Ewige Liebe 〜�機�

いつも通る小さな路地。そこにはいつも黒猫がいた。何故だか傷だらけで、だけどそんな
ことはお構いなしに堂々と胸をはって悠々と歩いている。俺はそいつが好きだった。どこ
か自分と似ていて、構ってやりたくなるような・・・そんなことをいつも考えていた。

ちっ、今日は雨か。早く帰んねーとせっかく買った新しい服が濡れちまう。
跡部は今日街で買った新しい服の入った紙袋を抱えながら、突然降り出した雨の中を走り
出した。いつものあの小さな路地に入る。そこは屋敷へ帰るための近道なのだ。
「今日はあいついねーんだな。」
跡部はあたりを見回し、いつもの黒猫を探した。ここを通る時の密かな楽しみのその黒猫
は今日は何故か見当たらない。今日はこの雨だし、どこかで雨宿りしているのだろうと探
すのを諦めかけた時、跡部の目の前に信じられない光景が現れた。
短い黒髪に、黒ずくめの毛皮で出来たようなボロボロの服。そして、傷だらけの体。
今目の前にいるのは確かに人間の形をしている。だが、跡部は「彼」のことを知っていた。
こいつ、あの黒猫か・・・?でも、どう見ても人間の形してるよな。それより、こいつの
この傷はヤバイだろ。早く手当てしねぇと命に関わる。
跡部は傷だらけになりその路地に倒れていた全身黒ずくめの少年を抱きかかえた。自分と
同じくらいの身長があるにも関わらず、腕にかかる重さはありえないほどに軽い。今日買
った服などはもうどうでもいいととにかくその少年を助けることをまず第一のこととして、
跡部は屋敷に向かって一気に駆け出した。

「ただいまー。」
「おかえり、跡部。って、どうしたの!?」
屋敷で留守番をしていたジローは跡部がびしょびしょになりながら、傷だらけの少年を抱
えていることにひどく驚いた。跡部は、自分が濡れていることなどは全く気にせず、とに
かく自室へと向かう。
「樺地、タオルを俺の部屋に持って来い。」
「ウス。」
樺地にタオルを持ってくるように言うと、跡部はびしょびしょに濡れた黒ずくめの少年を
自分の部屋のベッドに寝かせた。傷が痛むようでその少年は苦しそうなうめき声を上げる。
「う・・・ぅ・・・」
どうやら熱もあるようだ。早く手当てをしなければいけないのだが、この家には救急道具
というものが全くもってない。吸血鬼である跡部やジローは自然治癒力に関して驚くべき
力を持っているので、そんなものは必要ないのだ。
「しょうがねぇ。アイツに電話するしかないか。」
跡部はベッドの横の棚に置いてある電話に手を伸ばし、とある人物に電話をかけた。
トゥルルル・・・トゥルルル・・・・
『もしもし?』
「滝か?俺だけど。」
『跡部?お前が俺んとこ電話してくるなんて珍しいじゃん。』
跡部は妖狐であり、薬屋である滝に電話をかけた。滝は不思議な力を持っているので、大
抵の傷は治すことが出来る。その力を凝縮した薬を売って商売をしているのだ。
「街から帰る時に傷だらけの黒猫を拾った。」
『猫?その治療に薬を使うの?』
「いや、黒猫なんだけど人間だ。」
『はあ!?何それ?』
跡部のわけの分からない説明に滝はかなり困惑。そんなことを言われてもどんなものを用
意すればいいのか全く分からない。
『で、結局どんな薬が必要なわけ?』
「傷は・・・擦り傷に打撲、切り傷って感じだな。あとは、少し熱があるみてぇだ。」
『了解。じゃあ、今から持ってくね。』
「サンキュー。出来るだけ早く来いよな。」
『分かってるって。じゃあね。』
跡部は電話を置くと、樺地が持ってきたタオルで自分の体を拭き、もう一枚で黒猫の体を
拭いて、新しい服に着替えさせた。
どこもかしこも傷だらけじゃねーか。どうしたらこんなになるんだ?
痛々しい傷だらけの体を見て、跡部は顔をしかめる。しばらくして、玄関のチャイムが鳴
った。滝が薬を持って来たようだ。
「はい、跡部。これが傷薬でこれが熱冷まし。この傷薬はどんな傷にも使えるから。あと
包帯とかガーゼとかも入れておいたから好きなように使ってね。」
「おう。サンキューな滝。代金どうする?」
「いいよ。今日はサービス。じゃあ、俺、戻るね。」
「ああ。マジでサンキュー。」
「いいって、いいって。じゃあね。」
手を振って、滝は雨の中、大きめの傘をさし、自分の店へと戻っていった。跡部は滝から
受け取った薬を持って再び自室へと戻る。
「さてと・・・。」
跡部は薬を傷に少しずつ塗り始めた。それがしみるのか、意識のない中黒猫は苦しそうな
声を上げる。丁寧に一つ一つ跡部は傷の手当てしていった。全ての手当てが終わるとこん
どは熱冷ましを飲ます。液体状の薬だったのでそれは容易に飲ませることが可能だった。
「早く元気になれよ。」
らしくないなと思いながらも、跡部はそっと呟いた。黒猫の様子は先ほどよりだいぶよく
なってきているようだ。

