ついに大会の日がやってきた。12月の半ばで気温は極めて低いものの、天気は快晴、ま
さに試合日和だ。四人は氷帝のジャージを身につけ、試合会場にやってくる。
「ついに大会ですね。」
「ああ。」
「どんなチームが出てくるんだろうな。楽しみー。」
そんなことを話していると、今日初めに戦う相手が発表される。顔合わせにでも来たのか
跡部達の前にその相手のチームがやってきた。
「今日の相手が来たようだな。」
相手チームは大会のルールにのっとり、様々な学校がごちゃ混ぜになっていた。あえて共
通点を上げるとすれば、相手のどの選手もボレーを得意としているところだ。真剣な眼差
しで自分達を見ている様子を見て、跡部はそのチームのやる気を感じる。
「へぇ、気合だけは入ってるみてぇだな。」
負けるとは思わないが、油断は禁物だと跡部はそんなことを呟く。しばらくして、一回戦
が始まった。今回の試合のオーダーは、ダブルス1が滝と鳳、シングルス2が宍戸、シン
グルス1が跡部いうことになっている。今までの練習の成果もあり、一回戦は何の問題も
なく勝ってゆく。
「残念だったな。もう終わりだ。」
宍戸が自信に満ち溢れた笑みを浮かべ、サーブを打つ。何度かラリーが続いた後、相手が
打ったロブを見逃さず、宍戸はコートの中心にスマッシュを打ち込んだ。
「ゲームセット、ウォンバイ宍戸!」
「よっしゃあ!!」
「俺様のチームが負けるわけねぇだろ。」
宍戸の勝利と共に跡部はそんなセリフを放つ。まずは一勝と四人は余裕の笑みを見せた。
「ま、一回戦なんてこんなもんだろ。」
悔しそうにする相手チームを尻目に跡部達は、一休みしに行こうとコートの外に出ていっ
た。
一回戦の試合が全て終わると、すぐに二回戦が始まる。他のチームの試合を観戦しながら
跡部達はバッチリ充電し、試合に対してのポテンシャルは万全だった。
「二回戦目もバッチリ勝ちに行こうぜ!」
「そうだね。今度のオーダーはどうするの?跡部。」
「そうだな、宍戸、ここでダブルス行ってみるか?」
「おう!跡部とダブルスか。よっし、頑張るぜ!!」
「シングルスはどうするんです?」
「シングルス2は滝で、シングルス1は鳳だ。それで異論はねぇな。」
跡部の言葉に三人は頷いた。さっきとは全く違うオーダーで跡部のチームは試合に臨む。
まずは跡部と宍戸のダブルスの試合から始まる。跡部とダブルスが出来るということで、
宍戸はかなり気合が入っていた。
「跡部、俺、頑張るからな!!」
「ああ。俺の足、引っ張るんじゃねぇぞ。」
「おう!」
試合が始まると二人は息をピッタリ合わせ、試合を進める。鮮やかな二人のプレイに観客
達は魅了される。相手の打ったボールが二人のちょうど真ん中に飛んで行ったときも、宍
戸がその自慢の脚を使い、取りに走る。
「まかせろ、跡部!」
テレポートダッシュでバッチリ球に追いつくと、宍戸はそのままディープライジングを相
手のコートに打ち込む。ライン際ギリギリに打たれたそれを相手の二人は返すことが出来
なかった。
スパーンッ
「ナイスプレーだ。」
宍戸のプレイを褒めながら跡部は手を挙げる。すれ違いざまに宍戸はパチンとその手を叩
いた。
「調子乗ってきたぜ!跡部、このまま引き離すぞ!」
「ああ。」
ゲームを掌中に収めた二人は、勢いづいて次々にポイントを決めてゆく。最後の1ゲーム
となったとき、一瞬油断をしたのか跡部は打てるはずの球を取り逃した。
「ちっ・・・」
「まかせろ!」
その球を宍戸はすかさず打ち返した。まさか打ち返されるとは思っていなかったので、宍
戸が返した球を相手は打ち返せなかった。
「ありがとよ。」
「いいって、いいって。これがダブルスだろ?」
ニッと笑いながら、宍戸は跡部の言葉に答える。さすがだと頭を軽くポンポンと叩くと、
跡部はボールを持ち、サービスラインに立った。
「これで終わりだ!」
そんな言葉と共に跡部はサーブを打つ。跡部の打ったサーブは地面について、そのまま静
