☆氷帝hospital☆ 第7話

いろいろな事件(?)があった夜の次の日の朝、昨日は皆眠るのが遅かったにも関わらず、
もうほぼ全員が起きていた。
「ふあー、よく寝た。うーん、何か今日はすげぇ寝起きいいぞ!」
「おはようございます、向日さん。」
「おはよ、鳳。」
外科医病棟302号室の岳人と鳳は早々と起きて話をし始める。ベッドが離れているので、
比較的自由に動ける鳳が岳人のベッドへと移動した。
「昨日、いつ帰ってきたんですか?」
「んーと、10時半ちょっとすぎくらいかな?」
「結構遅くまで散歩してたんですね。どこ行って来たんですか?」
それを聞くと岳人は急に嬉しそうな顔になる。昨日のことを思い出しているようだ。
「何、ニヤニヤしてるんスか?」
「えー、別にー。裏庭に行って花を見てきただけだぜ。」
「花ですか?」
「そう。月下美人っていうな、すっげぇ綺麗な花が咲いてんだよ。」
「へぇー、俺も見てみたいです。」
「あの花夜にしか咲かないらしいから、昼間行っても無駄だぜ。本当に見たいんだったら、
滝とかに連れてってもらえばいいんじゃねぇ?」
「そうですね。」
月下美人のことは話すが昨日あったことは話していない。鳳はその花に興味を持つが、夜
にしか咲かないのかと思うと見るのはどうしようかと考えてしまう。そんなことをぼーっ
と考えていると、岳人が急に話題を変えだした。
「そういえばさ、滝が言ってたんだけど、二人とも告白し合ってラブラブになったってホ
ント?」
「えっ!?えっと・・・」
無邪気に問う岳人に鳳はたじたじだ。確かに事実ではあるが、それをはいそうですとすぐ
に肯定するのはあまりにも恥ずかしすぎる。しかし、顔はもうすっかり赤くなっている。
別に肯定する返事を聞かなくても岳人はそれが事実であると理解した。
「へぇ、やっぱホントなんだ。そうだよなあ、だって俺が帰って来たとき、お前滝の手し
っかり握ってたもん。」
「あ、あれは・・・その・・・」
そこまで知られていたのかと鳳はさらに口ごもってしまう。そんな反応がおもしろくって
岳人はさらにからかう。
「滝のことだしー、やっぱもうキスくらいはした?」
「っ!?」
「図星かぁ。やるねー。」
滝の口癖を真似し、岳人は笑う。鳳はもう何も言い返せなくなっていた。さすがに、から
かいすぎたかなあと思い、岳人は自分達の話もしてやろうと内緒話のように小さな声で鳳に
その旨を話した。
「でもさ、俺らはもっとすごいぜ。」
「どういうことですか?」
「あのな・・・・」
コショコショと耳元で昨日裏庭でしたことを残らず話すと、鳳の顔は再び赤く染まる。ま
さか昨日そんなことがあったとは思ってもみなかっただろう。岳人としては、半分自慢話
のようなので、恥ずかしいなどとは全く思っちゃいない。
「本当ですか・・・?」
「ホント、ホント。昨日の侑士マジ可愛かったぜ。」
「嫌がりませんでした?忍足先生。」
「初めは嫌がってたんだけどな、ちょーっと強引にやったら万事オッケー。」
「それダメじゃないっスか。」
「平気だって。だって、侑士、俺のこと好きって言ってくれたもん。」
それでいいのかなあと疑問に思いつつ、鳳は岳人の話した話をそのまま信じた。確かに初
めは嫌がっていた忍足だったが、いつのまにか岳人の手におちていたのもまた事実だ。し
かし、こういうことはここまであからさまには普通は話さないであろう。
「でもさ、よかったよな。俺もお前も好きな人とラブラブになれて。」
「はい。本当はいけないんでしょうけど。」
「いいだろ、余裕で。患者と医者なんて、ドラマみたいな話だよな。」
こんな恋愛もありだと岳人は笑いながら言う。その思考回路はさすがだ。そんな話を聞い
て鳳もつられて笑った。
「でも、他の奴らのバレるといろいろ面倒だから、これは二人の秘密にしておこうぜ。」
「そうですね。」
悪戯がバレたら困るという子供のように、岳人は顔の前に指を立て、鳳にこんなことを言
った。もちろん鳳もその意見には賛成だ。しかし、この二人が黙っていたとしても昨日の
ことを知っているのはあと二人以上はいる。他の患者や他のナース、医者にバレるのも時
間の問題であろう。

