サンタの饗宴 〜その2〜

「てか、マジすっげー!!俺好みのアクセばっかだぜ。これも欲しいし、あっ、これも♪」
「せやなあ。あー、ホンマ迷うわ。あっ、これ前から見たかったやつや。」
岳人と忍足は、部屋の中にあるたくさんのアクセサリーやDVDから自分の特に気に入る
ものを探している。岳人がいくつかアクセサリーを物色している間に、忍足は一番気にな
る映画のDVDをデッキに入れ、目の前にある大きなスクリーンに映し出す。本物の映画
館にいるような臨場感に、忍足は驚き感動する。
「すごい機械やな。ホンマに映画館にいるみたいやで。」
「俺、もう少しアクセ見てるから、侑士はしばらくDVD見てろよ。」
「おう、そうさせてもらうわ。」
普通の店と変わらないくらい、いや、それ以上の数のアクセサリーがあるために、そう簡
単に全てをチェックすることは出来ない。忍足がDVDを見ている間ならゆっくり選べる
と、岳人はそんな言葉を忍足に対してかけた。
「はあー、こんなもんか。」
30分くらい経って、岳人は満足気な声を漏らす。腕に抱えているカゴには、たくさんの
チョーカーやブレスレット、普段はつけない指輪などが入っていた。そんなカゴを持って、
岳人は忍足の隣に腰かける。
「どう?侑士、おもしろい?」
「ああ。おもろいで。」
「本当、侑士はこういう話好きだよな。」
大型スクリーンに映し出されているのは、もちろん忍足の大好きなバリバリのラブロマン
ス映画だ。それほど興味があるわけではないのだが、忍足に付き合って岳人も結構な数の
ラブロマンス映画を見ている。おかげで忍足がどんなセリフを好むのか、どんなシチュエ
ーションでドキドキするのかを意識せずとも学習してしまった。
「この話、最後まで見たいよな?」
「あー、せやな。出来れば見たいけど、岳人が暇になってまうんやったら別に無理に最後
までは見ぃへんで。もらっていい言うとったしな。」
「俺は平気だからさ、最後まで見ろよ。せっかくのクリスマス・イブだしさ。」
「ホンマにええんか?」
「おう。」
「それじゃお言葉に甘えて・・・」
忍足が言葉を言い終わる前に岳人は、きゅっと自分の左手を忍足の右手に絡めた。突然の
ことで、忍足は少し戸惑うような反応を見せるがすぐにきゅっと握り返してくる。
「見終わるまで手握っててもいいか?」
「別に構へんけど・・・」
「じゃ、俺も一緒に見ようっと。」
岳人から一緒に見てくれると言うことはそう滅多にないので、忍足は何となく嬉しくなる。
上機嫌になった忍足は、岳人の肩に頭を預けた。そんな忍足の行動に岳人はドキっとして
しまう。
(ヤベェ、侑士、超可愛い!!)
