Snug Days ― ゲームセンター ―

学校を出て商店街にやってきた甲斐と平古場はゲームセンターへと向かう。まだまだ日が
暮れるまでには時間があるので、十分に遊べると二人はゆっくりと歩いていた。
「最近、そんなに行ってなかったからなあ。結構新しいの出てるかもな。」
「ああ。」
「俺、UFOキャッチャーとかはあんまし得意じゃないけど、ついやっちゃうんだよな。」
「あー、分かる分かる!別にそんなに超欲しいと思ってなくても、取れると嬉しいんだよ
な。」
「そーそー。それでたまたまデッカイぬいぐるみとか取れちゃったたりすると、置き場と
かなくて困ったり。」
「そうなんだよな!!それ、すっごい分かる!でも、凛だったら、可愛いぬいぐるみとか
結構似合いそうな気がするけどな。」
「そんなことないさー。人を女の子みたいに言うな。」
「えー、絶対似合うって。凛は可愛いし。」
「か、可愛くなんか・・・」
「おっ、照れてる?」
「照れてなんかないし!!」
そんなやりとりをしながら、二人は商店街を歩いてゆく。平古場があまりにも素直に反応
を返してくれるので、甲斐は楽しくなってよりからかってしまう。平古場を本気で怒らせ
ない程度に加減しながら、甲斐はその反応を楽しんだ。何だかんだしているうちに二人は
ゲームセンターの前までやってきていた。
「ほら、着いたぜ、凛。」
「えっ?あ、本当だ。いつの間に・・・」
「早く中入ろーぜ。」
「わっ、ちょ・・・裕次郎っ!!」
平古場の手を引き、甲斐はゲームセンターの中へ入る。入り口を入るとすぐに、何台かの
UFOキャッチャーの機械が目にとまる。ぬいぐるみを始め、財布やアクセサリー、小物
類など様々な景品があるが、甲斐の目にとまったのは、薄いピンク色をした40cmほど
のうさぎのぬいぐるみだった。これを平古場に抱かせたらさぞかし可愛らしいだろうと、
その光景を頭の中で鮮明に描いてみる。
「何ぼーっとしてるば?裕次郎。」
「へっ?い、いや、別に・・・ただ、ちょっとこのうさぎ可愛いなあと思って。」
「まあ、確かに可愛いな。」
「ちょっと試しにやってみようかな・・・」
「いいんじゃね?裕次郎は俺よりはこーいうの得意だもんな。」
特に少女趣味とかそんなことはつっこまずに、平古場はどちらかと言えば肯定的な返事を
甲斐に返す。それならばと、張り切って甲斐はUFOキャッチャーに臨んだ。
「一回じゃ難しそうだから、この300円で二回って方で試すか。」
「まあ、妥当だろ。」
100円玉を機械の中に3枚入れ、甲斐はアームを動かしてゆく。頭と胴体の繋がってい
るあたりを狙い、そこでアームを止めた。ボタンから手を離すとアームは下に下がり、が
しっとうさぎの首を掴んだ。
「おっ、結構イイ感じ。」
「さっすが、裕次郎!すごいな。」
かなり狙い通りに掴めたのだが、ある程度の大きさがあるぬいぐるみなので、かなり穴の
近くまで動いたが、あともう一歩というところで落ちなかった。
『あー、惜しい!!』
思わず二人は同時に声を上げてしまう。しかし、もう一回チャンスはある。次こそはしっ
かり落とすぞと気合を入れて、ボタンを押す。アームが下がるのを真剣な眼差しで見つめ、
二人は息を飲む。アームは再びうさぎの首を捉えた。頭を持ち上げられるようにうさぎは
ずるずると動く。そして、体の半分以上が穴の方に傾いた瞬間、重力に従って、下に落ち
る。
「よっしゃー!!」
「すごいすごい!!取れたぜ!!」
ぬいぐるみが取れ、二人はおおはしゃぎ。取り出し口からぬいぐるみを出すと、甲斐はそ
れを平古場に渡した。
「ほら。」
「えっ、何?」
「やるよ。こーいうのは俺より凛のが似合ってるし。」
「そんなことないし。・・・でも、くれるなら貰っといてやるさー。」
うさぎのぬいぐるみなので、それほど欲しいというほどでもなかったが、せっかく甲斐が
くれると言っているのだ。貰わないわけにはいかないと、平古場は素直にそのぬいぐるみ
を受け取った。ピンクのぬいぐるみを腕に抱く平古場を見て、甲斐はニッと笑う。
「可愛いぜ、凛♪」
また可愛いと言われ、少し腹の立つ平古場だったが、あまりにも嬉しそうに甲斐が笑うの
で、怒る気も失せてしまう。ほのかに赤くなっている顔を見られたくないと、平古場はふ
いっと甲斐から顔を背けた。その背けた先に平古場は見たことのある顔を見つける。
「あれ?」
「どした?凛。」
「なあ、あれ、うちの学校の先生じゃねぇ?」
「えっ、どこどこ?」
平古場が指差す方には確かに見知った顔があった。自分達の学年の先生ではないが、何か
