最強チームを結成せよ! 第二話

次の週の月曜日。跡部は図書館に本を借りに来ていた。借りたいと思う本を抱えて、カウ
ンターに向かおうとすると、後ろから声をかけられた。
「あっ、跡部。」
振り向いてみると、そこには滝が立っていた。
「なんだ、滝か。テメェも本を借りに来たのか?」
「ううん。俺は返しに。」
「そうか。」
読書が趣味の二人は、部活以外では図書館で会うことが多い。しばらく雑談をしているう
ちに話題は「関東ジュニアオープン」の話になった。
「ふーん、そんな大会があるんだ。面白そうだね。」
「テメェ、宍戸に負けてからどれだけ自主練してんだ?」
「そりゃね、俺だってこのまま負けたままでいるわけにはいかないし、かなりしてるよ。
もう公式戦は終わっちゃったけど、高校でもテニスは続けるつもりだしね。」
「そうか。なら、俺様のチームに入れてやってもいいぜ。」
「えっ、いいの?だって、どの学校のテニス部員も誘ってもいいんでしょ?」
思ってもみない跡部の誘いに滝は驚く。確かに出たいとは思うが、自分がチームに入って
本当にいいのかと思ってしまう。
「当然これからハードな練習はこなしてもらうぜ。俺様のチームが負けるわけにはいかね
ぇからな。」
「うん。んじゃ、しばらく様子を見させてもらうよ。」
「あっ、あと言い忘れてたけど、宍戸もいるからな。」
「えっ、あいつもいるの・・・?まあ、いいけど。せっかく大会に出られるんだしね。」
「それじゃあ、部活ではテメェも特別メニューを組んでやる。楽しみにしてろよ。」
「ああ。」
本を借りると跡部は軽く滝に手を振り、図書館から出て行った。大会に出るためにはあと
一人か二人のチーム員が必要だ。自分も大会に出る気は満々なので、跡部はあと一人だけ
チームに入れようと考えた。
「宍戸と滝を入れたってことは、効率よく練習出来んのはあいつしかいねぇよなあ。来年
の氷帝を引っ張っていってもらうためにも、ここで鍛えておくってのも悪くねぇな。」
そんなことを考えながら、跡部は階段を下りた。
「おい、鳳はいるか?」
「いますよ。おーい、鳳、跡部さんが呼んでるぜ。」
跡部は二年のクラスへ行き、鳳を呼んでもらった。何の用だろうとパタパタと鳳は跡部の
もとへ向かう。
「どうしたんですか?跡部さん。わざわざ二年のクラスに来て。」
「ちょっと話がある。いいか?」
「あっ、はい。」
鳳を廊下の端の方に連れてゆき、宍戸や滝に話したのと同じように、「関東ジュニアオー
プン」の話をする。
「へぇ、そんな大会があるんですか。」
「ああ。今、俺様のチームには宍戸と滝がいる。このメンバーだったら、テメェも入るの
が妥当だと思ってな。どうだ、俺のチームに入らねぇか?」
「うーん・・・そうですね。じゃあ、取りあえず入って、しばらく様子を見させてもらえ
ませんか。」
「ああ。来年はテメェらがこの氷帝学園テニス部を引っ張っていくんだ。俺様のリーダー
っぷりをよく見とけ。」
「はい!」
そんなに自信はないが、跡部の言うメンバーがチームメイトであるならば、それほど緊張
することもないと、鳳は跡部の言葉に頷いた。
「いい返事だ。今日から宍戸と滝とお前は特別メニューだ。いいな。」
「分かりました。頑張ります!」
「それじゃあな。」
やる気のある鳳の返事を聞いて、跡部は満足しながら自分の教室へ戻って行った。

