淡群青 〜コバルトブルー〜 壱

潮騒の響く夜の浜辺。闇の中にぽっかりと浮かぶ月を眺めながら、鬼蜘蛛丸は物思いにふ
けっていた。
(夜が明けたら、俺はこの海に・・・・)
「鬼蜘蛛丸。」
聞き慣れた声で名前を呼ばれ、鬼蜘蛛丸はハッとする。声のする方を振り返ると、そこに
は、幼馴染である義丸が立っていた。
「義丸・・・」
「隣、座ってもいいか?」
「ああ。」
鬼蜘蛛丸の隣に腰を下ろすと、義丸は鬼蜘蛛丸の視線の先にある青白く光る月に目をやっ
た。
「綺麗な月だな。」
「ああ、昨日が満月だったからな。今日は十六夜の月だ。」
「十六夜の月・・・か。」
満月を越え、新月に向かって欠け始める最初の月。静かな闇を照らす美しい光が、言葉で
は言い表せない物悲しさをもたらす。それは、今の鬼蜘蛛丸に課せられた運命を表してい
るようだった。
「・・・明日、だよな。」
「そうだな。」
義丸の言葉に鬼蜘蛛丸は短い言葉で答える。明日、夜が明けると同時に、鬼蜘蛛丸は今は
ただ暗闇だけが広がる空へと飛び立たなければならない。目的は連合軍の敵艦船への体当
たり攻撃。飛び立ったら最後、生還する可能性は皆無に等しい。言いかえれば、夜が明け
ると同時に、鬼蜘蛛丸は死ぬために飛ばなければならないのだ。
「怖くはないのか?」
「怖くはないな。もう覚悟は出来ているし、俺が飛ぶことで他の者が守られるのなら、それ
に越したことはない。」
「本当真面目だよな、鬼蜘蛛丸は。お国のために死ねるならそれも本望だって?」
「そこまでは言ってないさ。」
冗談めいた口調でそんなことを言ってくる義丸に、鬼蜘蛛丸は苦笑しながら答える。お国
のためにというよりは、少しでも多くの人を守りたい。人を思いやる心を持ち、人一倍の
勇気を持つ鬼蜘蛛丸ならではの言葉であった。しかし、その言葉を口にしてから、鬼蜘蛛
丸はしばらく黙り込む。言葉が交わされない少しの時間。その短い時間は波が打ち寄せる
音がやけに大きく響いているように感じられた。
(死ぬこと自体は怖くはない。けど・・・・)
そんなことを考えながら、鬼蜘蛛丸は隣に座っている義丸をじっと見つめる。幼い頃から
ずっと一緒だった自分にとってかけがえのない存在。嬉しい時も楽しい時も、悲しい時も
辛い時も、いつでも側に居てくれた。そんな義丸と別れなければいけないこと。それが鬼
蜘蛛丸にとって、何よりも悲しいことであった。
「鬼蜘蛛丸はすごく強いな。こんな状況でも毅然としてて、死ぬことを怖がりもしない。」
「・・・確かに、死ぬことは怖くない。だけど・・・・」
ぎゅっとこぶしを握りながら、鬼蜘蛛丸は言葉を紡ぐ。言葉にしようとすると、胸の中の
想いが一気に膨れ上がる。義丸と別れるのが辛くて、苦しくて、とても悲しい。あまりに
強すぎるその想いが、言葉にすることを妨げ、代わりに嗚咽を呼び起こす。
「うっ・・・っく・・・・・」
「鬼蜘蛛丸・・・?」
「お前と離れるのは・・・死ぬより・・・何十倍も何百倍も・・・・辛くて、悲しい。」
今まで気丈だった鬼蜘蛛丸の顔はその言葉を口にした瞬間、ひどく悲しげな泣き顔に変わ
った。その言葉を聞いて、義丸の胸は切なさと愛しさで張り裂けそうになる。腕を伸ばし、
鬼蜘蛛丸の体を捉えると、義丸はしっかりと鬼蜘蛛丸を抱きしめた。
