夕飯を食べ終え、今度は泊まる宿へと向かう。熱海駅から三駅ほどの場所にある宿なので、
八人は電車に乗り、駅からはタクシーでそこまで移動した。山道を通り5分ほどの場所に
そのペンションはあった。
「ここか。随分山の中なんだな。」
「とにかく入ろうぜ。」
2泊3日分の荷物を持ち、全員建物の中へと入る。そんなに大きな宿ではないが、自然に
囲まれ、なかなかいい宿だ。岳人と宍戸の話によると部屋は二部屋とってあるようで、4
:4に分かれて泊まるらしい。受付の人から鍵と浴衣を受け取ると、それぞれの部屋に入
る。部屋割りは206号室が跡部・宍戸・滝・鳳。207号室が岳人・忍足・ジロー・樺
地だ。部屋に入ってまず一言。誰もがそう思った。
『狭っ!!』
ベッドが二つ並べられているが、かなりギリギリ感がある。四人で泊まるにしては少々狭
いであろう。
既に夕食は食べ終えているので、部屋に入ったら軽く荷物の整理をし、お風呂に入り眠る
だけだ。部屋に入った瞬間ジローはベッドに転がり眠ってしまった。
「ジロー、寝るの早すぎ。」
「しょうがないんやないの?ジローだし。」
「ウス。」
そんな話をしつつ、荷物の整理をする三人。ジローの荷物は端から樺地が運んでいたので、
ついでに整理もそのまま行った。
「さてと、このあとどうするかねー?」
「せっかくだから、隣の部屋行ってみぃひん?俺、トランプ持ってきたで。」
「そうだな。じゃあ、突撃ー!!」
ジローを置いて、岳人・忍足・樺地は隣の部屋へと突撃する。まだ、9時にもなっていな
いので、夜が更けるまでみんなで遊ぼうという考えだ。隣の部屋は入ったばかりなので、
まだ鍵などはかけていなかった。ノックもせずに岳人はその部屋に入る。
「みんなで遊ぼうぜー!!」
「わっ、ちょっと待ってよ。まだ荷物の整理終わってない。」
「いいじゃんか、そんなのあとでも。ほら、侑士がトランプ持ってきたっていうからさ、
大貧民でもやろうぜ!」
滝の言葉を全く無視し、岳人は強引に部屋に入っていく。それに続いて忍足や樺地もベッ
ドの方へ向かった。跡部と宍戸が眠るベッドには樺地が、滝と鳳が眠るベッドには岳人と
忍足がそれぞれ腰かける。
「あれ?ジローは?」
「ジローはもうあっちの部屋で寝てるで。」
「さすがだね。で、何やるんだっけ?」
「大貧民。みんな分かるよな?」
ほとんどのメンバーが頷く中、一人だけ首を傾げたものがいた。そう跡部だ。跡部はトラ
ンプで遊ぶなどということはほとんどしないので、当然このゲームも知るはずがなかった。
簡単に岳人がルールを説明すると、何とか理解はしたらしい。
「よーし、じゃあ始めようぜ!!」
岳人の言葉で大貧民が始まった。まだ慣れていない跡部は頭を使うようなやり方はしてい
ないが、何故か強いカードばかりを持っていて、順調にその数を減らしていく。
「パス。」
「パス。」
「・・・・これ、出せるんだよな?」
尋ねながら跡部が出したカードはジョーカー。これを返せるものはいないであろう。その
時点で跡部の手札はラスト一枚。ということは、一番にあがりというわけだ。
「よし、あがり。」
「はあ!?マジで?お前強すぎだろー?」
「うー、くやしいー!!」
「それじゃあ、跡部さんが大富豪ですね。」
「まんまやん。」
跡部が眺めている中、ゲームはさらに進められる。滝も忍足もいい勝負だったが、ここで
樺地が大逆転。富豪は樺地になった。その後も順々にあがっていき、最後に残ったのは宍
戸と鳳。貧民か大貧民を決める真剣勝負だ。
「絶対負けねぇ。」
「こっちだって。」
