最強チームを結成せよ! 第八話

「今日はどんな練習するんだ、跡部?」
「そうだな・・・テメェらはどんな練習したい?」
「そうだなあ・・・そろそろ大会近いし、実践的な練習がしたいかも。」
「俺、ダブルスの練習したいです。ちゃんとした試合形式で。」
学校が終わって、いつもの練習場にやってきた四人は、どんな練習をようかということを
話し合っている。自分の苦手なポイントを鍛える練習も大事だが、そろそろ試合に向けて、
試合形式で練習することも必要だ。そんな中、鳳はダブルスの練習がしたいと言い出した。
「ダブルスの練習か。悪くはねぇな。」
「俺も賛成ー。今回は跡部と組むし、長太郎は滝とだろ?息合わせるためにもやっぱそれ
は必要だと思うぜ。」
「なら、今日の練習は、試合形式のダブルス練習で決まりだね。」
他のメンバーも公式戦とは違う相手とのダブルスで、ちゃんとした練習をしたいと思って
いた。全員一致で、今日の練習は試合形式でのダブルス練習に決まる。
「よし、じゃあ、少し体を慣らして、それから試合に入ろうぜ。」
『了解!』
しばらくテニスコートの周りを走ったり、柔軟運動をしたりして体を慣らすと、四人はそ
れぞれのペアになってコートに入る。
「何かなかなかない感じだな。」
「ちょっと変な感じですよね。」
「まあ、確かにこんな組み合わせで試合するってのは初めてかもな。」
「すごい新鮮。でも、楽しみー。」
普段一緒にいるペア同士であるが、そのペアで試合をするのは初めてだ。新鮮さとわくわ
く感を感じながら、早速試合を始める。サーブは鳳からだった。
「一球・・・入魂っ!」
スパーンッ
一球目は、宍戸の足元を抜け、バッチリ決まった。全国大会が終わり、その後も練習を欠
かさなかったため、コントロールはだいぶよくなってきている。
「へぇ、やるじゃねぇか。だけど、こっちだって負けないぜ。」
威力も確かに増している鳳のスカッドサーブに宍戸はニッと笑みを浮かべる。二度目のサ
ーブは、跡部がしっかりと返した。
「だいぶ打球の威力は上がってるみてぇだな。だが、まだまだだ!」
跡部の打ち返した球を今度は滝が打ち返す。しばらくラリーが続くと、宍戸が一気に攻め
始めた。
「どらあっ!!」
ダブルスコートのラインギリギリに打たれたディープライジングは、二人に触れさせるこ
となく決まる。
「よっしゃあ!」
「やるじゃねぇの。」
「へへ、こっからどんどん攻めてくぜ!」
調子の上がってきている宍戸を見て、滝も鳳も負けられないとやる気を出す。
「俺達だって負けないよ。ね、長太郎。」
「はい!まだ俺のサービスゲームですし、ここからが勝負ですよ。」
やる気を出した鳳のサーブは、さらに威力を増し、そのまま続けざまに得点を決めてゆく。
「やるねー、長太郎。」
「今日、調子いいっスよ。」
鳳のサーブの調子は衰えることなく、このゲームは滝&鳳ペアのポイントとなった。
「くそ、取られちまった。」
「まだ、大丈夫だ。この程度ならいくらでも逆転出来る。」
少し焦りの見えている宍戸とは対照的に、跡部は余裕しゃくしゃくの表情でボールを弾ま
せる。今度は跡部のサービスゲームになるのだ。
「くらっとけよ!」
スパーンッ!!