数日が経ち、その黒猫は意識を取り戻した。滝の薬が効いたのか傷はすっかり治ったよう
だ。だが、まだこの環境に慣れていないのか、跡部やジロー、樺地が話しかけても食べ物
を差し出しても全く無視。思いきり警戒しているということが態度からすぐに見て取れた。
「お前、あれから何にも食ってねぇじゃねーか。少しくらいなんか食べろ。」
「・・・・・。」
「ほら。」
ガッシャーン!!
跡部が目の前に食事を差し出すと、黒猫は思いきり跡部の腕を引っかき、食器を落とした。
そんなことをされて、跡部はもちろん腹が立つのだが、その黒猫の目が警戒心と何かに対
する怯えのようなものを醸し出していたので、怒ることは決してなかった。
「うわあ、派手にやられたねー。」
「うるせー。」
「でも、跡部にしては珍しいじゃん。こんなことされても怒らないでちゃんと面倒みてや
ろうとしてるなんて。」
「あいつ・・・たぶん人間に怯えてるんだ。だから、それに近い俺らに対しても警戒心を
抱いてる。」
「人間に怯えてる?何で?」
「たぶんあのたくさんの傷の原因を作ったのが人間なんだろ。」
「それでかー。大変だねー。ふぁ〜、俺眠くなってきちゃった。俺、ちょっと昼寝するね。」
跡部のことを少し心配しながらも、ジローは自室に昼寝をしにいってしまった。あまりそ
の黒猫には興味がないらしい。
まだ、あの状態じゃ無理だな。でも、そんなに慌てることはねぇ。少しずつ慣れてくれり
ゃあそれにこしたことはねぇもんな。
跡部は引っかかれた場所を軽く舐める。それだけで、もう傷はなくなってしまった。