「俺だって、鬼蜘蛛丸と離れたくない!!」
「義丸・・・・」
「昔からずっと・・・鬼蜘蛛丸のこと、好きだった。なのにっ・・・」
明日には鬼蜘蛛丸は死んでしまう。そう思った途端、義丸の瞳からも大粒の涙が溢れてく
る。義丸の想いを聞いて、鬼蜘蛛丸はさらに胸を締めつけられる。義丸の腕の中で、鬼蜘
蛛丸は声を上げて泣いた。もう自分達ではどうすることも出来ない運命。そんな運命に翻
弄され、二人は悲しみの涙を流し続けた。もうこれ以上涙は出ない。そのくらい泣きはら
すと、鬼蜘蛛丸はあることを義丸に頼む。
「義丸・・・」
「何だ?」
「俺を抱いてくれ。」
「えっ・・・?」
「俺が義丸を好きだったこと、そして、義丸が俺を好きだったってことを、この体と心に
刻みつけておきたいんだ。俺達はこんなふうに泣く為だけに産まれてきた訳じゃない。こ
んなにも一生懸命に生きたって証をこの体に残して欲しい。」
「鬼蜘蛛丸が望むなら、いくらでも残してやるよ。二人が生きた証を。」
鬼蜘蛛丸の切実な言葉に、義丸は泣きはらした目を細めて頷いた。鬼蜘蛛丸の体を抱いて
いた腕を緩め、優しく鬼蜘蛛丸を砂の上へと押し倒す。そして、鬼蜘蛛丸の手に自分の手
を重ねると、義丸は愛しい唇へ想いの詰まった口づけを施した。

海軍の宿舎の窓から外を眺め、網問はすぐ側に座っている間切にそう話しかける。
「確かに静かだな。」
部屋に居ると、波の打ち寄せる音もかすかにしか聞こえない。窓の外に広がる深い闇を見
つめながら、網問は心がきしきしと痛むのを感じる。
「明日だよね。鬼蜘蛛丸の兄貴と舳丸の兄貴が飛ぶの。」
「・・・ああ。」
明日の夜明けに空へ向かって飛び立つのは、鬼蜘蛛丸だけでなく舳丸もであった。網問と
間切にとっては、どちらも尊敬出来る兄貴分である。そんな二人が明日にはその命を捨て
なければならない。それが網問にとってはひどく悲しく、納得のいかないことであった。
「どうして鬼蜘蛛丸の兄貴や舳丸の兄貴が死ななきゃいけなんだろう?どうして同じ人間
なのに、殺し合わなくちゃいけないの?」
「網問・・・」
涙声で網問はそんなことを呟く。海軍の特攻隊部隊に所属はしているが、網問はその戦い
方に、そして、この戦争自体に疑問を持っていた。
「俺はまだ子供だからさ、そう思うのかもしれないけど・・・・自分の命を犠牲にしてま
で、他の人の命を奪うことって意味のあることなのかな?みんなお国のため、お国のため
って言うけど・・・それって、本当に名誉なこと?」
「・・・・・・。」
「俺は鬼蜘蛛丸の兄貴や舳丸の兄貴に死んで欲しくないし、俺自身だってまだ死にたくな
いよ。・・・・こんな考え方、やっぱりおかしいのかな?」
ポロポロと涙を流しながらそんなことを問いかける網問を、間切は後ろから抱きしめた。
「おかしくなんかない。俺だってそう思う。おかしいのはこの世界だ。」
「・・・本当?」
「本当はみんなきっと気づいてるんだと思う。だけど、変われないんだ。あまりにもこと
が大きくなりすぎて・・・。同じ人間同士なのに、こんなふうに殺し合わなくちゃいけな
いなんて、本当馬鹿みたいなことだよな。」
「俺達みたいな子供でも分かることなのに。どうして・・・どうして・・・兄貴達が死な