一方、ここは休憩室。只今滝に忍足、そして宍戸が朝食をとっている。
「宍戸さ、そういえば昨日休憩室ですごかったよな。」
「は?何が?」
「何や跡部と物凄くええ雰囲気だったやん。」
「ああ。あれは跡部を寝かせてやってただけだぜ。疲れてたみたいだから。」
牛乳を飲み、宍戸はさらっと言う。あれくらいは見られてもそんなには気にしないらしい。
思った以上に反応の薄い宍戸がおもしろくないと滝はちょっと不満そうな顔をする。とそ
の時、滝と忍足の目に奇妙なものが映った。
『あれ?』
「今度は何だよ?」
呆れ気味に宍戸は問う。二人の目線の先は宍戸の手首。そう、昨日のアレでバッチリ縛ら
れた痕が残ってしまっているのだ。
「宍戸、手首のそれどうしたの?」
「手首?・・・あっ!!」
「すごい痕やんなあ。どんなプレイしたん?」
「ち、違っ・・・これは・・・」
手首を隠すがもうバレバレ。もうどんな言い訳も通用しないであろう。からかう材料を見
つけたと、二人はニヤリとした。
「そんなに痕がつくくらい縛られてよく平気だね。」
「ウルセー、お前らには関係ねぇだろ!!」
「さすが、宍戸やな。どんなのでもオッケーてことか?」
「っ!!」
宍戸は真っ赤になって、心の中で跡部に文句を言いまくった。
(跡部の奴〜、こんなに痕がつくまで縛るんじゃねぇよ!!こいつら絶対楽しんでやがる
し。そうだっ!!)
からかわれてばかりでは腑に落ちないと感じていた時、宍戸は昨日のことをふと思い出す。
「忍足、そんなに俺のことばっか言っていいのかよ?」
「はぁ?何でや?」
「滝、昨日こいつすごいんだぜ。裏庭でな・・・」
「うっわああ!!宍戸、ちょっと待ち!!」
裏庭と聞いて、忍足は宍戸が何を言うかが分かってしまった。滝にはそこまで話していな
い。当然バラされたら困ることだ。
「何々!?宍戸。すごい気になる。」
「昨日の夜、裏庭で岳人と・・・」
「宍戸、いい加減にせぇよ!!」
「岳人と?」
滝は興味津々とばかりに聞いてくる。宍戸が言おうとするのを必死で止めようとする忍足。
しかし、宍戸は自分がさっきあれだけ好き放題言われたので、言葉を止めなかった。しっ
かり昨日裏庭で見たことを滝に話す。忍足は顔を両手で覆ってうつむいてしまった。
「そんなことしてたんだぜ。どうよ、滝?」
「うわあ、ホントにー?忍足もやるねー。何か進展があったなあとは思ってたけど、まさ
かそこまでとはねぇ。」
「そんなことまで言うなんて・・・宍戸のアホ〜。」
仕返しをしてやったと宍戸は満足そうだが、忍足は今にも泣いてしまいそうな表情だ。さ
すがに可哀想だなあと思い、滝は話題を変えてあげた。
「忍足、もうそろそろ長太郎達のところへ行かないと。朝ごはん待ってるはずだよ。」
「・・・せやな。」
「そっか。じゃあ、俺もナースセンターに戻ろうかな。」
何事もなかったように振舞う宍戸だが、意外とさっきのことを気にしている。跡部に会っ
たら文句を言ってやろうと心に決めていた。だが、それ以上に忍足の方がダメージが大き
い。はあーあと大きな溜め息をつき、立ち上がった。滝だけは特にそういうことがないの
で、早く長太郎に会いたいなあとニコニコ顔だ。
「じゃあ、お先宍戸。」
「おう。」
宍戸より一足早く滝と忍足は休憩室を出る。宍戸は自分の食べた朝食を片付け、二人が出
てしばらくしてから宍戸はナースセンターに戻ろうとドアを開けると昨日と同じように誰
かにぶつかる。
「ぶっ!!」
「何やってんだよ?宍戸。」
「あ、跡部!?」
「邪魔だ。入るからどけ。」
「なっ!?」
「嘘だ。お前も座れ。これから、俺は飯だからな。」
「俺もう朝飯食べた。これから、ナースセンターに戻ろうと思ったんだけど。」
そんなことはどうでもいいじゃねぇかと跡部は宍戸の腕を掴んだ。結局、宍戸はまたソフ
ァに引き戻されてしまう。すぐには気づかなかったが、跡部の後ろには樺地がいた。跡部
についてくるようにして樺地も休憩室に入る。