止した。
「ゲームセット、ウォンバイ跡部&宍戸ペア!」
「やったな!跡部!!」
「ああ。テメェなかなかやるじゃねーの。すげぇやりやすかったぜ。」
「そうか?んじゃ、また組めるんだったら組もうぜ。」
「そうだな。」
二人で手にした勝利に喜びながら、跡部と宍戸は滝と鳳のところへ戻る。
「お疲れ様でした。いい試合でしたね。」
「まあな。」
「次は俺だね。」
「ここで決めとけよ、滝。」
「頑張ってください、滝さん!」
「分かってるって。それじゃ、行ってくるね。」
跡部達の試合が終わると、シングルス2の滝がコートに入る。仲間以外とするシングルス
の試合で、滝は少々緊張気味だったが、一週間前の練習のおかげで以前よりも数倍よいプ
レイをすることが出来た。テンションの上がった滝は次々に技を繰り出してゆく。
「行けー、滝!!」
「決めちゃってください!」
「そこだ!」
他のメンバーの応援を聞きながら、滝は最後の一球を決める。空中で消えた球はサービス
ラインのギリギリのところに落ち、審判の声がコートに響いた。
「ゲームセット、ウォンバイ滝!」
二回戦目も完勝すると、跡部率いるメンバーは全員でガッツポーズをする。
「こんなところで負ける俺達じゃねぇしな。」
自信満々に跡部がそう言うと、他のメンバーはその言葉に頷く。順調な滑り出しに跡部達
は確かな手ごたえを感じていた。
次の日に行われた準決勝も何の問題もなしに勝ち進み、跡部達は控え室で、決勝戦に向け
ての調整をしていた。食事をしながら雑談をして、緊張をほぐしていると、跡部が手に何
かを持って、控え室に入ってくる。
「月刊プロテニスの井上記者から、ビデオをあずかったんだが・・・」
そのビデオを再生してみると、そこには決勝戦で戦う相手の試合が映し出されていた。
「これが決勝の相手か・・・」
「確かに骨のありそうな連中だな。」
今まで戦った相手とは一味も二味も違うその気迫に、滝と宍戸は息を飲む。真剣な表情で
テレビを見つめながら、緊張感を高める二人に鳳はやる気を出させるような言葉を発した。
「でも、心配することはありませんよ。今までの練習を思い出して、自信を持っていきま
しょう!」
「そうだな。長太郎の言う通りだぜ。」
「俺達だって、あんなに練習してきたんだもん。負けないよね。」
「いい心意気だな。俺らなら必ず優勝出来る。自信を持て。テメェらなら負けねぇよ。」
跡部がそんなことを言ってくれるとは思わなかったので、そこにいた面々は驚いたような
顔を見せる。しかし、その言葉は三人にとって何よりも自信に繋がるものになった。跡部
が自分達の力を認めてくれている。それが嬉しくてたまらない。決勝の相手を前にしての
緊張を全て吹き飛ばすくらいの自信が三人の中にふつふつと湧き上がった。
「よっしゃー!!決勝も完全勝利を目指そうぜ!!」
「うん。絶対優勝しよう!!」
「頑張りましょうね!!」
やる気いっぱいの三人の様子を見て、跡部はふっと微笑む。次の試合でこの大会は終わっ
てしまうが、もう思い残すことはない。優勝という二文字だけを目指し、自分の持てる力
を出すだけだ。
「そろそろ時間だ。行くぜ!」
『おう!!』
決勝戦の時間が近づいてきたので、跡部は立ち上がる。他のメンバーも跡部の後に続き、
控え室を後にした。
決勝戦は一回戦や二回戦、準決勝とは違い、そう簡単に勝つことは出来ず、接戦であった
が、ダブルス1もシングルス2も何とか勝利を得ることが出来た。シングルス2であった
宍戸は、最後の一球を決めると優勝の喜びを体全体で表す。
「よっしゃー!!優勝だぜ!!」
ラケットを片手に走って跡部や滝、鳳のもとへ戻ると、全員と拳を重ね合わせた。
「やるじゃねーか。よくやったくらいは言ってやってもいいぜ。もちろんお前らもな。」
宍戸の頭を撫でながら、跡部はそんなことを言う。普段の宍戸ならガキ扱いするなと怒る