宍戸の手札はJと4。鳳の手札はK。普通の展開なら鳳の方が有利だが、今回は宍戸から。
当然宍戸はJを出す。Jということは小さい数ほど強くなるというわけで・・・。
「よっしゃー、俺の勝ち!!」
「う〜、ずるいですよ。宍戸さん。」
「宍戸が勝ったということは、宍戸が貧民で鳳が大貧民だな。」
大貧民には罰ゲームというルールを岳人がここで、勝手に作り、鳳は罰ゲームを受けるこ
とになってしまった。
「何で罰ゲームなんですかぁ!?そういうことは初めに言ってくださいよ〜。」
「いいじゃん。今、思いついたんだからさ。」
「で、罰ゲームの内容って何なん?」
「そうだなあ・・・あっ!!跡部、さっきみんなで飲もうってことで酒買ったよな?」
「ああ。ここにあるぜ。」
「じゃあ、この一番度の高そうな日本酒コップ一杯一気のみ♪」
「無理ですよ〜。」
「大丈夫だって、一杯くらい。」
というわけで、岳人は小さなボトルに入った日本酒をプラスチックのコップになみなみ注
ぎ、鳳に渡した。誰か止めて欲しいと目で訴えるがみんなおもしろがって止めようとはし
ない。
「長太郎、男だろ!!」
「宍戸さ〜ん、じゃあ、宍戸さんが飲んでくださいよ。」
「お前が大貧民だろ。」
「あうう。滝さん。」
ちらっと滝に助けを求めるが、ニコニコしながら一言。
「飲まなきゃダメだよ、長太郎。」
こうなったらもう助けてくれる人はいない。ここは覚悟を決めるしかないと鳳はコップ一
杯の日本酒をぐびっとあおった。かなりアルコール度数が他のものに比べて高いので、喉
が一気に熱くなる。その所為で飲み終えると鳳はかなりむせた。
「ゲホっ、これ、かなりキツイですよ〜。」
「おお、飲めたじゃん。やるー。」
「俺、もうこのゲーム抜けます。こんなんじゃ、頭働きませんもん。」
酒を飲んだわりにはまだ意識はハッキリしているらしい。しかし、そうすぐには酔いは回
らない。しばらくしてから出てくるのだ。
「そっか、じゃあ俺達はもう少しやろうぜ。」
「おう!!今度は大富豪になってやる!!」
「お前はそのままでいいだろ?宍戸。」
「何〜!?」
そんなこんなで盛り上がりしばらく大貧民は続けられる。5戦くらいやるとそろそろ飽き
るころだ。時間ももうそろそろ10時半を回るということで、いったんみんなで遊ぶこと
はお開きにすることにした。岳人と忍足と樺地は自分の部屋へと帰っていく。
「はぁ〜、久々に楽しかったな。」
「そうだな。宍戸、そろそろ風呂入りに行かねーか?」
「ああ。お前らはどうする?」
「俺達はまだいいや。長太郎、アルコール入ってるし。お酒飲んですぐお風呂に入るのは
危ないからね。」
「分かった。じゃあ、お先。」
「ごゆっくり。」
ひらひらと手を振りながら、宍戸と跡部は浴衣とタオルとその他必要なものを持ち、お風
呂へと向かう。残された滝と鳳は何をしようかと考えるが、鳳がそれどころではない。酔
いが回ってきたのかぼーっとしている。
「大丈夫?長太郎。」
「はい・・・なんとか。」
「まあ、それほどいっぱい飲んだわけじゃないからね。ちょっと酔っ払ってるだけだと思
うよ。」
しかし、滝はこの時憶測を誤っていた。鳳は思った以上に酔っていたのだ。
一方、こちらは岳人や忍足の部屋。この二人もお風呂に入ろうと用意をしていた。
「さてと、温泉にでもつかりに行くか。」
「せやな。樺地はどうするん?」
「自分は・・・もう少ししてから行きます。」
「そっか。じゃあ、俺達は先に入ってるな。」
「ウス。」
ドアを出たところで、跡部と宍戸ではちあわせをする。頭や体を洗えるのは下に階にある