パワーもコントロールもテクニックも完璧な跡部のサーブに滝と鳳は手も足も出ない。一
球も返すことが出来ず、あっという間にポイントを取られてしまった。
「さすが、跡部!!」
「当然だろ。俺様を誰だと思ってるんだ?」
「やっぱ、跡部、マジ強いし。」
「そうですね。でも、まだまだ負けられませんよ。滝さん、まだ、アレ出してないじゃな
いですか。」
「うん。そろそろ出してもいいかな。」
自分達のサービスゲームになった瞬間、滝はさっきとは全く別の雰囲気を醸し出す。サー
ビスは鳳ほど威力はないのだが、何度かラリーを繰り返しているうちに、ふとボールが滝
の元へ飛んでいった。
「ハッ!」
滝はここぞとばかりにロブを打つ。ロブを打てば、跡部が破滅への輪舞曲を打つチャンス
を作ってしまうことになるのだが、跡部はそれを打つことが出来なかった。
トン、トン・・・・
滝の打ったロブは、いつの間にか跡部と宍戸の手の届かない場所に落ちていた。
「跡部、今のロブ、消えた・・・」
「ああ。なかなかやるじゃねぇのよ、滝。」
「俺だって、いつまでも準レギュラーのままでいるわけにはいかないからね。」
ふっと蟲惑的な笑みを浮かべると、滝は鳳から球を受け取り、二度目のサービスを打つ。
またあのロブを打たれると厄介なので、跡部と宍戸は少し後ろよりにラケットを構えた。
「滝さん、チャンスです!」
「うん。」
跡部と宍戸が少し下がったのを見逃さず、滝は今度はドロップショットを打つ。滝の打っ
たこのショットはネットを越えるとガクンと真下に落ち、二人に触れさせることはなかっ
た。
『なっ!?』
「イリュージョン・ドロップ。手品みたいだろ?」
「ふん、少し油断しちまったぜ。次は絶対決めさせねぇ!!」
「そうこなくっちゃ。」
「反撃するぜ、宍戸。」
「おう!」
「行くよ、長太郎。」
「はい!」
接戦のため、どちらも本気で本気の試合になる。入り入れられの攻防がしばらく続くと、
その試合はタイブレークに突入した。
「破滅へのロンドだ!」
「うわっ・・・」
「行けー、跡部っ!!」
「長太郎、俺が取る!!」
「遅いんだよ!!」
スパーンッ!
長いタイブレークの末、勝利を手にしたのは跡部&宍戸ペア。久しぶりの本気試合に、ど
ちらのペアもヘトヘトになりながら、心地の良い充実感を感じていた。
「いい勝負でしたね。」
「俺らとここまで接戦になるなんて、テメェらもやるじゃねぇか。」
「当たり前だよ。俺達だって、頑張って練習してんだから。」
「あー、でも久しぶりに試合らしい試合して、楽しかったー!」
勝ち負けに関わらず、四人はかなり今日の練習に満足していた。今日はここまでにして、
もう帰ろうかという話になった時、ふと鳳が何かを思い出したように声を上げる。
「あっ、そうだ!」
「ん?どうした?長太郎。」
「ジムの割引券が2枚あるんですけど、誰か一緒に行きませんか?明日は休みですし。」
昨日、クラスの友達にもらったジムの割引券のことを思い出し、鳳はそんなことを言う。
「うーん、明日はもう跡部と出かける約束してんだよな。な、跡部。」
「ああ。悪ぃけど、遠慮させてもらうぜ。」
「へぇ、じゃあ俺が行こうかなあ。」
跡部と宍戸は既に二人で出かける約束をしていたので、鳳の誘いを断る。しかし、滝は特
に予定がなかったので、鳳の誘いに乗った。
「それじゃあ、10時に駅前で待ち合わせでいいですか?」
「うん。たまにはジムで鍛えるってのもよさそうだね。ところで、跡部と宍戸はどこに行
くの?」
「別にそんなに遠出するってわけじゃねぇけど。少し買い物して、跡部んち行って何かす
るって感じだぜ。たまには、ゆっくりしたいからな。」
「ふーん、そっか。まあ、毎日練習してるんだからたまにはゆっくり休むのもいいかもね。」
それぞれのペアで明日の予定を確認し合うと、今日はここで解散となった。

その次の日、滝と鳳は時間通りに駅前にやってくる。
「おはようございます、滝さん。」
「おはよう、長太郎。」
軽く挨拶を交わすと、二人は早速ジムに向かって歩き出す。
「長太郎はジム行ったらどんな練習するの?」
「そうですねー、俺、それほど持久力があるってわけじゃないんで、そのあたりを鍛えよ
うかなあって思ってます。」
「そっか。俺はやっぱ、筋トレかなあ。たぶんうちのチームの中じゃ一番力は弱いよね。」
