熱海旅行2日目。今日は伊東市を中心にそれぞれ好きなところを回るということになった。
しかし、あいにく天気は曇り。雨が降りそうでもあるが、一方で晴れ間が広がっている部
分もある。山の天気は変わりやすいというのは本当なのであろう。
「うわあ、メッチャ雨降ってるよ。」
「ホンマやな。俺ら傘持って来てないけど大丈夫かいな。」
「すぐやむんじゃない?山の天気は変わりやすいって言うし。」
バスで移動中、まるでスコールのような大雨が降る。まだまだ目的地に着くまでにはだい
ぶ時間があるので、天気が変わるという確率もかなりある。なので、それほど気にせず、
氷帝テニス部メンバーは昨日あったことなどをバス内で話す。
「そういえばさ、鳳二日酔いとかなってねぇの?」
「はい。別に問題ないですよ。」
「俺らが風呂から上がったときにはもうぐっすり寝てたもんな。」
「可愛かったよー、昨日の長太郎。」
昨日のことを思い出し、滝は笑う。鳳だって覚えていないわけではない。二日酔いになっ
ていないということは、昨日自分が滝に何を言ったか、どういうことをしたかをある程度
覚えているということのだ。その所為で、滝の言葉を聞いて鳳は真っ赤になった。
「あ、あれは酔っ払ってたからですよ〜。元はといえば先輩達が俺に酒なんて飲ませるか
らいけないんじゃないですか。」
「別に悪いことしたわけじゃないんだからいいじゃん。それにそういうことしたのは、俺
達だけじゃないしね。」
「えっ?どういうことですか?」
「ね、宍戸♪」
「な、何で俺にふるんだよ!?そ、そんなことねぇよな跡部。」
「跡部にふったらバレバレやん。」
「あー、やっぱ二人とも露天風呂でやったんだぁ。どうだった?」
「そりゃもう、夜景はキレイだし、宍戸は可愛いし・・・」
「ア、アホっ!!何言ってんだよ!!」
とてもバスの中で話してよいというネタではないが、あまり人が乗っていないのでよしと
しよう。そんな話をしている間にバスはどんどん目的地へと近づいてゆく。雨もあがった
ようだ。
「やっと、着いた。」
「でも、雨やんでよかったな。」
「ウス。」
「う〜、まだ眠い〜。」
バスを降りるとまずはどこに行くかの確認だ。このあたりはほぼ山道なので、徒歩で移動
するというのはまず無理であろう。
「ここらへんいろんな見るとこがあるけど、どこも微妙に遠いよな。」
「やっぱバスで移動するのが妥当だろ。」
朝話し合った結果によると、今日行く場所は「ねこの博物館」と「天使の美術館」。時間
的にどちらもというのは無理なので、二つのグループに分かれることになった。
「これから行くのは『ねこの博物館』と『天使の美術館』だったよね?」
「ああ。俺と侑士と跡部と宍戸がねこの博物館で・・・」
「俺と滝さんと樺地とジロー先輩が天使の美術館ですよね。」
「次のバスまでは、まだもうしばらくあるな。少し腹ごしらえして行かねぇか?」
『賛成!!』
バスの本数が少ないためにすぐには出発出来ない。というわけで、跡部は昼食を食べてい
こうと提案する。もちろん他のメンバーはそれに大賛成。出かける前にまずは腹ごしらえ
だ。
駅周辺の適当な場所で昼食を終えると氷帝テニス部メンバーはまたさっきのバス停へと戻
ってきた。戻って来る途中で突然またさっきのようなスコールが降り出したので、ここま
では全速力で走ってこなければならなかった。
「何やこの雨。」
「ホーント、マジまいるよなあ。」
「でも、そんなに濡れなくてよかったですね。」
「駅が近くだったからな。」
軽く息を乱して、少し濡れてしまった服や鞄の水をはらう。降り出したときに比べれば、
