「なあなあ、宍戸。」
「何だよ?岳人。」
「お前って、関東ジュニアオープンに跡部のチームで出るんだよな?」
「ああ。そうだぜ。」
とある部活終わり岳人は宍戸にそんなことを尋ねる。そんな会話に忍足も入ってきた。
「その大会ってさぁ、二ヵ月後くらいなんだろ?」
「まあ、そうだな。」
「あ、その大会、俺も出ようかなあ思たんやけど、二ヵ月後言うたら12月の中旬やん?
そんな時期に寒い思いしてやるのもどうかなあ思て、今回はパスしたんや。」
「俺も俺も。テニスは好きだけど、冬はやっぱ冬のスポーツしてぇしな。」
練習に夢中でいつ行われるかなど考えていなかったので、宍戸は二人にそのことを指摘さ
れ、確かに寒そうだなあと思う。しかし、せっかく跡部が自分をチームメイトとして誘っ
てくれたのだ。寒かろうがそうでなかろうが、そんなことは大した問題ではない。
「俺は別にテニスするのは夏でも冬でも関係ねぇと思うけどな。試合はやっぱ楽しみだし。」
「当然だろ。俺様のチームなんだからよ。雪が降ろうが霰が降ろうが、優勝するぜ。」
『跡部!』
突然会話に参加する跡部に岳人と忍足は驚くようなリアクションを見せる。さっきまでは
部室にも居なかったのに、いきなり現れるなと二人は心の中でつっこんだ。
「だからテメェらは、いつも詰めが甘くなんだよ。」
「べ、別にこれは自由参加なんだからいいだろ!」
「せや。雪の中でなんてテニスしたら、体が凍えて、いつもの調子が出ぇへんやん。」
「そんなのは関係ねぇっつってんだよ。なあ、宍戸?」
「ああ。雪程度でいつもの調子が出なくなるなんて激ダサだぜ!」
自信満々にそんなことを言う二人にちょっと腹を立たせながら、岳人と忍足が反論しよう
とすると、部室に滝と鳳が入ってくる。
「この後の練習どうする?」
「そうですね・・・ラリー練習したいんですけど、つきあってもらえますか?」
「お安い御用だよ。いつものテニスコートでいいよね?」
「はい。」
部活を終えた後なのに、これからまた練習をしに行くような話を聞いて、岳人と忍足は本
当に頑張っているのだなあと感心する。跡部と宍戸に対しては、いろいろ反論したくなる
のだが、滝と鳳に対してはそんな感情はまったく生まれない。
「ふーん、まあ、確かに頑張ってるみたいだな。」
「そりゃ、ちゃんと練習してもっと強くならなきゃ優勝出来ねぇからな。」
「まあ、同じ学校同士で作ったチームや。チームワークはそんなに悪くないやろ。試合に
は出ぇへんけど、応援してやるわ。全員氷帝のメンバーやしな。」
そんな会話を聞いていたのか、着替えをしながら滝と鳳も四人の会話に加り始める。
「あれ?岳人と忍足は他の誰かとチーム組んだりして出たりしないの?」
「だって、大会12月だぜ。寒そうだからパス。」
「確かにそうですね。でも、テニスは一年中出来ますから。」
「さすがやなあ。頑張りや。」
「はい!ありがとうございます!」
自分達とはえらく態度が違うなあと跡部と宍戸は少々カチンとする。もうこんな二人は無
視だと二人は違う話題で話をし始めた。
「跡部、俺は今日は何の練習すればいいと思う?」
「テメェはスタミナとパワーとテクニックが不足気味だからな。スマッシュ練習がいいん
じゃねぇか?」
「そっか。なら今日はスマッシュ練習にするぜ。」
宍戸がそう言うと部室のドアの方から声をかけられる。滝と鳳はもう準備万端のようだ。
「跡部、宍戸、まだかかりそうなら俺ら先に行ってるよ。」
「ああ、先行ってていいぜ。」
「俺らも早く行こうぜ、跡部。」
「そうだな。」
二人に遅れをとってはいけないと、跡部と宍戸もちゃっちゃと用意を済ませ、部室を出て
行く。そんな二人を見送るように眺めながら、岳人と忍足は顔を見合わせる。
「全国大会が終わったってのに、すごいやる気だな、アイツら。」
「せやなぁ。俺らもいろいろ頑張らな。」
「だな。よーし、じゃあ、これから・・・・」
「テニスでもしに行くんか?」
「カラオケにでも行こうぜ。今日はもう十分練習したもん。特に試合があるわけでもねぇ
し、いいだろ?」
「全く、ホンマに岳人は自由奔放やな。ええで、久しぶりに行こか。」
「よーし、今日はがっつり歌うぜ!」
四人に感化されていると思いきや、この二人は全くされていないようだ。自分達のしたい
と思うことを自由にする。それでバランスが取れているのが、氷帝テニス部レギュラーメ
ンバーのすごいところなのだ。
部室を出て行った跡部と宍戸は、すぐに滝と鳳に追いついた。校門のあたりまで来るとふ
