朝日が昇り、さわやかな朝がやってきた。ここはとある都内の一角。いつも通りに一日が
始まる。
in 跡部家
「ふあ〜、もうこんな時間か。さてと、朝飯と弁当作んなきゃな。」
ここは跡部の家。一戸建てでかなり大きな家だ。目覚ましの音でベッドから起きだしたの
は跡部の妻、宍戸である。宍戸は洋服に着替えエプロンを着けて、キッチンへと向かった。
「今日の弁当何にしようかなあ。そういや確か冷蔵庫に牛肉が残ってたな。」
キッチンに立つと慣れた手つきでまず弁当を作り始める。色とりどりの野菜と牛肉を使っ
て見た目も味もバッチリなメニューが出来上がった。
「うん。オッケーだな。あとはこれを弁当箱に詰めてっと。」
でも、これだけじゃ足りねぇよな。色合いもいまいちだし。他に何かなかったけ?
宍戸はもう一度冷蔵庫を開ける。跡部の家とあって大抵のものはほとんどそろっている。
「久々に卵焼きでも作ってやるか。」
卵を割り、たくさん空気が入るまでかき混ぜてフライパンで焼く。あっという間にふわふ
わの厚焼き玉子の出来上がりだ。
「よし。こんなもんだろ。」
バランスよく弁当箱に詰めると、大きめのクールなハンカチで丁寧に包んだ。そのまま、
朝食も作りふと時計を見る。
「うわっ、もうこんな時間じゃん。景吾を起こさなきゃ。」
時間はもう七時を回っている。宍戸は慌てて寝室に向かっていった。
「おい、景吾朝だぜ。起きろ。」
「うーん・・・」
「早く起きねーと遅刻するぜ。うわっ!!」
寝ぼけているのか跡部は宍戸に手を伸ばし自分の方へ一気に引き寄せた。そしてそのまま
口付けをする。なかなか離さない跡部の頭を宍戸は軽く小突いた。
「いってぇ、何すんだよ亮。」
やっと宍戸を離し、跡部は叩かれた頭に手を当てながら言った。
「それはこっちのセリフだ!!」
宍戸も反論する。
「まあ、いいや。もう朝飯出来てんのか?」
「当然だろ。ほら、早く用意しねーと遅れるぜ。」
「はいはい。」
顔を洗ったり髪をセットしたりと一通り身支度を整え、パジャマのまま跡部はキッチンへ
と向かった。用意された朝食を前にして跡部はイスに座った。
「亮、コーヒー。」
「はいはい。お前今日はパンとご飯どっちにする?」
「パンにしてくれ。」
「オッケー。」
いつも宍戸は朝はパンなのだが、跡部はそれが定まっていない。跡部に言われた通りパン
を用意し、コーヒーを入れテーブルに置いた。
「はい。コーヒー。」
「サンキュー。やっぱお前の入れるコーヒーは格別だな。」
コーヒーを口に含み、跡部はうれしそうに笑った。宍戸はちょっと照れながらトーストを
かじる。
「毎日毎日入れてりゃ景吾の気に入る濃さとか味とか嫌でも覚えるっつーの。」
「そりゃどーも。」
「それよりお前時間大丈夫なのか?まだ着替えてもねぇじゃん。」
そう言われて跡部は壁にかかっている時計を見た。時間の針はもうすぐ八時をさそうとし
ていた。
「うわっ、ヤベェ。」
まだ着替えもしていない跡部は慌てて朝食を食べ、着替えに向かった。アイロンのかけら
れたYシャツを着て、スーツを羽織る。ネクタイを締めようとした時、宍戸が部屋に入っ
てきた。
「大丈夫か?跡部。」
「ああ。あとはネクタイだけだ。」
「ネクタイ締めてやるよ。」
エプロンを着た宍戸がスーツ姿の跡部のネクタイを締める。その光景はまさにラブラブな
新婚夫婦ですというような感じだ。
「よし、終わり。」
「サンキュー、亮。」
跡部は目の前にある宍戸の唇に軽くキスをした。
「じゃ、いってくるぜ。」
「いってらっしゃい。・・・あっ、景吾、弁当忘れてるぜ。」
宍戸はさっき自分が作った特製弁当を跡部に手渡す。跡部はそれを受け取り、もう一度宍
戸の唇にキスをした。
「サンキュー。じゃあ、いってきます。」