ところだが、今は優勝出来たことの嬉しさが先行している。満面の笑顔で、跡部の顔を見
る。滝や鳳も嬉しそうな笑みを浮かべ、手を取り合って喜んだ。
「やったね、長太郎!」
「はい!俺、滝さんとダブルス組めて本当によかったと思います。」
「ほら、テメェら喜ぶのはいいが、そろそろ閉会式が始まるぜ。俺らが優勝したってこと、
参加する奴ら全員に見せつけてやろうぜ。」
当然だと思いながらも、跡部もやはり優勝出来て嬉しいと思っている。閉会式では優勝カ
ップと表彰状を掲げ、四人はやりきったという表情で表彰台に立った。盛大な拍手といつ
も通りの氷帝コール。真冬の澄んだ空の下、四人の笑顔とともに、関東ジュニアオープン
は幕を閉じた。
関東ジュニアオープンが終わった次の日、跡部達は二ヶ月半練習を続けたコートにやって
きていた。
「何だかすごくあっという間でしたね。」
「そうだね。でも、すごく充実した二ヶ月だったと思うよ。」
「もう終わっちまったのか。何かちょっと寂しいよな。」
充実感と寂しさ、その二つを同時に感じながら宍戸達はコートの上に立つ。静かな感傷に
三人が浸っていると、跡部が後ろから声をかける。
「何しけた顔してやがるんだ。大会が終わったからって腑抜けてんじゃねーぞ。」
「跡部。」
「まあ、確かにちょっと寂しい気はするけどな。俺は結構楽しかったぜ。」
いつもの笑顔でそんなことを言う跡部を見て、他の三人は顔を見合わせ、ふっと笑う。そ
して、一人ずつ跡部に近づき、今回の大会の感想を述べていった。
「さすが、跡部だな。さすが俺が認めたリーダーなだけあるぜ。今度は練習じゃなくてち
ゃんとした試合で勝負してぇもんだな。ま、次は負けねぇけどよ?」
冗談半分でそんなことを言うと宍戸は、ベンチの方へと通りすぎる。続けて、滝が跡部の
目の前に来た。
「お疲れ様。跡部ならきっとやってくれると思ってたよ。最後までついてきてよかった。
いい大会をありがとう。」
滝も宍戸の後を追うように跡部の横を通りすぎると、そのままコートの外へ出て行った。
それから少し間を置いて、鳳が目の前に来る。
「やりましたね、跡部さん。これでおしまいなんて、ちょっと寂しいですけど、跡部さん
のチームに入れてよかったです。ありがとうございました。」
ペコリと頭を下げると鳳も跡部の横を通りすぎて行った。しばらく、跡部は三人に背を向
けたまま黙っている。三人に思ってもみないことを言われたため、何となくジーンとして
しまったのだ。
「ねぇ、宍戸。やっぱ、最後は宍戸が行かなきゃ。」
「そうですよ。」
「そっか。んじゃ、お前らはここで待ってろよな。」
滝と鳳をその場に残し、宍戸はコートに立つ跡部のもとへ戻る。
「跡部。」
「何だよ?」
跡部がくるっと振り返ると同時に宍戸はぎゅっと首に抱きついた。
「し、宍戸?」
「テメェがあの時俺にぶつからなかったら、この大会に誘ってなかったのかもしれねぇだ
ろ?ホントただの偶然かもしれねぇが、テメェとこうして一緒にプレイ出来たことすげぇ
よかったと思うぜ。本当楽しかった。サンキューな。」
宍戸の心からの感謝の言葉に跡部は感動する。しばらくその感動に浸った後、跡部はすっ
と宍戸の体を自分から離し、頬と唇にちゅっとキスをする。
「んっ!?」
「俺もテメェを誘ってよかったと思ってるぜ。なあ、せっかくだからよ、優勝パーティー
しようぜ。テメェらも来るよな?」
今度は跡部の方から宍戸を抱いた。そして、そのまま滝と鳳に向かって声をかける。
「もちろん!行くに決まってるじゃん!!」
「お邪魔させて頂きます。」
「それじゃあ、今日の夜、俺の家に来い。今回は特別だ。超豪華な御馳走用意しといてや
るぜ。」
ここにいるメンバーは全員とても頑張ったということで、跡部は優勝パーティーを開くこ
とにした。さっきの感傷的な雰囲気はどこへやら。実に明るい様子で、四人はそのコート
を後にした。
to be continued