少しは弱くなったもののまだ雨は降り続いている。しばらく、屋根のあるバス停でバスを
待っていると予定の時刻より少し遅れてやって来る。方向としては同じなので、全員でそ
のバスに乗り込んだ。
「降りるバス停って俺達とお前達で違うんだよな?」
「そうだな。確か、俺達の方が1つ前のバス停だったと思うよ。」
「あれぇ?俺ってどっちで降りればいいんだっけ?」
「ジローは滝達と降りるんだろ?なあ、樺地。」
「ウス。」
ねこの博物館よりも天使の博物館の方が手前にある。なので、降りるバス停が違うのだ。
十数分してまずは滝や鳳のグループがバスを降りる。
「じゃあ、お先。あとでそっちがどうだったか聞かせろよな。」
「おう。」
「それじゃあ、あとで。」
「じゃあな。」
四人を見送ると次のバス停で跡部達も降りる。目的地まではどちらも歩いて一分もかから
なかった。
「意外と近かったな。」
「ああ。あいつらが降りたとこからもそんなに離れてねぇんじゃねぇの?」
「それよりさあ、さっさと入ろうぜ。こんなとこで話してたら時間勿体ないじゃん!」
「せやな。」
というわけで、四人は早速博物館の中へと入る。入り口にはいきなり二足立ちの大きな猫
の像が飾ってあった。
「いらっしゃいませ。」
「中学生四人で。」
「中学生四人ですね。」
入場券をもらうとたくさんのネコ科の動物の骨やリアルな人形が置いてあるスペースに入
る。入ってすぐに目に入るのはトラやひょうなどの大型肉食動物。動物園で見たことはあ
るが、ここまで近くで見れるということはなかなかないので、その大きさに少々驚く。
『デケェ・・・』
あまりの大きさに宍戸と岳人の二人は唖然とした表情でそんなことを漏らした。確かに大
きい。体の大きさはゆうに二人の二倍以上はあるであろう。
「トラって結構でかいんやなあ。」
「まあ、動物園とかで見るときはかなり遠くからだからな。」
「おっ、あっちにもいっぱいいるぜ。」
少し奥に入るとトラの群れのジオラマがある。ここにあるトラはさっきのトラに比べれば
いくらか小さいがそれでも迫力は満点だ。そこをこえると今度はひょうの仲間になり、昔
のネコ科の動物になり、骨格になる。順番に見ていくがどれも本当にリアルで、見ていて
なかなか飽きなかった。
「すげぇなここ。こんなにいっぱいネコの仲間がいるなんて知らなかったぜ。」
「写真もいっぱい撮ったし。」
「でもさ、ここの動物見てて思ったんやけど・・・」
「何だよ?」
忍足はふと目線を跡部と宍戸に移して呟く。見られている二人は首を傾げた。
「自分らネコ科の動物っぽいなあと思って。」
「はあ?どういう意味だよ?」
「あー、分かるぜ侑士!!」
「あーん?」
忍足の言葉に岳人はすぐに納得。しかし、当の本人達はさっぱり意味が分からないと不思
議がるような顔をしている。
「跡部って何かイメージ的に『ひょう』って感じやん?そんで、宍戸は『猫』って感じ?」
『ああ!!』
その言葉に跡部も宍戸も納得。自分がどういうイメージかはさておき、相手のイメージは
そのままだと思った。
「確かに跡部はひょうっぽいな。」
「宍戸が猫だってのは、俺も納得だ。」
「俺らから見てもまんまだと思うぜ。やっぱ、お前ら相性はいいんじゃねぇの?」
からかうように岳人は言う。相性がいいということを聞いて、跡部は単純に嬉しがり、宍
戸は照れる。あまりにも予想通りの反応に岳人と忍足は笑った。
「そ、そんなことはどうでもいいじゃねぇか!!それよりさっさと次行こうぜ。」
照れているのを隠すように宍戸はそう言って、次の場所へと向かうための階段を上り始め
る。二階は本物の猫とふれあうことの出来るスペースだ。
