岳人と忍足の二人は何だかとてもいい雰囲気で病院へ戻って行ったが、大変な場面に遭遇
してしまった宍戸はそれどころではない。顔を真っ赤にして、木の陰から動けないでいた。
(うわあ・・・何かすごいもん見ちまった。熱冷やそうと思ってたのに、これじゃあ全然
意味がねぇじゃねぇか。それも最後の方の雰囲気激ありえねぇし。でも・・・ちょっとう
らやましいよなぁ・・・)
岳人と忍足が見えなくなったのを確認すると、宍戸は裏口から病院へと戻って行った。と
にかくナースセンターに戻ろうとテクテク歩いて行くと、誰かにぶつかった。今の出来事
が印象強すぎて前をまともに見ていなかったのだ。
『っだ!!』
かなり激しくぶつかったようで、二人とも大きなしりもちをついた。
「痛ってぇ・・・」
「ちゃんと前見て歩け!!・・・って、宍戸か?何やってんだよ、こんなところで?」
「跡部!?」
休憩室でのことと岳人と忍足のさっきの情事を見てしまったことが合わさって、跡部の顔
を見た瞬間、宍戸は軽いパニックに陥った。すぐにその場から走り出してしまいたかった
が、転んだ衝撃と目の前に跡部が立ちはだかっていることで、それは出来ない。何故だか
焦りまくって宍戸を前に、跡部は不思議がる表情を見せ、普通に声をかけた。
「何そんなに慌ててんだよ?俺とお前、もう仕事ねぇからいったんあがっていいってさ。」
「そ、そっか。」
さっきのことはなかったように跡部が話しかけてくるので、宍戸はホッとして、着替えに
行こうと立ち上がる。更衣室に向かおうと歩き出した瞬間、宍戸は腕を掴まれ、その動き
を止められた。
「何だよ?」
「まだ着替えんじゃねぇ。俺がこれからおもしろいところに連れてってやる。」
「?」
腕を引っ張られ、宍戸は跡部についていく。どこに連れていかれるかは分からないが、何
だかおもしろそうなので、宍戸は特に抵抗はしなかった。だが、このちょっとした好奇心
が再び宍戸を後悔させることになるのだ。
一方、病室に戻った岳人と忍足は、さっきのこともあり、微妙な雰囲気を醸し出している
が、滝以外はもうすでに眠ってしまっているので誰も気づかない。
「あっ、おかえり。」
「ただいまー!!」
「岳人、もっと静かにせな。他の人みんな寝てるで。」
「あっ、ゴメーン。」
あまりにも静かな病室の雰囲気に気がついて、岳人は小さく口元を手で押さえた。忍足に
ベッドへ移動させてもらうとふぅっと満足気な溜め息を漏らす。それに気づいて、滝が鳳
のベッドの横から話しかけた。
「どうしたの岳人?何かすごくうれしそうだね。」
「何でもないぜ。」
あからさまにうれしそうなニコニコ顔で岳人は答えた。滝は更に不思議に思う。
「絶対何かあったでしょー。ねぇ、何々?教えてよ。」
「内緒ー。なあ、侑士?」
「えっ、ああ。何でもあらへんよ。」
突然話をふられ、忍足は焦った。それも、さっきのことを思い出してしまい、次第に顔が
赤くなってゆく。それを見て、勘ののよい滝はだいたい何があったかを理解した。
「ふーん、そっか。二人ともやるねー。」
「なっ!?何言っとるんや、滝!!ホンマに何もあらへんって!!」
「そんなに照れなくてもいいじゃん。そっかぁ、二人とももうそんなにラブラブになっち
ゃったんだ。」
からかうように滝は忍足に向かって言った。忍足の反応があまりにも素直でおかしかった
ので、滝は声を殺してくっくと笑う。
「うらやましいだろー。それより、さっきから気になってたんだけど、滝、どうしてそん
