この屋敷に来てからもう一週間以上経つ。今日は景吾がちょっとした用があると言って、
外出してしまった。景吾がいないとつまらない。暇を持て余していると、ジローと樺地が
珍しく俺に声をかけてきた。
「宍戸ー。」
「ジロー、それに樺地。」
「宍戸、今暇だよねー?俺達と一緒に遊ぼうよ。」
「別にいいけど、何して遊ぶんだ?」
いつもは昼寝ばかりしているジローが、今日は珍しく起きていて宍戸に遊ぼうと声をかけ
る。宍戸もちょうど暇であったので、その誘いに応じることにした。宍戸が遊んでくれる
と分かるとジローはうれしそうにはしゃぎながら宍戸の手を引き、部屋から外へ出た。
ここの屋敷って、ホント広いよなあ。いろんな部屋があるし。
廊下を歩いているとたくさんのドアが両サイドにある。いったい中はどうなっているのだ
ろうと疑問を持ちながらも、ジローがどんどん進んでいってしまうので、置いていかれな
いようにと宍戸は早足でその廊下を通り過ぎた。
「宍戸って、まだうちの庭に出たことないよね?」
「ああ。ない。」
「この屋敷の庭ってすごいんだよー。跡部が管理してるんだけどね、花とか木がいっぱい
あるんだ。」
「へぇー、そうなんだ。」
ジローは玄関からではなく裏口から庭へと出た。どうやら表の庭より裏庭の方がすごいら
しい。
「うわあ・・・」
宍戸は目の前に広がった光景に息を呑んだ。見たこともないほど、色とりどりでたくさん
の花が庭を覆っている。端には大きな木、中央には蔓植物のアーチと植物しかないのに、
それ自体がまるでわざとそういうように作られたオブジェにも見ることが出来る。
「こんなにいっぱいの花初めて見た。」
「ね、すごいでしょ!!跡部って、吸血鬼のくせにこういうの好きなんだよねー。キレイ
な花とか芸術品みたいなのとか。俺はあんまりこういうの育てるの得意じゃないんだけど
この場所はかなり気に入ってるんだ♪」
真ん中の方にテクテクと歩いて行きながら、ジローはこう話す。そのあとを樺地と宍戸は
後ろからついていくように歩いた。
「ここのベンチとっても気持ちEーよ。風がスゴク涼しいんだ。」
ジローは一際大きな木の下にあるベンチに腰かけた。樺地も続けてそこに腰をおとす。
「宍戸も座りなよ。」
「えっ、うん。」
宍戸もそのベンチに座った。そこは庭全体が見渡せるようになっているのか、かなり広い
範囲を眺めることが出来る。その景色にふぅと宍戸は小さな溜め息をついた。
こんな景色が家の庭にあるなんてすげーよな。いいなあ・・・ジローの奴。ずっと前から
この家に跡部と住んでるんだもんな・・・。
そう思った瞬間、宍戸は胸の奥が少しチクッとしたような気がした。変なのと思いつつも
気のせいだろうと思い、特に気には止めなかった。しばらく黙ってこの目の前に広がる景
色に浸っているとジローがいきなり話し始める。
「なあ、宍戸。」
「何?」
「宍戸さあ、跡部のこと好き?」
「へっ!?」
唐突な質問に宍戸は驚きの声を上げる。
「俺、宍戸にもっと跡部と仲良くなって欲しいと思うんだ。」
「な、何で?」
「俺ね、樺地が好きなの。」
本人がいる前でジローは屈託のない笑顔を浮かべながらそう言った。樺地はそれを聞いて
も特に表情が変わらないので、何を考えているのか全く検討がつかない。
「樺地はさあ、もとは跡部んちの執事っていうか使用人だから、跡部の言うことは絶対に
聞くんだ。」
「うん。」
「だから、樺地はいつも跡部に取られちゃうんだよ。でもね、最近宍戸がここに来てから
跡部は宍戸のことばっかり考えたり話したりで樺地にあんまりものを頼まなくなったの。」
「そうなのか?」
「うん。樺地に自由な時間が増えれば、それだけ俺は一緒に樺地といられる。だから、俺
的に宍戸と跡部がもっとラブラブになって欲しいなあって思うわけ。」
真っ青な空に浮かぶ雲を見上げながら、ジローは宍戸に説明した。何だかとても自分勝手
な都合だなあと思う一方で、宍戸はどこかほっとするような奇妙な感覚を感じた。
あれ?俺、何でこんなにほっとしてるんだろ?ジローは樺地が好きで、俺と跡部がラブラ
ブになればいいと思ってて・・・・?
