クリスマス・イブ当日。跡部と宍戸は、軽井沢の別荘に来ていた。軽井沢は東京よりも寒
いために、外には雪が積もっている。凍えるような寒さの外とは対照的に、屋敷内はかな
り暖かかった。
「何かすっげぇ静かだな。」
「まあ、この屋敷には俺とお前しか居ねぇからな。」
「えっ?こんなに御馳走あんのに?」
「作ったのはもちろんコックだし、運んできたのは執事やメイドだ。だが、今日はクリス
マス・イブだろ?こんな日くらいはテメェと二人きりで過ごしたいと思ってな。そいつら
はここから少し離れたもう一つの屋敷に泊まらせることになってんだよ。」
「なるほど。こんな広い屋敷に俺らしか居ないって、何かすっげぇ贅沢だな。」
さすが跡部だと感心しながら、宍戸は嬉しそうに微笑う。目の前にある御馳走も、大きな
クリスマス・ツリーも、暖炉で暖まった部屋の空気も、今は全て自分達だけのものなのだ。
しかし、宍戸にとって一番の贅沢は、クリスマス・イブからクリスマスにかけての時間を
跡部と二人きりで過ごせるということであった。
「冷めねぇうちに、ここにある御馳走、食べちまおうぜ。お楽しみタイムはその後でいい
だろ?」
「そうだな。せっかく跡部んちのコックが作ってくれたもんなんだし。温かくて美味いう
ちに食べねぇと勿体ねぇもんな。」
御馳走は美味しいうちに食べてしまおうと、二人は用意されている御馳走を食べ始める。
メインはやはり七面鳥で、こんがりと焼かれたそれは二人の舌を満足させる。その他にも
スープやサラダなど、たくさんの美味しい御馳走を跡部も宍戸も心行くまで味わった。
「だいたい食べ終わったし、そろそろケーキ切るか。」
「おう!今年はどんなケーキなんだ?」
毎年クリスマスは跡部と過ごすのだが、毎回毎回ケーキの種類が違い、普段食べれないよ
うなケーキが食べれるのが、宍戸にとっては非常に楽しみなことであった。
「今年は、クリスマス・プティングだ。」
「クリスマス・プティング?どんなの?」
「これだぜ。」
テーブルの端の方にあったそのデザートを手に取り、跡部は宍戸にそれを見せる。そして、
おもむろに側にあったブランデーのボトルを取り、それをクリスマス・プティングにかけ、
ライターで火をつけた。ボッと一瞬ケーキが燃え上がり、宍戸はそれに驚かされる。
「なっ、何ケーキ燃やしてんだよ!!ビックリするじゃねぇか!!」
「クリスマス・プティングはこうやって食べるもんなんだよ。」
「そ、そうなのか?」
「ああ。あとはこのソースをかけて・・・」
暖かいクリームブランデーソースをたっぷりかけ、跡部はやっとそのケーキを切り始める。
思ってもみないことを目の前でされ、宍戸の心臓はドキドキと速いリズムを刻んでいた。
「ほら、テメェのぶんだ。」
「お、おう。サンキュー。」
半分に切り分けられたクリスマス・プティングを受け取り、宍戸はそれをテーブルに置く。
見たこともないケーキにドキドキしながら、宍戸はフォークを使って、それを一口サイズ
に切り分ける。すると、ケーキの中から何かキラリと光るものが現われた。
「ん?何だこれ?」
それが何かとケーキの中から銀色に光るものを取り出し、宍戸はそれをまじまじと見つめ
る。どうやらそれはシルバーのコインのようで、ケーキのスポンジを取り除いてやると、
さらにキラキラと輝き始めた。
「跡部、ケーキの中にコインが入ってるぜ。コックのミスか?」
「いや、クリスマス・プティングにはそれが隠されてるもんなんだよ。コインが入ってる
ピースに当たった奴は、来年は幸運が訪れるって言い伝えがあるんだぜ。」
「へぇー。」
跡部の話を聞いて、宍戸は目を輝かせる。二人で分けるのだから、二分の一という高い確
率で当たるということは分かっているが、やはり嬉しいものである。銀色に輝くコインを
紙で包むと、宍戸はそれを大事そうにポケットにしまった。