手を絡めたままそんなことをされれば、必要以上に忍足のことを意識してしまう。忍足と
してはとてもリラックスしてDVDを見ているのだが、岳人はDVDが流れている間は、
高鳴る鼓動を抑えることが出来なかった。
「はあー、ええ話やったなー。」
それから一時間半くらい時間が過ぎ、忍足の見ていたDVDはやっとエンディングを迎え
る。やっと、素直に忍足に触れられると岳人は大きな溜め息をつく。
「はあ・・・」
「スマンなあ、岳人。暇だったやろ?」
「い、いや、そんなことないぜ!!」
「ホンマに?」
「本当だって。DVD見てる時の侑士の顔、すごい可愛かったし。驚いたり、泣いたり、
笑ったり、コロコロ表情が変わるんだもんよ。いつもはビックリするほどポーカーフェイ
スなのに。」
「だって・・・」
「そんなにいろんな顔見せてくれるのは、俺にだけだろ?そう思うと、全然暇なんて思わ
なかったぜ。」
ニッと笑って岳人は言う。そんなにいろんな表情を見せていたのかと思うと、忍足は何だ
か恥ずかしくなる。何も言えないで、黙ってうつむいていると岳人の顔が視界に入った。
「なあ、もっといろんな顔見せてくれよ、侑士。」
そんなことを言いながら、岳人はおもむろに忍足の眼鏡に手をかける。
「あっ・・・眼鏡・・・」
「眼鏡かけてる侑士もカッコイイけど、かけてない侑士も俺は大好きだぜ。」
「な、何恥ずかしいこと言うとんねん。」
「だって、ホントのことだぜ。素顔の侑士、超可愛い。」
「可愛いんやったら、岳人の方が・・・・」
そう言いかけた瞬間、岳人の顔が一際近づく。あまりに近くで素顔を見つめられ、忍足は
言葉を失ってしまう。
「なぁ、キスしていい?」
岳人の口から出た言葉を聞き、忍足の心臓は壊れてしまうのではないかと思うほど高鳴る。
顔が熱くなるのを感じながら、忍足は黙ったまま頷いた。
「じゃ、遠慮なく・・・・」
岳人の顔がさらに近づいてくるのを直視出来ず、忍足は目を閉じる。唇に唇が重なる感触。
その感触が忍足の全身の筋肉を弛緩させる。
「ふ・・ぅ・・・・」
力の抜けた忍足の体をゆっくりソファに押し倒しながら、岳人はより深いキスをその唇に
施す。遠慮することなく、口の隙間から舌を入れると、熱い舌がその先に触れた。
(侑士の舌、熱い・・・)
その熱い舌に自分の舌を絡めると、それに応えるかのように忍足も自ら舌を絡めてくる。
映画にあるような深く甘い口づけに忍足はメロメロになってゆく。
「んん・・・んぅ・・・」
口の隙間から漏れる鼻にかかったような甘い声は、岳人の神経を直接刺激する。甘いお菓
子を得た子供のように、岳人はしばらく忍足の味に夢中になっていた。ある程度満足し、
ゆっくりと唇を離すと、銀色の糸が二人の唇を繋ぐ。
「侑士・・・」
飲み込みきれなかった唾液を口の端から滴らせながら、忍足はひどく瞳を潤ませている。
そんな忍足を見て、岳人はどうしようもなく気分が高揚してくるのを感じる。
「岳人、俺、今、ありえんくらいドキドキしとる・・・」
「俺もだぜ、侑士。」
「どないしよ?」
「そりゃまあ、することは一つっしょ。」
「ここで、そのままするん?」
「うーん、俺はどっちでもいいけど。侑士はどっちがいい?」
「そりゃ、ベッドに行った方がええなあと思うけど・・・・」
恥ずかしそうに忍足は呟く。それならばと、岳人はピョンとソファから下りた。そして、
忍足に向かって手を差し出す。
「じゃあ、ベッドに移動だな。」
「ホンマにするん?」
「するに決まってんじゃん。侑士はしたくねぇの?」
「・・・・したい。」
「なら、決まり。ほら、早く行こうぜ、侑士♪」
忍足からしたいという言葉が聞け、岳人のテンションは一気に高くなる。これからが二人
だけのクリスマス・パーティーの本番だと岳人はやる気満々だ。あまりに素直な岳人に多
少の恥ずかしさを感じつつ、忍足も内心したくて仕方がない。今日はどんなことをするの
だろうという期待感を胸に、二人は手を繋ぎ、ゆっくりとソファからベッドへと移動し始
めた。

「うわあー、このクッキーうめぇ!!」
