「お前ら、24日は俺様の屋敷でクリスマス・パーティーをするからよ、絶対空けとけよ
な!!」
『は??』
クリスマスを一週間後に控えた12月のとある日、跡部はそんなことを言って、帰って行
った。聞き返す暇も与えられず、ただ言われっぱなしのそこにいたメンバーは、困惑した
表情で顔を見合わせる。
「いきなり何なんだよ跡部のヤツ。」
「ホンマや。クリスマス・イブは岳人と過ごすつもりだったんやけどな。」
「だよな。おい、宍戸、何か聞いてねぇのか?」
「はあ?俺だって、あんなこと今聞かされて激驚いてるんだぜ。本当、わけのわかんねぇ
ことばっかするよな、跡部は。」
「でも、まあ、クリスマス・パーティーって言うくらいだから、何かおもしろいことでも
考えてるんじゃない?跡部が普通のクリスマス・パーティーするなんて思えないし。」
『同感。』
「確かに跡部さんが主催だったら、すごいクリスマス・パーティーになりそうですよね。
ちょっとおもしろそうだな。」
「樺地ー、樺地は何にも聞いてないのー?」
「今回は・・・本当に何も・・・・」
「そっか。樺地でさえ知らないんだったらこりゃ行ってみなきゃだよな。」
納得がいかないことも多々あるが、跡部の主催するクリスマス・パーティーならおもしろ
そうだと、一応、そこにいたメンバーはそのパーティーに参加するという方向で意見を固
めた。
数日後、パーティーに参加する予定のメンバーのところにあるものが送られてきた。少し
大きめのその箱に入っていたのは、真っ赤な洋服。人によってデザインが違うが、いわゆ
るサンタ服というやつだ。どうやらこれを着てパーティーに参加しろということらしい。
こんな仮装をしてまでやるのかと呆れる者もいれば、これは楽しそうだとより期待感を膨
らませる者もいる。様々な気持ちが交錯する中、ついに24日がやってきた。
ピンポーン
宍戸が代表して、跡部の家のチャイムを押すと跡部自身がそれに答え、大きな門を開ける。
ここまで来るまでは、さすがにサンタ服は着れないと跡部の屋敷の敷地内に足を踏み入れ
たメンバーはまだ私服であった。
「おい、テメェら俺様が送ってやったサンタクロースの服はどうした?」
「普通の道歩いてくるのに、あんな服着て来れるわけないでしょ。」
「そうだぜ。でも、みんなちゃんと持ってきてるからよ、着替える場所があれば着替える
ぜ。」
「そうか。だったら、ひとまず着替えちまうか。」
まずは、今日のパーティーの衣装に着替えてもらおうと跡部は一度屋敷の中にここに来た
メンバーを引き入れる。少し大きめの部屋に連れて来られたメンバーは、各々持ってきた
サンタ服に着替え始める。もちろん跡部も自分にピッタリのサンタ服を用意していた。
「へぇ、みんなデザインバラバラなんだな。」
他のメンバーを見回し、岳人は感心しながらに呟いた。
「確かに。跡部のはいかにもって感じだし、宍戸なんかは半ズボンじゃん。ジローと岳人
はちょっと子供っぽい感じで可愛いかも。俺と長太郎と忍足と樺地はオーソドックスな感
じだけど、長さとか袖口とか帽子とか細かいとこで差が出てるって感じだね。」
それぞれの服を分析するかのように滝は感想を述べる。それぞれ個性的なサンタ服を身に
まとうと、跡部はその部屋を出て再び屋敷の外へと連れ出した。
「あれ?跡部、クリスマス・パーティーって跡部んちでやるんじゃねぇのか?」
「一応、俺んちのものってことにはなるが、ここではやらねぇ。」
「ふーん、じゃあ、これからそのパーティー会場まで移動ってこと?」
「ああ。そうだな。」
「ここから遠いんですか?」
「そうでもねぇぜ。歩いていける距離だ。」
そんなことを言いながら、跡部は先頭を切って歩いて行く。しばらく歩いて行くと、少し
先に大きな教会のようなものが見えた。迷わず跡部はその教会に向かって歩いて行ってい
る。あそこがパーティー会場なのかと思いつつ、跡部以外のメンバーは黙って跡部につい
て行った。
『うわあ・・・』
教会の扉の前まで来ると七人は感嘆の声を上げる。どうして家の敷地内にこんなものがあ
るのかと驚かずにはいられない。
「すっげぇ・・・何だよこれ・・・?」