「でも、滝さんはテクニックがあるじゃないですか。」
「うん。でも、やっぱり、弱い部分は鍛えておかなきゃだからね。」
ジムに行ったら何をするかを話しながら、二人はテクテクと歩いてゆく。軽い散歩気分で
歩いていると、あっという間にそのジムに到着した。
「意外と近かったね。」
「そうですね。はい、滝さん。これ、滝さんの分の割引券です。」
「ありがとう、長太郎。それじゃ、入ろうか。」
「はい!」
鳳の元気な返事を合図に中に入ると、そこには様々な筋トレ器具が並んでいた。まずは、
着替えないとということで、二人は更衣室に向かう。外に出かける用の私服から、トレー
ニング用のウェアに二人はテキパキと着替えてゆく。
「よし、準備オッケー。長太郎、着替え終わった?」
「あっ、はい。もう少しなんで、ちょっとだけ待っててください。」
「うん。」
鳳が着替え終わるのを待ち、滝はタオルとドリンクを用意して、扉のすぐ前にある椅子に
座る。数分もしないで、鳳は着替え終え、滝に声をかけた。
「お待たせしました。じゃ、行きましょうか。」
「うん。」
トレーニングルームに入ると二人は、一通りどんな器具があるかを見てまわる。自分のし
たいと思うものを見つけると、ひとまず試しにやってみようとそれぞれその器具を使って
トレーニングをし始めた。
「長太郎、それ、何分くらいやる?」
「えっと、30分くらいですかね?」
「そっか。じゃあ、30分経ったら一緒に休憩しよう。」
「はい。」
鳳はランニングマシーンで、30分ほど持久走を、滝は様々な器具を使って、腕や腹筋の
筋トレをする。30分経つと二人とも汗だくで、いい感じの疲労感が体に溜まってきてい
た。
「はあー、30分って結構キツイね。」
「そうですね。俺ももう汗だくですよ。」
「あっ、冷たいドリンクあるけど飲む?」
「はい。ありがとうございます。」
休憩用のベンチに座りながら休んでいると、聞き慣れた声が入り口の方から聞こえてきた。
「おー、すっげぇ。結構いろんなもんそろってんだな!」
「ホンマやなあ。おっ、岳人。トランポリンもあるで。」
「本当だー!!後でやろーっと。」
入り口の方で騒いでいるのは、岳人と忍足だ。この二人もたまたま姉から割引券を譲って
もらいトレーニングをしにやってきたのだ。
「向日先輩と忍足先輩ですね。」
「うん。別に何してるわけでもないけど、あの二人、目立つよね。おーい、岳人、忍足ー。」
休憩用のベンチから二人の名前を呼んでみる。その声に気づいて、岳人と忍足は二人のも
とへやってきた。
「おー、滝と鳳じゃん!偶然だな。」
「こんにちは、向日先輩、忍足先輩。」
「ああ。今日は休みだってのにトレーニングなんて感心やな。どや?練習の調子は。」
「んー、なかなかいい感じだと思うよ。昨日、跡部と宍戸のペアとダブルスの試合したん
だけどね、タイブレークまでもつれ込んで、僅差で負けちゃった。」
「へぇ、すごいやん。跡部達と互角に戦えるなんて。いくらダブルス言うても、相手はあ
の跡部やし、宍戸も最近はダブルス慣れしとるからな。なかなか二人ともイイ感じやない
の。」
「ありがとうございます。それより、今日は二人ともどうしたんですか?」
特に試合もあるわけではなく、それほど鍛える必要性がない二人がここに来ていることを
不思議に思い、鳳はそんなことを尋ねる。すると、岳人がひょいひょいと跳ねながら、そ
の事情を説明した。
「何か姉貴が、割引券があまってるからってくれてよ、最近ちょっと動き足りないなあと
思ってて、ちょうどいいと思って来たんだ。な、侑士。」
「ああ。いくら試合がないからて、体鈍らせるのはアカンからな。」
「そうなんですか。さすが先輩達ですね!」
「そんな褒められるようなことじゃねぇよ。それに、軽くここで体動かしたら、ゲーセン
とかカラオケとか行って遊ぶつもりだしな。」
メインはここではなく、この後の方だと岳人は苦笑しながら説明する。それは楽しそうだ
と滝や鳳も笑った。岳人や忍足と話しながら、休憩時間を過ごすと、二人はまたトレーニ
ングに入る。鳳と滝以外の二人もせっかく来たんだからということで、自分の好きなもの
で体を動かし始めた。
「滝。」
「ん?どうしたの?岳人。」
「隣、いいか?」
