滝とあのようなことがあって、数日後、鳳は図書館で借りた楽譜を返すために閉館直前の
図書室にやってきていた。
「もう誰もいないや。司書さんまだいるかな?」
図書委員の生徒はもう帰ってしまったようで、カウンターは無人であった。そのまま置い
ていってもよいのだが、真面目な鳳はそれが出来なかった。
カタン・・・
どうしようか鳳が迷っていると図書準備室の方から物音が聞こえた。まだ誰かが残ってい
るようだ。鳳は声をかけようと、ドアからその部屋を覗く。
「わっ、ちょっ・・・跡部っ!!」
「もう閉館の札出しちまったから誰も来ねぇよ。」
「で、でも・・・ひゃっ・・・ぁ・・・!」
「ここはイイ感度じゃねぇの。そうだ、今日は口でしてやるよ。」
「えっ!?やっ・・・いや・・だ・・・あぁっ!!」
図書準備室では予想だにしない情事が行われている。あまりにも突然のことだったので、
鳳はしばらく目を離せないでいた。初めは嫌がり抵抗していた宍戸であったが、司書であ
る跡部のテクニックに翻弄され、次第にその行為に夢中になっていく。
「んっ・・・ぅあ・・・あと・・べぇ・・・」
「おいおい、そんなに髪掴むなって。」
「ひぅっ・・・しゃべ・・るなあ・・・・」
「今日は随分素直に感じてるみてぇだな。こんな場所だから興奮してんのか?」
「んなこと・・ねぇ・・・ふあっ・・あぁ・・・」
ギリギリ聞き取れるくらいの会話、聞こえるはずのない跡部の口元から漏れる濡れた音が
鳳の耳には驚くほどハッキリと聞こえてくるようだった。見てはいけないものを見てしま
ったという羞恥心が鳳の体中の血液を顔に運ぶ。さすがに見ていられなくなり、楽譜をカ
ウンターに置いたまま鳳はパタパタと駆け出した。
「っ?・・・跡部、今、外で音しなかったか?」
「あーん?気のせいだろ。テメェはこっちに集中してろ。」
「ひゃっ・・あ・・・も・・じらすなよぉ・・・・」
「分かってるって。ここからは本気モードだぜ。」
鳳が見ていたことに二人は全く気づいていなかった。少々気になりはする宍戸だったが、
今はもう目の前にいる跡部のことしか考えられない。跡部のしてくれる行為とその何とも
言い難い快感にただただ身を任せるだけであった。
図書室を飛び出した鳳の足は無意識に保健室へと向かっていた。そこ以外に今行ける場所
は考えられなかった。さっき見た光景が鮮明に蘇る。保健室に着いた時には、鳳の息は羞
恥と走ったことで激しく乱れていた。
「どうしたの?長太郎?」
あまりにも様子のおかしい鳳を見て、滝は心配そうに声をかける。しかし、声をかけられ
ても鳳はすぐに答えることが出来なかった。まだ頭が混乱し、気持ちが動揺していた。少
し落ち着いてもらおうと、滝は鳳をソファに座らせる。しばらく黙っていた鳳だったが、
少し落ち着いてきたのか、呼吸を自ら整えるように深呼吸をする。
「落ち着いた?」
「あっ、はい・・・。すいません、いきなり・・・」
「随分、慌ててここに来たみたいだけど、何かあったの?」
「えっと・・・」
滝にそう聞かれ、さっきのことが鳳の頭に蘇る。言っていいのかいけないのか、それが鳳
には全く判断が出来なかった。
「顔、真っ赤だけど、熱でもあるの?」
「い、いえっ、違います!!」
余計な心配をかけまいと鳳は即答で否定した。
「じゃあ、どうして?」
「あの・・・楽譜を返そうと思って・・・・」
やっと口から出た言葉がそれであった。鳳がピアノやバイオリンの楽譜を図書室で借りて
いたことを滝は普段の雑談から知っていた。それを返すとなると、おそらく鳳がさっきま
でいた場所は図書室だということになる。図書室という言葉が思い浮かび、滝はピンとき
た。
「さっきまで図書室にいたってことだよね?」
「はい・・・」
「でも、今の時間だともう閉館してるんじゃない?」