「おお、すげぇいっぱいいるぜ!」
「でも、外に出てるのはそんなに多くないんやな。」
たくさんの猫の入っている檻はあるものの、外に出ているのは数匹だ。中に入っている猫
はほとんどが眠っている。近くにいた猫を一番先に抱き上げたのは跡部。家で猫を飼って
いるが故に猫の扱いには慣れているのだ。
「へぇ、なかなか大人しくて可愛いじゃねぇの。」
「いいなあ。俺にも抱かせて。」
「しっかり抱いてやれよ。中途半端だと逃げちまうから。」
「おう。」
一匹の猫を二人で抱いている。それを見て、岳人は一言。
「なあなあ、侑士。あれ、親子って感じじゃねぇ?」
「あはは、確かにな。写真撮っておくか?」
「そうだな。」
さっきあんな会話をしたばかりなので、そんなことを思いついたのだ。パシャっとフラッ
シュをたき、写真を一枚撮ると宍戸がくるりと振り返る。
「何、写真撮ってんだよ?」
「いや、なかなかいい光景だなあと思って。親子みたいだぜ。」
けらけら笑いながら岳人は言う。猫を抱いていて親子はないであろう。宍戸はちょっとム
っとしたが、跡部が猫と楽しそうに遊んでいる様を見て怒る気も失せてしまった。こんな
跡部の顔を見られるのは滅多にない。
「まあ、別にいいや。跡部、あっちにも猫がいっぱいいるぜ。」
「じゃあ、行ってみるか。お前らも好きに見とけよ。俺達はあっちにいるから。」
「分かった。侑士、俺達はどうしよっか?」
「せやなあ、俺、動物とかに触るのあんまり得意やないねん。先にお土産とか見にいかへ
ん?」
「いいぜ。」
岳人と忍足は跡部と宍戸より一足先にお土産を見に行った。お土産屋さんには当然のこと
ながら猫に関するグッズがたくさんある。ポストカードやTシャツ。食器やマグネットな
どもあった。
「へぇ、なかなか可愛いやん。」
「でも、ちょっと高いよなあ。あっ、見ろよ!!あそこにおもしろいのがあるぜ。」
岳人が指差した先にあったのはツタンカーメンの仮面。何故ここにこんなものが売ってい
るのかは謎だが、おもしろーいと岳人は大はしゃぎだ。
「何でこんなもんがあるんやろな。」
「さあ。うわっ、これ安くなってるけど七万以上するぜ。元値十万だって。」
「そりゃそうやろ。でも、こんなん誰も買わへんやろな。」
二人とも苦笑しながらそんなことを話す。さすがにこういう系統のものは買えないので、
普通の置物を色違いで買った。猫の背中に天使の羽が生えているというデザインの可愛い
招き猫だ。
「おそろいだな、侑士。」
「ああ。それにしても、跡部達遅いなあ。まだ、猫と遊んでるんかいな。」
「呼びに行くか。」
「せやな。もうそろそろ出ないとバスの時間間に合わなくなってまうし。」
あまりにも遅い跡部と宍戸を呼びに二人は再び二階へと戻っていった。
一方、こちらは天使の美術館に来た四人。それほど大きくない美術館ではあるが、中には
様々な天使の絵や彫刻が飾られていた。美術の好きな鳳や樺地にとってはとても興味深く
おもしろい美術館だ。
「キレイですね。」
「うん。キューピッド達の純粋さがよく表れているよね。」
「ウス。」
「なあ、みてみて。真似っこー。」
そこまで美術的なことに興味のないジローではあるが、それほどつまらないとは思ってい
ないらしい。絵にかかれたキューピッドや天使の真似をして遊んでいる。それを見て他の
三人はくすくす笑った。
「何やってんだよ、ジロー。」
「でも、確かに似てますよね。」
「ウス。」
「ほら、ジローの髪の毛ってふわふわで金髪だから、余計に似てるように見えるんだよ。」
「ああ、確かに。」
ジローのあのふわふわした金髪の髪の毛は絵に描かれているキューピッドにそっくりだ。