しらの教科を教えてもらっているので見たことくらいはある。
「よーし、あと1面!!」
シューティングゲーム用の銃を構え、画面に向けて銃を乱射してるのは、数学担当の教師
の仁王であった。その後ろでは、英語担当の柳生が腕を組んでその様子を見ている。
「よっし、全クリ!!すごいじゃろ、柳生。見とったか、俺の勇姿。」
「はいはい、見てましたよ。こんなとこ、うちの生徒に見られたどうするんです?」
あまりに仁王がはしゃいでいるので、柳生は呆れたように溜め息をつきながらそんなこと
を言う。そんな二人に、甲斐と平古場は声をかける。
『先生、何やってるんですか?』
『うわっ!!』
突然声をかけられ、仁王と柳生はひどく驚いたような声を上げる。そこまで、驚かれると
思っていなかったので、甲斐と平古場の二人はキョトンとしてしまう。
「君達は・・・確か、三年の甲斐くんと平古場くんですよね?」
「そうだぜ。」
「てか、先生達もこーいうところで遊ぶんですね。」
「そりゃもちろん。な、柳生。」
「主に遊んでるのは仁王くんですけど。」
「へぇー、何かちょっと親近感わくよな。」
「うん。特に柳生先生はすっごい真面目ーなイメージだったから、ちょっと意外かもー。」
「私は仁王くんに付き合ってるだけですから。」
眼鏡をくいっと上げて、柳生はそんなことを言う。しかし、そんな柳生の言葉に納得がい
かないと、仁王は柳生が持っていた袋の一つを取り上げた。
「嘘ついちゃいかんぜよ、柳生。」
「あっ、仁王くん!!」
「ほら、お前ら見てみんしゃい。」
取り上げた袋の中身を仁王は甲斐と平古場に見せる。その袋の中には、様々な景品と思わ
れるものが入っていた。
「わー、すっげぇ!!どうしたんっスか!?コレ。」
「これ、ぜーんぶ柳生が取ったんよ。」
「へぇ、すごいですね、柳生先生!」
「べ、別にそれは取りたくて取ったわけじゃ・・・」
「こんなのもあるぜ。」
袋の奥の方から仁王が出したのは、白いチャイナ服であった。それを見て、甲斐と平古場
は信じられないという顔をする。
「そ、それは、仁王くんがどうしても欲しいって言うから取ったものでしょう!!」
「仁王先生、そんなん何に使うんですか?」
「そんな決まっとるじゃろ。イメ・・・」
生徒にそんなことを教えるなと柳生はバシッと仁王の頭を思いきり叩いた。
「痛ったー・・・今のはキいたわ。」
「余計なこと生徒に教えないで下さい!!」
「何か楽しそうだな。」
「ああ。仁王先生のイメージはいつも通りって感じだけど、柳生先生のイメージは今ので、
だいぶ変わったな。」
あまりにも学校で見る柳生とは雰囲気が違っているので、二人は意外に思いつつも楽しく
なってくる。仁王が手にしているチャイナ服を見ていて、甲斐はとあることを思いついた。
「仁王先生。」
「何じゃ?甲斐。」
「せっかくこんなとこで会ったんですから、ゲームしましょうよ。」
「ゲーム?どんな?」
「何かで勝負してビリになった人は、その服着てプリクラってのはどーです?」
「おっ、それ、面白そー!!」
甲斐の提案に真っ先に乗ったのは面白いこと大好きの平古場であった。当然そんな楽しい
ことを仁王が反対するわけがない。
「へぇ、いいんじゃねぇ?なあ、柳生。」
「わ、私もですか?」
「当たり前じゃろ。一人だけやらんなんてずるいぜ。」
「仕方ないですね。」
生徒が相手な手前、下手に断ることは出来ない。嫌々ながらも柳生はそのゲームに参加す
ることにした。勝負方法は四人で話し合った結果、対戦ゲームと音ゲーを何種類かという
ことになった。

全ての対戦が終わった結果、罰ゲームを受けることになったのは同じ負け数だった平古場
と柳生であった。
「うわー、マジありえねー!!」
「くっ、まさか私が負けるとは・・・」
「約束だからなあ、凛。」
「柳生もだぞ。ちゃーんと、コレ、着てもらうからな。」
勝負が決まったのなら、早速決行しようと四人はそろってプリクラブースへ向かう。まず
は平古場の罰ゲームから決行だと、チャイナ服を持って、甲斐と平古場は一つの機械の中
に入った。
「マジで着るの?」
「当たり前だろー。ほらほら、手伝ってやるから。」
ちゃっちゃと撮ってしまおうと、甲斐は平古場の着替えを手伝う。仁王が柳生に取らせた
チャイナ服はミニスカートタイプで、だいぶ足が露出する形になった。
「凛、似合うな。」
「そんなん言われても嬉しくないし・・・」
恥ずかしがってスカートの裾を押さえている平古場は何とも言えない可愛らしさを醸し出
している。
「そーだ。せっかくだから、このぬいぐるみ持って撮ろうぜ。」