黒い鞄と青い袋に入った愛妻弁当を持って、跡部は玄関を出た。それを宍戸は笑顔で見送
る。
「さあてと、洗濯して掃除して買い物行くか。」
大きく背伸びをして、宍戸は家の中へ戻り家事をする用意を始めた。
in 滝家
ジリリリリリ・・・・
鳴り始めた目覚ましをすぐに滝は止めた。隣で寝ている鳳も目を覚ます。
「おはよう。長太郎。」
爽やかな笑顔で滝は鳳に言った。
「あっ、おはようございます。」
まだ寝ぼけ眼で鳳は返した。滝の家では仕事に行くのは鳳で家事をするのは滝となってい
るが、どっちが妻でどっちが夫かというのは微妙である。普通なら滝が妻で鳳が夫と言い
たいところだがいろんな面から見るとそれはどうやら逆らしい。
「俺、朝ごはんと弁当作ってくるから、長太郎は会社行く用意しちゃってね。」
「はい。」
滝は朝食と弁当を作るためにキッチンへ向かい、鳳は着替えを始めた。
滝さんやっぱりキレイだよなあ。毎日見てるはずなのに、朝起きたときのあの笑顔。本当
ドキドキしちゃう。
Yシャツに袖を通しながら鳳はさっきの滝の笑顔を思い出し、赤くなっていた。一緒に住
むようになってから、だいぶ時間が経っているはずなのに、二人の関係は普通に付き合っ
ていたときとほとんど変わっていない。いつまでも初々しい恋人同士のままなのだ。
「長太郎ー、朝ごはん出来たよー。」
「はーい、今行きます。」
会社に行くための鞄を持ち、鳳は部屋を出た。キッチンに到着するとテーブルにおいしそ
うな朝食がすでに並べられている。
「長太郎、コーヒーと紅茶どっちにする?」
「紅茶がいいです。」
「紅茶ね。」
二人の朝食はいつも洋風だ。今日のメニューはワッフルにフレンチサラダ、デザートにブ
ルーベリーのソースが添えられたヨーグルトが透明なガラスの器に入っている。それに紅
茶が加わり、まるで映画の中のような朝食だ。
「長太郎、今日は何時くらいに帰ってくるの?」
「たぶんいつもと同じっスよ。七時くらいかな?」
「分かった。じゃあ、夕飯は長太郎の好きなメニュー用意して待ってるね。」
「はい。楽しみにしてます。」
うれしそうな表情で鳳はニコッと笑う。こういう表情にはまだ幼さが残っている。滝はそ
んな鳳を見て顔には出さないが、メチャクチャ動揺していた。
うわあっ、何、今の表情。長太郎可愛い〜Vvこんな顔見せられたら、朝っぱらからテン
ション高くなっちゃうじゃん。
「あっ、そうだ。滝さん。」
「どうしたの?」
「あの、今日すっごく重要な会議があるんですよ。」
「うん。」
「この契約が成立するかしないかで、億単位のお金が動くんです。」
「うん。」
「それで・・・俺、すっごい今緊張してるから・・・」
「分かった。いつものおまじないしてあげるよ。」
重要な会議があるとかなんとかで緊張しているという鳳に滝はあるおまじないをかける。
これは中学の時、試合前などにしていたことで鳳には今でも有効だった。
「目つぶってて。」
鳳の前に立ち、滝はそっと鳳の左手を自分の手に取った。そして指輪のはめてある薬指を
軽く握る。
「長太郎なら大丈夫。絶対できるよ。頑張って。」
そう耳元で優しく呟きながら、何回か左手の薬指を握ったり離したりする。中学の時はこ
れで終わりだったが、今はもう一つすることがある。
「・・・・。」
滝は鳳の唇にそっとキスをして、手を離した。
「どう?少しは落ち着いた?」
「はい。ありがとうございます。」
「本当に長太郎なら大丈夫だと思うよ。だから、頑張ってね。」
「はい!」
すっかり落ち着きを取り戻した鳳は笑顔に再び笑顔になって滝を見た。滝もうれしそうだ。
でも、こんなおまじない一つで億単位の金が動く会議が成功したら、俺って相当すごいよ
