ある日の一日 〜in the company〜

会社に出社した跡部、鳳、岳人、樺地の4人はそれぞれの自分が配属している課に行く。
見ての通りみんなホストに負けず劣らず美形ぞろいなので女子社員からの人気は半端じゃ
ない。
『キャーー!!跡部社長おはようございますー。』
「ああ、おはよう。」
『長太郎くーん、おはようVv』
「おはようございます。」
『岳人くーーん、今日も可愛いーーVv』
「ありがとー!今日も一日頑張ろうねーー。」
みんな笑顔で返すが心の中は何を考えているか分からない。
「朝からキャーキャーうるせーな。」
「あんなに笑顔で返してたじゃないですか。」
「じゃあ、お前はああいうふうにされてうれしいのか?」
「正直あんまり・・・」
「やっぱそうじゃねぇか。さあ、さっさと社長室行って仕事するか。」
エレベーターに乗りながら、跡部と鳳は話す。どちらもあの女子社員の朝の出迎えは正直
うれしくないらしい。エレベーターはまず3階で止まり、そこで岳人は降りた。
「じゃあ、俺は降りるな。跡部も鳳もそんなこと話してて誰かに聞かれたら大変だぜ。あん
まりそういうこと言わないほうがいいと思うぜ。」
ぴょんっと跳ねてエレベーターを降りると岳人は庶務二課へと走って行った。
「じゃあねー。」
扉が閉まるとエレベーターは再び上がり始めた。
「あいつ朝から元気だな。」
「そんなの前からじゃないですか。」
「そういやお前今日契約会議あるよな?」
「はい。」
「あの人結構手強いぜ。失敗しないようにせいぜい頑張れ。」
跡部にこう言われて一瞬鳳の表情が険しくなった。今日の相手がなかなか気難しい人だと
鳳も充分承知していたからだ。
「・・・・分かってます。」
エレベーターが止まり、鳳はそこで降りた。
はあー、跡部さんがあんなこというからまた緊張してきちゃった。今日の会議大丈夫かな
あ・・・。
不安をかかえながら鳳は海外事業部へと向かった。
「樺地、今日の予定はどうなってる?」
「ウス。」
社長秘書の樺地は今日のスケジュールが書いてある紙を跡部に渡した。そこにはびっしり
と予定が書かれている。
ちっ、今日も忙しいな。宍戸に電話する暇もねぇじゃねーか。
会社にいても気になるのはやはり宍戸のことらしい。エレベーターは8階で止まり、跡部
はそこで降りた。社長室に向かおうと長い廊下を歩く。社長室に入ったと同時に突然携帯
が鳴り出した。
「はい。」
『あっ、跡部?』
「んだよ、滝じゃねーか。」
跡部は電話の相手の声を聞き、呆れた声を漏らした。
「何の用だ?」
『今日ってさあ、長太郎会議あるだろ?』
「ああ。だから何だよ?」
『それって何時から始まるの?』
「確か・・・10時半だったと思うぜ。」
跡部は壁にかかっている時計を見ながら答えた。
『分かった。それだけ分かればいいや。サンキュー跡部。』
ツー・・・ツー・・・
軽い口調でお礼を言うと滝はすぐに電話を切った。跡部は通話終了ボタンを押し、溜息を
つく。
「何なんだよ滝の奴。今日はスケジュールがいっぱいだってのに。ハア、無駄な時間使っ
ちまった。」
携帯電話をポケットに入れ、窓際にあるイスに座った。
「さっさと終わらすか。樺地、資料。」
「ウス。」
樺地から資料を受け取り、跡部は仕事を開始した。

