☆乙女100%★ 中編

「あれ?跡部じゃん。」
「岳人に跡部、どうしたの?こんなとこで。」
「俺は宍戸に呼び出されたんだ。テメェらこそ何なんだよ?」
「俺は長太郎に呼び出されて。」
「俺も侑士にここへ来いって言われたぜ。」
「よーし、到着〜!って、あれ?跡部達、何してんのこんなところで?」
全員な同じ場所に呼び出したために、チョコを受け取るメンバーは待ち合わせ場所でハチ
合わせする。まさかここまで完璧にそろうとは思っていなかったので、かなり不思議そう
な顔で、お互いの顔を見た。
「どういうことなんだろうな?」
「たまたま、なんてことはないよね、きっと。」
「ジローは誰に呼び出された?」
「俺は樺地ー。何かね、バレンタインのプレゼントくれるって。」
「あっ、俺も同じ。」
「俺も同じだぜ。バレンタインのチョコ渡したいからここに来いって。」
「俺様も宍戸に同じこと言われたぜ。アイツら何かたくらんでやがるな。」
ここまで何もかもが同じであると、何かをたくらんでいるに違いない。跡部はそう考える。
これからどんなことが起きるのかドキドキしながら、そこにいるメンバーは宍戸や忍足達
が来るのを待つ。
「おっ、もう跡部達そろってるみたいだぜ。」
「ホンマやな。どうやって出てく?」
「普通でいいと思いますけど。遅れてゴメンナサイみたいに。」
「ウス。」
約束の場所に呼び出した四人が既にいるのを見て、緊張感とわくわく感は最高潮だ。どん
な反応をしてくれるかを楽しみにしながら、宍戸、忍足、鳳、樺地は軽く駆け出した。
「悪ぃ、ちょっと遅くなっちまった。」
「悪いなあ。準備に手間取ってまって。待ったか?岳人。」
「遅れてスイマセン。俺から呼び出しといて。」
「ウ、ウス。」
『・・・・・・・・・』
そこに来たメンバーを見て、待っていた跡部達は絶句する。声としゃべり方、態度はその
ままなのだが、容姿がありえないことになっている。これはどう反応していいか分からず、
しばらく固まってしまった。
「えっとぉ、長太郎・・・だよね?」
一番初めに口を開いたのは、滝だった。白い帽子を被った背の高い可愛らしい女の子の前
に立ち、そんなことを尋ねる。
「はい。今日はバレンタイン・デーなので、めいいっぱいおめかししてみたんですけど、
おかしいですか?」
ニコッと笑いながら頷く鳳に滝は撃沈。今自分は夢でも見ているのではないかと、目と耳
を疑ってしまう。
「鳳、やるやないか。」
「あんなに嫌がってたわりにはノリノリだよな。」
コソコソとそんなことを話していると、滝に続いて、跡部や岳人も宍戸と忍足に声をかけ
る。
「宍戸。」
「何だよ?」
「その格好はどういうことだ?」
「どういうことだって言われてもなあ。今日はバレンタインだから、ちょっとサービスし
てやろうと思ってよ。どうだ?似合うだろ?」
いつもなら女装などさせようとするならば、全身を使って抵抗する宍戸が、今日は自らこ
んな格好をしてきてくれている。跡部はぶっとびそうな理性を必死で保ちながら、宍戸の
言葉に頷いた。
「侑士もどうしちゃったの?マジ誰かと思っちゃったよ。」
「どや?似合うやろ?」
「うんうん。もう似合うなんてもんじゃないぜ。傍から見たら普通に女の子だって。」
「おおきにな。岳人に褒めてもらえると嬉しいわ。」
ニッコリ笑顔でそんなことを言う忍足を見て岳人はもうときめきまくり。こんな嬉しいこ
とがあってもいいのかとテンションも上がりまくりだ。
「あー、えっと・・・アイツらがそうだってことは、樺地・・・だよね?」
「ウ、ウス。」
一番容姿が変わってしまっている樺地を見上げながら、ジローは恐る恐る尋ねる。ジロー
があまりにも戸惑ったような顔をしているので、樺地もドキドキしてしまっている。しか
し、それが樺地だと分かるとジローは嬉しそうな驚嘆の声を上げた。
「うっわあ、マジマジすっげー!!樺地、超美人だC〜vvモデルみてぇー。」
ジローに褒められ、樺地は真っ赤になりながらうつむく。ジローの言葉を聞いて、跡部や
滝、岳人もそちらの方を振り返った。
「うわー、あれ、マジで樺地?」
「変わるもんだね〜。」
「樺地もやるじゃねぇの。」
樺地の変わりっぷりに跡部達も感心する。それは、宍戸達も十分に認めていることなので、
視線がそっちに行ってしまうのも仕方ないと自分達もそちらの方に目をやる。かなり凸凹
カップルではあるが、あれはあれでお似合いだ。