なあ。まあ、成功するかしないかは長太郎しだいだし、俺はあんまり関係ないか。
「長太郎、もうそろそろ時間じゃない。」
「あっ、本当だ。じゃあ、もうそろそろ行きますね滝さん。」
「うん。忘れ物ないよな。」
「はい。カバンの中に必要な書類は全部入れたし、ハンカチとかも・・・・あっ、大事な
もの忘れてました。」
「何?」
「滝さんが作ってくれたお弁当です。」
「はい。今日もうまいハズだぜ。」
「ありがとうございます。」
滝は玄関まで鳳を送り、ほっぺたにキスをした。鳳もお返しに滝のほっぺたにキスをする。
「いってらっしゃい。」
「いってきます。滝さん。」
笑顔で見送られ、鳳は幸せいっぱいというような表情でに会社に向かった。
in 向日家
「よし、味噌汁はこんなもんやな。」
早起きの忍足はただいま朝食の準備中。跡部の家や滝の家と違ってこの家の朝食は純和風
である。岳人はもちろんまだ起きてはいない。
「魚ももうちょいで焼けるな。もうそろそろ岳人起こしにいかんと。」
岳人を起こそうと忍足は部屋に向かう。岳人は今だに夢の中だ。
「岳人、もう起き。」
「やだぁ、もうちょっとぉ・・・」
「起きなアカンで岳人。」
「あと五分〜。」
忍足はふぅっと溜め息をつき、掛け布団をはがした。
「ほら、早く起き!!遅刻したら跡部に怒られるで。」
「わーかったよ。じゃあ、侑士。おはようのちゅうして。」
まるで子供みたいだと思いつつも忍足は岳人の言う通り、おはようのキスをした。岳人は
さっきまでの眠そうな顔を一変させ、元気に飛び起きた。
「さあ、起きよーっと。おはよう侑士♪」
「おはよう。もう朝ごはん出来てるで。早く着替えして行く用意しいや。」
「うん。Yシャツどこにある?」
「あのハンガーに全部かかっとるよ。じゃあ、俺、台所でご飯入れてなきゃアカンから先
行っとるで。」
「分かった。」
今日も目覚めいいなー。やっぱ侑士にキスしてもらうとバッチリ目が覚めるね。早く着替
えして侑士んとこ行こー。
岳人は会社に行くための洋服に着替えて、朝食の用意してある部屋へと向かった。岳人の
服だけは跡部や鳳と違い、スーツではなくもっと動きやすい服装だ。これはまあ、所属し
ている課の違いからだろう。
「用意出来たぜ、侑士。」
「朝飯の用意もバッチリやで。早く食べ。」
「おう。わあ、うまそー。」
「心込めて作ったんやから当然や。」
「いただきまーす!!」
岳人は箸を持ってまず魚に手をつけた。ご飯に味噌汁、漬物に箸をつけ、最後に好物の甘
く焼いた卵焼きを口に運ぶ。
「うめぇー!!」
「そうか?たくさん食べて今日も頑張るんやで。」
「おう!なぁ、侑士、デザートないの?」
「確か・・・リンゴがあったと思うけど。」
「じゃあ、むいて。」
「ええよ。ちょっと待ち、今むいてくるから。」
リンゴをむきに忍足はキッチンへ行く。数分後、小さな皿に切られたリンゴをいっぱい入
れて戻ってきた。岳人はもう朝食を全部食べ終えている。
「はい、出来たで。」
「サンキュー!侑士。」
岳人は満面の笑みでリンゴを食べ始めた。
「このリンゴ甘いな。」
「そうか?じゃあ、俺も一つ食べてみようかな。」
「あっ、じゃあ俺が食べさせてやるよ。」
「ええよ。恥かしいやん。」
「何でぇ?ここには俺達しかいないんだから恥かしがることないじゃん。それに俺達夫婦
だぜ。」
「せやけど・・・・」
恥かしがっている忍足を全く無視で岳人は楊枝で刺したリンゴを忍足の口まで持っていっ
た。
「はい、侑士あーんして♪」
ここまでされたらそのリンゴを食べないわけにはいかない。忍足は口を開け、入れられた
リンゴをかじった。
「ホンマや。すっごく甘い。」
「だろー。あっ、もうそろそろ会社行かなくちゃ。」
