は首を傾げる。そこには自分と大曲がキスをしてい
る動画が表示されていた。
「ちょお、アツも撮ってたん?恥ずかしいわ〜。」
恥ずかしがっているような言葉であるが、その表情や態度はどこか嬉しそうであった。そ
んな種ヶ島の言葉に、遠野は頭にハテナを浮かべ、自分ではないと否定する。
「はあ?俺は何も撮ってねぇし、送ってもねぇぞ。」
「ということは・・・」
「よく撮れているだろう?」
大曲と種ヶ島のイチャイチャ動画を送りつけた犯人は越知であった。まさか越知がそんな
ことをするとは思っていなかったので、他の三人は素直に驚く。
「いや、越知かよ!!」
「ツッキー、高校生の頃よりだいぶノリよくなっとるよな☆」
「さすがだし。」
こういうノリに入れるようになっている越知を前に、他の三人は楽しげに笑う。
「こういうんホンマええよな。メッチャ楽しいわ☆」
「同感だし。時間が合えば、またやりたいもんだな。」
「まだ飲めるだろぉ?終わる感じにしてんじゃねーよ。」
「そうだな。話せるならもう少し話そう。」
まだ飲めるメンバーはもう少しこの飲み会を楽しむことにする。高校生のときに戻ったよ
うな気分になりながら、四人はこの楽しい時間を存分に満喫した。

