いつにも増して快晴の日曜日。跡部達は近くの公園に来ていた。たまには、どこかにがっ
つり遊びに行くのではなく、のんびり過ごすのもよいだろうということで、ここに来たの
だ。木漏れ日が差し込む木の下で、四人はゆったりくつろいでいる。
「まあ、たまにはこういうところでのんびりするのも悪くねぇな。」
「ああ、天気もいいしな。」
雲一つない青い空に、小春日和な気温。どれをとっても文句なしな状態に跡部と宍戸はす
っかりリラックスモードだ。
「ねぇ、こっちでバレーボールしない?」
「おっ、いいですねぇ。俺、得意ですよ。」
くつろぎまくりの二人とは対照的に、滝と鳳はバレーボールをしようと立ち上がる。せっ
かくのんびり出来るのだからと、跡部と宍戸はその誘いには乗らなかった。
「俺はいいや。今日は動くよりのんびりしてぇ。」
「俺も宍戸と同じ意見だ。」
「そうですか。じゃあ、滝さん、あっち行ってやりましょう。」
「うん。いいよ。」
くつろぐ跡部と宍戸の邪魔をしてはいけないと、滝と鳳は少し離れたところでバレーボー
ルを始める。二人でやるので、試合のようなことは出来ないが、いつまでボールを落とさ
ずにラリーが続けられるかを試してみたりと、それなりに二人でのバレーボールを楽しん
でいる。
「あー、何か、こんなにいい感じな気候だと眠くなってきちまうな。」
「何ジローみてぇなこと言ってんだよ?」
「だってよ、ポカポカしてて、風も気持ちよくて、太陽の光もキラキラしてんだぜ。こん
なとこに座ってたら、ジローでなくても眠くなってきちまうって。」
「まあ、確かに雰囲気としてはいい感じかもしれねぇな。」
さわさわと揺れる黄色い銀杏の葉っぱを見上げながら、跡部は穏やかな口調でそう呟く。
同じように宍戸も木を見上げると、ふとあることを思った。
「なんかさあ・・・」
「ん?どうした?」
「この銀杏の木、跡部みてぇ。」
「どういう意味だ?」
「まあ、本当見たまんまの感想なんだけどな、跡部の髪も金色で、この銀杏の木の葉っぱ
も金色だろ?それが太陽に照らされてキラキラしてて、すげぇ似てるなあって思ってよ。」
特に何か深い意味があるというわけではないが、宍戸は自然とそんなことを口にする。そ
れを聞いて、跡部はふんわりと暖かい気分になった。
「そりゃ嬉しいな。」
「本当か?」
「ああ。宍戸は、俺がこの銀杏みたいに見えてるんだろ?俺は、この銀杏を見て、素直に
綺麗だと思うし、他のものにはない魅力があると思ってる。もし、宍戸もそう感じてるん
だったら、そう思われてて、悪い気はしねぇ。」
「俺もこの銀杏を見てそう思ってるぜ。その上で、やっぱり跡部に似てるなあと思う。」
「そうかよ。」
嬉しそうな微笑みを浮かべ、跡部は宍戸の肩に腕を回し、自分の方へと引き寄せる。いつ
もなら、こんなところで何してんだと怒る宍戸だが、今日は全く抵抗しない。
「何だよ?今日は嫌がらねぇんだな。」
「うーん、何か今日はそんな気分じゃねぇんだよな。別に周りに人がいっぱいいるわけで
もねぇし。それに今、俺、超機嫌いいからな!」
嫌がるどころかニッコリと笑顔を向けてくれる宍戸に、跡部の心臓はドキンと高鳴る。柔
らかな髪を梳くように頭を撫でてやると、くすぐったそうに声を立てて笑った。
「はは、跡部くすぐってぇよ。」
「テメェの髪、やっぱ触り心地最高だぜ。」
「じゃあ、もっと撫でてもいいぜ!」
自らこんなことを言ってくることは、二人きりの時以外はほとんどない。本当に機嫌がよ
い宍戸に跡部は少しドギマギしながらも、いつも以上の魅力を感じる。
「何かお前本当猫みてぇだな。」
「そうか?でも、今なら猫になってもいいかもしれねぇ。猫になって昼寝してぇー。」
宍戸の髪を撫でながら跡部がそんなことを言うと、宍戸はぐーっと背伸びをしてその場に
横になった。ある程度降り積もっている落ち葉が柔らかいベッドの役割を果たしている。
「跡部も寝ねぇ?ふわふわしてて気持ちいいぜ。」
「テメェがそこまで言うなら添い寝してやってもいいぜ。」
「素直に俺の隣に寝たいって言えよな。」
「言うわけねーだろ、バーカ。」