「ほら、せっかく火つけて温めたケーキが冷めちまうぜ。いつまでもコインに気取られて
ねぇで、食っちまえよ。」
「おう!」
ドライフルーツやスパイスが入ったブランデーの香るクリスマス・プティングは、宍戸に
とっては初めての味であった。少し甘すぎる感もあったが、跡部と過ごすイブの雰囲気に
はピッタリだと、その甘さをじっくりと味わう。宍戸があまりに嬉しそうにそのケーキを
食べるので、跡部も自然と顔がほころんでくる。
「跡部、このケーキ、すっげぇ美味いぜ!」
「ああ、そうだな。」
宍戸の言葉に跡部は微笑みながら頷く。ゆっくりと流れる甘いひととき。それがどちらに
とってもひどく心地よく感じられた。
「はあー、美味かった。御馳走様!!」
「いい感じのディナーだったな。」
「豪華な夕飯も食ったことだし、そろそろ・・・・」
「寝室行って、するか?」
「アホっ!!違ぇーよ!!まずはプレゼント交換だろ?」
ぶっ飛んだことを言ってくる跡部に、宍戸は思わず怒鳴ってしまう。そういうことをした
くないわけではないが、まだ早いと思っているのだ。
「プレゼント交換か。確かにそれも重要だな。今回のプレゼントは、テメェの欲しがって
るもんだぜ?」
「へぇー、マジで?」
「ああ。とりあえず、ここは少し散らかってるから暖炉の前のソファに移動するか。」
「そうだな。」
用意したプレゼントをお互いに渡そうということで、二人は暖炉の前へと移動する。それ
ぞれ、用意してきたクリスマス・プレゼントを手にして、真っ白なソファに座った。
「どっちから渡す?」
「どっちからでもいいぜ。テメェは先にもらいたいか?それとも後にもらいたいか?」
「大した時間差じゃねぇけど、選ばしてもらえるっつーんなら、先にもらいてぇな。跡部
が今年はどんなプレゼントを用意してきたかも気になるし。」
「いいぜ。じゃあ、俺からだな。」
少し大きな袋に真っ赤なリボンがついたプレゼントを跡部は宍戸に渡す。思ったよりも大
きな袋に入っているため、宍戸は中に何が入っているのか全く予測出来なかった。
「随分デカイ袋だな。開けてみていいか?」
「ああ、いいぜ。」
自信満々にそう言い放つので、どんなものが入っているのだろうと期待感に胸を膨らませ
ながら、宍戸は赤いリボンを解く。袋の中身を外に出し、それを広げてみると、予想だに
していなかったプレゼントに驚いたような顔をする。
「すっげぇ!!何、このジーンズ、激カッコイイんだけど!!」
「だろ?俺様の力作だぜ。」
跡部が加工を施したジーンズは、バックに黒い羽根のペイントがあり、左側のポケット下
から右側のポケットにかけて、羽根にかぶらないような形で「NeverGiveUp」
と書かれている。フロント面は若干クラッシュ加工がされ、かなりクールな感じになって
いた。
「これ、跡部が加工したのか?」
「そうだぜ。ま、もとのジーンズはそんなに高いもんじゃねぇんだけどよ、レア度は高い
ぜ。何たって世界に一つしかないジーンズなんだからな。」
「うっわあ、激嬉しい!!ちょうど欲しいと思ってたんだよな。でも、こんなレアものも
らえるとは思ってなかったぜ!」
自分好みのデザインの新しいジーンズをもらい、宍戸は大はしゃぎ。こんなにも喜んでも
らえるとは思っていなかったので、跡部も何だが嬉しくなってくる。
「俺様が心を込めて作ってやったんだから、ちゃんと着ろよ?」
「もちろんだぜ!!やっべぇ、どうしよ。マジ嬉しいし。」
ジーンズを抱えながら、宍戸は顔を緩ませ、嬉しい嬉しいと繰り返す。そんな様子の宍戸
を見て、このプレゼントは大当たりだなと、跡部は満足気に笑った。
「こんなにイイもんもらっちゃうと、俺のプレゼント、渡しにくいなあ。」
「何だよ?テメェが選んでくれたもんなんだろ?だったら、問題ねぇって。」