自分と跡部がラブラブになるということを考えた瞬間、宍戸の顔はかあっと赤くなった。
それにジローがすかさずつっこむ。
「宍戸、顔真っ赤だよー。どうしたの?」
「な、何でもねぇ!!何か勝手にこうなっちまった。」
「ふーん。暑いのかなあ?」
「と、とにかく、屋敷に戻ろうぜ。」
「うん。いいよ。もうすぐあいつらも来るだろうしね。」
「あいつら?」
「うん。今日、俺の友達がうちに遊びにくるんだ。ね、樺地。」
「ウス。」
今日はこの家に誰かが遊びに来るらしい。屋敷に戻る道を歩きながら、宍戸はさっき自分
の顔があんなにも赤くなってしまった理由を考えた。だが、答えは見つからない。こんな
ことを真剣に考えていてもしょうがないので、宍戸はそんなことはどうでもいいやともう
気にしないことにした。宍戸自身はまだ気づいていないが、確かに跡部に対して小さな恋
心が芽生えている。それは、このあとのことで次第に気づいていくのであった。
「ジロー、遊びに来てやったぜ。」
「あっ、岳人に忍足、いらっしゃい。」
「あれ?今日は跡部の奴いないんか?」
「うん。今ちょっと外出中。」
「それよりさ、早くあれやろうぜ。俺、すげぇ楽しみにしてたんだ。」
ジローを尋ねてきたのは、赤い髪でオカッパの方が座敷わらしの向日岳人で、眼鏡で関西
弁の方が鬼の忍足侑士。今日はみんなで銀細工をすると約束していたので、それが出来る
部屋へと向かった。
「宍戸も来なよ。みんなで銀細工やるんだ。教えてあげるよ。」
「いいのか?」
「当たり前じゃん。ほら、早く。」
「あ、ああ。」
ジローに急かされて宍戸は慌てて4人の後を追った。こんなにたくさんの仲間と何かをし
ようとするのはこれが初めてだったので、少し緊張気味だ。
何かすごい不思議な感じだ。ついこの間まで、いっつも一人だったのに・・・。でも、こ
れはこれで結構楽しいかも。
仲間がいるということが嬉しくて、宍戸はほのかに笑顔になった。他の4人は端から楽し
ようで、とっくのとうに笑顔が溢れていた。とある扉の前まで来ると、ジローは鍵を使っ
てそこを開ける。中は普通の部屋というよりは、いろいろな器具が置いてあったり、ガス
バーナーが置いてあったりと何だか理科かなにかの実験室のようだ。
「よーし、じゃあ始めようぜ。」
『おう!!』
「まず、材料はここにあるから使う分だけとって。」
ジローは棚から材料を取り出すと机の真ん中にそれを置いた。岳人と忍足は何度かやった
ことがあるようで、自分が使いたい量だけそれを自分の手元に取る。どうすればいいのか
分からず、困惑している宍戸に樺地がある程度の量の銀を取ってあげた。
「あっ、サンキュー樺地。」
「ウス。」
「侑士、今日は何作る?」
「せやなあ、指輪とかどないや?」
「いいね、それ。じゃあ、作ったら後で交換っこしようぜ!」
「ええよ。」
岳人と忍足はもう作るものも決めて早速作業をやり始めた。樺地も既に決まっているよう
で、たんたんと作業を進めていく。
こんなの渡されてもどうすればいいか全然分かんねーよ。どうすりゃいいんだ?