そんなやりとりをしながら、跡部は宍戸の横に寝転がる。意外と寝心地のよい落ち葉のベ
ッドに、跡部はホッとしたときに出るような溜め息を漏らした。
「ふぅ・・・」
「おー、何か寝転がって見るとまた景色が違うな。」
「そうだな。なあ、宍戸、もうちょっとこっち来いよ。」
左腕を宍戸の方へと伸ばし、跡部は宍戸を自分の方へと招く。伸ばされた左腕に頭を乗せ
るようにして、宍戸は素直に跡部の側へと近寄った。
「へへー、腕枕。」
「何だよ?そんなに甘えてぇのか?」
「別にそういうわけじゃねぇけどよ、でも、跡部にこんなとこで腕枕してもらえるなんて、
ちょっと気分いいなあとは思ってるぜ。」
「フン、俺様の腕枕なんて、世界中でテメェくらいしか味わえないぜ?」
普段ならこんなセリフを聞けば、何言ってんだと呆れるような反応を見せる宍戸なのだが、
今回は違った。照れたように笑いながら、跡部の胸に擦り寄ってくる。思ってもみない仕
草に跡部は軽く動揺した。
「なあ、跡部。」
「あ、ああ、何だ?」
「このまま寝ちゃダメか?俺、マジ寝みぃんだけど。」
「別に・・・構わねぇぜ。」
「サンキュ。」
体をすり寄せたまま、宍戸はゆっくりと瞳を閉じる。黄金色の葉の隙間から覗く真っ青な
空に、柔らかい木漏れ日。そして、宍戸の体温が跡部をも眠りに誘う。宍戸の肩を抱いた
まま、跡部の瞼は自然と落ちていた。色とりどりの落ち葉のベッドの上で、跡部と宍戸は
心地よい夢の中へと誘われていった。
一方、跡部と宍戸から少し離れていたところで、バレーボールをしていた滝と鳳は、一休
みをしようということで、二人のもとへと戻ってくる。戻ってきて、滝も鳳も驚いた。跡
部と宍戸が、予想だにしていない状態でぐっすり眠っているのだ。そりゃ驚きもするだろ
う。
「うわあ、二人とも爆睡しちゃってるよ。」
「しかも、すごく仲良さげですよね。」
「仲良さげとかそういうレベルじゃないと思うけど。」
「ですね。」
お互いに体を寄せ合って眠っている二人を見て、滝と鳳はくすくす笑う。普段はケンカ腰
でうるさいくらいの跡部と宍戸が、こんなにも仲良さげに眠っているのだ。ちょっとした
違和感を感じながらもほんわかした気分になってくる。そこに、ひらひらと一枚の銀杏の
葉が落ちてきた。
『あっ。』
落ちてきた葉は、宍戸のちょうど耳の後ろあたりに落ちる。それはまるで、銀杏の葉の形
をした髪飾りをつけているように見えた。
「わー、何かいいとこに落ちたねー。」
「髪飾りみたいですよね。」
「ちょっと写メっちゃおうかなあ。寝てるとさぁ、どっちも可愛げあるんだけどねぇ。」
「起きてるときはどうなんです?」
「皆無だね。」
「そんなハッキリ言わなくても・・・でも、俺もそう思います。」
パシャパシャと携帯電話で写メを撮りながら、滝も鳳も声を上げて笑う。そんなに騒いで
いるにも関わらず、跡部と宍戸は全く起きる気配がない。本当に熟睡しているようだ。
「よし、こんなもんか。これからどうする、長太郎?まだ、バレーボールやる?」
「うーん、そうですねぇ・・・やっぱり、二人でだとあんまりバレーボールって感じしま
せんからね。他のことしたいですけど・・・」
「あっ、じゃあ俺達も昼寝する?」
「えー、本気ですか?こんなとこで寝たら風邪引いちゃいません?」
冗談めいた滝の提案に鳳は少々戸惑いつつもしてもいいかなあと思う。滝は持ってきてい
た膝掛けを広げ、自分の方へ鳳を招いた。
「ちゃんとかけるものもあるし、少しくらいなら平気じゃない?」
「じゃあ、ちょっとだけ寝ますか。」
「そうだね。ほら、長太郎、もっとこっちにおいで。」
「はい。」
滝の呼ばれ、鳳は滝の隣に近づいてゆき、落ち葉の上に腰を下ろす。そして、そのままゴ
ロンと鮮やかなベッドの上に寝転がった。滝もすぐ隣に寝転がり、大きめの膝掛けを体の
上にかける。
「くっついて寝るとやっぱ温かいね。」
「はい。ちょっと恥ずかしいですけど。」
「大丈夫だよ。このへんあんまり人来ないし。」
「そうですね。それじゃあ・・・少しの間ですけど、おやすみなさい。」