それから数日、跡部はチームに入れたメンバーを部活以外でも鍛えていた。練習をしてい
る途中で跡部はとあることに気がつく。
「あん?これじゃボールが足りねぇじゃねぇか。誰かに買いに行かせるか・・・」
キョロキョロあたりを見回すと、ちょうど滝と鳳が休憩していた。これはちょうどいいと
跡部は二人に声をかける。
「おい、滝に鳳。」
「何?跡部。」
「どうしたんですか?」
「ちょっと買い物に行ってきて欲しいんだが・・・・」
「買い物?いいよ、何を買ってくればいいんだい?」
「お安いご用ですよ。何を買ってくればいいんですか?」
「二人で同じこと聞くな。ボールが足りないんでな。三箱くらい買ってきてくれ。」
ちょうどがっつり休憩したいと思っていたので、ちょうどよいと滝も鳳も跡部の頼みにす
ぐに頷いた。しかし、ボール三箱はなかなかの大荷物だ。その買い物は一番最後にして、
少し腹ごしらえでもしてこようと思いつつ、二人は買い物に出発した。
「宍戸、テメェも一回休憩しろ。」
「おう。あれ?長太郎と滝は?」
「ボールが足りないんで買い物に行かせた。」
「ふーん。そっか。あっ、跡部、そのタオル取ってくれねぇか?汗かいちまってよ。」
「ほらよ。」
「おっ、サンキュ。」
跡部から受け取ったタオルで汗を拭きながら、宍戸はベンチに座る跡部の横に腰かける。
冷たいスポーツドリンクを飲みながら、休憩していると、ベンチの後ろにある茂みの中か
ら激しい鳴き声が聞こえた。
『ニャアー!!』
ガサッ、バタンッ!! ガサガサ!!
「おいおい、何だよ?」
「猫みてぇだな。」
二匹の猫の鳴き声とガサガサと茂みの中で動き回る音を聞いて、跡部と宍戸はその茂みの
中をのぞいてみる。すると、そこでは真っ黒な猫と黄金色の毛に黒い模様の入った猫がと
っくみ合いの大喧嘩をしていた。
「ニャアーっ!!」
「ニャッ、ニャア!!」
「うわあ、すっげぇ。超大喧嘩って感じだな。」
「ほっとけばすぐおさまるだろ。」
「確かに。あんなの止めたらこっちがケガしちまいそうだ。」
引っかく、噛みつくの大喧嘩はしばらく続いたが、どちらが勝つということもなくいつの
間にかおさまった。傷だらけになりながら、そっぽを向き合う猫だが、決してどちらかが
その場から離れるということはしない。この二匹はどんな関係なんだろうと不思議そうに
二人が観察していると、黒い猫を跡部の方へ、黄金色の猫は宍戸の方へとテクテクと近寄
ってきた。
「おっ?どうしたんだ?」
「ニャー。」
「随分人なつっこい猫だな。野良にしてはいい毛並みじゃねぇか。」
「ニャアー。」
擦り寄ってくる猫を二人は、ヒョイッと抱き上げる。あれだけ暴れて疲れてしまったのか
ベンチに座って、膝の上に乗せてやると、どちらもウトウトしながら眠ってしまった。
「寝ちまった。」
「これじゃあ、動けねぇな。」
「あいつらが帰ってくるまで休憩しててもいいんじゃねぇ?」
しばらく猫の寝顔を見ながら、ほのぼのとした雰囲気の中、二人は練習で疲れた体を休め
る。気持ちよさそうに眠る猫の寝顔を見て、跡部も宍戸も似たようなこと考えていた。
『この猫さあ・・・』
なかなかハモることがなさそうな言葉がハモり、二人は顔を見合わせる。
「何だよ?」
「テメェこそ何だよ?」
「別に大したことじゃねぇ。」
「俺だってそれほど、大したことじゃねぇけど・・・」
「まあ、気になるからな。せーので言うか。」
「そうだな。」
そこまで言ったら、相手の言ったことが気になってしまう。大したことでなくてもいいか
ら聞きたいと、二人はお互いに言いたかったことを言うことにした。
『お前に似てるよな。』
「えっ?」
「あーん?」
まさか次に言うことまでかぶるとは思ってなかったので、二人はもう一度聞き返すような
返事をする。
「だから、この猫、色とか雰囲気とかが跡部に似てるなあって思ってさ。そっちの猫より
俺様な感じがするし、毛の色が跡部の髪の毛の色みてぇ。」
「それだったら、こっちの猫もテメェにそっくりだと思うぜ。綺麗な黒い毛だし、さっき
のケンカを見る限りでは負けず嫌い丸出しだし。傷だらけだしよ。」
自分達の抱いている猫がお互いに似ているということを言うと、何だかそれがおかしくて、
二人は声を立てて笑った。よくよく考えてみれば、さっきのケンカもまるで自分達のよう
だ。
「あはは、確かに似てるかもしれねぇな!」
「ああ。こいつら、あんな激しいケンカしてたけど、本当は仲がいいんじゃねぇか?」
二人があまりにもうるさいので、眠っていた二匹の猫は目を覚ます。しばらくどちらもぼ
ーっとしていたが、しっかりと目が覚めると、二人の膝からピョンっと飛び降り、顔を洗
うような仕草を見せた。
「ニャーン・・・」
自分の顔を洗い終えると、黒い猫は黄金色の猫に近づき、さっき自分が引っかいてつけた
傷をペロペロと舐める。それのお返しだと言わんばかりに、黄金色の猫も黒い猫の傷をペ
ロペロと舐め始めた。
「やっぱ、仲いいみてぇだな。」
「でも、俺らに似てるとか話をした後にこういうことされるのは、ちょっと照れるな。」
「別にいいんじゃねぇか?おっ、帰ってくみたいだぜ。」
お互いに体をすり寄せ合った後、二匹の猫はどこかへと帰ってゆく。何だか和むなあと跡
部も宍戸もふっと微笑みながら、その猫を見送った。
「さーてと、そろそろ練習再開するか。」
「そうだな。あいつらもまだ帰ってきそうもねぇし。」
「じゃあ、ちょっと試合形式で練習しようぜ。俺、跡部と一緒に練習してぇ。」
「あの猫見て触発されたってか?いいぜ、付き合ってやる。」
自分達によく似た仲のよい二匹の猫に触発され、二人は一緒に練習を始める。ラケットが
ボールを打ついい音が鳴り響いたと同時に、黄色の球が緑色のコートに飛びかい始めた。