と何かを思いついたように、宍戸があることを口にする。
「なあ、跡部。バス停まで競争しねぇか?」
突然何を言い出すんだと呆れつつも、跡部はたまにはそういう遊びも面白いだろうと頷こ
うとした。しかし、滝と鳳は跡部はそんなことしないだろうと、否定の言葉を並べる。
「跡部はそんなことしなくない?」
「そうですね。跡部さんってそういう子供っぽいことはしなさそうですもん。」
「子供っぽいって何だよ!?跡部、やっぱしねぇのか?」
否定されたのなら、その逆をしたくなるのが跡部の性格だ。もともとその誘いに乗ろうと
思っていたこともあり、跡部はフフンと笑いながら頷いた。
「いいぜ、宍戸。その勝負受けてやる。」
「嘘っ!?」
「跡部さん、本気ですか?」
跡部が頷くとは全く思っていなかったので、滝と鳳はあからさまに驚く。
「そうこなくっちゃ。いくぜ、よーい・・・スタート!」
タッタッタッ・・・・
驚く二人を無視して、跡部と宍戸は走り出す。どちらも全力で走っているようで、あっと
いう間にずっと先まで行ってしまった。
「行っちゃった。」
「跡部さんがあんな誘いに乗るなんて思いませんでした。」
「同感。宍戸ってさぁ、ときどき跡部に俺らがビックリするようなことさせるよね。」
「そうですね。あんな跡部さんを見ると、やっぱり跡部さんも中学生なんだなあって、
ちょっと安心します。」
「あはは、確かに。跡部って、中学生離れしてるところが多いもんねー。」
そんな会話をしながら、滝と鳳はゆっくりと二人を追いかける。バスが来るまでにはまだ
時間があるので、そんなに急ぐ必要がないのだ。
タッタッタッタッタ・・・・
「よっと・・・。どうやら、俺の勝ちだな。まったく、こんな遊びでもなめられちゃたま
んねぇからな。」
「あー、くっそぉ!!もうちょっとだったのにー!」
勝負の結果は少しの差で跡部の勝ちだった。くやしがる宍戸だが、久しぶりに跡部とこん
などうしようもない勝負が出来て楽しかったと思っている。
「あーあ、走るのなら負けねぇと思ったんだけどなあ。」
「俺様に勝とうなんて、十年早ぇーんだよ。」
「今度は絶対勝ってやる!また、勝負しような!」
「次も返り討ちにしてやるぜ。」
バス停でしばらく話をしていると、やっと滝と鳳が到着する。
「勝負はついたの?どっちの勝ち?」
「そんなの俺様に決まってるだろ。」
「でも、ほんの少しの差だったんだぜ!次は絶対勝つ!!」
「頑張って下さいね。あっ、バス、来ましたよ。」
滝と鳳の二人が到着してすぐにバスが来る。それに乗り込み、四人は練習をするテニスコ
ートへと向かった。
その週の週末、毎日練習ばかりでは体も持たないだろうということで、跡部はチームメン
バー全員を誘って遊びに行くことにした。夕方になるまで存分に遊ぶと、四人は様々な店
が立ち並ぶ繁華街で別れる。
「今日は楽しかったな。」
「まあ、いい気分転換にはなったがな。」
「久しぶりに遊んだって感じだよね。あっ、俺もう帰らなくちゃ。それじゃ、気をつけて。」
「俺もそろそろ。滝さん、一緒に帰ってもいいですか?」
「うん。もちろん。」
「それじゃあ、お疲れ様でした。先輩達も気をつけて帰ってくださいね。」
「おう。じゃあ、また来週な。」
「テメェらも気をつけて帰れよ。」
滝と鳳と別れると、跡部と宍戸は特に目的もなく散歩をするかのように歩き出す。どちら
もまだ家に帰る気はないようだ。
「跡部、これからどうする?」
「まだ帰るって気分じゃねぇんだよな。宍戸、テメェはまだ帰らなくていいのか?」
「俺もまだそんな気分じゃねぇ。あっ、じゃあさ、ちょっとそこらへんの公園とか行って
話しようぜ。」
「悪くねぇな。行くか。」
そのまま散歩し続けるのも微妙だということで、二人は近くの公園へ向かった。公園に着
くと跡部はとある興味深いものを見つける。
「へぇ、こんなところにもコートがあるのか。」
「ストリートテニスってやつか。やってみねぇか?」
すぐそこに見えるコートに下りて行ってみると、そこには青学の桃城と不動峰の橘の妹で
ある杏がちょうど打ち合いをしようというところだった。
「あれ?あれって、青学の桃城じゃねぇか?」
「その隣にいるのは橘の妹だな。」
コートまで歩いていくと、桃城と杏も二人の存在に気づく。
「あっ、跡部さんに宍戸さん。」
「よぉ、お前らこれから打ち合いでもすんのか?」
「はい。あっ、よかったら試合しません?ダブルスで。」
「テメェらが俺らに勝てると思ってんのか?」
「や、やってみなくちゃ分からないじゃない!」