「閉館する直前に行ったんです。でも・・・図書室には誰もいなくて、図書準備室から物
音がしたんで、司書さんがまだ残ってるんだと思って覗いたら・・・・」
それ以上は鳳の口からは話せなかった。しかし、そこまで聞いて滝はことの真相を理解す
る。この学校に入ってきた当初から滝は跡部とは趣味が合い、様々な話をしていた。もち
ろん跡部が生徒の宍戸とデキていることも知っていた。ということは、鳳が見てしまった
ということも大体予想が出来る。
「ちょっとは場所をわきまえた方がいいよねー、跡部も。ま、俺が言えたことじゃないけ
ど。」
「えっ・・・?」
「見ちゃったんでしょ?跡部と宍戸がしてるの。」
「・・・・・はい。」
何故自分が見てしまったことが分かったのかは分からないが、鳳は滝の問いに素直に頷い
た。純情な鳳のこと、あんな状態になったのは当然だと滝は納得する。
「確かにそんなの見ちゃったら、こんなふうになっちゃうのも仕方のないことだよね。」
「・・・・・。」
「ねぇ、跡部と宍戸どんなことしてたの?」
「へっ・・・?」
さっきまでは優しい保健室の先生だった滝の表情がコロっと変わる。鳳の話を聞いて、何
となくそういう気分になってしまったのだ。今までに何度か見ている滝のこの突然の態度
の変化に鳳はまだ慣れてはいなかった。急に目つきの変わる滝に思わずドキリとさせられ
てしまう。
「教えてよ、長太郎。」
鳳の隣に腰かけ、そっと頬に触れながら滝は妖しく囁く。こんな態度をとる滝に鳳は全く
逆らえない。
「司書さんが・・・宍戸さんの・・・を口で・・・・」
「ふーん、そっか。じゃあ、俺達もしてみる?」
ものすごいことを滝が言っているということを鳳は理解していた。しかし、断るというこ
とは鳳には出来なかった。断りの言葉、態度、表情は全く頭にない。滝の言葉に魔法をか
けられたように頷くだけだ。
「いい子だね、長太郎。こっちにおいで。」
ソファから立ち上がり、滝は鳳をカーテンのあるベッドに招く。滝に招かれるまま、鳳は
白い空間に吸い込まれていった。
きっちりと閉められたカーテンの中で、鳳の熱は滝の口の中で転がされている。あらわに
なったそれを滝が含んでいるその様子があまりにも刺激的すぎて、鳳はそこに目をやるこ
とが出来ない。しかし、それが出来ないとしても下半身から直接脳に伝わるような痺れは
嫌というほど感じる。
「ん・・・あん・・せんせぇ・・・」
「口でされるのもなかなかいいもんでしょ?」
「は・・・あぁ・・あっ・・・」
答えようと思っても言葉にならない。手でされるのとはまた一味違う感覚に鳳は夢中にな
ってゆく。図書室から見えた宍戸があんな表情をしていたのも分かると鳳は身を持って理
解した。
「んん・・・滝先生っ・・・ふあっ・・・・」
「前より感じやすくなってるんじゃない?それとも、長太郎は口でされる方が好き?」
滝の言葉が離れている耳にじんじん響く。その言葉が今しているいけない行為をより意識
させる。それが鳳の身体をさらに敏感にさせていった。ふいに滝がちゅっと音を立てるよ
うにして先端を吸う。その瞬間、鳳の身体はビクンと跳ねる。
「うぁっ・・あぁんっ!!」
「まだダメ。もう少し我慢して。」
「・・・も・・無理ですよぉ・・・・」
「無理じゃないよ。もうちょっと楽しませて。」
いったん口を離して、舌なめずりをする。その表情はまるで肉食獣のようで、それでいて
恍惚としていた。そんな滝の表情を見つめる鳳の瞳は、少しの怖れを感じながらも、どこ
か期待感を含んでいる。滝に教えられる禁じられた遊戯。それは真面目な鳳をも虜にする
麻薬のようなものであった。
「うあっ・・・あぁん・・・あっ・・あ・・・ああ・・・」
止まらない滝の行為に鳳はより艶やかな声で鳴き始める。滝の口に含まれている部分それ
