「もうこんな時間か。洗濯物もだいたいたたみ終わったし買い物にでも行くか。」
昼が過ぎて家事を一通り終わらせた宍戸は買い物に行くことした。
一人でも行くのもなんだから、忍足とか滝も誘うか。今日の夕飯はもう決めてあるし、時
間が余ったら、喫茶店にでも行くかね。
戸締まりをして家を出ると宍戸は近所の忍足と滝の家に行った。
ピンポーン
「はい。何や宍戸やん。」
「これから買い物行くんだけど一緒に行かねぇ?」
「ええよ。ちょうどこれから夕飯の材料買いに行こうと思うてたんや。」
「滝も誘おうと思うんだけどいいよな?」
「もちろんええで。」
「じゃあ、滝のとこ行こうぜ。」
「ちょっと待ってて、今用意してくるから。」
「ああ。」
忍足を連れて次は滝の家へと向かう。滝の家も跡部の家に負けないほど大きい。インター
ホンを鳴らすところも門の外にあり、すぐには出てこないでまずは声だけで応答するタイ
プだ。
ピンポーン、ピンポーン
『はい。』
「滝か。俺だけどさ。」
『宍戸?何?』
「これから買い物行くんだけどお前も一緒に来いよ。」
『買い物か・・・。うん、分かった。行くよ。えっ、でも“も”って他に誰かいるの?』
「忍足も一緒だ。」
『分かった。今、行くからちょっと待ってて。』
すぐに滝は家から出てきた。買い物に行くといっても3人ともまだ20代なので服装はか
なり今風だ。周りからみれば普通の大学生の友達同士が買い物しているようにも見える。
「何買いに行くの?」
「今日の夕飯の材料。」
「俺も。今日は八宝菜あたりにしようと思うねん。」
「そっか。うちは何にしようかなあ。」
だが会話はまんま主婦。もちろん向かうところは近くのスーパーだ。
「今日はハクサイが安いんやで。あと卵も30%引きや。」
「へぇ、よく知ってんな忍足。」
「当たり前や。毎日広告見てチェックしとるもん。」
「俺はあんまり広告は見ねーな。見るとしたら洋服関係かな。」
「滝、ファッションには気使ってんもんな。」
そんなことを話しながらスーパーに入る。まずは野菜コーナーへ。宍戸も忍足も滝もどの
野菜が新鮮でおいしいかを確かめながらかごに入れていく。特に忍足は八宝菜を作るので
たくさんの種類の野菜を買い込んでいる。
「あっ、人参も安いやん。シイタケも買わんとな。」
「忍足、そういうとこホントしっかりしてるよな。やり繰り上手っていうかさ。」
「宍戸はそういうの考えへんの?」
「俺はあんまり。滝は?」
「俺は少しは考えてるぜ。あんまり無駄使いしないようにしなきゃなあとか。」
「へぇ。俺もそうした方がいいのかなあ。」
忍足や滝の話を聞いて宍戸は少し考えた。普通は考えるだろうと言うような表情で二人は
宍戸を見る。
「宍戸はなんでそんなにこういうことに無頓着なん?」
「えっ、だってほら、俺、一応社長夫人だし・・・。」
『あっ。』
宍戸自体はそんな感じはしないのだが跡部は立派な若社長。毎月の収入もかなりのものだ。
そのことに気づいて忍足と滝は声を上げた。
「そうだったー。宍戸は跡部の奥さんだよ。」
「そりゃあ考える必要ないわ。」
「そうか?まあ、いいや。今日のおかず買わなきゃな。」
飄々とした表情で宍戸は肉コーナーへと向かう。牛肉のところに行き必要なものを探す。
「宍戸は今日夕食何にするん?」
「んー、ローストビーフ・ヨークシャープティング添え。」
宍戸は自信満々に答えた。へぇ、意外というような顔を宍戸以外の二人はする。
「宍戸、そんなの作れるんだ。」
「ああ。景吾のシェフ直伝だぜ。」
「なんか高そうな名前やな。」
「実はそうでもないんだぜ。イギリスでは普通の家庭の人達が食べるものらしいし。」