なきゃいけないんだよぉ・・・」
間切の方を振り返り、網問は大きな瞳から純粋な涙を溢れさせる。おかしいと気づいてい
るのに、自分達はどうすることも出来ない。そんな自分達の無力さに、網問を抱きしめな
がら、間切も静かに涙を溢す。涙で濡れた瞳で窓の外を眺めると、沈黙を纏うその闇は、
まるで空が黒い血を流しているように、間切には見えた。

丸の肌には、一つ、また一つと、鮮やかな花びらが義丸の唇によって落とされる。
「んっ・・・ハァ・・・義・・丸・・・・」
「鬼蜘蛛丸とこんなことが出来るなんて、夢みたいだ。」
「ははは、したかったのか?俺とこういうことを。」
「もちろん。いつもすごく我慢してたんだぞ。」
「別にしてくれてもよかったのに。」
ふっと微笑みながら、鬼蜘蛛丸はそんなことを口にする。だったら、もっと早く手を出せ
ばよかったなあと、義丸も苦笑する。そこまで受け入れてもらえるのならと、義丸は鬼蜘
蛛丸の下肢にそっと手を伸ばす。
「してもいいってことは、こういうこともしていいってことだろ?」
「あっ・・・は・・ぁ・・・っ!!」
熱を持ち始めている鬼蜘蛛丸の茎を義丸はきゅっと握る。人に触れられることなど初めて
なので、鬼蜘蛛丸はビクッと身体を震わせ、思わず声を上げてしまう。
「やっ・・・ヨシっ・・・あっ・・・ひあっ!!」
「可愛い声。もっと聞かせて?」
「んんっ・・・あっ・・・ああ・・・んっ・・・・」
義丸の手がそれに少し触れるだけで、勝手に口から声が漏れてしまう。鬼蜘蛛丸の熱をゆ
っくりと擦りながら、義丸は鬼蜘蛛丸の体に自分が鬼蜘蛛丸のことを心の底から想ってい
るという証をつけていった。
「ハァ・・・あっ・・・義丸っ・・・義丸・・・・っ!!」
義丸の唇が肌に触れるたびに感じるぴりりとした刺激と、熱の中心を擦られることで生ま
れる甘い痺れ。今までに感じたことのない気持ちよさに、鬼蜘蛛丸の下肢はぶるぶると震
える。
「そろそろ一回出しとくか?」
「んっ・・・う・・・あっ・・・・」
義丸の問いに鬼蜘蛛丸は首を縦に振って頷いた。それならばと、義丸は根本から先端に向
かって、一際強い力で擦り上げる。
「ひっ・・・ああぁ――っ!!」
トクントクンと掌に放たれる鬼蜘蛛丸の熱い蜜。その蜜の熱さと鬼蜘蛛丸の今までに見た
ことのない色めいた顔に、義丸の胸はひどく高鳴る。指に絡まる蜜を味わうように舐め取
ると、義丸は愛しさに満ちた声色で鬼蜘蛛丸に囁く。
「すごく綺麗だぜ。」
「ヨシ・・・」
義丸の言葉に、鬼蜘蛛丸の胸の鼓動はひどく速くなる。鬼蜘蛛丸の頬に軽く口づけると、
義丸は鬼蜘蛛丸の下肢を覆っていた布を全て取り除いてしまった。
「あっ・・・」
「こっちも、いいよな?」
これから繋がるべき場所に触れながら、義丸はそう鬼蜘蛛丸に問う。下に穿いていたもの
を全て脱がされてしまったことに、少しの羞恥を感じるが、それよりも義丸に触れて欲し
いという欲求の方が鬼蜘蛛丸の中で先に立っていた。義丸の問いにコクンと頷くと、鬼蜘
蛛丸は自ら足を開く。
「痛くないように、ゆっくり慣らすから。」
「義丸にだったら、少しくらい痛くされても構わないぞ。」
「そうはいかない。どうせするんだったら、思いっきり気持ちイイ方がいいだろ?」