「でも、こんな高価なもんじゃねぇぜ。普通の雑貨屋で売ってるもんだし。」
「高価とか売ってる場所の問題じゃねぇだろ。こういうのは気持ちの問題だ。」
「ははは、テメェが言うと何か変な感じだな。」
「ほら、もったいぶってねぇで、さっさと渡せ。」
跡部に促され、宍戸はおずおずと自分の用意したプレゼントを渡す。箱の大きさや包装の
仕方から、跡部は中身が何かを開ける前に見破った。
「この大きさで、箱に入ってるっつーことは、マグカップか何かか?」
「何で開けてもねぇのに分かるんだよ?」
「図星か。俺様のインサイトを甘くみるんじゃねぇよ。ま、透視出来るわけじゃねぇから
柄までは分からねぇけどな。」
そんなことを言いながら、跡部は宍戸からもらったプレゼントを開ける。中から出てきた
マグカップの柄を見て、跡部は柄にもなくドキンとしてしまう。
「あ、跡部、黒猫好きだろ?だから、こんなのにしてみたんだけど・・・」
「・・・・・。」
「や、やっぱ、こんな安っちぃプレゼントじゃダメだったか?気に入らなかったら、無理
に受け取らなくても全然構わ・・・・」
跡部が何も言わず黙っているので、気に入らなかったと思い、宍戸はドギマギしながらそ
んなことを言う。宍戸が全てを言い終える前に、跡部はがしっと宍戸の手首を掴んだ。
「な、何だよ・・・?」
「テメェはどうして俺が黒猫が好きだか知ってるか?」
「さ、さあ・・・?何でだ?」
答える代わりに、跡部はプレゼントをラッピングしていた赤いリボンを手に取ると、宍戸
の首に結わく。そして、マグカップに書かれている英語を綺麗な発音で読んだ。
「The black cat is wearing a red ribbon.」
「えっ・・・?」
「そういうことだよ。」
「は?ちょ、ちょっと待てよっ、全然意味が分かんねぇ!!」
跡部にとっては黒猫イコール宍戸なのだ。だからこそ、黒猫が好きで、黒猫のグッズを見
ると条件反射的に宍戸が連想される。そんなことを知らずに、宍戸は、赤いリボンをつけ、
赤いリボンで遊んでいる黒猫が描かれたマグカップを贈ってきた。これほど萌えるプレゼ
ントは他にないと、跡部はそのマグカップを一目見て気に入った。
「最高だぜ、このマグカップ。すげぇ気に入った。」
「そ、そっか。よかった。」
気に入ったという言葉を聞き、宍戸はホッとしたように笑顔になる。赤いリボンを首につ
けた宍戸はこの上なく可愛い。マグカップに描かれている黒猫を宍戸に投影し、跡部は宍
戸自身が自分のプレゼントになっているかのように感じていた。首に結わかれている赤い
リボンにそっと口づけると、跡部は宍戸の顔をじっと見る。
「跡部・・・?」
「Ribbon Catは、やっぱテメェだな。」
「へっ?・・・んっ・・ぅ・・・」
マグカップに描かれている「Ribbon Cat」を宍戸に投影したまま、跡部はゆっ
くり宍戸の唇に自分の唇を重ねる。跡部の言っていることの意味はよく分からないが、と
りあえず喜んでくれていることは確かなので、宍戸はそのまま跡部のキスを受け入れる。
先程食べたケーキの甘さが残るそのキスは、あっという間に宍戸を酔わせた。
「・・・んん・・・ふぁ・・・」
「マジで余裕がなくなってきてるぜ。プレゼント交換も終わったことだし、さっさとシャ
ワー浴びて、寝室行こうぜ。」
「おう・・・」
跡部のキスで宍戸もすっかりその気になっていた。しかし、今日は聖なる夜。体を綺麗に
してからそういうことをしたいと、跡部はまずはシャワーを浴びようと言い出す。宍戸も
ある程度同じ気持ちだったので、跡部の言葉に頷き、二人でシャワーを浴びに行くことに
した。
跡部や宍戸が軽井沢で二人きりのクリスマス・イブを過ごしている頃、ジローと樺地は跡
部が用意した海沿いのホテルでクリスマスらしい雰囲気を楽しんでいた。