浴場だけなので、どちらもまずはそちらの方に入ることにした。
「へぇ、今の時間は貸し切りに出来るらしいぜ。」
「四人で貸し切りにしてもなあ。」
「でも、一応しといた方がええんとちゃう?」
「まあ、その方がほかのお客さん来なくてゆっくり入れるよな。」
というわけで、男風呂の前の札をしっかり『入浴中』にしてから入っていった。
「うわっ、蒸し暑っ!!」
「洗うとこ二つしかないんやなあ。」
「二人ずつ使えばいいんじゃねぇ?背中流しっこみたいにしてさ。」
「別に俺は構わないぜ。」
洗い場が二つしかないので、いつものペアで一緒に使うことにした。跡部と宍戸のペアは
まず跡部から、岳人と忍足のペアは岳人から洗うことにする。跡部と宍戸は何の抵抗もな
くお互いの髪や体を洗いあっている。それを見て、岳人と忍足は意外だなあと感じた。
「何や二人とも慣れてるなあ。」
「は?何が?」
「お互いに洗いあうのって、普通は結構照れるだろ。俺達はまあ、いいんだけどさ。お前
らがやってんの見ると何か意外。」
「結構やるよな?」
「ああ。泊まったときとか一緒に風呂入ったりもするし。」
それも意外だと二人はさらにビックリ。そういうのはどちらかが嫌がりそうだと二人には
見えるのだ。
「よし、終わり。流すぜ跡部。」
「ああ。」
「うーん、あいつらってさ、俺達が思っている以上に実はバカップルっぽいんじゃねぇ?」
「確かに。洗うのとか宍戸が嫌がりそうだと思ってたんやけどなあ。」
「お前ら何ぶつぶつ言ってんだ?さっさと洗っちまえよ。跡部、今度は俺だ。」
「ああ。」
今度は宍戸が座り、跡部が洗い始める。髪は短いのですぐに洗い終えてしまい、背中から
体を洗い始めた。それをぼーっと岳人と忍足は眺めている。
「あはは、跡部、そこくすぐってぇよ!!」
「当たり前だろ?わざとそうしてんだからよ。」
『・・・・・。』
あまりにも楽しそうにしている二人を見て、岳人と忍足は唖然。この二人にこんな一面が
あったのかとちょっと信じられないでいる。確かにいつもいちゃついてることはあるが、
ここまであからさまに見たのは初めてだ。
「うーん、信じられへんわ。」
「跡部が他の人を洗うなんてありえねぇ。超俺様なのに。」
すぐ隣に座っているので、岳人と忍足の言葉は丸聞こえ。跡部はカチンとした表情で、二
人に向かって泡を飛ばした。
「黙って聞いてりゃ好き勝手言いやがって。宍戸は特別なんだよ。他のヤツには絶対やら
ねぇ。」
「痛ってぇ!!だからって、泡飛ばすことねぇだろ!!目に入った〜。」
「大丈夫か?岳人。今、髪と一緒に流したるわ。」
「サンキュー侑士。う〜、目が開かねぇ・・・」
「自業自得だ。」
二人の発言に跡部は相当イラついていたらしい。そんな跡部や二人を見て、宍戸はクスク
ス笑っている。もういいだろ?と跡部に泡を流すように頼んだ。
「よし、俺達は終わり。お前ら遅ぇーぞ。」
『誰の所為だ!!』
「さあ。跡部、湯船入ろうぜ。」
「そうだな。」
岳人と忍足が怒っているのを全く無視し、二人は湯船に入る。少し熱めの温度ではあるが、
なかなか気持ちいい。
「はあ〜、気持ちイイーVv」
「確かに。ちょっと狭いがなかなかいいな。」
「なあ、跡部。あとで展望露天風呂の方行こうぜ。」
「そうだな。確かあっちも貸し切りに出来たはずだし。」
「じゃあ、今度は二人で貸しきろうな。」
どうしたわけか、今日は宍戸の機嫌がやけにいい。それに便乗して跡部もかなり上機嫌に
なってきている。二人がいい雰囲気で話している間に岳人と忍足もやっと体を洗い終えた。
「よっしゃ、終わり。」