「相変わらず威勢だけはいいな。宍戸、どうする?」
「んー、いいんじゃねぇか。つーか、跡部とダブルスか。そりゃ楽しそうだ。」
桃城の誘いで、二人はダブルスの試合をすることになった。跡部とダブルスなど今までし
たことがなかったので、宍戸はわくわくしていた。当然跡部は、シングルスもダブルスも
こなせるので問題はない。試合が始まると、その力の差は歴然だった。
「もらったぜ!」
スパーンっ
「よっしゃー!」
宍戸のスマッシュで快調な滑り出しを見せた跡部&宍戸ペアは、手加減なしで、桃城&杏
ペアを攻めてゆく。
「止まって見えるぜ!」
今日は一日中遊んでいたにも関わらず、宍戸に疲れという文字は全く見えない。こんなに
本気で試合をされれば、桃城と杏に勝ち目はなかった。あっという間にあと1ゲームで勝
負がつくというところまで来てしまう。
「最後決めるぜ。」
そう言って打った跡部のサーブは、最後まで粘りを見せる桃城に返されてしまった。しか
し、それを容赦なく宍戸が打ち返す。
「どらあ!!」
宍戸の打ち返したボールは、桃城と杏のちょうど真ん中の部分に入る。次のサーブが決ま
れば、跡部&宍戸ペアの勝利だ。
「やるじゃねーのよ。」
「フッ、最後の一球、間違えなく決めろよ。」
すれ違いざまに手をパチンと叩きながら、二人はそんな会話を交わす。そして、跡部はベ
ースラインの後ろに立ち、ボールを高々と投げ上げた。
「くらっとけよ、おら!」
そんな言葉と共に打ち込まれたサーブは、地面についても全く跳ねない。そんな球を打ち
返すことは不可能なので、この勝負は跡部と宍戸の勝利となった。
「あー、やっぱり強いッスね、跡部さん達。」
「今のは返せないわ。」
「まあ、暇つぶしにはなったぜ。さてと、そろそろ行くか、宍戸。」
「おう。じゃあな。」
意外なところでテニスが出来たとちょっとした充実感を感じながら、二人はコートを去る。
さすがだなあという眼差しで、桃城と杏は二人のことを見送った。
公園を一回りしてから帰ることにした二人は、歩きながらさっきの試合の話をする。
「お前、だいぶダブルスも様になってきてるよな。」
「まあな。お前がダブルスなら俺の努力が生かされるって言ったんだぜ?」
「そうだけどよ。・・・・なあ。」
「ん?何だよ?」
さっきの試合で、跡部はとあることを思いついた。しかし、チームメンバーを考えるとそ
の提案は少し言いにくいものである。
「・・・・・」
「何だよ?言いたいことがあるならハッキリ言えよ。」
「今回の大会でよ・・・」
「おう。」
「いくつかの試合で、俺とダブルスしねぇか?」
「へっ?」
跡部の口から出た意外な提案に宍戸は唖然としてしまう。跡部はどう考えてもシングルス
プレイヤーだ。それなのにわざわざ自分とダブルスを組む必要がどこにあるのだろうか。
聞き間違いだと思い、宍戸はもう一度聞き返した。
「俺が・・・お前とダブルス組むのか?」
「ああ。もちろん全部の試合でじゃねぇぜ。一度か二度、それだけでいい。どうだ?」
「そ、そりゃ嬉しいけどよ、マジで言ってんのか?」
「ああ。さっきの試合してな、お前とダブルスするのも悪くねぇと思ったんだ。別に公式
戦じゃねぇし、いつもと違うことしてもいいんじゃねぇか?」
「跡部が・・・お前がそれでいいなら、俺は全然構わねぇぜ。俺も、一度でいいからお前
とダブルスしてみたいと思ってたからな。」
照れながら宍戸はそんなことを言う。まさか自分が跡部とダブルスが組めるなど、夢にも
思っていなかった。あまりの嬉しさに顔が緩み、鼓動が速くなる。
「なら、来週からの練習で、俺様とのダブルスの練習も入れなきゃならねぇな。」
「そうだな。あっ、でも、長太郎は?」
「あいつはもともと滝と組んでたからな。あっちはあっちで、ダブルスの練習させりゃ、
いい戦力になるだろ。滝もテメェに負けて、だいぶ鍛えてるみたいだしよ。」
「そっか。へへー、何か試合がすげぇ楽しみになってきた。跡部とダブルスかぁ。うわあ、
何か激ドキドキするし。」
「俺様の足、引っ張るんじゃねーぞ?」
「お、おう!跡部こそ、ダブルスなんだから、シングルスみたく自分勝手なプレーすんじ
ゃねぇぞ!!」
「俺を誰だと思ってんだ?そんなの当然だろ。」
自信たっぷりの笑顔を浮かべて、跡部は言う。それを聞いて、宍戸も笑顔になった。月明
かりが照らす公園の並木道。そんな夜道を歩きながら、二人は明日からどうしていこうか
という話を飽きることなくし続けた。
to be continued