それから三日後。さずがに空腹に耐えらえなくなった黒猫は跡部が持ってきたミルクを少
しだけ飲んだ。それを見て、跡部は実に満足そうにそして嬉しそうに笑う。
「やっと、食ってくれたな。まだ、腹減ってるだろ?おかわり持ってくるか?」
黒猫は素直にコクンと頷いた。だいぶ、跡部に対して心を開いてきているようだ。跡部が
平らな皿いっぱいにミルクを持ってくると、黒猫はそれに口をつけ、ピチャピチャとおい
しそうに飲む。
「おいしい・・・。」
何日かぶりのまともな食事はこの黒猫にとってこの上なくおいしいと感じられた。
「お前、しゃべれるのか?」
跡部はこの黒猫が言葉を発したことにとても驚いた。今まで一言もしゃべらなかったので、
てっきりもとから話せないものだと信じ込んでいたのだ。
「しゃべれるぜ。もとは猫だったけど、この姿になったら急に話せるようになった。」
「へぇ。そういや、お前名前何て言うんだよ?前からずっと気になってたんだけど。」
跡部はミルクで濡れた口元を拭ってやりながらふと尋ねる。
「亮。宍戸亮だ。」
「猫なのに名字があるのか?変わってるな。」
「俺にもよく分かんねぇ。でも、頭の中ではそう言ってる。」
「おもしれーな。ちなみに俺は、景吾だ。跡部景吾。お前は俺のこと人間だと思ってるみ
てぇだが、一応吸血鬼だ。ま、だいぶ進化してるけどな。」
跡部が吸血鬼だということを聞いても、宍戸は大して驚かなかった。むしろ、興味津々と
ばかりにいろいろと質問をしてくる。
「吸血鬼って、太陽とか十字架とかにんにくとかダメじゃねぇのか?お前、俺を拾った時
普通に昼に外出てたよな?」
「そんなやわな種族じゃねぇよ。別に太陽も十字架も関係ねぇ。ただ、にんにくはあの匂
いが少し苦手だけどな。まあ、人が好き嫌いをするのと同レベルだ。」
笑いながら、跡部は宍戸にそう話す。それを聞いて宍戸も笑った。
「やっと笑ってくれたな。お前、笑ってる方が断然可愛いぜ。」
さらっと跡部は言う。宍戸はそれを聞いて赤くなった。
「俺、可愛くなんか・・・・」
「何そんなに赤くなってんだよ?お前、マジで可愛いぜ。そうだ、もう傷治っただろ?明
日あたりちょっと街へ出てみねぇか。ちゃんとした服とか欲しいものとかいろいろ買って
やるぜ。」
「街・・・。」
「嫌か?嫌なら別に無理しなくてもいいぜ。」
街と言われ、宍戸は少し困惑した。街にはたくさんの人間がいる。もちろん自分に暴力を
ふるった人々もいるだろう。だが、それと同じくらい好奇心もある。少しくらいの冒険も
してみないと分からないと宍戸は結局跡部と街に出ることにした。
「・・・・行ってみたい。」
「よし。じゃあ、さっそく明日連れてってやるよ。楽しみにしてな。」
「おう・・・。」
跡部は宍戸が自分に心を開いてくれたことを本当に嬉しく思った。明日、街へ行く約束し、
宍戸が寝ている部屋から出る。宍戸も宍戸で、ここまで優しくされたり、話したりしたの
は生まれて初めてだったので、跡部が出ていった後も心臓のドキドキがしばらく止まらな
かった。

次の日、跡部は宍戸を連れて街へ出た。猫の視点とは全く違う街の様子に宍戸は驚きと感
動を隠せない。いろいろなものに興味を持って、跡部に尋ねる。
「景吾、コレ何?」
「あー、それか。それは陶磁器だ。食器としても使うし、置物としても使える。」
「へぇー。じゃあ、これは?」
「それはな・・・・」
宍戸がする質問に跡部は一つ一つ細かく答えていく。そんな跡部の表情は実に楽しそうだ。
しばらく街を歩いていくと、跡部はとあるものを見つけた。
「おっ。これお前に似合うんじゃねーか?」
跡部が手にしたのは、真っ青なキャップだった。外にある棚からそれを取り、宍戸の頭に
被せた。宍戸はそうされて不思議そうな顔をする。
「何?」
「ほら、鏡だ。自分で見てみろ。」
鏡に映った自分の姿を見て、宍戸はへぇというような顔をする。人間になった自分の姿を
自ら見るのはこれが始めてだったのでちょっとビックリしたのだ。
「これって、帽子だよな?」
「ああ。」
「こういう被り方より、俺はこっちのがいいな。」
宍戸は頭の上に置かれた帽子をくるっと反転させた。ちょうどつばの部分が真後ろにくる
ような状態だ。確かにその被り方の方が宍戸には似合っていた。
「へぇ、似合うじゃねーか。」
「本当か?」
「ああ。じゃあ、これ買ってやるな。」
跡部はその帽子をひょいっと取り上げ、店の人に渡し、お金を払った。そして、それを持
ち、宍戸の元へ戻ってくる。
「ほらよ。もうこれはお前のもんだぜ。」
さっきのようにポスっと帽子を宍戸の頭の上に被せた。宍戸はうれしそうな顔で跡部を見
てニコっと笑う。
「あんがとな、景吾。」
その笑顔に跡部はノックアウト。思わず宍戸から顔を逸らして、片方手で赤くなった顔を
覆った。
うわっ、すげぇ可愛い。マジ、ヤバイよこいつ。
顔が赤いのを宍戸にバレないようにまたしばらく歩いていくと、ハーブを扱っている店の
前で宍戸が止まった。
「何かすげぇイイ匂いがする。」
「ハーブか。どのハーブがイイ匂いだって?」
「えっと・・・。」
宍戸はたくさん並んでいるハーブの中から自分が一番いい匂いだと感じるものを探した。
「これだ!!」
宍戸が手にしたのはミントの入った瓶だった。跡部はそれを見て、すぐ横にある木製の棚
からあるものを手に取った。
「ミントか。でも、そのままじゃ食えねーよ。亮、これそれと同じ匂いがする食いもんだ
けど欲しいか?」
跡部が手に取ったあるものとは、スカイブルーの包装紙で包まれているミントガムだった。
宍戸は袋の上からそのガムの匂いを嗅ぐ。
「ホントだー。イイ匂い。なあ、景吾。俺、それ食いたい。」
よほどミントの匂いが気に入ったらしく、宍戸はミントガムが食べたいと跡部にせがんだ。
跡部は初めから買ってやるつもりだったので、普通にそれを宍戸に買い与える。買っても
らったミントガムを宍戸はすぐに開けて口に入れた。入れた瞬間口の中が透き通るような
スースーする感覚に宍戸は感嘆の声を上げる。
「何か口の中がスースーする。おもしれー!!」
「そりゃミントだから当然だろ。で、気に入ったのかそれ。」
「おう!!これすげぇうまいぜ。この味大好きVv」
味の方もかなりお気に入りのようだ。ガムを食べながら、またいろいろな店を回る。いく
つか宍戸の着れそうな服を買った後、跡部は屋敷に帰る前に滝の店に寄ることにした。