宍戸が銀の塊を目の前にして何も出来ずにいると、ジローが声をかけ、やり方を説明しだ
した。
「宍戸は初めてだからね。まずはペンダントトップとかがいいと思うよ。」
「ペンダントトップ?」
「うん。ほら、首飾りの一番中心にある奴。あれが一番簡単だと思うから。」
「えっ、でも俺、どうやって作るか分からない・・・。」
「銀を熱で溶かして、作りたい形をつくるんだよ。そんなに難しくないからやってみなよ。」
「おう、分かった。やってみる。」
ジローや岳人を見て、見よう見まねで宍戸も作り始めた。ジローの言った通り、銀は熱を
加えると簡単に形が変わり、いろいろな形を作ることが出来る。
おー、すげー。ホントに形がいろいろ作れるよ。そうだ!これで作った奴、景吾にあげよ
う。喜んでもらえるといいなー。
好きな形を作りながら、宍戸はこれを跡部にあげようと考えた。ジローや樺地、岳人や忍
足もちゃくちゃくと自分の作りたいものを出来上がらせてゆく。その出来はみななかなか
すごいものであった。
『出来たー!!』
それぞれ自分の作ったものが完成したようだ。岳人と忍足はその完成した指輪をお互いに
交換しあう。
「はいVv侑士♪」
「ピッタシやな。岳人、おおきに。」
「どういたしまして。あっ、侑士のくれた指輪もピッタリだよ。」
ラブラブな雰囲気を醸しながら、指輪交換をしあう二人を尻目にジローも樺地に作ったブ
レスレットをあげていた。
「樺地、プレゼントー♪」
「ウス。」
普通にプレゼントと言ってあげているそのブレスレットは既製品と何ら変わらず、むしろ
このブレスレットの方がデザイン的にも豪華さ的にも勝っているくらいの代物だ。
「ジロー、すごいな。何かプロの人が作った奴みたい。」
「俺、手先の器用さには自信があるんだ。そうだなあ・・・例えていうなら『神に愛され
た手首』って感じ?」
ニカッと笑いながら、ジローは言った。宍戸は自分の作ったものに目を落として、ハァと
溜め息をつく。
「俺の何か失敗しちゃった。変だよな?」
宍戸が作ったペンダントトップは四つ葉のクローバーの形をしている。確かに形は少し歪
ではあるが、なかなかイイ感じの雰囲気を醸し出している。
「そんなことないよ。何か一生懸命作りましたーって感じがすごく出てる。それ、跡部に
あげるんでしょ?」
「えっ!?何でそれ知って・・・」
「だって、作ってる時の宍戸の顔、すごく一生懸命で楽しそうだったんだもん。自分のた
めに作るんだったらあんな表情出来ないよ。」
「うっ。」
俺そんな顔してたんだ。うわあ、何か恥ずかしい・・・。でも、まあそんなにおかしくな
いっつーんだったら、景吾にあげても大丈夫だよな。
宍戸は自分の作ったペンダントトップを手の平に乗せ、じーっと眺める。それを見ていた
ジローは宍戸に黒の皮のひもを渡した。
「はい。」
「何だよ?これ。」
「これに通してちゃんとしたペンダントにしたらいいんじゃない?その方がプレゼントっ
ぽいでしょ。」
「そうだな。サンキュー。」
宍戸はそのひもを受け取るとクローバーのペンダントトップに通す。そうしたことによっ
て、さっきよりも数倍ちゃんとしたものに見えるようになった。
これなら大丈夫そうだな。早く景吾帰って来て欲しいなー。
出来上がったペンダントをズボンのポケットに入れ、宍戸はなんとなく笑顔になりながら、
廊下に出るためのドアの方を見た。
銀細工作りが終わると5人は一番大きな部屋に行き、他のことをして遊び始める。さっき
のことでかなりの集中力を使ってしまったので、何かをして遊ぶというよりはソファに座