「うっわー、スッゲェ!!こんな景色初めて見たC〜!!」
部屋についている大きなお風呂から上がり、一息つく間もなく、ジローは窓にかじりつき
そこから見える景色に目をキラキラと輝かせていた。跡部が用意してくれたということで、
二人が泊まる階は当然最上階に近い部屋である。クリスマス・イブということもあり、窓
から見える夜景は様々なイルミネーションで彩られていた。
「見て見て、樺地!!橋も観覧車もみんなキラキラ光ってて、超綺麗だよー!!」
「ウス。」
「こんな景色が見れる部屋をとってくれるなんて、さすが跡部だC〜!!」
ジローは窓から見える景色に心を奪われ、大はしゃぎ。まるで子供のような反応だが、そ
れがまたジローらしい。ジローほど大きな反応は見せていないが、樺地は海や港が見える
場所が大好きであった。そのため、この窓から見える景色は樺地の心を捉えて離さない。
地上の星々が色とりどりに煌く景色に樺地もひどく感動していた。
「何か外の景色もこの部屋の中も超クリスマスって感じで、わくわくしてくるよな!!コ
コだったら、サンタさんが空飛んでんの見えんじゃねぇ?」
本気で言っているのか冗談で言っているのか分からないが、樺地はジローのその言葉にほ
んの少し微笑みながら頷いた。こんなに綺麗な景色が見える場所だったら、サンタクロー
スがトナカイの引くソリに乗って飛んでいるのが見えても何の違和感もない。そんなこと
を樺地は外の景色を見ながら考えていた。
「景色もいいけど、そろそろクリスマス・パーティーしたいよな。な、樺地♪」
「ウス。」
景色を見ながら、クリスマス・パーティーをしようと、ジローは窓のすぐ側にある席に着
く。小さなテーブルの上に、樺地は持ってきたケーキを出し、部屋に備え付けられている
ティーセットで紅茶を入れた。
「サンキュー、樺地。」
「ウス。」
ジローのカップと自分のカップにほどよい量の紅茶を注ぐと、樺地も椅子に座る。テーブ
ルの中心に置かれたケーキは、樺地が作ったブッシュ・ド・ノエルだ。樺地は手先が器用
なため、丸太を模したケーキの上に乗っている小物も全て手作りである。
「これ、マジでスゴイよなあ。普通に売ってるケーキよりも美味しそうだし。」
「ありがとう・・・ございます・・・」
「本当、食っちゃうのがもったいないくらい。でも、せっかく作ってきてくれたんだから
食べなきゃだよな。」
「ウス。」
一つの皿に乗っているケーキを二人でフォークでつつきながら食べる。少し行儀の悪い食
べ方であるが、一つのものを二人で食べているという感じが強く感じられて、何となく幸
せな気分になれる。
「ん〜、超おいC〜vv」
見かけだけでなく、味も絶品なブッシュ・ド・ノエルにジローは舌鼓を打つ。お菓子が大
好きなジローにとっては、チョコレートクリームたっぷりのこのケーキはこの上なく美味
しく感じられた。はむはむと実に美味しそうに食べるジローを見て、樺地は作った甲斐が
あったと嬉しくなる。
「樺地、あんがとな!すっげぇ美味いぜ!!」
「どういたしまして・・・」
「へへへ、樺地、あーん。」
自分のフォークにさしたケーキをジローは樺地の口元へ持ってゆく。少し恥ずかしいなあ
と感じる樺地だったが、今この部屋には自分達しかいない。このくらいはいいだろうと、
樺地は素直に口を開けた。
ぱくっ
差し出されたケーキを口の中に入れると、ほどよい甘さのクリームの味が口いっぱいに広
がる。自分で作ったものであるが、ジローが食べさせてくれるというだけで、一層美味し
く感じられた。
「美味い?」
「・・・ウス。」
「だよなー。こんな美味しいケーキ食べれて、俺、超幸せもんだぜ!やっぱいいよなあ、
クリスマスって。」
始終笑顔なジローと一緒に居て、樺地も気持ちがふわふわと温かくなる。ブッシュ・ド・
ノエルを綺麗に食べ終えると、二人は雲のように柔らかいベッドに移動する。ベッドの上