「樺地ー、そのままの格好でデートしねぇ?俺超したいC〜!!」
「えっ・・・」
さすがにそれはすぐには頷けなかった。ただでさえこの格好が恥ずかしいのに、それで街
に行くなどそうそうしたいとは思わない。困った顔をしていると、ジローは少し考えるよ
うな仕草を見せ、あっと思いついたように言葉を発した。
「あっ、じゃあさ、街とか人の多い場所には行かないで、カラオケとか行った後、家に行
くってのは?」
「それなら・・・・」
「それええな。俺らも行かへん?カラオケ。」
「賛成!この格好で行ったら超盛り上がりそうだしな!!」
ジローと樺地の会話を聞いていて、その会話に割りこんできたのは岳人&忍足ペアだ。ど
うせカラオケに行くならみんなで行った方が楽しそうだとジローは樺地以外のメンバーも
誘い始める。
「跡部とか滝は来るー?」
「宍戸、どうする?」
「俺はどっちでもいいぜ。どうせ夜は二人なんだし、昼間くらいはみんなで遊んでもいい
んじゃねぇ?」
なかなか嬉しいことを言ってくれる宍戸に跡部はニンマリと顔を緩ませる。そんなことを
言われれば、カラオケでも何でも行ってやるという気にもなる。
「俺も行きたいなあ。長太郎も行くよね?」
「みんなが行くならもちろん行きますよ。」
「じゃあ、みんなで行こー。それから別々でデートとかすればいいよね!」
『おう!』
そんなわけで、ひとまずみんなでカラオケに行くことになった。それぞれ彼女の手を取り、
歩き始める。いつもとは違う雰囲気にそこにいる誰もが胸を躍らせていた。

カラオケBOXに到着すると、八人は大部屋に入って各々好きなように座る。それぞれペ
アで座るとまずは忍足がある曲を迷わずに入れた。
「まずはこれを歌わんとな。宍戸、鳳、樺地、一緒に歌うで。」
「へっ?」
「何をですか?」
「ウス?」
いきなり歌えと言われてもと戸惑う三人だったが、前奏が流れて忍足の意図することがす
ぐに理解出来た。初めにマイクを渡されたのは、樺地と鳳だ。突然のことで、少々慌てる
二人であったが、曲が始まると反射的に歌いだす。
「シャラララ素敵にキッス シャラララ素顔にキッス♪ シャラララ素敵にキッス シャ
ラララ素顔にキッス♪」
コーラスの部分を樺地と鳳で歌い終えると、続けて忍足が歌いだす。ある程度のところま
で歌うと忍足は宍戸にマイクを渡す。
「甘い甘い恋のチョコレート あなたにあげてみても♪ 目立ちはしないから 私、ちょ
っと最後の手段で決めちゃう♪」
『バレンタイデー・キッス♪ バレンタイデー・キッス♪ バレンタインデー・キッス♪
リボンをかけて・・・・・』
宍戸がワンフレーズ歌い終えると、サビの部分はマイクを回しながらみんなで歌う。二番
に入るとそれぞれ自分のパートナーの隣に座って、じっとその顔を見ながら歌い始める。
一番の盛り上がりの部分に入ると宍戸は、マイクを他のメンバーに渡して、自分は跡部の
首に腕を回す。跡部は不思議そうな顔をしながらも宍戸の腰に腕を回した。
「何だよ?」
「とっておきのシャレたチョコレート それは私の唇♪ あなたの腕の中 わざとらしく
瞳をつむってあげちゃう♪」
そう歌いながら宍戸はその歌詞の通り、跡部の腕の中でわざと目をつむってみせた。いつ
もとは違う可愛らしいピンクの頬にピンクの唇。こんな近距離で、そんな顔を見せられた
ら、もうキスをしてくれと言っているようなものだ。
「バレンタイデー・・・・・ぅ?」
我慢出来ずに跡部は宍戸の唇を塞ぐ。まさにバレンタイン・キッス。軽くした後で唇を離
すと、宍戸は恥ずかしそうに笑う。
「へへへ、バレンタイデー・キッス 大人の味ね♪」
ちょうどサビの部分の最後で離されたので、宍戸はそれに続けるように歌を続けた。あま
りにも可愛い反応をしてくれる宍戸に跡部はもうメロメロ。思わずもう一度キスをしてし
まう。曲はちょうど長い感想部に入るので、今度は軽いものではなくある程度深いものだ。
本当はセリフを入れるべき部分なのだが、跡部と宍戸のやりとりを見ていて、そんなこと
はすっかり忘れてしまう。
「宍戸さんって、こういう状況になると意外と大胆なことし始めますよね〜。」
「ウス。」
「負けてられへんなあ。」
『えっ!?』
ぼそっと呟く忍足の言葉に鳳と樺地は驚きの声を上げる。そこでその言葉が出るかとつっ
こみたかったが、一応忍足は先輩なのでそれを口に出すのは抑えた。
