Story of Love 〜出会い〜

出会いは突如としてやってくる。それを人は運命と呼ぶ・・・。

こんなところに来るの初めてだ。どうすればいいんだろう・・・・。
この辺りを治めている跡部が主催したパーティーに鳳は来ている。跡部はいわゆる“皇帝”
と呼ばれる地位に就いている。鳳はその皇帝に従っている王様というところだ。
「なあ、何で俺がこんな格好しなきゃいけねーんだよ。」
「いいじゃねぇか。似合ってるぜ。」
真っ赤なドレスを身にまとっているのは階級的にはそんなに高くない、むしろ平民と呼ば
れる階級の宍戸だ。だが、跡部の幼なじみである上、跡部にこれ以上なく寵愛されている
ので、こういうパーティーには必ずと言っていいほど出席する。もちろん跡部の趣味で女
の格好をさせられているのだが・・・。
「やっぱり、宍戸さん綺麗だよなあ。」
宍戸が男だと分かっていながらも、鳳は思わずその姿にポーっとしてしまう。でも、手出
しは出来ない。自分より何倍も位が高い跡部のお気に入り、というかもう恋人と言っても
よいだろう。宍戸を見ながらボーっとしていると鳳は自分より一回り小さな体にぶつかっ
た。
「あっ、すいません!!」
慌てて鳳は謝る。だが、そんな慌てまくっている鳳の目に入ったのは優しい笑顔と淡いオ
レンジ色のドレスだった。
「大丈夫よ。全然気にしなくてもいいわ。それよりあなたこういうパーティーくるの初め
てでしょう?」
「えっ、あっ、はい。でも、何で分かるんですか?」
「だって、他の人と違って戸惑っているんだもの。このあとのダンス、私がお相手しまし
ょうか?」
「いいんですか?」
「ええ。喜んで。」
にこりと微笑んで、その女性は鳳の手を取る。女性に見えるがそのオレンジ色のドレスを
身にまとった者は、本当は女性ではない。女性でないということはもちろん男性。だが、
訳あってこんな格好をしているのだ。
「えっと、あの・・・名前、何ていうんですか?」
「滝です。ここの皇帝が治めている国の一つの王女です。あなたは?」
「長太郎です。鳳長太郎。俺もここの皇帝が治めている国の、一応王です。」
「長太郎・・・ですね。よろしくお願いします。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
この後、二人は一緒にパーティーを楽しんだ。滝のリードがあり、鳳はこういうようなパ
ーティーをどう楽しめばいいかを知る。この時から、鳳は滝のことが頭から離れられなく
なった。

パーティーの数日後、鳳の頭は中は滝のことでいっぱいだった。
「どないしたん?長太郎。最近、ずっとボーっとしとるで。」
「あっ、忍足先輩。」
忍足は鳳の教育係兼相談係だ。最近、鳳の様子がおかしいので声をかけてみた。
「この前のパーティーで何かあったんか?」
「えっ、いや・・・その・・・」
鳳が赤くなり、戸惑っているのですぐに気に入ったお姫様でも出来たのかと察した。
「何や、いい感じの姫さんでもいたんか?」
「・・・はい。」
「へぇ、で、どこの何ていう姫さんや?」
「どこかは、そこまで詳しく聞かなかったですけど・・・滝さんって人です。」
滝という名前を聞いて、忍足はああっと手を叩いた。
「何だ滝か。あー、でもあいつは・・・」
忍足は慌てて口を噤む。つい流れで、滝が男だということを言ってしまいそうになってし
まったのだ。だが、鳳は滝を女と信じて相当惚れている。それなのに男なんて言ってしま
ったら、かなり大きなショックを受けるだろう。
「俺、滝と知り合いなんや。でも、どこにいるか分からないなら連絡のしようがあらへん
な。」
「そうですか・・・。」
鳳は残念そうに肩を落とす。忍足はそれを見て、連絡してやらないと可哀想だという気に
なってしまった。
「跡部になら連絡出来るで。跡部なら滝がどこの国のお姫さんか分かるやろ。」
「いいんですか?」
「ああ、俺とか岳人は跡部ともそれなりに仲はええからな。大丈夫やろ。」
「ありがとうござます。」
鳳は本当にうれしそうに忍足に笑いかけた。そんなふうに笑顔になられてしまったら何と
か滝に会わせたくなってしまう。忍足は鳳の部屋を出て、電話のあるところに向かった。