休憩室に入った三人は無言でソファに座る。跡部は当然のように宍戸の隣に座って肩を抱
いた。樺地は向かい側のソファに座った。
「お前、朝飯食べるんじゃなかったんじゃねぇのかよ。」
「食べるぜ。」
「こんな格好してたら食べられねぇだろ。」
「大丈夫だって。」
食べるつもりがないのかどうなのか跡部は宍戸にちょっかいを出して、なかなか朝食に手
を出そうとしない。そんなことをしているとまた一人この休憩室に入って来た。
ガチャっ
「樺地、ちゃんと昨日頼んだもの・・・」
日吉はもとから樺地と約束がしてあったようで、入るなり樺地に話しかけた。しかし、ま
た跡部と宍戸が無駄にイチャついている。呆れたような様子で日吉は樺地の隣に腰かけた。
「あっ、日吉。」
「おはようございます。朝から仲がいいですね。」
抑揚のない口調で日吉は言う。昨日も今日もよく飽きないなあとある意味感心している部
分もあろう。そんなことはどうでもいいと、日吉は本題に入った。
「樺地、昨日頼んだ人形ちゃんと作ってきてくれたのか?」
「ウス。」
日吉が頼んだ人形とは昨日樺地がジローと同室の泣いていた少年にあげたぬいぐるみであ
る。あのぬいぐるみは実は樺地の手作りなのだ。この外科病棟でも若干子供がいて、そん
な子供に樺地が作ったぬいぐるみは大人気だった。日吉の担当している患者もまだ小学生
なので、話を聞いて欲しくなったようだ。樺地は鞄からいくつかの人形を出す。小児科の
子供にもあげようと思って作ったのかその数はゆうに10個は越えていた。しかし、日吉
はそのぬいぐるみを見て、不思議そうな顔をする。
「樺地、何で全部羊なんだ?」
「?」
樺地は自分でも気づいていなかった。今目の前に出したぬいぐるみは確かに全部羊だ。何
でこんなに同じものを作ったのだろうと自分でも疑問に思った。
「まあ、いいや。いくつかもらってくぜ。」
「ウス。」
日吉は三つほど、そのぬいぐるみを手にするとすぐに休憩室を出て行く。用は本当にこれ
だけだったようだ。宍戸は日吉が出て行ったあと、樺地のぬいぐるみに興味を持ち、手に
とってすごいすごいと褒め始めた。
「これ、全部樺地が作ったのか!?すげぇな。」
「ウス。」
「可愛い〜。な、跡部。」
ニコッと笑って宍戸は跡部の方を向いた。跡部はドキっとしてしまう。
「あ、ああ。そうだな。でも、樺地。本当に何で羊だけなんだ。お前、前まで何種類か作
ってただろ?」
「・・・・。」
「羊といえばさぁ、樺地の担当してる奴がかなり羊っぽいよな。」
「ジローか。確かにそうだな。」
二人のこの言葉で、自分が何でこんなに羊ばっかりを無意識に作ってしまったのかが分か
った。おそらく昨日のジローのことがあってから作ったので、羊ばかりを作ってしまった
のだろう。そう気づいた瞬間、樺地は何となく恥ずかしくなってしまった。
「もう・・・そろそろ・・・内科病棟に戻ります・・・」
「ああ。またな。」
「ウス。」
そそくさと休憩室を出ると、ドアの前で深呼吸をする。普段はあまり動じることのない樺
地だが、ジローのこととなると違うようだ。
「樺地!!」
「っ!!」
すると突然休憩室のドアが開く。樺地は本気で驚いた。
「ぬいぐるみ、忘れてるぜ。」
「ありがとうございます・・・。」
「じゃあな。」
宍戸は笑いながら手を振るが、樺地は気が気ではない。ドキドキとしたまま内科病棟に戻
っていった。
「で、結局またお前と二人っきりかよ。」
「いいじゃねぇか。」
「あっ、そういえば、これどうすんだよ!!メチャクチャ痕ついてるぜ。」
宍戸は跡部に縛られた痕のついた手首を見せつける。跡部は表情も変えずにその手を取っ
た。
「本当だな。確かにこれは少し目立ちすぎる。ちょっと座れ。」
「お、おう。」
跡部は白衣から包帯を出すと、痕のついた部分に丁寧に巻いていった。外科医なので、包
帯を巻くのは得意であって当然だ。巻き終わるとその包帯に口づけを施す。宍戸は何とな
く赤くなってしまう。
「よし、これでバレねぇだろ。ちょっと目立つけどな。」
「でも、痕があからさまに見えるよかマシだろ。サンキューな。」
「さてと、俺は戻るぜ。お前はどうする?」
「あっ、もうこんな時間じゃねぇか!!俺も戻るって。てか、さっき本当はお前が来た時
戻ろうとしたんだからよ。」
「そうだったな。」
このままこんなところでサボってはいけないので、二人はそれぞれ仕事場に戻る。また今
日も忙しくなりそうだ。まだ一日は始まったばかり。今日はどんなことが起こるのであろ
うか?

                      to be continued

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