「ふぅ、すっかり遅くなっちまったな。」
練習後、街に出かけた跡部は、いつもより遅い時間に家路を辿っていた。公園のすぐ横を
通ったところで、跡部はとある人物にぶつかった。
「おっと。何をあんなに急いでやがるんだ?」
一瞬ではあったが、跡部にはぶつかった人物が宍戸だということが分かった。慌てて走り
去ってゆく宍戸を不思議そうな顔で眺める。首を傾げながら、跡部はしばらくそちらの方
を見つめていた。
それから数日後、練習が終わった後に跡部は宍戸に声をかける。
「おい、テメェ、公園脇で会った時、何であんなに急いでやがったんだ?」
跡部にそんなことを尋ねられ、宍戸は激しく動揺する。
「べ、別に急いでた覚えはねぇなあ。気のせいじゃねぇの?」
「あっ、公園脇でしょ?あそこ出るんだってね〜。」
滝の言葉を聞いて、宍戸の顔は一気に強張った。
「出るって、アレのことか?テメェ、そんな噂にビビってんのかよ?」
跡部が言うアレとは、もちろん幽霊やお化け、その類のものである。最近、公園のあたり
でそのようなものが出るという噂が流れている。宍戸はそういうものが苦手なので、公園
の近くを通る時はやはり気にしてしまうのだ。
「これじゃ先が思いやられるぜ・・・。来な。そんなモンいるわけねぇだろ。俺様が確か
めさせてやるよ。」
「マ、マジで行くのかよ?別にいいけどよ。テメェも暇だな。」
強がるようにそんなことを言う宍戸だが、内心はもうビクビクだった。本当は行きたくな
いが、ここで断れば跡部に完璧にバカにされる。自分一人で行くのではなく、跡部も一緒
に行くのだから、少しは安心だろうと思いつつ、宍戸は引きつった笑顔を浮かべて頷いた。
「な、なあ、やっぱやめた方がいいんじゃねぇ?」
「そんなに心配しなくても大丈夫だって。テメェはビビりすぎなんだよ。」
「でもよぉ・・・」
公園の入り口までくると、宍戸はかなりビクビクとした様子で、跡部の服をぎゅっと握る。
そこまで怖がることないだろうと、跡部は呆れたように溜め息をついた。
「ハァ・・・ほら、行くぜ。」
腕を引っ張られ、宍戸は重い足を引きずるように動かす。公園に入った瞬間、今まで明る
く照っていた月が黒い雲で隠れ、そこは真っ暗になった。
「月、隠れちまったみてぇだな。」
「う〜、こんな時に何なんだよぉ・・・」
「噂の場所って、どこだったっけか?あっちの方か?」
幽霊が出ると噂されている場所に向かおうとすると、宍戸は足に力を入れ、跡部の歩みを
止める。
「何だよ?宍戸。」
「やっぱ、俺、無理〜。」
「何、ふぬけたこと言ってやがんだ。そんなもんいねぇって言ってるだろ。」
必死に行きたくないとしている宍戸を跡部は半ば強制的に連れてゆく。結局、腕を引っ張
られながら、宍戸は噂の場所へと連れてこられてしまった。
「ほら、何もねぇだろ。」
「お、おう。」
ポーン、ポーン・・・・
どう見ても自分達の周りには誰もいないにも関わらず、どこからともなくボールをつく音
が聞こえてくる。しかも、それはテニスボールなどの小さな球をつく音ではなく、もっと
大きな、手毬のようなものをつく音だ。空耳ではなくハッキリと聞こえるその音に、宍戸
の顔は青ざめる。
「あ、跡部・・・何か聞こえる・・・」
「そうだな。どこからだ?」
「やだやだ!!行くなっ!怖い怖い怖い!!」
「静かにしろ。こっちの方から聞こえるな。」
宍戸の制止を押し切り、跡部はボールの音の聞こえる方へと歩いてゆく。行きたくないが、
一人で待つのはもっと嫌なので、宍戸は跡部にしがみついたまま、ゆっくりと進む。音の
元までゆくと、そこには赤いちりめん模様の小さな手毬が一つ、ころんと転がっていた。
「ひっ!」
「へぇ、あんな噂は嘘だったと思っていたが、あながち間違ってねぇみてぇだな。」
「跡部危ねぇよ!早くこんなとこ離れようぜ!!」
「いや、少し調べてみるのもおもしろいんじゃねぇ?」
「何ふざけたこと言ってんだ!?無理無理っ!絶対ヤダ!!」
あまりにも拒否っている宍戸を可愛いと思いつつ、宍戸の手を振り払い、手毬を軽く蹴る。
跡部に蹴られたボールは宍戸の足元にころころと転がっていった。
「わああっ!!」
爪先にコツンと手毬が当たると、宍戸は半泣き状態で跡部に抱きつく。あまりにも宍戸が