そう言うと、義丸は自分の指を自らの唾液でしっかり濡らし、まだ閉じたままの蕾に押し
当てる。しかし、すぐに入れたりはしない。ゆっくりとほぐしながら、自然に指が入るく
らいになるまで弄る。
「んっ・・・ぁ・・・・」
「少し指を入れるが、痛かったりしたらちゃんと言うんだぞ。」
「大丈夫だって・・・・義丸のすることだったら、何でも大歓迎だからさ・・・・」
「ふっ、嬉しいこと言ってくれるじゃないか。けど、本当に辛かったら言えよ?」
「うん・・・」
義丸の優しさが嬉しくて、鬼蜘蛛丸の胸はきゅんとときめく。頷いた後で、義丸の指が自
分の中へと入ってきたが、痛みは全くといってなかった。少しの違和感を感じるが、それ
は不快なものではなく、どちらかといえば、淡い快感を伴うようなものであった。
「あっ・・・あ・・んっ・・・」
「大丈夫か?」
「全然平気・・・むしろ、もっと奥までして欲しいって感じ・・・」
「そうか。それなら・・・」
「ふあっ・・・ああぁっ!!」
少し指が奥まで入ると、全身が粟立つような快感が駆け抜ける。鬼蜘蛛丸の反応を見て、
義丸は急ぎすぎない程度に柔らかい内側を指で弄った。
「ひあっ・・あっ・・・義丸っ・・・ん・・はぁっ・・・・」
「鬼蜘蛛丸の中、熱くて、柔らかくて、敏感で、触ってるだけでも興奮する。」
「あっ・・・義丸・・・・もっと指・・・動かして・・・・」
「ああ。鬼蜘蛛丸がそう望むなら。」
鬼蜘蛛丸の言葉に義丸はひどく興奮する。鬼蜘蛛丸の反応を見ながら、内側の感じやすい
部分を探す。そんな部分が見つかったならば、その部分を中心に義丸はじっくりと責めて
いった。
「ああぁっ・・・んあっ・・・あっ!!」
義丸の指が敏感な内壁に触れるたび、鬼蜘蛛丸は甘く濡れた声を上げる。内側に触れられ
ることがこんなにも心地の良いものであるとは、生まれて此の方知らなかった。もっと奥
の方に、もっとたくさん触れて欲しい。そんな欲求が鬼蜘蛛丸の中で次第に大きくなって
ゆく。
「ハァ・・・あっ・・・義丸っ・・・・」
「どうした?」
「指・・・抜いて・・・・」
「ああ。少し急ぎすぎたか?」
ひどく呼吸を乱しながら、そんなことを言う鬼蜘蛛丸の言葉に義丸は心配そうにそう尋ね
る。しかし、鬼蜘蛛丸はふっと笑って首を振った。
「違う・・・もう指じゃ足りなくてな。」
「えっ?」
呼吸を整えながら体を起こすと、鬼蜘蛛丸は義丸のズボンに手をかける。ベルトを外し、
ジッパーを下げると、もう既にある程度の強度を持っている義丸の熱を取り出した。そし
て、口を大きく開け、何のためらいもなしにそれを口に咥える。
「なっ・・・鬼蜘蛛丸っ!?」
「ん・・・は・・む・・・・んん・・・」
「くっ・・・ぁ・・・」
全く予想外の鬼蜘蛛丸の行動に、義丸は素直に感じてしまう。熱く濡れた感触に義丸の熱
の塊は膨張する。
「鬼蜘蛛丸っ・・・そんなことされたら・・・・」
切羽詰まったような声でそう言われ、鬼蜘蛛丸はそれを咥えたままで義丸の顔をじっと見
上げる。口の中で大きさを増す熱は、鬼蜘蛛丸の胸をひどく高鳴らせる。
(義丸の・・・大きくて、熱い・・・・)
じっくりとその熱を味わうかのように根本から先端までを丁寧に舐め、口に咥えたまま頭