「うん。おやすみ・・・」
跡部と宍戸とは少し離れた場所で、滝と鳳も昼寝の体勢に入る。何とも言えない心地よさ
が二人を包み、睡魔を呼び寄せる。黄金色の光の下で、四人は仲良く全員で昼寝をすると
いうことになった。
だいぶ冬に近づいてきているこの季節、日が沈むのも早い。日が沈んでからしばらくして
落ち葉の上で眠っていた四人は順番に目を覚ました。
「うーん・・・あれ?ここ、どこだ?真っ暗だ・・・」
初めに目を覚ました宍戸はキョロキョロと周りを見渡し、首を傾げる。宍戸が起き上がっ
たのに気づき、跡部も続けて目を覚ます。
「宍戸・・・?あー、日暮れちまってる。随分寝ちまったな。」
「あっ、そっか。俺達、昼寝してたんだっけ。」
「ふあー、こんなに寝ちまうとは思わなかった。そういえば、滝と鳳はどうした?」
二人の姿が見えないので、跡部は立ち上がり、辺りを見回す。暗い中で目を凝らしている
と、少し離れたところで、膝掛けをかけて眠っている二人を見つけた。
「何だよ、こいつらも寝ちまってるじゃねぇか。」
「本当だ。そろそろ起こしてやった方がいいよな。」
「そうだな。」
日が暮れてしまったのに、寝かせ続けるわけにはいかないと宍戸は二人を起こしに行く。
「おい、長太郎、滝、もう日暮れちまってるぞ!起きろ!!」
「う・・ん・・・あれ?宍戸?」
「宍戸さん、おはようございます。」
「おはようございますじゃねぇよ。もう夜だ。」
まだ寝ぼけ気味な二人の頭を軽く叩くと宍戸は跡部の方へと戻る。しばらくぼーっとして
いる滝と鳳であったが、しっかり目を覚ますと、周りの暗さに驚く。
「うわっ、超真っ暗だし!俺らどれだけ寝てたんだよ?」
「ほんの少しだけ昼寝するつもりだっただけなんですけどね。」
「でも、何かすっごく気持ちよかったんだよなあ。だから、思わず熟睡しちゃった。」
「俺もです。」
膝掛けをたたんでカバンに入れながら、滝は鳳とそんな会話を交わす。帰る気満々の跡部
と宍戸は二人を置いて少し離れた場所まで歩き出していた。
「おーい、お前らもう帰るぜ。」
「うん。それじゃあ行こうか、長太郎。」
「はい!」
跡部と宍戸を追いかけ、滝と鳳は走り出す。滝と鳳が前を歩いている二人に追いつくと、
四人はそろって公園内の小道を歩いていった。
公園の出口に向かって歩きながら鳳は何気なく腕時計を見た。時計の針は既に7時を回っ
ている。
「すっかり遅くなっちゃいましたね。」
「でも、楽しかったんじゃねぇの。」
「まあ、俺らは寝てただけだけどな。」
そんな話をしながら歩いて行くと、小さな丘に辿り着く。昼間はそんなに気にならなかっ
たが、夜に来て見るとそこはいつもとは違う景色を映し出していた。
「あれ、ここからは夜景が見えるね。」
「へぇ、キレイだな。」
丘から見える夜景に四人は感動。まさかこんな景色が見れるとは思っていなかったので、
四人はしばらくそこから見える景色を眺めていた。
「さーてと、そろそろ行こうか。」
「そうだな。」
「今日はすげぇゆっくり休めたーって感じだな。」
「はい。大会もだいぶ近づいてきましたけど、こういうのもすごく大事だと思いますよ。」
「まあな。今日は十分休めたことだし、明日からもまた気合入れていくぜ。大会までは、
あと二週間だからな。」
「もうそんなしかねぇのか。よーし、残りラストスパートで頑張るぜ!!」
「俺も頑張ります!」
「俺も。ここが勝負どころだもんね。」
残り後二週間しかないことをあらためて確認すると、四人はいつも以上に気合を入れる。
十分休めた分、その気持ち的なパワーは満ち溢れていた。そのパワーをこれからの練習に
ぶつけていこうと四人ともやる気満々だ。毎日一緒に練習し、休日も一緒にいることが多
くなった四人はチームワークも以前とは比べ物にならないほど、よくなってきている。そ
れがひしひしと感じられるので、跡部もこのチームに対する安心感と自信を抱く。絶対に
優勝に導いてやる。そんなことを思いながら、跡部は丘の上から見える夜景にもう一度目
を移すのであった。
to be continued