りながら、談話をするという感じだ。
「ジローから話は聞いとったけど、本当人間の姿しとるんやな。」
「俺もちょっとビックリ。もっと猫っぽいのかと思ってたもん。」
忍足や岳人はジローから宍戸の話を聞いていたようで、本人に会った感想などを口々に話
す。
「跡部はもう宍戸のことすごく大事にしてるんだよ。この間まで自分のベッドで宍戸のこ
と寝かせてたもん。自分は客室の方で寝てさ。」
「へぇ。跡部がそんなことするなんて信じらんねぇ。すごいなお前。」
岳人は驚いた表情で宍戸を見た。そう言われても宍戸はどう反応していいのか分からない。
なので、思いつくままに話題を変えてみる。
「そんなことよりさ、岳人と忍足って人間なのか?それともジローや景吾みたいに他のも
のなのか?さっきから気になってたんだけど。」
「ああ、俺は座敷わらしだよ。関わった奴はみんな幸せになれるんだぜ。」
得意げに岳人は言う。続けて忍足も自分のことについて話した。
「俺は鬼。鬼っていうても別に人を襲ったりせえへんけどな。ちゃんと角もあるんやで。」
「うそ!?マジで!?」
「ああ。何なら触ってみるか?」
そういうと忍足は自分の頭に宍戸の手を持っていく。髪の毛に隠れて外からは見えないが
触ってみると確かに小さな角が二本生えている。
「すっげー!!」
「別にそんなすごいことあらへんよ。」
宍戸は素直に感動するが、忍足は照れながらさらっとこう返した。みんなでこんな他愛も
ない会話をしていると跡部が外から帰って来る。ちょうどその時、ジローが髪が伸びたよ
ねーと宍戸の髪を触っていた。
「ただいま。」
「あっ、おかえりー、跡部。それにしても、宍戸髪伸びたねー。ここに来たときはすごく
短かったのに。」
「そうか?」
「うん。すごく伸びるの早いよ。」
「キレイな髪やな。つやつやで完璧な黒髪なんて女の人でもそう滅多にあらへんで。」
「うん。いいなあ。ねぇ、ちょっと俺にも触らして。」
ジローの言葉から岳人や忍足も宍戸の髪に興味を持ち、キレイだと言って触りまくる。跡
部はその光景を見て、何となく腹が立った。宍戸も宍戸で楽しそうにしているので、余計
にイラついてしまう。独占欲が強い跡部のこと。自分がいない間に宍戸が取られてしまっ
たようで、その3人に思いきり妬いているのだ。
「俺、部屋に行ってるから。」
「あー、うん。岳人達が帰ったら夕飯にするから、7時くらいになったら下りてきてね。」
「・・・ああ。」
あからさまに跡部の機嫌は悪くなっている。そのことに気づいた岳人や忍足は早めにここ
から撤退した方がいいと考えて、帰る準備をし始めた。
「ジロー、俺達もうそろそろ帰るな。」
「今日は楽しかったで。また遊ぼうな。」
「うん。じゃあね、気をつけて。」
「宍戸もバイバイ。」
「おう。じゃあな。」
軽い別れのあいさつをすると5人はお互いに手を振り合った。岳人と忍足が帰るのを見送
るとジローも部屋に戻り、樺地は夕飯の用意をし始めた。
夕食時、ジローと樺地は跡部の機嫌が相当悪くなっていると気づいているので、かなり気
まずいと感じていた。だが、宍戸はそんなことには全く気がついていない。今日あったこ
とをそれはそれは楽しそうに跡部に話す。
「でさ、ジローとか岳人とかみんなで銀細工作って、その後、たくさん話したんだぜ。」
宍戸にとってはこんなにも多人数で遊ぶというのは経験したことがなかったので、今日の
出来事が楽しくて楽しくてしょうがないのだ。だが、聞いている跡部の顔はさらに不機嫌
になってゆく。
カシャン!!
