☆七夕祭り☆ 〜前編〜

七夕の日の前日。氷帝レギュラーメンバーは部室で明日七夕祭りへ行こうというようなこ
とを話していた。
「なあ、明日七夕じゃん?だから、みんなで七夕祭り行こうぜ。」
お祭り事が大好きな岳人は、いつもの通りみんなで出かけることを提案した。
「でも、七夕祭りってこのへんじゃやってないぜ。やってるとしたら、仙台か神奈川あた
りじゃねーの?」
「せやなあ。でも、仙台まで行くには時間も金もかかりすぎやし、行くんだったら神奈川
の方に行くのが無難やな。」
「俺は賛成。楽しそうだしな。」
「俺も行きたいです。七夕祭りって行ったことないんですよ。」
地理的なことを考えると豪華さは劣るが神奈川の七夕祭りに行った方が無難であろう。岳
人のこの提案に宍戸や鳳は賛成した。
「あっ、じゃあさ、みんなで浴衣か甚平着て行かない?お祭りなんだからそういう格好す
るのもいいと思うよ。」
「そうだな。じゃあ、明日、9時に駅前に集まろうぜ。浴衣か甚平のどっちかを着てな。」
『おう。』
「あっ、跡部部長。」
「どうした?日吉。」
「明日、古武術の方の試験があるんですよ。だから、俺は行けません。」
「そうか。じゃあ、土産買ってきてやるよ。」
「ありがとうございます。」
日吉は用事があっていけないようだ。だが、跡部達は行くことの出来ない日吉に何かお土
産を買ってくると約束する。9人は着替えをすると部室を出て、明日に備え、早めに帰る
ことにした。

次の日、日吉を除いた8人は駅前に集合する。昨日言われた通り全員浴衣か甚平という格
好だ。
「おはよー。うわあ、みんなホントに浴衣と甚平だね。」
「おはよう滝。滝はやっぱ浴衣派だね。」
「岳人は甚平で、忍足は浴衣か。何か想像通り。」
滝は笑いながら二人を見る。今のところこの二人の他に鳳と樺地がいる。ちなみにこの二
人は鳳が浴衣で樺地は甚平を着ている。跡部と宍戸、ジローはまだ来ていないようだ。
「あっ、宍戸先輩に跡部さん。」
向こうから二人が歩いてくるのを鳳が他のメンバーより一足早く見つけた。二人ともほと
んど同じ柄、同じ帯の浴衣を着ている。
「お前ら、早ぇーな。」
「宍戸達が遅いんだよー。てか、何で二人ともおそろいの浴衣着てんの?」
「あー、俺が浴衣も甚平も持ってないっつったら、跡部が貸してくれたんだよ。だから、
同じ浴衣なの。」
「へぇ。何かラブラブやな。」
「だろ?俺はそれを狙って・・・」
「違ぇーだろ!!跡部。」
おそろいの浴衣だが、跡部と宍戸では観点が違うようだ。しばらくして、大あくびをしな
がら、ジローがやって来る。
「ふぁ〜、おはよう。」
「遅いぞジロー!よし、これで全員だな。」
「跡部ぇ、俺、眠い〜。何で集合時間こんなに早いんだよ〜。」
ジローはまだ眠り足りないようで、集合時間を決めた跡部にぶつぶつと文句を言う。
「文句言ってないで、さっさと出発すんぞ。」
そんなことは全く耳に入っていないようで、跡部は先頭をきって駅内に入る。他のメンバ
ーもそれに続いた。電車に乗るとそれなりに混んでいたが、何とか全員座ることが出来た。
ちなみに、浴衣と甚平の対比は浴衣が跡部、宍戸、忍足、鳳、滝の5人で、甚平が残りの
岳人、樺地、ジローの3人だ。特に目立ったことはしなくても、この8人がこの格好で電
車に乗っていること自体、他の人から見れば相当威圧感のあるものになっているだろう。