予想通りの反応を見せるので、跡部はくっくと宍戸に気づかれぬように笑った。
「本当、マジ無理っ!!もう帰ろうぜ、跡部ぇ〜。」
「そんなに怖いか?」
「当たり前だろ!!これで本当に幽霊とかいて、とり憑かれたりしたらどうすんだよ!?」
「さあな。その時はその時だ。それに、俺もテメェもあの手毬にもう触れちまったからな。
ここでそのまま帰るってのもヤバイんじゃねぇの?」
冗談めいた口調で跡部はそんなことを言う。それを聞いて、宍戸は目に涙を浮かべて、跡
部をバシバシ叩く。もうどうすればよいか分からない。ここにはいたくないけれど、この
まま帰って何かが起こるのも怖い。もとはと言えば、跡部がこんなところに連れてきたの
がいけないんだという言葉にならない怒りを宍戸は行動に表した。
「痛ぇって。」
「テメェがこんなところに連れてこなければ、こんなことになんなかったのに・・・」
「別にまだ何か起こったわけじゃねぇだろ。」
「でも、このあとどうすればいいか分からねぇじゃねぇか!!」
半べそ状態で、自分にしがみつきこの状況を非常に怖がっている宍戸に跡部は、何だか妙
な気分になってきてしまう。もともとこの状況は滝や鳳と協力しての宍戸に対するドッキ
リだったので、本物の幽霊が出てくることなどありえない。それが分かっているからこそ、
跡部はここまで可愛らしい反応を示す宍戸に興奮してしまったのだ。
「・・・なあ、宍戸。」
「何だよ・・・?」
「幽霊をこの場所から遠ざける方法、知ってるんだけど試すか?」
「マジで!?どうすんだよ?」
そんな方法があるなら早く教えろと言わんばかりの宍戸の耳元で、跡部はとあることを囁
く。それを聞いて、宍戸は目を見開いた。
「それ・・・本当か・・・?」
「ああ。本当だぜ。どうする?するか?」
ニヤニヤと笑いながら、跡部は宍戸に尋ねる。この状況なら宍戸は必ず頷く。少しためら
いはしたが、案の定、宍戸はコクンと頷いた。
「本当にそれで、大丈夫になるなら・・・する。」
「そうこなくちゃなあ。」
心の中でガッツポーズをしながら、跡部は宍戸を大きな木の蔭に連れていった。そして、
怯える宍戸の気分をほぐすかのように甘い口づけを施してやった。
「って、跡部、何やってんだよ!?俺、こんなの聞いてない!!」
「宍戸さんに対するドッキリだったはずなのに、これじゃあ、俺らに対するドッキリです
ね。」
「ったく。もうこれ以上おどかす必要もなさそうだし、俺らは帰ろうか。明日も朝練ある
し。」
「そうですね。あの二人の邪魔しちゃ悪いですしね。」
「別に邪魔するのは構わないと思うけどさ、これ以上跡部につきあってらんない。」
いきなりそういうことを始められ、少し離れていたところで二人の様子をうかがっていた
滝と鳳は困惑しながらも呆れる。人にドッキリに協力してくれと頼んでおいて、それはな
いだろうと滝は少々ご立腹気味だ。
「さーて、帰るか。長太郎、帰りに何か買って一緒に食べて帰ろう。俺、お腹空いちゃっ
た。」
「俺もちょうどお腹減ってきたところなんですよ。いいですね、そうしましょう。」
もう跡部と宍戸は放っておこうということで、二人は帰ることにした。出来るだけ音を立
てないように、そろりそろりとその場所から離れると、二人はコンビニに向かって歩き出
した。
滝と鳳が帰ってしまったことなどには、全く気づかず、跡部は自分の好きなようにことを
進める。自分ではもうどうすればいいか分からなくなっている宍戸は、とにかく跡部に身
を任せるしかなかった。
「んっ・・・ぁ・・・跡部、本当にこれで平気なのか・・・?」
「ああ。俺様に任せておけば何の問題もねぇ。」
「で、でも・・・ここ一応公園の敷地内だし・・・」
「最後まではしねぇよ。ただこういうことしてりゃ、幽霊とかそういう系統の輩は近寄っ
てこねぇって言うからな。」
「そっか・・・」
跡部が作った適当な作り話をすっかり信じ込んでいる宍戸は、素直に跡部の言うことを聞
く。跡部がベルトに手をかけても、全く抵抗しようとする素振りすら見せない。
「今日はやけに素直だな。」
「だって、こういうことしてないと寄ってきちまうんだろ?」
「・・・ああ、そうだな。」