「あの日からよ恋のチョコレート♪ 銀紙ちょっと開いて 気持ちを確かめて♪ 誰もみ
んな素敵なロマンスしちゃうの♪」
そう歌いながら忍足はさっきの宍戸と同じように岳人の首に腕を回し、ニコッと笑ってみ
せる。そんな忍足に岳人はドッキドキ。次のフレーズを歌い、忍足は岳人の唇にちゅっと
キスをする
「っ!?」
「バレンタイデー・キッス♪ バレンタイデー・キッス♪ 恋の記念日・・・・」
残りのコーラスは他のメンバーに任せ、サビを歌い終えると忍足はボソボソと岳人の耳元
で何かを囁く。
「マジで!?」
「ああ。どや?悪い話やないやろ?」
「うんうん!うっわあ、超楽しみだし〜。」
忍足の言葉を聞いて、岳人は驚きながら嬉しそうな顔をする。何を言ったんだろうとハテ
ナいっぱいで他の面々は二人を見る。
「何か宍戸さんも忍足さんもすごいよねー。」
「ウス。」
「ねぇねぇ、樺地は宍戸とか忍足みたいなことしてくれないのー?」
「そうだね。してもらえたら嬉しいなあ。」
「えっ、えっとぉ・・・」
「ウス。」
「えー、樺地!?」
あっさり頷く樺地にビックリ。どうするのかとドキドキしながら見ていると、少しためら
った後、ジローの頬っぺたに軽くキスをした。樺地にとってはこれが精一杯で、あっさり
頷いたわりに、鼓動は宍戸や忍足とは比べ物にならないほどドキドキと速くなっている。
「うわあ、樺地にちゅうしてもらっちゃった!うれC〜!!」
「長太郎は?」
「はい、あの・・・」
樺地までもしたのだから、自分もしないわけにはいかない。真っ赤になりながら、滝の顔
を見る。その表情が可愛いと滝はニコニコしながら、鳳が何かをしてくれるのを待った。
「じゃあ・・・」
「うん。」
思いきって鳳は滝にキスをした。しかし、その場所は頬でもなく唇でもないようなギリギ
リの境。そのキワドイ部分へのキスは素直に唇にされるより、何故かドキドキする。
「ご、ごめんなさい。本当は唇にしたかったんですけど、ここじゃ恥ずかしくて・・・」
「い、いや、全然いいよ!何か素直に唇にされるより、すっごいドキドキする・・・」
思わず滝も真っ赤になってしまう。照れまくってる二人を見て、他のメンバーはくすくす
笑う。
「何や随分初々しい反応しとるなあ。」
「滝の奴、珍しいー。」
「女装してるからやっぱいつもと違う感じがすんじゃねぇのか?なあ、跡部。」
「そうだな。なあ、やっぱ早めにカラオケは切り上げてよ、二人きりになれるような状態
にしねぇ?」
「そうだねー。みんながいても楽しいけど、せっかくのバレンタインだC〜。」
「ウス。」
それぞれがラブモード全開になってくると、やはり二人きりでいろいろしたくなってしま
う。カラオケは一時間くらいで切り上げ、あとは家に行くなり、他の場所でデートをする
なり、それぞれがペアで好きなようなことが出来ると別行動をすることになった。
「さてと、宍戸。テメェはどこに行きたい?」
「やっぱ跡部の家かなあ。チョコはそこで渡してやるよ。」
「俺らはどこ行く?」
「せやなあ・・・俺んちも岳人んちも姉貴がいるし。邪魔されるの嫌ややしなあ・・・」
「あっ、じゃあ、学校は?レギュラーの部室なら、誰も来ねぇだろ。跡部、鍵貸してー。」
「仕方ねぇなあ。今日だけ特別だぞ。」
今日はバレンタイン・デーということで、跡部は素直に鍵を貸してやった。
「やりぃ。じゃあ、行こうぜ、侑士!」
「ああ。」
「長太郎、俺達はどうする?」
「俺の家でいいですか?今日、俺の誕生日なんで、母さんとかがケーキを用意してくれて
ると思うんですよ。」
「あーそうだよね。でも、俺なんかが行っちゃってもいいの?」
「もちろんです。むしろ、来てください。」
「それなら喜んで行かせてもらうよ。」
「樺地ー、俺ねさっきの公園行きたいんだけど、ダメ?」
「別に・・・構いません・・・・」
「んじゃ、そこに行こうー。日向ぼっこしながらチョコ食べようぜ!」
「ウス。」
それぞれ行く場所が決まると、お互いに手を振り合ってその場所へと移動し始める。これ
からが二人の時間。彼女側が本当に女の子に見えるといういつもとは違うバレンタイン。
二人きりになったら、みんなの前では見せないような表情や態度もきっと見えてくるだろ
う。

                     to be continued

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