10時を回ると、海外事業部では鳳が会議のために用意を始める。さっき跡部に言われた
ことが頭をよぎりずっと落ち着かないでいた。
あ〜、もうそろそろ時間だよ。大丈夫かなあ。どうしようマジで緊張してきちゃった。こ
れじゃあヤバイよ〜・・・。
会議室へ向かおうと立ち上がるが、緊張のため今日使う資料をバラバラと落としてしまう。
「あっ・・・。」
「大丈夫?」
「あっ、はいっ!すいません。」
焦りがどんどん募っていく。資料を拾い集めながら鳳はさらに不安になっていくのだった。
どうしよ〜、こんなになるまで緊張するのは久しぶりかも・・・。
とその時、鳳のお気に入りの着メロが流れた。
「はい。長太郎です。」
『あっ、長太郎。俺だけど。』
「滝さん!?どうしたんですか?」
『もうそろそろ会議だろ?長太郎、緊張してないかなーと思って。』
「えっ、でも、俺、滝さんに会議の時間教えてないっスよ。」
『なんとなくそんな気がしたんだ。』
「なんとなくって・・・すごいですよ。何でこんなにタイミングよくかけてこられるんで
すか?」
『えー、そりゃあやっぱ長太郎に対する愛でしょ。』
「お、俺すっごいうれしいです!!何か今日の会議出来るような気がしてきました。」
『長太郎なら大丈夫だって。頑張ってね。』
「はい!!」
携帯を切ってしばらくほわ〜としながら鳳は滝の言葉を思い出していた。滝がタイミング
よく電話をかけてこられたのはもちろん跡部に時間を聞いたからである。だが、そんなこ
とに鳳が気づくはずがない。
滝さんってやっぱすごいや。もう緊張なんてすっかり吹っ飛んじゃった。よし、今日の契
約絶対成立させるぞ!
いつもの自信を取り戻して、自信満々で契約会議に向かった。緊張さえしていなければ、
鳳の性格は積極的で勢いがあって、外人にはとても好印象をあたえる。滝のおかげでこの
日の会議もいつもと同じようにすることができた。
「分カリマシタ。アナタノ会社ナラ、コレヲマカセラレマス。」
「はい!ありがとうございます!!」
「アナタ、トテモ元気アッテイイデスネ。気ニイリマシタ。」
「そうですか?ありがとうございます。」
どうやら契約は成立したようだ。これも全部滝のおかげだと鳳は滝にメチャメチャ感謝し
ていた。もとを辿れば跡部のおかげでもあるのだが・・・。とにかくこの会議はとても重
要だったので、会社にとっても鳳にとっても大きなプラスになるのだった。

庶務二課の岳人はトイレットペーパーを補充したり、電球を替えたりして会社のいろんな
ところを行ったり来たりしている。
「トイレットペーパー補充しに来たぜ。」
「あっ、岳人くん。」
「ホントだ。いつもご苦労様。」
「これくらいなんてことないぜ。だって、これが俺の仕事だもん。」
女子社員の間でもアイドル的存在の岳人は女子トイレにも普通に入っていく。それでも文
句を言われないのは岳人だからであろう。女子トイレのトイレットペーパーを補充し終わ
った時、跡部からメールが来た。
『社長室の蛍光灯が切れちまった。至急替えに来い。』
「社長室って8階じゃん。行くの面倒くさーい。」
ぶうぶう文句を言いながらも岳人は替えの蛍光灯を一度取りに戻り、社長室に向かう。
「跡部ー、蛍光灯替えに来たぜ。」
ノックもなしに岳人は社長室に入る。社長である跡部を呼び捨てで呼んでいるのはこの会
社の中で岳人だけだ。
「そこの蛍光灯が切れちまった。つーか、お前脚立も持ってこないでどうやって替えんだ
よ?」
「えー、こうやって。」
「!!」
岳人は突然跳ねてムーンサルトをしながら、切れた蛍光灯を外した。見ていた跡部も樺地
もこれには驚かされた。
「ほら、取れたじゃん。」
「岳人、そんなことしたら下に響くだろうが。」
「大丈夫だよ。怒られたことなねぇし。」
「とにかくつける時はムーンサルトはやめろ。」
「えー、何でー?」
「何でもだ!」
跡部が怒り口調で言うと、岳人はしぶしぶ樺地に肩車を頼んだ。岳人の身長では蛍光灯に
全然届かないからである。
「樺地、ちょっと肩車して。」
「ウス。」
樺地に肩車をしてもらい新しい蛍光灯をつけた。下りようと樺地の肩から飛び降りると仕
事をしている跡部の机に突っ込む。
「うわっ・・・」
ガッシャーーーンッ!!
机の上のものは全て崩れ落ちた。仕事を邪魔された跡部は怒りゲージMAXだ。
「何やってんだ!!仕事の邪魔すんな!!出て行け!!」
「ゴメーン、跡部。今のわざとじゃ・・・」
「とにかく仕事の邪魔だ!さっさと出て行け!!」
「何だよー、せっかく蛍光灯替えにきてやったのにぃ。もう跡部なんて知らねぇ。」
アッカンベーをして岳人は社長室から出て行った。だが、跡部の怒りはおさまらない。
「樺地、片付けろ。」
「ウス。」
樺地はバラバラに床にちらばった資料をキレイに片付ける。テキパキとした樺地の行動で
すっかり机の周りは片付いた。この時一番被害を被ったのは樺地であろう。