跡部と宍戸が練習を再開し始めたちょうどその時、滝と鳳は、買ったボールを地面に置き、
とあるクレープ屋さんの椅子でクレープを食べながらくつろいでいた。
「ここのクレープ美味しいですね!」
「だろ?最近、見つけてさあ、結構お気に入りなんだよねー。」
「滝さんは何頼んだんでしたっけ?」
「俺は和風クレープ。中に抹茶とあんこときなこが入ってるんだ。甘さ控えめでなかなか
美味しいよ。」
「へぇ、本当に美味しそうですね。」
滝の食べているクレープが本当に美味しそうだと鳳はじっと滝の口もとを見る。そんな鳳
の視線に気づいて、滝はくすくす笑った。
「味見する?長太郎。」
「えっ!?いや、別にそんなつもりで見てたわけじゃ・・・・」
「いいよ。はい。」
「・・・・ありがとうございます。」
食べてみたいという気持ちは存分にあったので、鳳は素直に滝からクレープを受け取った。
控えめに一口口に含むと、抹茶ときなこの何とも言えない風味が口いっぱいに広がる。予
想以上の美味しさに鳳の顔は思わず笑顔になる。
「そんなに美味しい?」
「えっ?」
「すっごいイイ顔してる。長太郎って、そういうとこすごく素直だよね。」
にこにこ笑いながらそんなことを言う滝の顔を見て、鳳は何だか恥ずかしくてかあっと顔
を赤く染める。
「もう一口くらい食べてもいいよ。その代わり、長太郎が食べてるのも味見させて?」
「はい。えっと、ありがとうございます・・・」
もう滝に自分の食べていたクレープを渡すと、鳳はもう一口和風クレープを食べる。パウ
ダー状の抹茶ときなこの所為で、鳳の口は粉だらけになってしまった。
「長太郎のクレープもなかなか美味しいね。あっ、長太郎、口に抹茶ときなこがいっぱい
ついちゃってる。」
「えっ、本当ですか?」
拭きたいと思ったが、ティッシュはテニスコートに置いてきた鞄の中に入ってしまってい
るので、ここにはない。どうしようかとおろおろしていると、滝が指で唇についてしまっ
た粉を拭った。
「よし、落ちたよ。」
「た、滝さん、そんなことしたら滝さんの手が汚れちゃうじゃないですか。」
「平気、平気、こんなの舐めちゃえばいいんだし。」
「えっ、ちょっ、滝さんっ!」
「ん?何?どうしたの、長太郎?」
自分の唇を拭った指を平気な顔で舐めるので、鳳は動揺しまくりだ。しかし、滝はと言え
ば、何事もなかったかのように飄々とした態度だ。
「な、何でもないです・・・・」
そんな態度の滝には何も言えず、鳳はぷしゅ〜と顔から湯気を出しながらうつむく。
「ふふふ、長太郎、可愛い。」
「からかわないで下さいよ〜。」
「ゴメン、ゴメン。」
素直な反応を示してくれる鳳が可愛いなあと思いながら、滝は自分のクレープをどんどん
食べていく。鳳を見ながら食べていると、いつの間にか、クレープはなくなってしまって
いた。クレープを食べ終えてしまうと、滝はふと自分の時計に目を落とした。
「長太郎、まだクレープ食べ終わらない?」
「もう後ちょっとです。ゴメンナサイ、食べるの遅くて。」
「ううん、気にしないで。そろそろ帰らないと、練習サボってんの跡部達にバレちゃうか
なあと思ってさ。」
「そうですね。出てきちゃってからだいぶ時間経ってますし。」
確かにそろそろ帰らないとヤバイと思い、鳳は残っていたクレープをぱくぱくと食べる。
滝は既に食べ終わっているので、鳳が食べ終わるのを黙って待った。
「よし、食べ終わりました。」
「ゴメンね、急がせちゃって。」
「いえ、大丈夫です。それじゃあ、戻りましょうか。」
「そうだね。」
早く戻らないと跡部に怒られてしまうと、二人は買ったものを忘れずに持って、少し早足
で歩き始めた。

                     to be continued

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