「せやな。忘れ物せんようにな。」
「うん。じゃ、いってきます。」
忍足の渡された鞄を持って岳人は家を出ようとした。
「あっ、そうだ!」
「どないしたんや岳人。」
岳人は忍足のところまで戻り、背伸びをしてそっと唇にキスをした。
「いってきますのちゅう忘れちゃった。今日の侑士リンゴ味♪」
「何言うとんのや。ほら、早く行かんと遅れるで。」
「うん。じゃあ、今度こそホントにいってきます。」
「いってらっしゃい。」
大きく手を振って、岳人は元気よく玄関を出て行った。忍足はさっき岳人にキスされた唇
を触りながらふっと笑った。
「俺がリンゴ味か。岳人だってリンゴ味だったやん。」
独り言のように呟き、忍足は家の奥へと戻って行った。
in 芥川家
マンションの一室に同棲しているメンバーが二人。ジローと樺地だ。跡部や滝、岳人のよ
うに結婚してるというわけではないが仲良く一緒に暮らしている。樺地が普通に会社へ行
って、ジローは昼間バイトをしているという生活をしている。いつも朝は樺地が先に起き
て、いろいろと用意をする。今日も時間通りに樺地は起き出し朝食を作る。テキパキと準
備をしてもう行く準備はバッチリだった。いつも自分が朝食を食べ終わるとジローを起こ
しに行くのだが、これまでそれで起きたことは一度もない。まあ、バイトの時間は真昼間
からなので特に支障はないが・・・。
今日もジローさん起きないなあ。朝ごはんはちゃんとラップしてテーブルの上に置いとい
たし、大丈夫だよね。
ジローが起きるまで待っていると会社に遅刻してしまうので、樺地は一足先に家を出た。
「いってきます・・・・。」
一応、そう言って行くが返事はもちろんない。樺地が家を出てから一時間後くらいにジロ
ーは目を覚ました。
「ふあ〜、よく寝たあ。」
あれぇ、今日も樺地いないや。俺、起きるの遅いからなあ。それにしても腹減ったー。今
日の朝ごはんは何かな?
朝食を食べるためにリビングへ向かう。テレビの前に置いてある小さなテーブルの上にラ
ップのかかった皿がいくつも並んでいた。
「何々?これは一分レンジで温めて、これは冷蔵庫に入ってるドレッシングをつけて食べ
ろか。樺地もマジメだねー。」
時間が経ってから食べることを考えて、樺地は一つ一つの皿にどうやって食べれば一番お
いしく食べれるかをメモして貼っておく。これのおかげでジローは毎日遅く起きるにも関
わらず、出来たてのおいしい朝食が食べられるのだ。
「おいC〜♪樺地ってホント何でも出来るよなあ。うらやまCー。」
おいしい朝食を口にほおばりながら、ジローはうれしそうに言った。一通り食べ終わると、
食器を流しに持って行き、顔を洗うために洗面所に向かう。
「今日のバイト何時からだっけ?」
歯磨きをしながら、ジローはバイトの予定が書いてあるカレンダーを見た。今日の日付の
ところには9:30と書いてある。今の時間は9時20分。ジローは我が目を疑った。
「うっわあ、今日のバイト9時半からじゃん!!マジマジヤッベー!!」
慌てて口をすすぐとジローは急いで着替えをし、鞄を持って家を出た。
「ああ〜、鍵閉めんの忘れちったー。戸締まりはちゃんとしないとな。」
エレベーターのところまで走って来たが、鍵を閉め忘れたことに気がつき一度玄関まで戻
る。今度はしっかりと鍵を閉め、再びエレベーターまで走った。
はあ〜、今日も遅刻スレスレになっちゃうよー。まあいっか。
楽天的なジローは遅刻をしてもそんなに気にしないタイプだ。バイト場所はこのマンショ
ンからそんなに離れていないので、なんとか間に合うだろう。
どの家も仕事に出かけたようだ。まだ一日は始まったばかり。今日は一体どんなことが起
こるのであろう?
to be continued