午前中の仕事はだいたい片付き、今はちょうど昼休み。あの4人は全員お弁当持ちなので
それぞれ好きな場所で食べ始める。鳳と岳人は一緒にお昼を食べることにした。二人とも
愛妻弁当を持って中庭へと出て行く
「聞いてくれよ鳳。さっきさあ、跡部が蛍光灯替えろっていうから替えに行ったんだけど、
樺地に肩車してもらって替えてたんだ。そんで下りようと思って飛び降りたら、間違って
跡部の机に突っ込んじゃって、机の上のもの全部落としちまったんだよ。そしたらさ、跡
部が『出て行け!!』ってすっごい怒るんだぜ。ひでぇよな。」
「それ、普通に向日先輩が悪いじゃないっスか。」
「鳳までそんなこと言う〜。俺、悪くねぇもん。」
岳人はぶうっとほっぺを膨らませ、鳳を睨む。そんな表情を鳳は可愛いなあと思ってしま
う。いつまでたっても岳人の幼さは変わらないのだ。
「でも、跡部さんもそんなに怒ることないですよね。」
鳳は何とか岳人の機嫌を戻そうとなんとなく岳人の味方をしてみた。
「だろー!?全く跡部ってすぐ怒るよなー。」
「でも、あんまり跡部さんに迷惑かけちゃダメですよ。跡部さんだって仕事大変なんです
から。」
「うん・・・。じゃあ、後で跡部に謝りに行く。」
「そうしてください。」
鳳は笑顔で優しく岳人に言った。岳人は後輩に何説得されてんだろうと思いながらも鳳の
笑顔があまりにも純粋なので反論できなかった。
「そういえばさ、鳳、今日も契約結んだんだって?」
「はい。おかげさまで。」
「さすがだよなー。俺、外人となんて絶対話せねーよ。」
「ほとんど滝さんのおかげなんですけどね。」
「何でそこで滝が出てくんだよ?」
首をかしげながら岳人は鳳に聞く。
「今日の会議の前、俺すっごい緊張してたんですよ。もうヤバイくらいに。そうしたら、
会議の10分前くらいに滝さんから電話があったんです。俺、会議の時間教えてないのに。
すごいですよね。滝さんの声聞いたら緊張なんて吹っ飛んじゃいました!」
「へぇ。」
滝の奴、絶対跡部か誰かに会議の時間聞いたな。でも、鳳はそうは思ってないみたいだか
ら、これは言わないでおこう。
「俺、やっぱ滝さんのこと大好きです。」
「そんな俺にノロけられてもなー。あー!早くしないと昼休み終わっちまう。まだ、弁当
半分も食べてねーよ。」
岳人は何気なく目に入った時計を見て叫んだ。
「俺もです。ちょっと話しすぎちゃいましたね。」
昼休みがあと少ししかないことに気づき二人は慌てて残りの弁当を食べ始める。その頃、
社長室の跡部は弁当を食べ終え、宍戸に電話と電話をしていた。
『お前、仕事はいいのかよ。』
「今は昼休みだ。」
『ふーん。今日の弁当どうだった?』
「最高にうまかったぜ。あの牛肉と野菜炒めたヤツが特にうまかった。また作ってくれよ。」
『オッケー。今日の夕食はお前の好きなの作るから楽しみにしてろよな。』
「ああ。やっぱ、昼休みはお前の声聞くに限るな。」
『何言ってんだよ・・・。』
電話の向こうで宍戸が赤くなっているのが声からよく分かった。跡部は緩んだ表情で窓の
方向きながらしゃべっている。
「なあ、亮。もう時間的の電話切んなきゃいけねぇんだ。最後にアレ言ってくれよ。」
『えー、恥かしい。』
「ほら、早くしないと切っちまうぜ。」
『わ、分かったよ・・・。景吾・・・好きだぜ。』
「サンキュー、じゃあな。」
ポチッ
本当に満足そうな笑みを浮かべて、跡部は電話を切った。そして、1回深呼吸をするとま
たいつもの真面目な表情に顔を戻して仕事を再開する。
「樺地、午後は確か会議が入ってるよな?」
「ウス。」
「じゃあ、行くか。」
午後は会議が入っているので跡部は社長室を出て、近くのシティホテルへと向かう。宍戸
と話しているときと仕事をするときの顔のギャップはすごい。だが、それを知っているの
は樺地だけだった。

会社にいる4人は頑張って仕事に励んでいる。家にいる4人は一体何をしているのであろ
うか?

                     to be continued

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