「えー、何で?」
「その方が雰囲気出るだろ?」
「意味分からんし・・・」
ミニのチャイナにピンクのうさぎというオプションはなかなか萌えだと、甲斐は着替えの
ために預かっていたぬいぐるみを平古場に渡す。ここまで来たなら仕方ないと、平古場は
素直にそれを受け取った。準備が整うと甲斐は機械にお金を入れ、音声に従って操作をし
てゆく。平古場が一番可愛く写るような選択をし、ポーズもリクエストしたりした。
『それじゃ、撮るよ。3、2、1・・・パシャっ!!』
「うー、マジで恥ずかしいし。」
「大丈夫大丈夫。おかしくはないから。」
「絶対おかしいだろー、こんなの!」
「ほら、笑って。次の撮影入るぜ。」
「う〜。」
恥ずかしがりながらも、平古場はしっかり甲斐の言う通りのポーズを取り、笑顔を作れと
言われたらその通りにする。そのおかげで、写真としてはなかなかいい感じのものがたく
さん撮れた。もちろん落書きは甲斐の仕事であり、その間に平古場はもともと着ていた制
服に着替える。
「はあー、やっと終わったー。」
「お疲れ、プリクラいい感じに撮れてるぜ。」
出てきたプリクラを甲斐は平古場に見せる。うさぎを抱きながら上目遣いで見つめている
もの、とびきりの笑顔で写っているもの、若干セクシーなポーズになっているものなどな
ど、普段の自分からは想像出来ないような写真を見せられ平古場は顔を真っ赤に染める。
「・・・・俺じゃないみてぇ。」
「いや、全然凛だぜ。俺としては、これとか結構クるけどな。」
「クるとか言うな!!絶対それ他のヤツらに見せるなよ!!」
「分かってるって。」
二人がそんなやりとりをプリクラの機械の外でしているのに気づき、仁王は声をかける。
「終わったんなら、それ貸して。」
「あっ、はい。」
平古場からチャイナ服を受け取ると、仁王は実に楽しそうな顔で柳生の手を引いてプリク
ラの機械内に入ってゆく。
「よーし、それじゃ、行くぜ柳生。」
「頑張ってください、柳生先生。」
「先生ならきっと似合うから大丈夫ですよ。」
どうしてこんなことで生徒に応援されなきゃならないのだろうと思いつつ、覚悟を決めて
柳生は仁王に従う。早く済ませてしまいたいと、何のためらいもなく柳生はチャイナ服に
着替えた。しかし、着替えたら最後。プリクラ内では仁王にされるがままになってしまっ
た。
「かなりイイ感じなのたくさん撮れたぜ。」
プリクラから出てきた仁王はかなりご機嫌な様子であったが、それとは対照的に柳生はげ
っそりという感じであった。どんな写真が撮れているのだろうと、好奇心いっぱいに甲斐
と平古場はプリクラが出てくるのを待つ。
カタン
小さな音を立て、出口からプリクラが落ちる。それを拾い上げて、仁王は満足気に笑った。
「仁王先生、どんなの撮ったんですか?」
「見せて欲しいです。」
「いいぜ。ほら。」
自信作だと言わんばかりに仁王は出てきたプリクラを二人に見せる。そのプリクラを見て、
色々な意味で二人は言葉を失う。そこに写っていた柳生は、信じられないほど美人で色気
たっぷりであった。
「柳生先生、眼鏡外すとだいぶ雰囲気変わりますね・・・」
「女でも通せそうなくらい美人です。」
「それは・・・褒め言葉ですか?」
『一応は。』
あまり褒め言葉には聞こえないが、そういうことにしておこうと柳生は自分自身を納得さ
せる。
「よーし、今日はこれくらいにしとくか。柳生、そろそろ帰ろうぜ。」
「そうですね。何だかどっと疲れましたよ。」
「お前らもあんまり遅くまで遊んでるなよ。」
『はーい。』
自分好みの柳生の写真がたっぷり撮れたと、仁王は満足そうな笑顔を浮かべてそんなこと
を言う。柳生ももう帰りたくて仕方がなかった。仁王と柳生が帰るのを見送った後、残さ
れた二人もそろそろ帰ろうかという話をする。
「俺達もそろそろ帰るか。」
「そーだな。」
「なあ、これから凛の家行っちゃダメか?」
「別にいいけど。何で?」
「んー、何となくそういう気分。」
「変な裕次郎。まあ、いいや。だったらさっさと帰ろーぜ!」
「おう。」
もう少し平古場と一緒にいたいと甲斐はそんなことを尋ねた。特に用事があるわけでもな
かったので、平古場はそれを簡単に了承する。今日は可愛い格好をした平古場を見れ、さ
らにもう少し一緒にいられるということで、甲斐はニコニコしながらゲームセンターの入
り口に向かって歩き出した。ピンクのうさぎを抱え、平古場はその後を追う。外に出ると
空はもうすっかり夕焼け色に染まっていた。

                     to be continued

戻る