ジリリリ・・・ジリリリ・・・
跡部の部屋の電話が鳴り響く。ここの電話番号を知っているのは本当に限られた人だけな
ので、跡部は何のためらいもなしに電話に出た。
「もしもし?誰だ?」
『あー、跡部?俺やけど。』
「何だ忍足か。何の用だ?」
『跡部、滝がどこの姫になってるか分かるか?』
「当然だろ。何で滝の居場所なんて知りたがってんだよ。」
『うちの王様がな、滝に惚れてしまってんねん。それで、連絡取って欲しいんやけど。』
「お前んとこの王っつーと・・・鳳か?」
『せや。頼んでもええか?』
「しょうがねーな。協力してやんよ。」
『おおきにな。跡部。』
「その代わり、今度ここに来る時、良さそうな土産持ってこいよ。」
『了解。じゃあな。』
「ああ。じゃあな。」
チンッ
跡部は受話器を置く。そして、また受話器手に取って、ダイヤルを回した。
トゥルルル・・・・トゥルルル・・・・
『もしもし?』
電話に出たのは澄んだ女の人の声。これはもちろん滝だ。こういうふうに出るのが日常に
なっている。
「滝か?俺だけど。」
『ああ、何だ跡部か。』
相手が跡部だと分かると、滝は声と口調を男のものへと戻してしゃべる。跡部はさっきの
忍足からの電話のことを滝に話した。
『そっか。俺もいいと思ってるんだけどさ・・・。』
「何だ。じゃあ、問題ないじゃねーか。」
『大ありだよ。だって、長太郎は俺を女だと思って惚れてんだろ?俺、本当は男だし・・
・。本気で惚れられてると困るな・・・。』
滝は本当に残念そうに言った。だが、跡部は男だから何だよというような雰囲気で滝に鳳
と会うことを勧める。
「男とか女とか、別に関係ねぇんじゃねーの?もう一回くらい会ってみればいいじゃねぇ
か。」
しばらく受話器の向こうに沈黙が走る。跡部も滝が何か言うのを黙って待った。
『・・・じゃあ、もう一回くらい会ってみようかな。』
滝は呟くような小さな声で跡部に言った。跡部はよしっというよな素振りを見せ、さっき
よりも1ランクテンションの上がった声で返す。
「俺が鳳に電話しといてやるよ。次の日曜日あたりでいいか?」
『うん。分かった。』
「じゃあな。」
跡部は電話を切り、ふぅっと一息つこうとした。その時、後ろから声をかけられる。
「電話終わったか?」
振り向くとちょっと不満そうな表情をした宍戸が立っていた。跡部が電話している最中に
部屋に入って来たらしい。跡部はそんな宍戸を見て、宍戸が電話の相手にヤキモチを妬い
ていると分かった。
「ああ。ちょっと滝に用があってな。」
「ふーん。」
「大丈夫だぜ。そんなに妬かなくても。」
「なっ!?や、妬いてなんかねーよ!!」
笑いながら言う跡部に宍戸は必死で反論。だが、顔を真っ赤にして大慌てしているので、
妬いていたのはバレバレだった。