「えらい大きい教会やなぁ。」
「外観は教会だけどよ、中は全然違うぜ。確かにステンドグラスみてぇなのはあるけど、
それも飾りの一部って感じだしな。」
「へぇ、かなり気になるかも。」
「そうだね。跡部、早く中に入れてよ。もったいぶってないでさ。」
「じゃあ、扉開けるぜ。」
ギィーという音と共に大きな扉が開く。中に足を踏み入れるとそこには教会のイメージと
はかけ離れた光景が広がっていた。
『・・・・・・』
その様子に跡部以外のメンバーは言葉を失う。教会の中は想像以上に広く、その中心には
センター街の中心にありそうな大きなモミの木がそびえ立っている。もちろんその木はク
リスマスらしい装飾がふんだんに施されていて、どこのクリスマスツリーより豪華に見え
た。
「どうだ?驚いたか?」
「ありえねぇ。室内にこんなデカイクリスマスツリーがあるなんて。」
「すごく天井が高いんですね。だってこのクリスマスツリー、ゆうに10メートルはあり
ますよ。」
「さすが跡部。やることが違うねー。」
「しかも、まわりもすごいぜ。ステンドグラスもあるし、クリスマスリースとかキャンド
ルとかもすげぇいっぱい飾ってある。何か映画の世界みたいじゃねぇ?侑士。」
「せやなあ。というか、映画でもこんな豪華なパーティー会場は出て来へんで。」
「ウス。」
「夜になったらもっとすごいんだがな。とりあえず、日が沈むまでは、飲んだり食ったり
して時間をつぶそうぜ。」
跡部がそう言ってパチンと指を鳴らすと、執事やメイドたちが出来たての料理を運んでき
た。その料理の豪華さにも誰もが驚かされる。飲み物も様々な種類があり、選択出来る数
はかなり多かった。テーブルの上に料理が全て出揃うと、跡部はパーティーを始める合図
のような言葉を放つ。
「これから夢のようなクリスマス・パーティーの始まりだ!!テメェら思うままに楽しめ
よな!!」
いつもは跡部のこんな態度に呆れたような様子を見せるメンバーも今回ばかりは乗り気に
ならずにいられない。自然と笑顔になり、そこに用意された料理や飲み物を思い思いに食
べ始めた。
時間をかけてたくさんの御馳走を楽しむと、だんだんと日が傾き、空が暗くなってくる。
冬至のすぐ後ということもあり、日はそれほど長くはなかった。外が夕闇に包まれると、
跡部は部屋の電気をいっぺんに消した。
「何や停電か?」
「真っ暗で何も見えねぇぜ。」
「跡部、電気つけろよ。これじゃ全然動けねぇ。」
「そんなに慌てるなよ。これからすごいもん見せてやるからよ。」
お互いの顔も見えない状態で、そこにいるメンバーは首を傾げる。
「ドライ、ツヴァイ、アインス・・・・」
パチンっ!
ドイツ語でのカウントダウンの後、跡部が指を鳴らす音が聞こえる。次の瞬間、目の前に
あるクリスマス・ツリーがキラキラと煌めき始める。
『わあ・・・』
数え切れないほどの色とりどりの灯りが煌めき、辺りはパッと明るくなる。
「すげぇ綺麗・・・」
「本当。このツリーの灯りだけでも十分に明るいね。」
「フン、この程度で驚いてんじゃねぇ。これから、もっとすごいものが見れるぜ。」
跡部はステンドグラスの下へ歩いて行き、そこにあるキャンドルに火をつけた。それを合
図にするかのように、どこからか賛美歌が流れ始める。
「賛美歌?」
「何で突然・・・えっ?」
「羽根・・・?」
賛美歌が聞こえるのと同時にひらひらと羽根が目の前を舞うのに気づく。ふと上を見上げ
てみると、まるで雪が舞うかのようにたくさんの羽根が落ちてきている。どんな仕組みに
なっているかは全く分からないが、その光景はとても現実とは思えぬほど、幻想的な光景
だった。
「マジマジすっげー!!羽根が降ってる!!」
暗くなったためにひどく眠そうにしていたジローもさすがにこの光景には目が覚める。真
っ赤サンタ服に白い羽根を受け、はしゃぎまくった。
「やるねー、跡部。」
「本当、すごいです!」
「ホンマに、綺麗やなあ・・・」
「何かここだけ違う世界って感じ。」
「ウス。」
羽根の降る天井を見上げつつ、そこにいるメンバーは感動から目をキラキラと輝かせる。
こんなクリスマス・パーティーは他では絶対に味わえないと、素直にここに来てよかった