カラン、カラン・・・
「いらっしゃいませ。って、なーんだ。跡部じゃん。」
明るい声と笑顔で出迎えた滝だったが、客が跡部と分かるとその営業スマイル的な笑顔を
やめて、表情を普通の顔に戻した。
「この前は本当サンキューな。そのお礼と言っちゃなんだが、ケーキ買ってきてやったぜ。」
「ホントー!?うわあ、サンキュー跡部!」
跡部からケーキをもらって、滝は一気に上機嫌になった。
「長太郎ー、ケーキがあるよー。」
「はーい。ちょっと待ってください。」
滝は奥で薬の整理をしていた鳳を呼んだ。ちょっとの間があってから、シルバーの髪を持
った跡部達より一回り大きな少年が奥からやってくる。
「久しぶりだな。鳳。」
「お久しぶりです、跡部さん。あれ?その人誰ですか?」
鳳は見たことのない顔を見つけ、首を傾げて跡部に尋ねた。
「こいつは黒猫の宍戸。本当は猫らしいんだけど今は何故か人間の姿してんだ。」
「黒猫?あっ、もしかして!!」
鳳は宍戸に近寄ってくんくんと匂いを嗅いだ。宍戸は何だよ〜という感じで跡部の腕をぎ
ゅうっと掴む。
「やっぱりそうだ。宍戸さんってこの前・・・って言ってももうだいぶ前ですけど、迷子
になった俺を助けてくれたあの黒猫さんですよね?」
「???」
宍戸はこんな奴を助けてやった覚えはないぞという顔で、もう一度ちゃんと鳳の顔を見た。
確かに見たことはあるような気がするが、頭の中に人間を助けたという記憶は全くない。
「そうなのか?宍戸。」
「えー、分かんねぇ。俺、お前に会ったことねーぞ。」
宍戸はハテナを頭にいっぱい浮かべて、鳳にそう言った。その様子を滝が笑いを堪えなが
ら見ている。
「ほら、この近くの狭い路地で話したじゃないですか。」
「うーん。」
「長太郎、その姿じゃ分かんないよ。」
「あっ、そうか!」
滝にそう言われ、鳳はどうして宍戸が自分のことを思い出せないのかに気がついた。
「俺、実は人間じゃなくて犬なんです。滝さんの力でこの姿になってるんですけど、本当
はれっきとした犬なんですよ。」
それを聞いて宍戸はやっと思い出した。確かにあの路地で迷子になっている子犬を少し前
に助けた覚えがある。
「ああ!!あの時の!!」
「思い出してくれたんですね。」
「へぇ、あの時の超絶方向音痴の子犬かあ。で、何でお前こんなところにいるんだよ?」
「俺、捨て犬でいろんなとこをあの時みたいに歩きまわってたんですけど、さずがに体力
の限界がきちゃって・・・。道端で倒れてたら、滝さんが助けてくれたんです。だから、
ここで働かせてもらってるんですよ。滝さんは俺の命の恩人なんです!」
「何か俺と似てるな。でも、何で人間の姿になれるんだ?俺みたいに特に理由もなしにっ
て感じなのか?」
そこに口を挟んだのは滝。鳳が人間の姿をしている理由を端的に説明した。
「俺の力だよ。俺は妖狐なんだ。ケガや病気を治癒させたりとか、火を操ったりとか、姿
を他のものに変えたりとかそういう力を持ってるから、それで長太郎を人間の姿にしてる
の。」
「へぇ、何かすげぇ。」
とその時、鳳の体の様子が少し変化する。どうやら滝の力の効力が切れかけているようで
シルバーの髪から少し垂れ気味の白い犬耳と腰のあたりから尻尾が明らかに出てきてしま
っている。滝は力の補充をしようと鳳にあることをした。
「滝さん。犬に戻っちゃいますよ。」
「大丈夫♪ちゃんと、力の補充してあげるからさ。」
滝は跡部や宍戸が目の前にいるにも関わらず、鳳の唇に普通にキスをした。それもかなり
長い時間だ。宍戸は唖然としているが、跡部は何の反応もなしにそれを見ている。すると、
不思議なことにさっきまで出ていた耳や尻尾があとかたもなく消えてしまった。
「補充完了ー。」
「補充ってそうやるのか!?」
「うん。そうだよ。この方法が一番手っ取り早いからね。」
「滝、俺は見慣れてるけどよ、亮はそういうのに抵抗がねーんだからあんまり普通にそう
いうことすんじゃねぇよ。」
「あれ?跡部、まだ何もしてないの?へぇー、意外。もうてっきり手出してんのかと思っ
てた。」
「っ!!余計なこと言うな滝!!」
滝がすごいこと簡単に口走るので、跡部は焦った。宍戸は何のことだろうと意味も分から
ずただ慌てている跡部を首を傾げながら眺める。このままここにいると、さらにいろいろ
と滝に言われそうなので、跡部は宍戸の手を引きそそくさと店を出て行った。
「またのご来店をお待ちしておりまーす♪」
滝はからかうような口調でそう言い、手を振って跡部達を見送った。

