☆氷帝hospital☆ 第2話

一方、岳人や鳳の病室に向かった研修医の忍足や滝は、病室の二人に見事につかまってい
た。
「スイマセン、滝さん。」
「いいよ、いいよ。これがボクの仕事だからね。」
頭に巻いていた包帯が取れてしまったので、鳳は滝にそれを巻きなおしてもらっている。
鳳は車にひかれそうなおばあさんを助けようとして、自分が交通事故に遭ってしまったの
だ。幸い頭と左腕に軽傷を負う程度で済んだが、頭に傷を負ってしまったため、入院を余
儀なくされた。
「侑士、侑士、俺散歩行きたい!!連れてって!」
「でも、もう外は真っ暗やで。」
「いいの。今日は晴れてるから、星とか月とか絶対キレイだって。」
岳人は誤って2階の窓から落ち、足を骨折してしまった。そのため、車椅子に乗らないと
動けないのだ。
「忍足、行ってきなよ。」
「えっ、いいんか?」
「うん。俺も長太郎の体拭いてあげたいからさ。長太郎、やっぱ人は少ない方がいいよね?」
「そうですね。今、起きてるの向日さんだけですし。」
滝は鳳の体を拭きたいと言って、忍足と岳人が外へ散歩に行くのを促した。それを聞いて
岳人は笑顔になる。
「じゃあ、行こうぜ!!」
「分かった分かった。じゃあ、滝、あとは頼んだで。」
「うん。いってらっしゃい。」
忍足は岳人を車椅子に乗せて、病室を出て行った。滝は笑顔で手を振り、二人を見送ると、
鳳のベッドのまわりのカーテンを閉める。周りからベッドの中が見えない状態になると、
滝は鳳の服を脱がし始めた。上着を脱がせると、ベッドのすぐ横にある流しで、洗面器に
お湯を入れ、まっさらなタオルをそれに浸ける。
「じゃあ、拭くね。」
「はい。」
タオルをしっかりと絞ると滝は鳳の体を拭き始める。入院している間はお風呂に入ること
が出来ないので、何気ないこういうことが患者にとっては、とても重要になるのだ。
「寒くない?長太郎。」
「はい。大丈夫です。」
「もうちょっと治ってきたら、頭も洗ってあげるから。」
「いつもすいません。」
腕や胸、背中を拭き終えると、滝は上着を着せ、今度はズボンに手をかける。初めは恥ず
かしいと言って、嫌がっていた鳳だったが、最近はもう慣れてしまったのか何の抵抗もし
ない。足の先からだんだんとつけ根の方に向かって丁寧に拭いていく。
「あ、あの・・・・滝さんっ・・・」
「どうしたの?」
「えっと・・・そこ、くすぐったくて・・・」
いったん拭くのをやめ、滝は鳳の方に顔を向けた。鳳は真っ赤な顔をしてうつむいている。
それを見て、鳳の本当に言おうとしていることが分かってしまった。くすっと笑って、滝
はもう一度そこをタオルで撫でるようにして拭く。
「ゴメンね。でも、長太郎はこういう感じなことは嫌い?」
「あっ・・・!」
鳳は慌てて口を塞ぐ。こんな声が出てしまうとは思わなかったので、恥ずかしさから涙目
になり、両手で顔を覆った。
「スイマセンっ!!滝さん、俺・・・・」
鳳が本当に泣きそうになっているので、滝はしまったと思った。滝としてはほんの悪戯心
が働いたにしかすぎなかったのだが、こんな反応をされては困ってしまう。今のはやりす
ぎたと後悔しながら、滝は鳳の体を優しく抱きしめ、心から謝った。
「ゴメン、長太郎。今のは少し・・・やりすぎた。」
「・・・・滝さん、俺、最近変です。滝さんのこと考えてるとすごく胸がドキドキして、
顔が勝手に赤くなっちゃうんです。同性なのに・・・。スイマセン、こんなこと言われた
ら困りますよね。」
涙声になりながら、鳳は言う。それを聞いて滝は困惑するどころかメチャクチャ嬉しいと
思っていた。滝はいったん抱きしめるのをやめ、鳳の顔をしっかりと見据えた。
「全然変じゃないよ。そう言われて、すごく嬉しい。」
「本当・・・ですか?」
「うん。だって、俺、長太郎のこと好きだもん。」
ふわっとした笑顔を浮かべて滝はそう鳳に告げる。鳳はただ驚くしかない。
「長太郎は俺のこと好きなの?」
「え・・・えっと、たぶん好きだと思います・・・。」
「そっか。じゃあさ、長太郎が退院したら、今度は医者と患者としてじゃなくて、恋人と
してつきあわない?」
照れくさそうにしながら、滝は言う。鳳は夢を見ているのかと思った。自分がさっき告白
したことは絶対に受け入れられないと思っていた。そのため、今滝が言っていることがそ
うすぐには信じられないのだ。
「滝・・・さん、それ本当にいいんですか?こんな・・・俺なんかで。」
「こんな俺なんかでって言い方はおかしいよ。長太郎はすごく優しくていい子だよ。本当
は医者と患者がこんな関係になっちゃうのはいけないことかもしれないけど・・・好きに
なっちゃったらしょうがないよね。」
今度は鳳から手を伸ばし、滝のことを抱きしめる。滝も鳳の背中に腕を回し、優しく抱き
しめ返した。しばらくそうしたあと、さっきの続きをして、滝は鳳に服を着せた。
「よし、終わり。」
「ありがとうございます。」
さっきのことがあって二人は何となく黙ってしまう。
「・・・ねぇ、長太郎。」
「はい。何ですか?」
「・・・・・キス、してもいい?」
鳳の寝ているベッドに腰掛け、滝はためらいながら言った。鳳は一瞬戸惑ったが、顔を赤
らめ、恥ずかしそうにうなずく。滝はゆっくり顔を鳳に近づけた。動いたためにベッドが
ギシっと音を立てる。真っ白なカーテンの中、二人の唇が重なり合った。もし、今、心電
図を取りつけたとしたら、その波をありえない波長を示すであろう。
「・・・はぁ。」
唇が離れると鳳は小さく息をつく。
「どうしよ、今ありえないくらいドキドキしてる。」
「俺もです。」
二人は顔を近づけたまま、クスクスと笑った。今までに味わったことのないドキドキ感と
嬉しさに新鮮な楽しさを覚える。このままベッドに座っているのはあまりよくないので、
滝はいったんベッドから下り、横にある椅子に座った。
「今日は特にこのあと予定がないから、もう少しここに居るね。」
「ありがとうございます。・・・・嬉しいです。」
滝がもうしばらくここに居てくれると言うと、鳳は照れながら、ニコっと笑顔になった。
それを見て、また滝の心拍数は上がってしまう。秋の涼しい夜にも関わらず、二人は春の
ような暖かさを感じていた。

                     to be continued

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