一軍寮西棟の一階のソファで越知はいつものようにラケットの手入れをしていた。その隣
には毛利が座り、他愛もない話を越知にしている。そんな二人の側へ大曲と種ヶ島が本を
持ってやってきた。
「あっ、大曲さんに修二さん。」
「今日はここで話しとんのやな。ここのテーブル使ってもええ?」
「さして問題はない。」
「せっかくだし、ちょっとここで読書していくか。」
越知と毛利の座っているソファのすぐ前にあるテーブルの椅子に大曲と種ヶ島は座り、本
を広げる。
「大曲さんはいつも通りな感じやけど、今日は修二さんも読書なんですね。」
「ちょっとおもろそうな本見つけてな。買ってきたんや。」
「へぇ、どんな本ですか?」
本の大きさから雑誌というのは分かるが、内容までは分からない。表紙が見えるようにそ
の雑誌を立てると、種ヶ島はその雑誌の特集を読み上げる。
「『星座別恋愛傾向!好きな人に見せる夜の顔。』みたいな特集らしいで。メッチャおもろ
そうやん?」
「確かにちょっとおもろそうなタイトルですね。けど、夜の顔言うたらやっぱそういう?」
「そうなんちゃうん?とりあえず、まずは蠍座チェックやな。」
「双子座じゃねぇのかよ。」
自分の星座ではなく、大曲の星座をまず読もうとする種ヶ島に大曲は思わずつっこむ。
「自分のより相手のが知りたいやろ。」
「まあ、分からなくはねぇけどよ。」
パラパラと自分の本を読みながら、大曲は答える。蠍座はどんなことが書いてあるのかな
ーと興味津々で種ヶ島は雑誌のページをめくる。
「おっ、あったあった。ええと・・・
『蠍座は支配欲、独占欲が強くS傾向も強いですが、セックスは究極の愛情表現です。愛
情たっぷり、快楽もたっぷりの究極のセックスを求める傾向があります。また、蠍座のセ
ックスは異常なほどの集中力で快楽の先にある自分自身と相手がとけあって一体になるよ
うな感覚を果てしなく追及していきます。愛情が深ければ深いほど、激しく長いものにな
り、一晩中求め続けるということも。蠍座の恋人はある程度の体力が必要です。』
あはは、メッチャ竜次やん!」
「勘弁しろし。」
書いている内容を音読する種ヶ島に大曲は呆れたような口調でそう口にする。種ヶ島は平
気な顔で読んでいるが、そういう言葉があからさまに散りばめられているので、毛利は何
だか恥ずかしくなってしまい、顔を赤くしていた。
「蠍座はもういいから、双子座見せろし。」
「何や竜次も気になるん?」
「別にそんなことねぇし。」
「素直やないなあ。まあ、ええわ。双子座な。」
少しページを戻し、種ヶ島は双子座のページを開く。そして、例のごとくその内容を音読
し始めた。
「えーと、
『双子座は、周りをよく観察する大人な部分と自由気ままな子供っぽさの二面性を持ち合
わせています。好きになった相手には一途に想いを伝えます。そこまで性欲は強い方では
ないのですが、セックスではお互いのオーガズムをとことん追求します。おもちゃなどの
道具を使ったプレイに強い興奮を覚えたり、想像力をかきたてられるセックスが好きなの
で目隠しを使ったりするのもよいでしょう。』
って、待って待って。」
「へぇ、そうなのか。前半はまあ、お前らしい感じだけどよ、後半は試したことないし。」
「あくまで傾向やからな!」
思ったよりもすごいことが書かれていたので、種ヶ島は顔を真っ赤にして大曲の言葉に反
論する。自分で読んでおいてこの反応は可愛いなと大曲は思わず口元を緩ませる。
「獅子座も読んでください。」
二人のやりとりを見ていた毛利は、ほのかに顔を赤く染めながら種ヶ島に頼む。その瞬間、
越知のラケットを磨く手が一瞬止まった。
「毛利はツッキーのが知りたいんやな☆」
「やっぱり気になるやないですか。」
「ええで。ええと、獅子座な。」
双子座から数ページだけページをめくり、獅子座のページを開く。
「『獅子座はその名前の通り、王様のようなドSで俺様なセックスをします。日常でもセ
ックスでも主導権を握りたがるので、自分の思い通りにしてくれる、尽くしてくれる相手
を好む傾向にあります。性欲は強めで、やや強引なプレイに走りがちです。また、アブノ
ーマルなプレイに強く惹かれるようです。どんなプレイでも献身的に受け入れる相手との
相性は最高です。』
やって。ツッキー、メッチャ王様やん☆」
「月光さん、そんな強引なことないと思うんやけどなー。いっつも優しいですもん。ねぇ、
月光さん。」
「さして興味はない。」
毛利からすると越知は優しすぎるほど優しいので、種ヶ島の読んだ内容はあっていないの
ではないかと首を傾げる。しかし、越知としては少し思い当たるふしがあるので顔には出
さないがドキドキしていた。