次の日曜日の午後。鳳と滝は跡部の城の近くの川辺で会うことになった。
「こんにちは。長太郎。」
「滝さん。」
鳳に会うと滝はニッコリと笑って、あいさつをし、いろいろと話をした。初めは緊張して
いた鳳もしだいに緊張も解れ、かなりリラックスしているようだった。
「へぇ、忍足と岳人は長太郎の家来なんだ。」
「家来っていうか・・・先輩って感じですね。勉強教えてもらったり、剣術教えてもらっ
たりしてます。」
「そっかー。最近、会ってないなあ、あの二人。」
そんな光景をバッチリ覗いている者が二人。今、話題にされている岳人と忍足だった。鳳
が心配でこっそりあとをつけていたのだ。
「何や、心配なさそうやな。」
なかなかいい雰囲気の二人を見て、忍足は安心していた。
「どうかな?」
だが、岳人はこれから何かすごいことが起こるぞーというような感じで笑っている。岳人
が想像していた通りというか何というか、このあと大変なことが起こってしまう。二人は
少し移動しようと立ち上がった。そして、歩き出そうとしたその瞬間、鳳は足を滑らせ、
川の方へ落ちそうになる。
「危ない!!長太郎っ!!」
転びそうになった鳳の体を滝はとっさに支え、倒れるのを止めた。突然のことだったので、
滝は声を作るのをすっかり忘れていた。そう、本来の地声である男らしいあの声で、思わ
ず叫んでしまったのだ。
「あっ・・・。」
気まずそうに滝は鳳から手を離す。そして、しばらくの間、沈黙が二人を包んだ。
「わあーー!!滝の奴何であの声でしゃべるんや!」
「うっわあ、何かすごい展開になってきたぞー!」
それを見ていた忍足は大慌て。岳人は楽しそうに二人の姿を見る。二人はいまだに黙った
ままだ。
「ゴメン!!長太郎!!」
その沈黙を破るように、滝はさっきの地声のまま鳳に頭を下げた。そして、申し訳なさそ
うに言葉を続ける。
「俺、本当は男なんだ。騙してたみたいで本当悪かった・・・。」
その声と口調は、鳳と同年代の少年と全く変わらないものだった。さらに続けて、滝は話
し始めた。自分が何故こんな格好をしているかということを。もちろんのことながら、趣
味でしてるわけではない。
「俺には、年の離れた姉さんがいたみたいなんだ。俺が生まれる前に死んじゃったらしい
んだけどね。それで、だんだん俺が成長していくにつれてその姉さんに似てきて、お父様
やお母様はまるで姉さんが戻ってきたみたいに思ったんだろうね。3歳ごろからかな?俺
は姫として今まで育てられた。だけど、やっぱ体は男だろ?声変わりはするし、第二次成
長期だって当たり前のようにあった。今もそれに入るんだと思うけど。でも、女の人みた
いな声はもう自然に出せるようになったし、仕草もたぶん普通の人が見たらお姫様そのも
のだと思う。だから、俺が男だって知ってるのは、うちの城の人達と跡部と宍戸、それか
ら岳人に忍足、あとジローと樺地かな。」
滝の表情は切なそうでそれでいて物悲しそうなものだった。初めは何を言っていいか分か
らなくて黙っていた鳳だったが、話を聞き終わると優しい表情で呟いた。
「そうだったんですか。」
「俺のこと、軽蔑しただろ?」
「いえ。」
軽く横に首を振ると鳳は滝の手をそして自分の胸のところに持っていった。
「俺、やっぱりあなたのこと好きみたいです。だってほら、手に触れただけでこんなにド
キドキしてる。女とか男とか関係ないです。跡部さんだって、宍戸さんとあんなにラブラ
ブじゃないですか。」
「長太郎・・・・。」
あまりの鳳の優しさに滝は泣きそうになる。
「本当にいいのか?」
「はい!」
滝の最後の問いかけに鳳は微笑みながら頷いた。そして、今度は鳳から滝に問いかける。
「男でも構いません。滝さん、俺とお付き合い願えますか?」
滝はうれしそうに笑いながら頷いた。
「うん。」
「ありがとうございます。」
鳳もこれ以上ない幸せそうな笑顔を見せる。それを見ていた忍足はホッと胸をなでおろし
た。岳人もうれしそうな表情を見せる。
「よかったー。」
「やるじゃん。長太郎。」
「これで本当に一安心やな。」
「ああ。じゃ、城に帰ろうぜ。」
「もうちょっと見ていかへん?」
「あいつらの邪魔しちゃ悪いだろ?早く城に帰って俺達もラブラブしようぜ。」
「何やそれ?」
岳人と忍足もあの二人とは別にラブラブだ。この日、また新しいカップルが誕生した。

                     to be continued

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