フォークを皿の上に置き、食べていた夕食を残して、跡部は立ち上がった。そして、何も
言わずにそこから出て行く。その態度と表情からさすがの宍戸も跡部が相当怒っていると
いうことに気がついた。
「あーあ。やっぱり出てっちゃったか。」
「ジロー・・・俺、何か悪いこと言ったか?」
とてつもなく不安げな表情で宍戸は尋ねる。ジローはふぅっと溜め息をついて、跡部が出
て行ったドアの方を見ながら宍戸の質問に答えた。
「別に宍戸は何にも悪くないと思うよ。跡部も結構やきもち焼きだからねー。」
「俺、景吾に嫌われちゃったのかな・・・・。どうしよ、ジロー!!」
「大丈夫だよ。別に宍戸が嫌いだからああいう態度とってるわけじゃないし。むしろ、そ
の逆かもね。そんなに心配だったら後で跡部の部屋に行ってみたら?」
「えっ、でも・・・・」
「ほら、さっきのペンダントも渡さなきゃいけないでしょ。宍戸だったら、大丈夫だよ。
俺が行ったらすごく怒られちゃうかもしれないけどね。」
おそらく跡部の機嫌が悪くなった原因は自分にあるなあと思い、ジローは苦笑しながら宍
戸にそう話した。だが、宍戸はいまだに不安そうな顔をしてうつむいている。
でも・・・景吾のとこ行って、追い出されちゃったらどうしよう・・・。嫌だ、そんなの。
何で景吾、あんなに怒ってんだよ・・・。
跡部が怒っている理由が分からない。嫌われてしまったかもしれない。考えれば考えるほ
ど、宍戸の顔は今にも泣いてしまいそうな表情になってくる。だが、このまま何もしない
わけにはいかないので、宍戸は後で跡部の部屋に行くことを決めた。
夕食を終え、シャワーなども済ませてしまうと、宍戸は勇気を振り絞って跡部の部屋の前
に来た。今日作った銀細工の四つ葉のクローバーを手で握り締め、大きく深呼吸をして、
ドアを叩く。
「誰だ?」
中から不機嫌そうな声が聞こえた。跡部の機嫌はいまだに悪いようだ。
「亮・・・だけど・・・」
「入れ。」
入室の許可がもらえたので、宍戸はゆっくりドアを開け、跡部の部屋に入る。
「どうした?亮。」
「あっ・・・えっと・・・景吾、ゴメン!!」
「おいおい、何でお前が謝るんだよ?」
いきなり謝られ、跡部は不思議そうな顔をする。機嫌が悪かったのはジローや岳人、忍足
が宍戸とあまりにも仲よさ気にしていたからなのであって、宍戸が悪いなどとは全くもっ
て思ってはいない。
「だって、景吾何か怒ってるみたいだったから。俺が悪ぃのかなあって思って・・・。俺
バカだから何が悪いか分かんないんだけど、謝るから。俺のこと嫌いにならないでっ!!」
「亮・・・。」
こんなことを言われるなんて思ってもみなかったので、跡部は茫然としてしばらく何も言
えないでいた。だが、宍戸が今にも泣いてしまいそうな顔でこちらを見つめているので、
宍戸の近くまで歩いて行き、ポスンと頭に手を置いた。
「謝んなくちゃいけねーのはこっちの方だ。」
「えっ・・・?」
「ジロー達があんまりお前と仲良くしてるのが、少しムカついたんだ。いわゆる嫉妬って
やつだな。お前が今までずっと一人でいたの知ってたのに、今日みたいなことがすげぇ楽
しいって感じることだって分かってたのに、あんなふうな態度とっちまった。悪かったな。」
「えっ、じゃあ、俺のこと嫌いになったわけじゃねぇの?」
「当たり前だろ。お前のこと嫌いになるわけねーじゃねぇか。」
これを聞いて宍戸の表情は一気に明るくなった。そして、ハッと思い出したようにポケッ
トから今日作ったペンダントを取り出す。
「えっと・・・これな、今日ジローに銀細工を教えてもらって作った奴なんだけど、ちょ