お菓子の家チックな部屋に案内されたジローは、様々な種類で出来ている小物をパクパク
食べている。その勢いに樺地は唖然。樺地から見たら、一回りも二回りも小さなその体の
どこにこんなにもたくさんのお菓子が入るのかと、不思議に思わざるを得ない。
「樺地も一緒に食べよーぜ。」
「ウス。」
チョコレートで出来た鉛筆を渡され、樺地はそれをポリポリ食べる。跡部が用意しただけ
あり、本物の鉛筆に見えるそれは驚くほど美味しかった。
(美味しい・・・)
「マジ、どのお菓子も超うまいよな!!俺、幸せ〜。」
お菓子を口に頬ばっているジローは本当に幸せそうに笑っている。そんなジロー見ていて
樺地は何だかほんわかした気持ちになった。ただあまり食べ過ぎるとお腹を壊してしまう
のではないか。それだけが樺地は心配だった。
「ジローさん・・・あんまり食べ過ぎると・・・・」
「ふえ?何??」
くるっと振り返ったジローの口の周りは、チョコレートやクリームで熊のようになってい
る。それを見て、樺地は思わず笑ってしまった。
「何で笑うんだよー?」
ぷぅっと頬っぺたを膨らますその顔も子供っぽくて可愛いなあと思いつつ、樺地は持って
いたハンカチでジローの口の周りを拭ってやった。
「口の周り・・・熊みたいです・・・」
「マジ?お菓子食べんのに夢中で全然気づかなかった。」
樺地に口を拭ってもらうとジローは再びお菓子を食べ始める。ある程度の種類のお菓子を
食べ終えるとさすがに満腹になったのか、ジローは椅子に座り、飴細工で出来たテーブル
に突っ伏す。
「はー、超満腹〜。大満足だC〜。」
「よかったですね・・・」
「おう。あー、でも、口ん中甘くてちょっと水とか飲みたいかもー。」
「ちょっと待っててください・・・すぐお茶淹れてきますんで・・・」
「えっ、いいよ。だったら、俺が自分でやるし。」
「自分も飲みたいんで・・・ちょうどいいです。」
部屋に備えつけられている紅茶セットを使い、樺地は紅茶を淹れた。跡部がティーパック
などを用意するはずがなく、その部屋にあったのは、かなり高級と思われる紅茶の茶葉と
西洋の貴族が使っていそうなポットとカップであった。
「どうぞ。」
「サンキュー、樺地!」
「熱いから・・・気をつけてください・・・」
「おう!」
カップのふちを何度もふーふーしながら、ジローは紅茶を口に運ぶ。渋すぎもせず、薄す
ぎもしないその味は、ジローの舌にはちょうどよかった。
「うめぇー。紅茶って、結構渋かったりして、あんまり得意じゃないんだけど、この紅茶
はすごくうまいぜ!!」
「砂糖とか入れなくて・・・いいんですか?」
「へっ?あっ、そっか。でも、今、口ん中自体が甘いから別にいらないかなあって感じ。」
普段なら砂糖やミルクを入れないと紅茶は飲めないのだが、今回はその前にたくさんの甘
いお菓子を食べていたので、特に入れたいとは思っていないようだ。温かい紅茶を飲み終
えるとジローは樺地に向かって腕を伸ばす。
「???」
「樺地、ベッドまで連れてって♪」
「ウス。」
もちろんベッドまでは、そんなに距離はないのだが、ジローは樺地とべたべたしたくて、
こんなことを頼んだ。そんなジローのお願いを、樺地は嫌な顔一つせず叶えてやる。肩に
抱えるようにしてベッドまで連れて行くと、なるべく衝撃がないようにそっとベッドに下
ろしてやった。
「サンキュー、樺地!!」
「ウス。」
「うっはー、このベッド超ふかふかだC〜!!寝心地よさそー!!」
ゴロゴロとベッドの上を転がりながら、ジローははしゃぐ。その所為で頭にかぶっていた
真っ赤なサンタの帽子がベッドの下に落ちてしまった。それを拾い上げ、樺地をジローに
手渡そうとする。すると、その帽子を受け取りながら、ニッと笑ってジローは言った。
「樺地も一緒に寝ようぜ。」
「・・・・」
「な?いいっしょ?」
「・・・ウス。」
いきなり一緒に寝ようなどと言われ、戸惑う樺地だったが、特に断る理由もないので、そ
の誘いを受け入れた。ぎしっとベッドに乗ると、背中からジローが飛びかかる。
「うりゃっ!」
「ウ、ウス!?」
いきなり飛びかかられても、ジローの体重程度なら倒れたりはしないが、やはりある程度