ったく、滝の奴余計なこと言いやがって〜。昨日、やっと話せた程度なんだからそんなこ
と出来るわけねぇっての。
「亮、滝がさっき言ったことは気にしなくていいからな。」
「・・・・・。」
「?どうした?亮。」
宍戸は何かを見つめ、跡部の腕にすがりつくようにしてがくがくと震えている。跡部は宍
戸の視線の先に何があるのかを確かめた。そこには何人かの少し不良っぽい自分と同い年
くらいの少年達が立っていた。
「お前にあんなひどいケガをさせたのって、あいつらなのか?」
「・・・・・。」
宍戸は黙って頷いた。黒猫は不幸を呼ぶ・・・そんな理由だけで、石を投げつけられ、木
の棒で殴られ、瀕死になるほどの暴力を受けた。悔しいが今はそのことが鮮明に思い出さ
れ、怖くてたまらない。とにかく跡部にすがりついて目をつぶるしかなかった。
くそっ、あいつら亮をあんな目に合わせやがって・・・。今すぐにでもぶっ潰してやりた
いが、この状態じゃ無理だな。まずは亮を落ち着かせることが先決だ。
跡部はすがりついてくる宍戸をそっと抱きしめた。そして、これ以上ない程、優しい口調
で宍戸に囁く。
「大丈夫だ。今はお前一人じゃない。俺がいる。」
「・・・景吾。」
宍戸はあまりの恐怖のために潤んだ瞳で跡部の顔を見上げた。
「もうあんなことは絶対にさせねぇ。だから、安心しろ。」
「・・・・・。」
跡部のこの言葉を聞いて、宍戸は跡部の胸に顔を埋めて涙を流した。今まではずっと一人
で、自分は必要のない存在、忌み嫌われる存在として人々に扱われてきた。こんなにも自
分のことを思い、大切にしてくれる者に会ったのは跡部が初めてだった。『今はお前一人
じゃない。俺がいる。』その言葉が宍戸の心にどれほどの安心感と希望を与えたかという
のは、誰も完璧に表すことが出来ない。それほど跡部の言葉は、宍戸の傷ついていた心に
深く響いたのであった。

                     to be continued

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