「俺らも入るからもうちょっと寄れよー。」
「あーん?外もあるだろ。お前らはそっち行けよ。」
『外?』
跡部は入ってきたところとは逆の方のドアを指差した。確かにそのドアは外に続いている。
「へぇ、こっちにも湯船があるんだ。」
「あー、こっちのが涼しくてええわ。」
「あれ?こっちにもドアがあるぜ。」
湯船とは逆方向のところにもう一つドアがあった。二人はそのドアも開けてみる。
「うわっ、暑っ!!サウナじゃん。」
「こんなとこ入ってられへんわ。普通に湯船入ろう。」
「だな。」
外にある湯船に入ると今日の疲れが抜けていくような心地がする。二人そろってリラック
スしていると壁の向こうから声が聞こえる。
「俺達、先に出てるなー。」
「ああ。分かった。」
跡部と宍戸は他の二人よりも一足早く浴室を出る。体もすっかり温まり、今日の疲れはほ
ぼ取れた状態だ。
「侑士、俺らはどうする?」
「せやなあ・・・あの二人の次に展望露天の方行かへん?」
「あっ、それいいな!じゃあ、俺達ももうそろそろ出るか。」
「ああ。」
二人に少し遅れて岳人と忍足も浴室を出る。二人はまだ浴衣に着替えているところだった。
「浴衣だったら、こんな感じでいいよな?」
「ああ。いいんじゃねぇ?」
「いや、アカンやろ。それはさすがに・・・。」
浴衣を着慣れていない宍戸はかなりはだけた状態になっている。跡部からしたらそれは確
かにおいしい着方だ。忍足は直してあげようとするが、二人そろってそれを拒む。
「ああ、いいよ。めんどいから。」
「どうせ、このあとまた上の風呂行くな。」
「えっ、もう行くの?部屋とかに戻ったりしないで。」
「少しは休んだ方がええんとちゃう?」
「これ見ろよ。」
宍戸が二人の前に出したのは携帯電話。画面には滝から来たメールが表示されていた。
『長太郎がかなり微妙なことになっちゃってるからさ、一時間くらい時間くれない?』
「というわけだ。」
「あー、鳳かなり酔っ払ってたぽいもんな。」
「さすがに一気はアカンかったな。」
やはり日本酒を一気飲みさせたのはダメだったかと全員苦笑い。というわけで、跡部と宍
戸は上にある展望露天風呂にそのまま向かった。残された二人はしっかりと浴衣を着付け
自分の部屋へと戻る。
「侑士、浴衣着付けんのうまいな!」
「簡単やで。今度教えたるわ。」
「おう!」
着替えを持ち、部屋に戻ると樺地はスケッチブックに絵を描いていた。どうやら今日見学
してきたところらしい。
「やっぱ、樺地絵うまいなあ。」
「そうだ。樺地も風呂入ってきちゃえば?」
「まだ・・いいです・・・」
樺地はなかなかお風呂に行こうとしない。空いているときに行った方がいいと岳人と忍足
は言うが、行かないと言う。何か理由があるのかと思い尋ねてみると・・・
「ジローさんと・・・一緒に入るって約束してるんで。」
『なーるほど。』
それで断り続けてたのかと二人は納得。それならしょうがないと今日眠るベッドに寝転が
った。
「あっ、そうだ!!跡部達が露天風呂使い終わったら連絡してくれってメール送っておか
ねぇ?」
「せやな。じゃあ、俺が送っとくわ。」
「うん。」
貸し切り風呂を今度は自分達使いたいと跡部達にメールを送る。あの様子だと一時間はか
かるであろう。岳人と忍足はしばしの休憩ということで、ベッドに横になったまま、目を
閉じた。
to be continued
※第3話は裏にあります。見たい方はそちらからお入りください。
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