っと失敗しちまって、変なんだけど・・・もらってくれるか?」
オドオドしながら、宍戸は銀で出来た四つ葉のクローバーを跡部の前に差し出した。跡部
はそれを受け取り、嬉しそうに笑う。
「うまいじゃねーか。初めてにしちゃ上出来だ。」
「もらってくれるのか?」
「当然だろ?サンキュー、亮。」
人にものをあげたことなど今まで一度もなかった宍戸は、人にプレゼントをして喜んでも
らえることがこんなにも嬉しいことだとは思ってもみなかった。その嬉しさにしばらく浸
っていると、跡部も引き出しから何かを出す。
「俺も今日、お前にプレゼントを買ってきてやったぜ。」
「マジで?」
「お前、だいぶ髪が伸びただろ。だから、それを束ねるゴムと・・・」
跡部はまず真っ赤なゴムを宍戸の手に置き、もう一つのプレゼントを小さな紙袋から取り
出した。
「鈴のついたリボンだ。」
小さな金色の鈴がついた赤いリボンを跡部は宍戸の首に巻いた。正面から見ると首輪のよ
うにも見えるのだが、後ろからみるとリボン結びになっているので、かなり可愛らしいア
クセサリーだ。
「やっぱ似合うな。」
「本当か?」
「ああ。最高に可愛いぜ。」
「ありがと、景吾。俺、すげぇうれしい!!」
帽子を買ったとき以上の笑顔を跡部に見せ、宍戸は心から跡部のプレゼントに喜んだ。そ
の顔を見た跡部も何だかうれしくなり、笑顔のままで自分のベッドに腰かける。
うわあ、何か今激幸せー!!あー、このまま跡部と一緒に寝たりとか出来たらいいのにな
あ。ジローの言う通り、俺やっぱ跡部のこと好きかも。一緒に寝るのダメもとで頼んでみ
ようかな・・・。
ここらへんでやっと宍戸は自分が跡部のことをすごく好きだと思っていることに気がつい
た。そうなってしまったら、いろいろともっとして欲しいことが出てきてしまう。今の状
態がすごく幸せなので、これがもう少しつづけばいいなあと一緒に寝ることを頼んでみる
ことにした。
「景吾・・・お願いがあるんだけど。」
「何だよ?」
「今日、一緒に寝ちゃダメか?」
「・・・・・。」
跡部は自分の耳を疑った。宍戸からそんなことを言ってくるなんて思ってもみなかったか
らだ。だが、こんなチャンスを逃すはずがない。跡部は内心メチャクチャ動揺しながら、
表面上はクールに見せて宍戸に向かって手を差し伸べた。
「いいぜ。今日は一緒に寝るか。」
「本当にいいのか!?」
「ああ。ほら、来いよ。」
やったー!!頼んでみて正解だ。嬉しいけど、すっげぇ心臓ドキドキしてる。こんなにド
キドキしてたら、景吾にバレちゃうかなー。う〜、でも、これはもう一緒に寝るしかない
よな。
宍戸はドキドキしながらも跡部の布団に入った。入った瞬間、宍戸の体は跡部の腕の中。
いきなりこんなことをされるとは思っていなかったので、宍戸の鼓動のスピードはさらに
速くなる。
「亮、好きだぜ。」
「景吾・・・。」
好きだと言う跡部の心臓もかなりドキドキしている。それは体の触れ合っている部分から
しっかりと宍戸に伝わった。おそらく自分の鼓動もこんなふうに跡部に伝わっているのだ
ろうと思うと、自然と顔が赤くなってしまう。
「俺も・・・」
「ん、何だ?亮。」
「俺も景吾のこと・・・好き。」
腕の中から跡部の顔を見上げながら宍戸は呟く。跡部は本当に嬉しそうに笑った後、目の
前にある可愛い黒猫の唇にそっと口づけを施した。
「ん・・ぅ・・・」
その味わったことのない甘い甘い感覚に宍戸はこのまま溶けてしまうのではないかという
錯覚さえも覚える。全てを心地よいと感じる幸福感と溶けてしまいそうなほど甘いめまい
の中、二人は春色の夢の中へと落ちていくのであった。
to be continued