自体が、心臓になっているかのようにドクンドクンと波打つ。そんな感覚を滝は心から楽
しんでいた。
「やっ・・・もうダメです・・・・滝せんせぇ・・・・」
「どうしても我慢出来ない?」
「出来ま・・せん・・・」
短く切れる呼吸がどれだけ切羽詰まった状態であるかを表していた。きゅっと根元の方を
掴んだまま滝はさらに質問を重ねる。
「出したい?」
「はい・・・」
「じゃあ、長太郎が出来る限り精一杯お願いしてごらん。」
「滝先生・・・出させて・・ください・・・お願いします・・・」
一言一言確実に鳳は言葉を紡ぐ。その声は普段の鳳からは考えられないほど、快楽に酔わ
され、どうしようもなく濡れた声であった。想像以上に艶やかな声で懇願され、これはイ
イ言葉が聞けたと、滝は激しい興奮を覚える。そんな興奮を感じたまま、塞き止めるため
に閉じていた指をゆっくりと広げ、今までにないほど強く鳳のそれを吸った。その瞬間、
滝の口に白い蜜が一気に広がってゆく。その蜜を滝はゴクリと喉を鳴らし飲み込んだ。
「ふ・・・あ・・ハァ・・あ・・・」
「美味しい・・・楽しかったしね。」
思った以上の心地よさに鳳はすっかり夢見心地だ。羞恥心や罪悪感というものは今までに
経験したことのない気持ちよさと満足そうに笑う滝の表情で、すっかり掻き消されている。
ぐったりと壁に頭を預けながら、ふとあることを鳳は考えた。
「あの、滝先生。」
「ん、何?」
「今の・・・俺にも出来ますか?」
「えっ?」
意外な言葉に滝は唖然としてしまう。まさか鳳からそんなことを言ってくるとは思わなか
った。しかし、鳳からそう言ってくれたのならここで何もしないのは実に惜しいことだ。
これはいいチャンスだと、滝は笑顔で頷いた。
「もちろん長太郎にも出来るよ。やりたい?」
「はい・・・滝先生も今みたいなことされたら、気持ちいいんですよね?」
「うん。長太郎にされたりなんかしたら、きっと誰がしてくれるより気持ちいいんだろう
な。」
「俺、でもきっと下手くそですよ・・・?」
「俺が教えてあげる。」
ニコッと笑うと、滝は鳳のさっきの行為の熱ですっかり赤く染まった唇にキスをする。し
ばらくお互いの唇の味を味わうと、二人はさっきとは座る位置を逆にするような形で移動
した。
ズボンを穿かないまま、四つん這いになるような形で、鳳は滝の足の間に顔を埋める。当
然こんなことをするのは初めてであったが、不思議と嫌悪感や汚さは感じなかった。しか
し、口にするのはやはり躊躇ってしまう。
「いきなり俺みたいにはしなくていいよ。まずはちょっと舐めるくらいで。」
おずおずと舌を出し、滝のそれをペロリと舐める。思った以上に味はなく、それほど口に
含むことを躊躇させるような要素は見つからなかった。
「次はちょっとだけ口に含んで、軽く吸ってみて。」
言われた通りに鳳は先端の方だけを口に含んで、ちゅっと軽く吸う。その瞬間、ピクンと
ほんの少し滝の身体が震えた。先の方しか口に入っていないので、そんなにあからさまに
は分からないが、確かにそれも少し大きくなったと鳳は感じた。
「ちゃんと・・・口に入れていいですか?」
「うん。舌と口全体を使って、長太郎のしたいようにしてくれればいいよ。ただし、歯は
立てないでね。」
「はい、分かりました。」
細かく指示してもよいのだが、それでは面白くないと滝はそんなことを言う。滝の許しを
得た鳳は、しっかりと滝の熱を口に含み、一生懸命舌と口を動かし、滝のことを気持ちよ
くさせようと頑張る。
「ん・・ふ・・・ぅん・・・んっ・・・」
「・・・いいよ、長太郎。」
教えずともなかなかいい感じに口を動かす鳳に、滝は思わず吐息混じりの声を漏らす。そ
の言葉を聞いて鳳はドキンとしてしまう。それと同時にさっき自分がされていた感覚を思
い出し、自分までもが何ともいえない気分になってくる。