な遠くに座って俺達と話してんの?もっと近くにくればいいのに。」
「えっ!?・・・えっとぉ。」
岳人に質問され、滝は困ったように笑った。そして、鳳の寝ているベッドに目をやる。岳
人と忍足は顔を見合わせて、首を傾げた。
「鳳がどうかしたんか?」
「手、離してくれなくて・・・・」
滝の右手は、ぐっすりと眠っている鳳の手にすっぽりと包まれていた。それを聞いて、二
人はクスクス笑う。
「何や、滝と鳳も俺らと大して変わらんやん。」
「ホント、ホント。超ラブラブじゃん。」
今度は滝の顔が赤くなる。だが、そのあとの反応は忍足とは全く違うものだった。思いき
り開き直っている。
「もう俺達告白し合っちゃったからね。ラブラブだぜ。」
「へぇ、そうなん?そりゃよかったな。」
「それなら俺達もさっき裏庭で・・・・っんぐ。」
滝に乗せられ、さっきあったことを口走りそうになる岳人の口を忍足は慌てて塞ぐ。あー、
もうちょっとだったのにぃ!!と滝は残念そうなリアクションを見せた。
「ぷはぁっ、何すんだよ侑士!!」
「さっきのは言ったらアカンって。分かるやろ?」
「えー、別にいいじゃん。」
「俺が困るんや。お願いや岳人。」
「ま、まあ、侑士がそこまで言うなら・・・。」
忍足があまりにも必死で頼み込んでくるので、岳人はしぶしぶうなずいた。
「あー、もうお熱いねぇ。岳人、もう10時半すぎてるぞ。早く寝なきゃ。」
「今、眠くない。」
「ダーメ。もう就寝時間すぎてんだからね。」
「ぶぅー。じゃあ、侑士、添い寝して。」
「さ、さすがにそこまでは出来へんよ。」
「侑士のケチー。まあ、いいや。侑士のこと困らせたくないからね。」
忍足が困ったような顔をしているので、岳人は笑いながらこう言う。ホッとしたような表
情になり、忍足は軽く頭を撫でた。
「おやすみな、岳人。いい夢見るんやで。」
「おう。侑士のおかげで今日はかなりいい夢見れそうだぜ。・・・その前にさ、お願いが
あるんだけど。」
「何や?」
「おやすみのチュウして。」
ダメもとで岳人はこんなことを頼んでみる。忍足は再び困惑するが、まあ、しょうがない。
これくらいはしてやろうと岳人の唇にちょっとだけ触れるようなキスをした。
「・・・・っ!!」
「これでええの?」
「う、うん!!うわあ、マジでしてくれるとは思わなかった。超うれしー。」
まさか本当にしてもらえるとは思っていなかったので、岳人は嬉しさを満面の笑顔に変え
て表した。そんな岳人の顔を見て、恥ずかしいなあと思いながらも忍足もつられて笑う。
「ほら、ホンマにもう寝なきゃアカンで。」
「うん。おやすみ侑士。」
目を閉じる前にもう一度目に焼きつけるように忍足を見て、岳人はゆっくり目を閉じた。
忍足は軽く岳人の頭を撫でて立ち上がる。
「滝、もうそろそろ戻らへん?」
「そうだね。」
滝は自分の手を握っている鳳の手を優しく解いて、立ち上がる。
「おやすみ、長太郎。」
最後に鳳の前髪を軽く上げ、額に口づける。感覚だけは寝ていても伝わったのか、鳳は寝
言のようにムニャムニャと滝の名前を呼んだ。
「ん・・・滝・・さん・・・」
「ふふ、可愛いー。」
にこにこしながら、滝は鳳の顔を眺める。そんなことをしているうちに忍足はもうドアの
前まで来ていた。
「滝、先行くで。」
「あっ、ちょっと待って。俺も行く。」
二人は病室をあとにし、電気を消してドアを閉めた。
to be continued