と誰もが思った。
「こんなにすげぇもんが見れるとは思ってなかったぜ。サンキューな跡部。」
素直にお礼を言う宍戸に対して、跡部はふっと微笑みかける。そして、ぐっと腕を引き、
自分の方へ引き寄せた。
「わっ・・・」
「この後、もっとすげぇもんテメェにだけは見せてやるよ。」
「えっ?」
耳元でそんなことを囁かれ、宍戸は少なからずドキっとする。他のメンバーはそんなこと
にも気づかず、いまだに羽根の降る様をうっとりしながら眺めている。
「おい、お前ら。」
「ん、何?跡部。」
「今日はクリスマス・イブだからな。俺様からテメェらにプレゼントを用意してやったぜ。」
「このパーティー自体がプレゼントとちゃうん?」
「パーティーはパーティーだ。プレゼントは他にあるに決まってるだろ?」
「へぇ、マジマジ!?超楽しみだC〜!!」
「まずは岳人と忍足、こっちに来い。」
「お、おう。」
「何くれるんやろ?」
ドキドキしながら二人は跡部のもとへ行く。何かを渡すわけでもなく、跡部は二人を連れ
て、一つのドアのところまでやってきた。
「テメェらへのプレゼントはこの部屋にあるぜ。どうせ、イブは二人で過ごすつもりだっ
たんだろ?だったら、この部屋で好きなことをすればいい。」
『????』
どういうことだろうと、とりあえず目の前にあるドアを岳人と忍足は開けてみる。そこに
は思っても見ない光景が広がっていた。
「うっわあ、すっげぇ!!」
「こんなんありえへん・・・」
二人が連れて来られた部屋には、超大型のスクリーンがあり、数え切れないほどのDVD
が棚に並んでいる。もちろん部屋の様相はクリスマス仕様で、少し奥には二人で眠るにも
十分なほど大きなベッドが置かれている。ふと目を移すとたくさんの種類のアクセサリー
が壁にかかっており、それはまさに岳人好みのアクセサリーばかりであった。
「DVDとアクセは気に入ったのがあれば好きなだけ持っていっていいぜ。一応、テメェ
らの好みに合わせて用意したつもりだからな。」
「マジかよ!?うわあ、超嬉しいー!!」
「DVDはここで見てもええの?」
「そのためのスクリーンだろうが。ま、そういうことしてぇなら時間的に支障のない程度
に見るのが得策だと思うぜ。」
「あー、確かに何本も見る時間はないかもしれへんなあ。」
「俺は侑士が見たいんなら、全然そういうことは後回しでも構わないぜ。っていうかさ、
他の部屋に音とか漏れねぇの?」
「完全防音壁だぜ。安心しろ。」
「そっか。すっげぇ豪華なクリスマス・プレゼントだぜ。ありがとな、跡部!」
「ホンマやで。おおきにな。」
「別に礼を言われるほどのことでもねぇよ。じゃ、クリスマスの夜、存分に楽しめよ?」
『おう!』
二人を部屋に入れ、パタンと扉を閉めると跡部は残りのメンバーのもとへと戻る。
「次は樺地とジロー、お前らにだ。」
「マジマジ!?うっわあ、楽しみ〜!!」
今度はジローと樺地を連れて、違うドアの前へ向かう。ドアの前に来ると、ジローはわく
わくしながら胸を高鳴らせ、樺地もかなりドキドキしていた。
「開けてみろ。」
「よーし、じゃあ開けるぜ、樺地!」
「ウス。」
ガチャ・・・
そのドアを開けるとふわっと甘い匂いが漂ってくる。何だろうと足を一歩踏み入れると、
ジローは喜びの声を上げた。
「うっわあー!!すっげぇすっげぇ!!ここにあるものほとんどお菓子で出来てる!!」
そう、この部屋にある家具や装飾品はベッドを除いて、全て何かしらのお菓子で出来てい
るのだ。まるでお菓子の家のようだとジローは子供のように喜びまくった。
「樺地へのプレゼントは、あのテーブルに乗ってるぜ。」
「?」
薄い水色のテーブルの上にリボンの巻かれた白い封筒が置いてある。何だろうと思い、樺
地はそれの封筒を開け、中身を確認する。
「・・・・!」
そこに入っていたのは、遊園地や水族館、その他のテーマパークや美術館や博物館の無料
招待券であった。しかも、どれも二枚ずつ入っている。つまり、ペアチケットというわけ
だ。
「2枚入ってるのは、俺と行くためじゃねぇ。樺地が一番行きたいと思う奴と行けばいい。