「へぇ、そうなんだ。」
イギリスの文化を話す宍戸にちょっと感心。滝は今だに夕食のメニューが決まってなくて
どうするか悩んでいる。
「うーん、夕食何にしよう?」
「滝まだ決まってないのかよ。」
「うん。何がいいと思う?」
「ハンバーグなんかどうや?」
「あっ、いいなそれ!!よし、今日の夕飯ハンバーグに決定!」
メニューがハンバーグに決まると滝はその材料を次々にかごに入れていった。
ハンバーグなら長太郎も好きだし、オッケーだよな。
みんなそれぞれ夕飯のおかずを買い終えて、スーパーを出た。荷物は重いがこれだけで家
に帰るのはもったない。というわけで喫茶店に寄ることにした。
「あっ、ここにしようぜ。」
宍戸はシンプルな看板の小さな喫茶店を指差す。この喫茶店にはとある秘密があるのだ。
チリンチリン
「はーい、いらっしゃい。」
元気よく出迎えたのはくるくるヘアーの顔見知り、そうジローだ。今は起きている状態な
のでテンションは高い。宍戸はこのことを知っていたのだが、他の二人は知らなかったの
で、唖然としている。
「ジロー!お前こんなところでバイトしてたんだ。」
「宍戸に忍足に滝じゃん。どうしたの?」
「ちょっとお茶飲みに来た。席空いてるか?」
「うん。空いてるよ。ちょっと待って。」
3人が座れる席をジローは片付けて宍戸達を座らせた。ケーキや飲み物のメニューを渡す
と一度カウンターの方へ戻って行く。
「注文決まったら呼んでね。」
「ああ。」
メニューに目を通してどれにするか選ぶ。宍戸はちょくちょく来ているのですぐに決まっ
たのだが、忍足と滝はなかなか決められない。
「俺、これにしよー。」
「宍戸決めるの早いなあ。」
「俺もどれにしようかなー。」
「早く決めろよ。」
結局、宍戸はストロベリーチーズケーキのアイスとフレッシュハーブティーを、忍足はガ
トーショコラとレモンティーを、滝はミルフィーユとダージリンティーを注文することに
した。
「おーい、ジロー。注文決まったぜー。」
「分かったー。今行く。」
黒いエプロンを腰に着けたジローは注文表を持って、3人のテーブルへ走ってきた。
「走っちゃダメじゃないのか?」
「大丈夫、大丈夫。で、ご注文は?」
「えっと、ストロベリーチーズケーキアイス、フレッシュハーブティー、ガトーショコラ、
レモンティー、ミルフィーユ、ダージリンティーそれぞれ1つずつね。」
「宍戸、注文言うの速いー。もっかい言って。」
「だから、・・・・」
宍戸はもう一度注文を繰り返す。ジローはなんとか理解したようだ。
「オッケー、分かった。すぐ持ってくるから待っててね。」
ジローは宍戸達が注文したものを5分と経たずに持ってきた。本当に早い。3人はケーキ
を食べ、お茶を飲みながら家での出来事や自分のパートナーの話をし始める。
「そういえば今日さ、昼あたりに景吾から電話があって弁当がうまかったとかなんとか言
うんだぜ。結構マメだと思わねぇ?」
うれしそうに宍戸は話す。
「何かその時の跡部の顔メッチャ思い浮かぶわー。跡部の奴、ホンマに宍戸には甘いなあ。」
「ホント、ホント。そういや長太郎もさ、今日の契約会議大成功だって。」
「ふーん。長太郎やるじゃん。」
「今日帰ってきたら褒めてあげなきゃVv」
「滝も宍戸もええなあ。岳人は庶務二やからあんましそういうことはないねん。」
「でも、そんな岳人にお前はベタ惚れ?」
滝はフォークを忍足に向けながら言った。忍足は顔を赤くしながら頷く。
「しょうがないやん。俺、岳人のことホンマに好きやもん。別に課なんて関係あらへん。」