次の日、気怠さを感じながら君島は目を開ける。眼鏡をしていないのでほんの少しぼやけ
ているが、目の前には遠野の綺麗な寝顔があった。
(あれ?昨日は確か皆とお酒を飲んでいて・・・途中から記憶がないな。少し飲み過ぎて
しまったか。)
自分の手を握っていた力が弱くなるのに気づき、遠野も目を覚ます。
「おはよう、君島。今、眼鏡取ってやるからちょっと待てよな。」
あくびを一つし、大きく伸びをした後、遠野は自分の鞄の中にしまっておいた君島の眼鏡
を出す。
「ほらよ。」
「ありがとうございます。昨日は飲み過ぎてしまっていましたか?」
「まあな。いつも通りひどい酔っ払い方してたぜ。」
「記憶にはないですが・・・」
「スマホ見てみろよ。お前がどんなふうに酔っ払ってたか分かるぜ。」
ニヤニヤと笑いながら、遠野はそんなことを言う。まさかと思い、君島は慌ててスマホを
取り出す。ロック画面には何通かのメッセージが届いていることを表す通知が届いていた。
見たくはないなあと思いつつも、一応開いてそれを見る。
「・・・・・・」
種ヶ島が送った動画には、遠野に絡む自分の姿が映し出されている。こんなことをした記
憶は一切ないので、君島は顔を真っ赤しながら困惑する。
「・・・記憶がなくなるほど飲んだときは、いつもこんな感じなのですか?」
「そうだな。まあ、客観的に見たのは俺も初めてだけど、お前、俺のこと好きすぎだろ。」
からかうように遠野はそんなことを言う。大きな溜め息をつきながら君島はボソッと呟く。
「これは後で種ヶ島くんに削除してもらうように交渉しないと・・・」
グループメッセージに送られているので、種ヶ島に消させても意味ないと思っていた遠野
であったが、あえてそれは口にしなかった。もちろん遠野も保存済みだ。
「君島と遠野も起きたか。朝食はどうする?」
もう朝の身支度をすっかり終えた越知は二人にそう声をかける。
「俺はまだいいかな。後で食べるぜ。」
「私も今はいいです。」
「そうか。二人とも床に寝かせてしまって悪かったな。」
自分と毛利は自分の部屋で寝て、大曲と種ヶ島には毛利のベッドを使わせていた。君島と
遠野も、せめて布団を敷くか、ソファで寝てもらおうと思ったがとある理由でそれが出来
なかった。
「それは君島のせいだから仕方ねぇだろ。」
「私のせいってどういうことですか?」
少し不機嫌な顔になって君島はそう尋ねる。
「お前のことも運ぼうとしたのだが、寝ながら遠野の手を強く握っていて離すことが出来
なかった。さすがにその状態で動かすことは出来なかったから、遠野にはそのまま寝ても
らうことにしたんだ。」
「利き手じゃねぇから別にいいけどよ、こんなに跡つくくらい握ってくるってどんだけだ
よ?」
確かに遠野の左手には君島が握っていた跡がくっきりと残っていた。無意識とはいえ、あ
きらかに遠野に迷惑をかけてしまっていることに気づき、君島は反省する。
「これはさすがに・・・すみません。」
「別に謝らなくてもいいぜ!俺は世界で一番君島のことが好きだからなぁ!」
「なっ!?」
昨日の君島を真似るように遠野はからかい口調でそんなことを言う。それを聞いて、君島
は恥ずかしさと共に若干のときめきを感じる。
「君島は素面のときでも、もう少し想いを言葉に出した方がいい。遠野の想いに応えるた
めにもな。」
「俺はどっちでもいいけどな。酔ってる方が本心って感じがするし。でも、まあ、お前に
好きって言われるのは大歓迎だぜ!」
「・・・とりあえず、お酒の飲み方は気をつけます。」
まさか自分があんな酔い方をしているとは思っていなかったので、君島はほんの少ししょ
んぼりとしてそう口にする。三人がそんな会話を交わしていると、越知の部屋から毛利が
眠そうな顔をして出てくる。
「ふあ〜、月光さんおはようございます。」
「おはよう、毛利。」
毛利の方を見ると、越知はあることに気づき、少々焦るような反応を見せる。上着が長い
のである程度隠れてはいるものの、毛利はズボンを穿いていない状態であった。
「毛利、ちゃんと下を・・・」
「下?あ、あれ!?何で俺、下穿いてへんのです!?」
「何だよ越知。ほとんど酔ってなかったのに部屋にそいつを連れてったら、やることやっ
てんのかぁ?お盛んだなぁ!」
「そういうわけでは・・・」
「ちょ、ちょっと着替えてきます!!」
一気に目が覚めた毛利は、慌てて越知の部屋に戻り、下を穿きに行く。昨日の夜、毛利を
部屋に連れて行って寝かせたのだが、寝ぼけてレム状態になった毛利に迫られ、我慢出来
ずに致してしまった。つまり、遠野がつっこんだことはほぼ図星であった。
「大曲くんや種ヶ島くんは、向こうの部屋で寝ているのですか?」
「そのはずだ。ただ二人ともかなり遅くまで起きていたようだからな。まだ起きてこない
と思うぞ。」
「二人でそろって起きてたのはアイツらだけだからな。二人きりになったら、イチャつい
てたんじゃねーの?」
「まあ、その可能性もあるが、さして問題はない。」
「ちょっと覗きに行ってやろうか。」
「やめておけ。今日は皆休みなのだろう?お前達もゆっくりしていくといい。」
越知に止められ、遠野は大曲と種ヶ島の寝ている部屋に突撃するのは諦める。越知と毛利、
大曲と種ヶ島がそれぞれ部屋でイチャイチャしていたのだろうということを聞いて、君島
は何だか損した気分になってしまう。
「遠野くん。」
「あぁ?何だよ?」
「ホテルのスイートルームと遠野くんの部屋、どちらがよいですか?」
「はあ?唐突に何の話だよ?」
「今夜の行き先についての話です。」
それを聞いて、遠野は君島の言わんとしていることを理解する。
「俺の部屋。ホテルも悪くねーけど、やっぱ慣れてる場所がいい。」
「交渉成立ですね。」
お決まりのセリフを言う君島の表情はどこか嬉しそうであった。そんな二人のやりとりを
横目に眺めていると、着替えを終えた毛利が戻ってくる。
「昨日のこと、あんまり覚えとらんからビックリしましたわー。ちょい腹減っとるし、朝
飯作りましょうか。」
「そうだな。」
「キミさんと遠野さんも食べます?」
「そうですね。そろそろいただきましょうか。」
「マズイもん食わせやがったら処刑だからな!」
「はは、たぶん大丈夫やと思います。ほんなら、お二人の分も作りますね。」
料理をするのは慣れているので、毛利はそんなことを言いながら朝食を作り始める。少し
遅めの朝の時間。各々自分の一番好きな人と喋りながら、のんびりとした時間を過ごすの
あった。

                                END.

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