「あ、こんなんもあるで。性欲の強いランキングー。竜次の蠍座はかなり上位そうやな。」
「うるせぇし。」
「あれ?でも、蠍座一位ちゃうわ。二位やけどな。一位は・・・へぇ、山羊座やって。」
「山羊座・・・」
種ヶ島の言葉に反応したのは越知であった。その理由は明白だ。
「毛利、お前は山羊座ではなかったか?」
「へっ!?あー、はい。そうですけど・・・」
「ほいじゃあ、この中で一番エッチなんは毛利なんやな。」
「そないなことないです!」
種ヶ島の言葉に毛利は即そう返す。そう言われるのは分かっていてもやはり否定したくな
ってしまう。
「種ヶ島。」
毛利をからかったことで越知に怒られると思った種ヶ島は、少し身構えながら返事をする。
「何や?ツッキー。」
「山羊座の詳細を頼む。」
「月光さん!?」
「何やツッキーも気になってるやん。山羊座やな、ちょい待ち。」
再びページをめくり、今度は山羊座のページを開く。
「山羊座は、えーと・・・
『山羊座は表だって性欲をあらわにするタイプではないですが、実は「かなり激しめな妄
想をするムッツリスケベ」なところがあります。山羊座は奉仕精神が旺盛のため、相手に
尽くす恋をします。我慢強く従順な性格なのでMにもなれますし、権威欲求の強さもある
のでSにもなれます。性欲は強い方ですが、恥ずかしがり屋の一面も。オーラルセックス
で激しい興奮を得るので、時間をかけて行うのがおすすめです。』
こっちでもかなり性欲強めなこと書いてあるやん。ほんで、尽くすしMだしってことで、
ツッキーとの相性は抜群やな☆」
「なるほど。」
「いやいや、なるほどやないですって!あー、でも、月光さんと相性がええいうんはちょ
っと嬉しいけども・・・」
恥ずかしさと嬉しさがごっちゃになり、毛利は真っ赤になりながらそんなことを言う。面
白い反応をしてくれるなあと、種ヶ島は楽しそうに笑う。これでここにいる全員の傾向が
確かめられたと、ページをぱらぱらとめくっていると、これまた面白そうな項目を見つけ
る。
「竜次、見てみぃ。星座別の性感帯とかあるで。」
「双子座はどこだよ?」
「俺の気にしすぎやろ。エッチやなあ竜次は。えーと、双子座は『肩、胸、腕』、獅子座は
『背中、脊髄』、蠍座は『性器』って、竜次のモロすぎひん?んで、山羊座が・・・」
山羊座の項目を見て、種ヶ島は吹き出す。笑うような場所なのかと、大曲も横から覗き山
羊座の項目を確認してみた。大曲も思わず吹き出すような反応をする。
「ちょっ、どこですか!?そないに変なとこなん?」
「山羊座は『膝、関節』やって。関節て毛利の特技『関節外し』やろ?どんだけドMやね
ん。」
「それはさすがにだよな。」
「ちゃ、ちゃいますよ〜。関節外し特技なのは、そんな意味全然なくてっ・・・」
「中学生との試合のとき、肩の関節外しとって、その後ツッキーにしっかり肩抱かれとっ
たやん?うわあ、エッチやぁ。」
「うわーん、月光さーん。」
種ヶ島と大曲ががっつりからかってくるので、毛利は涙目になりながら越知に助けを求め
る。種ヶ島と大曲を睨むような視線で見ながら、二人を注意する。
「毛利をからかうな。」
二人を注意しつつ、越知はハーフパンツを着ているため、むき出しになっている毛利の膝
を撫でる。
「あはは、ちょっ・・・月光さん、膝くすぐった・・・」
越知のひと睨みは効くなあと思いつつ、越知の謎の行動を大曲も種ヶ島も黙って眺める。
初めはくすぐったがっていた毛利であったが、ずっと撫でられているとその反応は別のも
のになっていく。
「ちょっ・・・月光さんっ・・・んっ・・・やめっ・・・」
顔を真っ赤にして、小さく身体を震わせながら身をよじる。明らかにくすぐったがってい
るのとは違う毛利の反応に大曲と種ヶ島もドキドキしてきてしまう。
(可愛い・・・)
そんなことを思いながら、越知は毛利の膝を撫で続ける。
「やっ・・・あ、月光さん。」
さすがにヤバイんじゃないかと感じた種ヶ島は越知を制止にかかる。
「ツッキーが一番毛利いじめてるやん。これやから無自覚ドSな王様はー。」
種ヶ島の言葉にハッとした越知は毛利の膝から手を離す。毛利の顔を見ると、先程より顔
を赤くしながら、軽く呼吸を乱し、今にも泣きそうな顔になっていた。
「すまない、毛利。少しやりすぎた。」
「・・・・・。」
少々ふくれた表情で、毛利は越知を見る。そして、仕返しだと言わんばかりに、越知の背
中を人差し指でつつーっと撫でた。
「ぅあっ・・・!」
越知の口から思ってもみない声が出たので、毛利も種ヶ島も大曲も驚いた表情を見せる。
しかし、一番驚いたのは越知自身で、自らの手で口を覆い顔を赤くする。
「獅子座が背中が性感帯ってのは合ってそうだし。」