確かにそうだなあと思っていても、それを口に出していない樺地は無意識にジローのこと
をじっと見つめていた。
「どうしたの、樺地?」
「?」
「あー、分かった。俺のこと本当に天使みたいだなあとか思ってたんでしょ?」
笑いながらジローはそんなことを言う。氷帝メンバーはほぼ全員自分のことを自分で褒め
る癖がある。まあ、一番は跡部だがジローや滝も結構そういうところがあるのだ。
「ウス。」
「えっ、マジで!?」
「そんなわけないだろ、ジロー。なあ、樺地。」
「・・・・。」
滝の質問には黙ってしまう。あれ?本当だったのかなと滝はそれ以上何も言わなかった。
「でも、ここにいるメンバーって雰囲気とか容姿とかだけで考えるとみんな天使っぽいで
すよね。」
唐突に鳳はそんなことを言い出す。そう言われれば確かにそうだ。ジローはさっきも話し
ていたように髪型がキューピッドにそっくりで、樺地は優しい性格がそんな感じであろう。
滝もそういう服を着れば、少し階級の高い天使っぽいし、鳳も悪魔と天使、どちらかと聞
かれればやはり天使だ。
「滝とかかなり大天使系だよな。」
「そうかな?長太郎も普通に天使だよね。」
「そう言ってもらえると嬉しいです。でも、やっぱり一番は樺地じゃない?」
「ウス?」
お互いに天使だということは認め合っているようだ。そんなよく分からない微妙な会話を
しながら、四人は美術館を回る。そんなに広くはないのですぐに全てを回り終えてしまっ
た。残すはお土産を見るのみだ。
「結構よかったよね、ここ。」
「はい。あっ、お土産も結構いろんなものありますよ。」
「本当だ。何にしようかなあ。なあなあ、樺地は何買う?」
「まだ・・・決めてません・・・・」
たくさんのお土産が並んでいる棚を見ながら、自分の好きなものを選んでゆく。
「わあ、このハートのガラス細工可愛くないですか?」
「本当だ。このネックレスもいいデザインだよね。」
やはり滝と鳳はアクセサリー系のものを中心に選んでいる。一方、ジローは天使をモチー
フにしたベルや人形を見て、樺地はシャーペンや鏡などを見ている。やはり、このような
ところのお土産もかなり値段がはるので、そんなにたくさんは買えなかったが、それぞれ
気に入ったものを買った。時間も跡部達と合流する時間にだいぶ近づいてきているので、
買い物を終えると四人は外へと出た。
「あ、そうそうさっきの話の続きだけど・・・」
「さっきの話って何ですか?」
「あー、このメンバーって天使っぽいってヤツ?」
「そうそう。でさ、ここにいないメンバーってみんなどちらかといえば悪魔だよね。」
「そうですか?跡部さんはともかくとして、宍戸さんや向日先輩はあんまりそんな気しま
せんけど・・・。」
「あの二人は悪魔っていうより、小悪魔って感じ?忍足もあんまり天使っぽくはないよな。」
それなら納得と鳳もジローも樺地も頷く。ここにいないからといって言いたい放題だ。
「確かにー。でもさ、そんなこと言ったらきっとあの四人怒るだろうなあ。」
「そりゃそうでしょ。だって、基本悪魔だもん。」
「ウス。」
「お、樺地も賛成?それじゃあ、決定だな。」
何が決定だというつっこみが他の四人から聞こえてきそうだが、今はそんな心配はない。
そんなどうしようもない話をして、大笑いしながら四人はバス停へと向かった。
同じバスに乗るということを約束していた八人は、しっかりとそのバスの中で合流した。
あとは宿へと戻り夕食。今日はカニの食べ放題が待っている。そんなことを楽しみにし
つつ、また他愛もない会話をバスの中でするのであった。
to be continued