に乗る前に、ジローも樺地も今日のために用意したプレゼントを手にした。
「うわ〜、布団も超ふわふわだCー!!」
「ウス。」
「よーし、ケーキ食べてお腹もいっぱいになったことだし、プレゼント交換しようぜ!」
「ウス。」
ジローは大きな袋を抱え、ベッドに座る。樺地もプレゼントを手にし、ジローの前に座っ
た。
「じゃあ、まず俺から渡すね。メリークリスマス、樺地!」
「ありがとうございます・・・」
大きな袋を受け取り、樺地はふっと微笑む。がさごそとその袋を開けると、中には普通の
枕より少し大きなクリーム色の枕が入っていた。しかも、その枕からはほんのりラベンダ
ーの香りが漂ってくる。
「枕・・・ですか?」
「うん!樺地、最近寝不足だって言ってたでしょ?だから、安眠出来るようにラベンダー
の匂いつきの枕買ったんだぁ。」
「・・・ありがとうございます。すごく・・・嬉しいです。」
「よかった。喜んでもらえて。これで樺地もいっぱい寝てね!」
「ウス。」
ラベンダーの匂いに包まれ、樺地のとても落ち着いた気分になる。ほんわかとした気分に
なりながら、樺地は自分の用意したプレゼントをジローに渡す。
「どうぞ・・・」
「サンキュー、樺地!何だろう?」
わくわくしながら、ジローは樺地からもらったプレゼントを開ける。中から出てきたのは、
両手に収まるくらいの羊の人形であった。
「うわあ、かわE〜!!これ、ぬいぐるみ?」
「いえ・・・電子レンジでホットパックを温めて・・・カイロみたいにつかえるものです。」
「へぇ〜。あれ?しかもコレ、何かいい匂いが・・・」
「ラベンダーの匂い・・・です・・・」
「マジマジ?じゃあ、樺地にあげた枕と同じじゃん!」
「そう・・・ですね・・・」
偶然とはいえ、どちらも寝具で、しかもリラックス効果のあるラベンダーの香りのするも
のをプレゼントとして選んでいたことに驚く。やはり、気持ちよく眠るということがお互
いがいつも意識してることなのかと思うと、何だか変な感じがしたが、自分達らしいとい
えば自分達らしいので、二人は顔を見合わせて笑った。
「これがありゃ、ぐっすり眠れるな。」
「ウス。」
「なあ、樺地、ちょっと布団の中に入りながらあぐらかいて座って?」
「・・・?ウス。」
どうしてそうしなければいけないのか分からないが、ジローに言われるまま、樺地はベッ
ドの頭の方に座り、膝にふかふかの布団をかけた。すると、ジローは子供が父親の膝の上
に座るように、樺地の足に座った。そして、樺地の体に寄りかかり、クリスマスプレゼン
トの羊のぬいぐるみをぎゅうっと抱きしめる。
「樺地の膝は俺の特等席なんだぜ!」
満面の笑みでそんなことを言ってくるジローに、多少驚く樺地だが、高校生とは思えない
純粋さと素直さを持った態度に心が和む。
「今日もずぅーっと樺地と一緒だけど、明日もずっと一緒に居るんだからな!」
「ウス。」
にぱっと笑って羊を突き出しながらジローは言う。その言葉に樺地は嬉しそうに頷いた。
あれほど元気いっぱいに喋っていたジローだが、何故か突然黙り込む。枕と羊から香るラ
ベンダーの香りと樺地の体温ですっかり気分がよくなり、そのまま眠ってしまったようだ。
「ジローさん・・・?」
「ZZzzz・・・」
自分の膝の上に座り、胸に寄りかかったまま眠ってしまったジローに、樺地は毛布をかけ
てやる。ジローの腕に抱かれた羊の香りとジローのぬくもりが、樺地にはとても心地がよ
かった。
「おやすみなさい・・・ジローさん。」
そんなことを呟き、樺地はそっとジローの体に腕を回す。その感覚に気づいたのかジロー
は嬉しそうに微笑んだ。光が煌くクリスマス・イブ。心安らぐ香りに包まれながら、二人
はお互いのぬくもりを感じあい、幸せな気分に浸るのであった。
to be continued