ここまで何の疑いもなしに信じている宍戸をするのは少々可哀想な気もするが、こんなチ
ャンスはそうそうない。跡部は舌なめずりをしながら、宍戸の首筋に小さく歯を立てる。
それと同時に半分ほど勃ち上がっているそれに触れてやれば、宍戸は甘ったるい声を上げ
る。
「は・・あん・・・」
「こんな状況でも感じるんだな。」
「これは・・・仕方ねぇだろっ・・・条件反射だよ、条件反射!」
「いい条件反射を身につけてるもんだな。もう怖いなんて感じねぇくらい、乱してやるよ。」
自信に満ち溢れた笑みを浮かべながら、跡部はすっかり固くなっている熱を上下に扱いて
やる。
「ふ・・ぁ・・・あっ・・・あん・・・」
全身がとろけてしまいそうな快感に、宍戸は跡部にしがみつきながら無意識に足を開く。
もともと涙目だったが、それとは違う熱を含んだ潤んだ瞳で見つめられ、跡部はさらに興
奮する。
(ヤベェな・・・マジで最後までしたくなっちまう。)
しかし、こんなところで最後までするつもりはない。自分自身の熱も昂ぶっていくのを感
じながら、跡部はとにかく宍戸の熱を扱いた。
「あっ・・・あ・・ぁ・・・跡部っ・・・やっ・・あ・・・」
「ハァ・・・ちっ、思った以上に我慢出来なくなっちまいそうだ。」
自分の理性のコントロールの利かなさに軽くイラ立ちながら、跡部は呟く。そんな跡部の
言葉を聞き、宍戸はしがみついていた腕を下ろした。
「どうした?」
「ハァ・・・跡部も結構キてんだろ?・・・俺が、跡部のしてやるから・・・ちょっとベ
ルト外せよ・・・」
「あ、ああ。」
宍戸のモノを弄っている手とは逆の手で跡部は自分のベルトを外した。力の入らない腕を
伸ばし、宍戸は跡部のモノに触れた。今まで何も触っていなかったにも関わらず、跡部の
それはギリギリまで昂ぶっていた。
「俺の触ってて、そんなに興奮してたのか?」
「触っててっつーか・・・テメェの反応全般にだな。こんなことしてたら、幽霊も全く近
寄れねぇよな。」
「はは、そうだな。なあ・・・跡部、もっとちゃんとしようぜ。」
「おう・・・」
ここまできたら、もう幽霊などどうでもよくなっていた。お互いの熱に触れ、意識が飛び
そうなくらいの快感を感じる。どちらの息も乱れまくり、もうこれ以上は我慢出来ないと
思った瞬間、二人の掌は熱い蜜で濡れた。
「あっ・・・!」
「ぅ・・・宍戸っ!」
熱を放ち、すっかり脱力してしまった二人はお互いの身体を相手の身体にもたれかからせ
るように預けた。
「よし、綺麗になったぜ。」
「おー、サンキュー跡部。」
持っていたポケットティッシュで、手やその他を綺麗に拭くと跡部はさっと立ち上がる。
そして、まだ座ったままでいる宍戸に手を差し出した。
「そろそろ帰るぞ。立てるか?」
「おう。別に最後までしたわけじゃねぇからな。何かあーいうことしてたら、マジで怖い
とかどうとかどうでもよくなっちまった。」
「ほらな。俺の言った通りだろ?だからきっと、あーいうことしてると、幽霊は寄ってこ
れねぇんだよ。」
「なるほどなあ。でも、マジであの手毬は何だったんだろ?」
「別にそんなに気にすることじゃねぇって。」
「そうだな。よっし、じゃあ帰るか!」
手毬は滝が用意したもので、もちろん幽霊のものではない。そんな手毬を放置したまま、
跡部と宍戸はその場所を離れた。
「なあ、跡部。」
「どうした?宍戸。」
「やっぱ、こういう暗い道はまだちょっと怖いからよ・・・」
「ああ。」
「その・・・何つーか・・・」
「どうした?言いたいことがあるならハッキリ言いやがれ。」
「手、繋いでくれねぇ?」
さっきのこともあり、少し照れがあったが、やはり離れて歩くのは怖いので、宍戸はそん
なことを言う。本当にどこまでも自分を喜ばせてくれるなあと思いつつ、跡部はふっと笑
った。
「ったく。本当テメェは世話の焼けるヤツだな。」
「べ、別にいいだろ!!手繋ぐくらい!!」
「いいぜ。ほらよ。離れねぇようにしっかり握ってな。」
「お、おう。」
差し出された手を宍戸はしっかりと握る。一人で歩くとあんなに怖い夜道も、何故だか跡
部の手を握っていると安心出来る。そんなことを感じながら、宍戸は跡部の歩調に合わせ、
暗い小道をドキドキしながら歩くのであった。
to be continued