「うん。別にいいけど。」
べダルをこいで足の筋肉を鍛えるようなマシンに乗っている滝に岳人は話しかける。自分
もその隣のマシンに乗ると、それをこぎながら話し始めた。
「お前ら二人、最近どーなの?」
「えっ?それはさっき話したじゃん。毎日ちゃんと練習してるからね。かなりいい感じに
鍛えられてると思うよ。」
見当外れなことを滝が言うので、岳人は即行でツッコミを入れる。
「違ぇーよ。テニスじゃなくて、鳳との仲について。」
「ああ。そっちか。うーん、別に特にこれと言って変わったことはないと思うけど。」
「お前ら、結構練習キツそうだからさ、最近そういうことしてねぇんじゃないかなあと思
ってさ。そこんとこ、どうなの?」
「えー、そんなこと聞くの?・・・確かに練習はキツイけど、それとこれとはまた話が別
だからね。休みの日の前の日とかは、お互いの家に泊まりに行ったりとかしてるよ。」
「へぇ、そうなんだ。やっぱ、することはしてんだねー。」
「別にいいでしょ。そっちはどうなのさ?二人は俺らに比べて、もっと時間があるんだか
ら俺らよりは出来るっしょ。」
「そうだな。まあ、回数はちょっと増えたかな?侑士がまた、可愛くてさあ。」
「長太郎だって、可愛いよ。あの声で名前呼ばれたりなんかするともうたまらないよね。」
「そうそう。侑士さぁ、もともと声低いじゃん?それがアノ所為で上擦ったりしてると、
もう・・・」
話が盛り上がってきてるところで、忍足がパシンと岳人の頭を叩いた。少し離れた場所で
筋トレをしていたのだが、岳人と滝があまりにもここには不釣り合いな会話をしているの
が聞こえ、ツッコミにきたのだ。
「こんなとこで、何の話しとんねん。」
「あれ?聞こえてた?」
「あないに大声でしゃべってたら、聞こえるに決まってるやろ。なあ、鳳。」
「滝さん、こういうとこではそういう話、しないでくださいよ〜。」
「あはは、ゴメンゴメン。でも、岳人が聞いてきたんだよ?」
「聞いとる方の身にもなれっての。二人を一緒にさせとくと、また何話されるか分からん
からな。岳人、こっちに来ぃ。」
「はーい。んじゃ、またこういう話しような、滝!」
「うん。じゃ、またね。」
ひらひらと手を振りながら、二人はそれぞれのパートナーに引っ張られてゆく。先程まで
の岳人と滝の話を聞いて、顔を真っ赤に染めている鳳は、何を言っていいのか分からず、
滝の服の裾をきゅっと握っているだけだった。
「どうしたの?長太郎。」
「あんな話されたら・・・恥ずかしいですよぉ。」
恥ずかしがりまくっている鳳を見て、滝は心底可愛いなあと思ってしまう。そんな鳳を前
にして、滝はちょっとだけからかってみたいという衝動に駆られる。
「ゴメンねー、こういうとこでもうあーいう話はしないよ。これ、お詫びね。」
そう言いながら、滝は軽く鳳の唇にキスをした。突然のことに鳳は目を見開く。本当に軽
いものであったのだが、鳳はあまりの驚きからへなへなとその場に座り込んでしまう。
「た、滝さんっ・・・!」
「あははは、だって長太郎、すっごい可愛いんだもん。思わずキスもしたくなっちゃうよ。」
「もー、ちゃんと場所を考えてくださいよ〜。俺、もうトレーニングするって気分じゃな
いです。」
「そう?じゃあ、そろそろ切り上げて、他の場所行こうか。どこがいい?そういうこと出
来る場所にする?」
「滝さんっ!!」
あまりにも素直な反応を返してくれる鳳をさらにからかうようなことを言う。実に楽しそ
うな滝を見て、少し離れた場所で岳人と忍足はくすくすと笑っていた。
「滝、大暴走。」
「まあ、鳳も満更でもないみたいやし?それほど問題はないんちゃうん。」
「あはは、確かにそうだな。ったく、本当呆れるくらいのバカップルだよな。」
「せやな。ちょーっとTPOを考えた方がええと思うけど。」
「まあ、跡部に比べたらまだマシじゃねぇ?」
「そこは比較対象にしちゃアカンやろ。跡部に敵う奴はおらんと思うで。」
「だよな。」
トレーニングルームを去ってゆく滝と鳳を見送りながら、岳人と忍足はしばらく体を動か
さずに話を続けていた。

                     to be continued

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