をゆっくり動かす。そんな何とも言えない甘美な刺激に、義丸は鬼蜘蛛丸の髪を掴み、ぶ
るりとその身を震わせる。
「うあっ・・・もう・・・」
「っ!!・・・んぐっ・・・んんぅ!!」
あまりの気持ちよさに耐えきれず、義丸は鬼蜘蛛丸の口の中に熱い飛沫を迸らせる。熱く
濃い義丸の蜜。勢いよく放たれるその蜜を、鬼蜘蛛丸は喉を鳴らして飲み込んだ。
「んんっ・・・ハァ・・・」
一滴も残さず義丸の蜜を飲み込むと、鬼蜘蛛丸はまだ少しも硬さを失っていない義丸の楔
から口を離す。
「ハァ・・・全部、飲んだのか・・・?」
「ああ。結構美味かったぜ?」
「全く本当驚かせてくれるな。けど、すごく気持ちよかったぜ。」
「そりゃよかった。俺ばっか気持ちよくなってちゃ不公平だからな。」
「今度は二人一緒に気持ちよくならなくちゃだな。」
「・・・ああ。」
義丸のその言葉が何を意味しているか鬼蜘蛛丸はしっかり理解していた。先程飲んだ義丸
の蜜が、媚薬のようにその身を疼かせる。早く一つに繋がりたい。そんな想いを鬼蜘蛛丸
は率直な言葉で義丸に伝えた。
「早くお前と一つになりたい。」
「鬼蜘蛛丸っ・・・」
「愛してるぜ、義丸。」
ぎゅっと義丸に抱きつくと、その身はふわっと浮くかのように再び砂の上へと押し倒され
た。そして、次の瞬間、熱い熱い塊が先程存分に慣らされた蕾の入口を抉じ開け、その内
側へと埋め込まれた。
「ふあっ・・・ああぁ――っ!!」
(義丸がっ・・・義丸が俺の中に、入ってくる・・・)
「ハァ・・・熱っ・・・」
「義・・丸・・・・義丸っ・・・・あっ・・・んあっ・・・・」
内側を広げられ、熱い楔でその壁を擦られる。義丸と繋がっているということを強く感じ
られるその感覚は、鬼蜘蛛丸にとって大きな快感にしかなり得なかった。義丸の全てが自
分の中に埋められると、鬼蜘蛛丸はその身を小刻みに震わせながら、義丸にしっかりとし
がみつく。
「ハァ・・・あっ・・・あ・・・はっ・・・」
「全部・・・入ったぞ。」
「やっと、一つになれたな・・・・」
顔を紅潮させ、荒い息を吐きながら、鬼蜘蛛丸はそう言って微笑む。その穢れのない純粋
な笑みに義丸の心臓はドキンと跳ねた。
「鬼蜘蛛丸・・・」
「本当は・・・もっと痛いのかと思ってたけど・・・・全然そんなことないな・・・・体
も、頭ん中も・・・全部溶けちまいそうなくらい・・・・すごく気持ちイイ・・・」
「鬼蜘蛛丸の中も、最高に心地いいぞ・・・」
「義丸・・・」
義丸の言葉を聞いて、鬼蜘蛛丸は嬉しそうに笑う。そして、その瞳から一筋の涙を溢した。
「どうせ死ぬのだったら・・・このまま義丸と繋がったまま死にたいなあ・・・・」
「・・・・っ。」
「そんなの無理だって分かってるけどな・・・・分かってるけど・・・・」
叶わぬ願いを口にしながら、鬼蜘蛛丸は熱い涙を溢れさせる。そんな鬼蜘蛛丸の涙を舌で
拭い、義丸は優しくその唇に口づけた。
「愛してる、鬼蜘蛛丸。ずっと昔から、それからこれからずっと先も。」
「俺も・・・義丸のこと、ずっとずっと・・・・」
ひどく濡れた鬼蜘蛛丸の声に、義丸の目からも涙が落ちる。義丸の顔に両手を当てながら、
鬼蜘蛛丸は心の底からその言葉を口にした。
「愛してる。」