の衝撃はある。バランスを取りながら体を支えていると、ジローがぎゅうっと抱きついて
きた。
「何・・・ですか・・・?」
「べーつに。ただこんなふうに、樺地とクリスマス・イブ一緒にいられるのが嬉しいなあ
と思ってさ。」
そんな体勢でそんなことを言われ、樺地は真っ赤になってしまう。
「樺地、顔真っ赤ー。可愛いー。」
「ジ、ジローさんっ・・・」
楽しそうに笑うジローとは対象的に、樺地は珍しくあわあわと慌てまくっている。ジロー
の前だとどうしても平静を装えなくなってしまう。そんなことを思いつつ、樺地は何とか
気持ちを落ち着けようと頑張った。
「・・・・・・。」
「?」
すると、突然背中にひっついているジローが静かになる。
「ジローさん・・・?」
「スピー・・・」
小さな寝息も聞こえる。眠ってしまったのかと思い、ゆっくりジローを背中から離すと、
樺地をベッドに寝かせてやろうとその体を腕に抱えた。そして、枕に頭を乗せようと思っ
た次の瞬間・・・
ちゅっ・・・
「・・・・っ!?」
ジローは樺地の首に腕を回し、うちゅっと唇にキスをした。突然のことで、樺地は軽いパ
ニック状態。ジローが離れると、真っ赤になって口を手で覆う。
「必殺タヌキ寝入り。」
舌を出しながら、ジローは悪戯っ子のようにそんなことを言う。落ち着きかけていた樺地
の心臓は、今の出来事でまたドキドキと速くなった。
「タヌキ寝入りなんて・・・ズルイです・・・」
「へへへー、してやったり。」
悪戯大成功という様子でジローはケラケラ笑っている。ドキドキしているが、何だかその
状況が楽しくて樺地もつられて笑ってしまう。今のままの体勢でいるのは微妙なので、樺
地もジローの隣に横になった。寝転がってみるとよく分かるが、跡部が用意したこのベッ
ドはマシュマロの上に寝ているかのごとくふわふわしている。
(すごい寝心地いい・・・)
このままだと即行で寝てしまいそうだと思っていると、ジローが真っ赤な上着をぎゅっと
掴み、ピッタリくっついてくる。おかげでバッチリ目が覚めてしまった。
「なあ、樺地。」
「ウ、ウス。」
「跡部からいっぱい無料チケットもらっただろ?冬休み中にいくつか行こうぜ。」
「・・・ウス。」
「どこがいっか?遊園地?それとも動物園?水族館はなんか寒そうだよなあ。」
「自分は・・・ジローさんが行きたいところなら、どこでもいいです・・・」
それを聞いて、ジローはにぱっと花が咲いたように笑顔になる。本当に樺地は自分が嬉し
いと思うことばかり言ってくれる。そんなことを思いながら、どこに行きたいかを考えた。
「じゃあ、動物園にしようぜ!!動物園なら眠くなる要素ないもんな!!」
「ウス。」
冬休みのデートの場所を決めると、ジローは満足したのかふっと目を閉じてしまった。お
菓子で満腹になっているということもあり、すぐに睡魔が襲ってくる。数秒も経たないう
ちにジローは夢の世界に入ってゆく。
「ZZzzz・・・」
「ジローさん?」
さっきのこともあり、またタヌキ寝入りをしているかもしれないと疑った樺地だが、いつ
も通りの寝息と反応のなさに本当に眠ってしまったのだと悟る。布団をかけないと風邪を
引いてしまうので、出来るだけ起こさないように布団をかけてやった。
(ジローさん、すごく甘い匂いする。きっと、お菓子の匂いだろうな。)
そんなことを思いながら、樺地も布団の中に入る。寝心地のいい布団とジローの体温、お
菓子の甘い匂いの所為で、樺地も眠くなってくる。
(何か今年はすごくいい感じのクリスマス・イブだったな。冬休みのデートの約束も出来
たし。これから楽しみがいっぱいだ・・・)
今後の予定もきっと楽しいことがいっぱいになると思いつつ、樺地は目を閉じる。お菓子
に囲まれた二人のサンタクロースは、他のメンバーより少し早く甘い眠りに落ちるのであ
った。

                     to be continued

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