どういうことか分かるよな?」
「ウス。」
「何々〜?樺地は何もらったのー??」
跡部からもらったクリスマス・プレゼントを樺地はジローに見せる。それを見て、ジロー
はうらやましいを連呼する。
「うわあ、いいなあ、俺も行きたい〜。樺地、超うらやまC〜!!」
「一緒に・・・行きませんか・・・2枚あるんで。」
「いいの!?だって、跡部・・・」
「俺様はそんなものなくたっていつでも行けるからな。なあ、樺地?」
「ウス。」
二人のやり取りを聞いて、ジローは跡部が自分と樺地のためにこれらのチケットを用意し
てくれたのだと理解する。お菓子の家に、たくさんのテーマパークの無料チケット。しか
も、樺地と一緒に行けるとなればこれほど嬉しいことはない。最高のクリスマス・プレゼ
ントだと、ジローは満面の笑みで跡部にお礼を言った。
「マジサンキュー、跡部!!超ー最っ高のクリスマス・プレゼントだぜ!!」
「ウス。」
「お菓子の家は今日限りだからな。腹壊さない程度に自由に食っていいぜ。それから、そ
のベッド、かなり寝心地いいからぐっすり眠れると思うぜ。もちろん、樺地もな。」
「そりゃ楽しみだあ。へへへ、本当今日は最高のクリスマス・イブだ。」
「ウス。」
大喜びのジローと樺地を見て、跡部は満足そうに笑いながら、ドアをパタンと閉める。や
はりこの後は二人きりで過ごすのが妥当だろうと思い、そうしたのだ。ジローと樺地を部
屋に入れると、今度は滝と鳳のもとへ跡部は歩いて行った。
「次はお前らの番だぜ。」
「岳人にしろ忍足にしろジローにしろ樺地にしろ、みんなすごいプレゼントだね。」
「当然だ。それぞれの喜ぶものをくみして用意してやったんだからな。」
「俺達にもあんなふうに部屋が用意されているんですか?」
「まあな。テメェらの部屋はこっちだぜ。」
また違うドアに向かって跡部は歩き出す。ドキドキと胸を高鳴らせながら、滝と鳳は跡部
について行った。
「ここだぜ。」
「開けてみていい?」
「ああ。」
「じゃあ、開けるよ。いいよね、長太郎?」
「はい、もちろんです。」
ドアノブに手をかけ、滝はゆっくりそのドアを開ける。部屋を見渡し、二人の目に入って
きたのは、たくさんの本棚と豪華な音楽プレイヤー、そして、グランドピアノにダブルベ
ッドであった。
『わあ・・・』
「音楽機器の棚には、いろんなクラシックのCDが入ってるからよ、好きなの聞いていい
し、気に入ったのあったら好きなだけ持って帰れ。もちろん、本もな。」
「うわあ、こんなにたくさん本があったら目移りしちゃう。」
「あのピアノ、弾いていいんですか?」
「ああ。持って帰るってのは無理だろうが、弾きたかったら自由に弾いていいぜ。そのた
めに用意したんだからな。」
「ありがとうございます。」
自分達の趣味を十分に理解した上での、豪華なプレゼントに二人は感動。もうどう嬉しさ
を表現したらよいのか分からないほどであった。
「すごい嬉しい。本当にありがとう跡部。」
「本は数が多すぎて気に入るのを探すのが大変かもしれねぇが、ないよりはマシだろ?鳳
も遠慮なんてすんじゃねぇぞ。」
「はい!本当に本当にありがとうございます。」
滝と鳳もちゃんと喜んでくれたということを確認すると、跡部はドアを閉める。そして、
最後に一人残された宍戸のもとへ向かった。
「待たせちまって悪かったな。」
「別に気にしてねぇぜ。つーか、マジすげぇプレゼントばっかだな。こんなプレゼント用
意するなんてどういう風の吹き回しだ?」
「どうだろうな。テメェの想像に任せるぜ。」
「何だよ、それ?」
「それより宍戸。俺らも部屋に移動するぜ。」
「えっ?俺らの部屋もあるのか?」
「当然だろ。ほら、行くぞ。」
そう言うと、跡部は宍戸の手を取る。そして、残っているもう一つの部屋に向かって歩き
出した。自分にはどんなプレゼントが用意されているのだろうと、ほのかな期待を胸に宍
戸は跡部の手を握り返した。
「入るぜ。」
「・・・おう。」
ガチャ・・・
跡部が部屋のドアを開ける。鼓動が速くなるのを感じながら、宍戸は跡部に手を引かれ、
部屋の中へと足を踏み入れた。
to be continued