その言葉を聞いて、義丸の胸は火をともされたように熱くなり、愛しさと切なさがとめど
なく溢れる。嗚咽と涙を止められぬまま、義丸は自分自身の存在を鬼蜘蛛丸の身体に刻む
込むかのように、激しくその身を動かした。義丸の楔で内側を抉られ、その最奥を貫かれ
るたびに、鬼蜘蛛丸は果てしない悦楽と共に義丸の全てを自分の中に取り込む。高まる想
いと快楽という名の熱が限界点まで達しようとする瞬間、鬼蜘蛛丸は今まで言えなかった
心からの想いと今一番の願いを口にする。
「義丸・・・お前に出会えて、俺は本当に幸せだった・・・・」
「俺も・・・・鬼蜘蛛丸と出会えて・・・本当に・・・・っ」
「義丸、俺はお前と一緒に・・・イキたい・・・・」
「・・・・っ!!」
「一緒にイこう・・・・」
涙を流しながら、鬼蜘蛛丸はこれ以上なく美しい笑顔を見せる。鬼蜘蛛丸の口にした願い。
義丸はその言葉に頷き、鬼蜘蛛丸の最奥を穿ちながら、想いの全てを鬼蜘蛛丸の中に注ぎ
込んだ。
「ああっ・・・義丸――っ!!」
「鬼蜘蛛丸っ!!」
義丸の想いを身体の中心で受け止めながら、鬼蜘蛛丸は義丸と一つになれた悦びに、熱い
熱い蜜をとめどなく溢れさせた。

夢のような甘く切ない契りを終えると、二人は闇に溶ける海でその体を軽く洗い流し、宿
舎へ向かって歩き出す。宿舎に到着する少し手前で、鬼蜘蛛丸はふと立ち止まった。
「鬼蜘蛛丸?」
鬼蜘蛛丸の視線の先には、青い小さな花が一面に咲いていた。しばらくその花を眺めてい
た鬼蜘蛛丸は、おもむろにその花を摘み取り、義丸に手渡す。
「これは・・・?」
「今の俺の気持ちにピッタリの花だと思って。」
「・・・・・。」
義丸はその花が何と言う花なのかを知っていた。鬼蜘蛛丸の摘み取った花。その花の名は、
『勿忘草』であった。
「花言葉は・・・」
『“わたしを忘れないで。”』
鬼蜘蛛丸の言葉に義丸の声が重なる。こんな花を渡されなくとも、忘れるわけがない。そ
の花をしっかりと握りながら、義丸は鬼蜘蛛丸の体を抱いた。
「忘れるわけないだろう!!」
「分かってるけど、渡しておきたいなあと思ってさ。」
義丸の腕の中で、鬼蜘蛛丸は苦笑する。こんなにも愛した者をどうして忘れることが出来
ようか。そう思いながら、義丸は再び溢れそうになる涙を必死で堪えていた。
「明日になれば、俺はここから居なくなる。だから・・・な?」
切なすぎる鬼蜘蛛丸の言葉に、義丸の胸はぎゅっと締めつけられる。しかし、それと同時
にとある決心が義丸の中で固まった。
「この花はもらっておくけど、もうそういうことは言わないでくれ。」
「・・・そうだな。」
「それより、早く宿舎に戻ろうぜ。日付が変わったら、酒盛りをやるって若い奴らに言っ
てあるからな。」
「そうだったな。じゃ、行くか。」
「ああ。」
別れなければいけない辛さを堪えつつ、鬼蜘蛛丸は必死で笑顔を作って義丸の言葉に答え
る。自分にとっては、人生最後の酒盛り。最後くらいは存分に楽しもう。そんなことを考
えながら、鬼蜘蛛丸は義丸と共に宿舎の中へと入った。

                     to be continued

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