「せやな。仕返しされとるやん、ツッキー。」
面白い越知が見れたと大曲と種ヶ島もニヤニヤと笑う。思ってもみない越知の反応に、毛
利はどうすればいいのか分からなくなっていた。
「そんなに背中が弱いとアレだよな。風呂で毛利に背中流してもらうとかしたらヤバそう
だし。」
「確かにそやな。大浴場では絶対出来ひんな。」
からかわれ対象が今度は越知になったが、恥ずかしさから越知は精神の暗殺者の睨みをき
かせ二人を黙らせる。それはずるいと思いつつ、二人は黙って越知から視線を逸らした。
(そういや、こいつは肩と腕と胸だったな。どんな反応するかちょっと試してみるか。)
越知と毛利はからかえなくなってしまったので、大曲は次のターゲットを種ヶ島に決める。
再び雑誌を読み始めようとしている種ヶ島をじっと眺め、両手で腕と胸の間あたりをくす
ぐり始める。
「あははは、ちょっ、竜次いきなり何やねん!くすぐったいで!」
「お前はどうなるかの確認だし。」
「ただくすぐったいだけやって!やめや、竜次!」
くすぐったさから種ヶ島は身をよじらせて笑う。しかし、くすぐったいから別の感覚にな
るまで、そこまで時間はかからなかった。
「んっ・・・ホンマにやめっ・・・竜次っ・・・!」
「くすぐったいだけなんだろ?」
「あっ・・・竜次・・・やあっ・・・・」
完全にそういうふうな反応を見せるようになった種ヶ島を見て、毛利は先程の自分と重な
り大曲を止めずにはいられなかった。
「そろそろやめてあげてください、大曲さん。」
「そうだな。くすぐられてるだけなのにデカエロいし。越知や毛利のこと言えねぇだろ。」
「竜次のアホー!!俺も竜次に・・・・」
毛利のように仕返しをしようとしたが、大曲の星座である蠍座の性感帯はあまりにもその
まますぎて、越知や毛利のいるこの場で触るというのは非常にはばかられる部分だ。
「って、こないなところで出来んわ!!そないなことしたら、ただの痴漢やん!ずるい、
竜次だけ!!」
「知らねぇし。」
「もぉー、ええわ。とりあえず、続き読も。」
ドキドキする感じを抑えようと種ヶ島は再び雑誌に目を落とす。そんな種ヶ島の目に留ま
ったのは、どんな場所でするのが好きかという項目だ。
「どんなとこでするのが好きかっての興味ある?あるなら、読むけど。」
「ちょっと興味ありますね。」
「星座で言うんは面倒だから、そのまま言うな。竜次は『トイレやキッチンなどの狭いと
ころ』、ツッキーは『車』、毛利は『落ち着いてそういうことが出来る場所』、俺は『風
呂』って感じやな☆風呂ってのは、ちょっと分かるわー。」
「けど、合宿所の風呂は無理だし。」
「そりゃそうやろ。てか、部屋以外は無理やん?」
「俺の『落ち着いてそういうことが出来る場所』って、抽象的すぎてよう分からんのです
けど。」
「何や知ってる人がいない遠い場所とか書いてあるで。まあ、落ち着いてそういうことし
たいってことやろうけど。誰かに見られるかもーって場所よりな。」
「なるほど。ちょっと分かるかもしれんです。」
「ツッキーの車も竜次と同じで、ちょっと狭いところってイメージらしいで。そうなると
アレやな。二人にとっては、部屋の二段ベッドの下とかは結構ええんちゃう?」
確かにそうかもしれないなあと、越知と大曲は種ヶ島の言葉に頷く。部屋の二段ベッドと
聞いて、そこにいる四人は先程のからかい合いのこともあり、何だか妙な気分になってき
てしまう。
「もう十分楽しんだし、そろそろ部屋に戻るかー。」
「そうだな。」
「俺はさっきの仕返し、竜次にせなアカンしな。」
「しなくていいし。」
雑誌と本を手にし、種ヶ島と大曲は立ち上がる。
「楽しかったで。また、明日な。」
「はい、おやすみなさい。」
「おー、おやすみ。」
越知と毛利に寝る前の挨拶をすると、二人はすぐそばにある134号室に戻っていく。
「俺達も戻るか。」
「はい。あの・・・さっきはすんません。月光さん、あんなに背中弱いって知らんくて。」
「気にするな。もとはといえば、俺が先にしかけたようなものだからな。」
「けど、あれですね。」
「何だ?」
「普通にしてるときは弱点みたいな感じやけど、そういうことするときは、ちょっとええ
感じかもしれんですね。」
恥ずかしそうに笑いながらそんなことを言ってくる毛利に、越知はドキっとする。さっき
の今でそんなことを言われれば、嫌でもそういうことを期待してしまう。
「・・・早く戻るぞ。」
「はい。」
手入れをしたラケットを持ち、越知は部屋へと向かう。そんな越知の後に毛利は嬉しそう
について行く。
部屋に帰った後、先程の雑誌の内容を反芻しながら、四人はいろいろ試してみようと、今
夜は夜更かしをするのであった。
END.