「はぁ・・・んっ・・・んん・・・」
「くっ・・・」
滝が反応を示すたび、鳳自身も同じように感じる。その所為で呼吸が乱れ、何度も口を離
してしまう。これではいけないと鳳は、咥え続けようと一生懸命になった。含みながら口
を動かすために生じる音と潤んだ瞳で懸命に自分に奉仕する表情が、滝の聴覚と視覚を刺
激する。
「滝・・先生・・・気持ちいいですか・・・?」
「うん・・・すごくイイ。最高だよ。」
ふっと笑いながらそう言う滝を見て、鳳は本当に綺麗だと思った。こんなことをしていて、
こんなにも綺麗なものを見れるという発見が鳳の心を揺さぶる。いけないことなのか、そ
うでないのか、それがもう分からなくなってしまう。一般的に言えば、いけないことなん
だろうが、そんなことは今は全く気にならない。むしろ、今はすべきことだと思ってしま
う。
「長太郎・・・すごく上手だよ。本当に・・・」
恍惚として滝は呟く。それが鳳の耳にはひどく心地よく、自分もその気持ちよさに浸って
いるような気分になる。ずっと咥えていたために息が続かなくなり、いったん息を吸おう
と口を離す。
「ふ・・ハァ・・・」
「大丈夫?」
「はい。あの・・・先生・・・」
「何?」
「俺、こういうこと頑張って覚えますからっ・・・もっともっと俺のこと、好きになって
ください!」
鳳の突然の告白に滝はすっかりノックアウト。しかも、そのまままたさっきよりもいくら
か大きくなったそれを咥えられる。そんな状態で、長くもつわけがなかった。
「くっ・・・長太郎っ!!」
「んんっ・・・ふ・・あ・・・っ」
初めてということで、最後まで飲み込めるはずがなく鳳は途中で口を離してしまった。飲
み込め切れなかった滝の熱が顔にかかる。
「わっ、ゴメン!長太郎。」
「いえ、大丈夫です。俺が途中で離しちゃったのがいけないんで。」
「そんなことないよ。本当にゴメンね。」
そう言いながら、滝は持っていたハンカチで鳳の顔を拭った。滝の匂いのするハンカチに
鳳は思わず、うっとりとしてしまう。
「そのハンカチ、いい匂いですね。」
「えっ?別に何かの匂いがするってわけじゃないけど。どうして?」
「滝先生の匂いがします。」
さらっとそんなことを言う鳳に、滝は何だか照れてしまう。顔が綺麗に拭き終わると、そ
のハンカチをそそくさとポケットの中にしまった。恥ずかしさを誤魔化すように時計を見
ると既に午後7時をまわっている。
「そろそろ帰った方がいいよね。」
「そうですね。」
「片付けは俺がしとくから、長太郎はちゃんとズボンを穿いて、気をつけて帰ってね。」
「分かりました。」
すっかり着乱れた制服をキチンと直し、鳳はベッドを下りる。そして、ソファに置きっぱ
なしになっていた鞄を手に持った。
「それじゃあ、俺、帰りますね。」
「うん。気をつけてね。」
滝もいったんベッドから下り、鳳を見送る。ドアに向かう途中で鳳はふと滝の方を振り返
った。
「あの、滝先生。」
「どうしたの?」
「今日の・・・すごく気持ちよかったです。また、いろんなこと教えてくださいね。」
恥ずかしそうに笑いながら、鳳はそんなことを言う。こういうことをするのをもっと嫌が
るかと思っていた滝は不意打ちをされたようで、何も言い返すことが出来なかった。滝が
何かを言うのを待つことなく、鳳は保健室から出て行き、そのまま帰って行った。
「本当、どこまでも夢中にさせてくれるよね。」
独り言のように呟き、滝はニヤけながら後片付けに取りかかる。途中までで終わらすつも
りであったが、これはそうはいかなくなったと、滝は困惑するようなそれでいて嬉しそう
な表情を浮かべる。
「さてと、次は何を教えてあげようかな。」
そんなことを考えながら、滝は先程まで二人で使っていたベッドのシーツを換え始めた。
to be continued