「そりゃそうだろうな。お前達、中学の時からお似合いだったもんな。」
「あはは、でもやっぱ宍戸はちょっとうらやましいよな。」
「それは確かに言える。金持ちやし、メッチャ愛されとるし、この中で一番一般的に考え
たら幸せもんやな。」
「そ、そんなことねぇよ!!あっ、でも最近跡部確かに優しいかも・・・。」
「ノロケちゃって。」
笑い合いながら楽しそうに3人は話す。とその時、宍戸が思いついたように滝に尋ねた。
「そういえば、ずっと前から気になってたんだけど、滝ってさあ上と下どっちなんだよ?」
「何が?」
「だからー、その・・・する時・・・。」
照れながら言う宍戸の言葉を聞いて、何が言いたいのか滝は理解した。
「ああ。俺、上だよ。」
『・・・・・・。』
宍戸も忍足もこの答えは想像していたものと違っていたので、一瞬言葉を失った。そして、
しばらくしてから大きなリアクションを見せる。
「うっそー!!マジで!?」
「ホンマに!?だって相手鳳やろ?」
「何でそんなに驚くんだよー。」
あまりにも騒ぐ二人に滝は不満いっぱいの声で反論した。それを遠くで聞いているジロー
は必死で笑いをこらえている。
「いや、だってお前顔女っぽいし、家事も完璧にこなすし、つーか相手が長太郎だし信じ
らんねぇ。」
「えー、そんなの関係ないじゃん。それに相手が長太郎だからってどういうことだよ?」
「だってどう見ても鳳は上の方やろ。なあ、宍戸。」
「ああ。俺もそう思う。」
「だって長太郎が言ったんだぜ。下がいいって。」
この話も宍戸と忍足にとっては信じられないことだった。それも鳳の方が望んだなんてあ
りえない。ポカンとした表情で持っていたフォークをカシャンと皿の上に落とした。
「えーー!!マジで!?ありえねぇ!!」
「何でやろな?」
「さっきから聞いてりゃお前ら何なんだよ!?いいじゃない、俺が上だって。」
「いや、だって俺は下だし。」
「俺も下やもん。」
「だから何なんだよ?」
「てっきり主婦っぽいことしてるのはみんな下かと思ってた。」
「そんなの勝手な思い込みじゃねーか。可愛いんだからね!!あの時の長太郎は!」
あまりにも会話が発展していくのでジローがつっこみに向かう。
「ねぇ、宍戸達。」
「何だよジロー?」
「ここ一応普通の喫茶店なんだ。他のお客さんもいるんだからさ、そういう話はあんまり
大声でしちゃダメだよ。」
『あっ。』
周りがクスクス笑っているのに気がついて、3人は顔を真っ赤にした。さすがにこれ以上
ここにいるのは耐えられないので喫茶店を出ることにする。
「ありがとうございましたー。」
ジローは元気よくあいさつをして宍戸達を見送った。
あいつらホントおもしれー。今日樺地が帰ってきたら話してやろう。でも、鳳が下だって
のは俺もビックリだよ。滝の方が女っぽいのになあ。
ニヤニヤと笑いながら入り口の方からカウンターの方へ戻ると、いつものさわやかな笑顔
に顔を戻して仕事に入った。
「いやー、恥ずかしかったなー。」
「ホント。ちょっと調子乗りすぎちゃったね。」
「もうそろそろ帰るか。」
「そうだね。荷物も重いし。」
もうこれ以上どこかに寄る気もならないので3人は自分の家へと帰る。まだ、跡部達会社
組は帰って来ないが、それまでにやることがいっぱいあるので家路に向かう足は微妙に速
い。
「何か雲ってきたな。」
「雨降るんやろか?」
「あーー!!洗濯物出したまんまだ!!」
「俺も!!早く帰らなきゃ。」
今にも雨の降りそうな空を見て3人は走り始めた。何だかんだ言って、3人ともみんない
い奥さんなのだ。
to be continued