電車に乗って1時間強、跡部達は目的地に到着した。午前中にも関わらず、七夕祭りに来
た人でホームはそれなりに賑わっている。
「やっと、着いたー。」
「何かホントそれほど豪華な場所じゃねーな。」
「でも、人は結構いるぜ。確か・・・北口から出ればいいんだったよな?」
改札に切符を通して、8人は出口に向かった。階段を下りると目の前にバスターミナルが
広がり、左右に道が伸びている。どちらから行くか迷ったが、一行は左の道から回ること
にした。ここで、気になることが1つ。厚い雲が空を覆い、パラパラと雨を降らせている
のだ。
「跡部、雨降ってるけど。」
「お前ら傘持ってきたか?」
「ううん。持って来てねぇ。」
雨が降るなんて予想していなかったので、誰も傘など持って来てはいなかった。だが、浴
衣や甚平を着てるが故、濡れるのはみんな嫌だと思っている。
「じゃあ、その辺で傘買うか。2人で1つくらいだったらいいだろ?」
「うん。それなら割りかんで買えるしね。」
というわけで、一行は近くの駅ビルで傘を買うことになった。今日くらいしか使わないの
でそんなに高くないものを購入する。
「人が多いから、ホント2人で1つのを差さないとダメですね。」
「じゃあ、長太郎。一緒の傘に入ろう。」
「宍戸は当然俺とだよな。」
「別にいいけど。」
「侑士は俺とー。」
「まあ、一緒に傘買ったし。」
「じゃあ、樺地は俺とだ。」
「ウス。」
それぞれペアになりあいあい傘をして、屋台が延々と並んでいる道へと向かう。歩いてい
る途中でカップルを何組か見かける。その度にこのメンバーは見かけたカップルに対抗し
ようとする。
「あー、前のカップル手繋いでるぜ侑士。俺達も繋ごうぜ。」
「あっちは普通に繋いどるから、こっちはLOVE繋ぎした方がええよな。」
岳人と忍足は手を繋いでいるカップルに対抗する。
「宍戸、あっちのカップル肩組んでるぜ。」
「だから何だよ?」
「こっちも対抗したいじゃねーか。」
「傘だけでいいだろ?こんなとこでしなくても・・・って、言ってるそばから何なんだよ
跡部!!」
跡部も他のカップルに対抗心を燃やし、宍戸の肩をしっかり抱く。あいあい傘をしている
だけでも宍戸にとっては恥ずかしいのに、普通に肩を抱かれて宍戸は顔を真っ赤にする。
「あー、じゃあ俺も樺地と腕組むー!!」
「っ!!」
ジローも樺地の腕に抱きついた。
「みんなラブラブですね。滝さん。」
「そうだねー。長太郎、俺達も何かする?」
「えっ・・・それじゃあ、手繋ぎますか?」
「いいよ。はい、これで俺達もラブラブVv」
何だかんだ言って滝と鳳もバッチリ他のメンバーに対抗している。屋台のところまでくる
とメンバーはそれぞれ好きなものを買って食べる。跡部や宍戸はたこ焼きを、岳人や忍足
はじゃがバタを、ジローはあんず飴を、樺地はお好み焼きを、滝や鳳はかき氷を買った。
「俺が買ったんだから、お前は2つな。」
「何でだよー。お前、こんなの食べねぇだろ!?」
「今、腹減ってんだ。宍戸、そんなにこれ食べたいか?」
「食べたい。なあ、跡部、3つ。6こあるから半分こしよう?」
「じゃあ、食べてもいいぜ。全部半分こだな。」
「は?」
跡部はニヤニヤしながら、宍戸の頼みを承諾する。宍戸はその跡部の笑みに危機感じだが、
もう遅かった。跡部は大きめのたこ焼きを1つ半分だけ口に含む。そして、そのまま宍戸
の口へと持っていった。
「うわっ!!ちょっと、待て!!跡部っ・・・・っ!!」
跡部は残りの半分を宍戸の口に入れ、器用に歯で半分に割った。たこ焼きの半分はきちん
と宍戸の口の中に収まった。
「な、何すんだよ!?跡部!!」
「だから半分こだろ?俺、食べることがただのエネルギー補給にしかならねぇのって好き
じゃねぇんだ。だから、こんなもんでも楽しんで食べれりゃいいかなって思ってよ。」
「俺は嫌だ!!そんなことするんだったらいらねぇ!!」
「遠慮すんなよ。」
嫌がる宍戸だが、跡部はもう無理やりにたこ焼きを食べさせる。結局、宍戸は跡部の身勝
手な行動につきあわされ、恥ずかしい思いをしながら半分のたこ焼きを食べ終えた。
「あはは、宍戸かわいそう〜。俺はあんなことしないから安心しろよな侑士。」
「岳人〜、いくらバターつけ放題だからってこれはアカンやろ・・・」
岳人はあげられたじゃがいもにありえないくらいバターをつけている。味的にはなかなか
深みがあっていいのだが、どう見てもカロリーは高くなっている。
「このじゃがバタ大きいな。結構食べるの大変。」
「せやなあ。でも、なかなか味はいいんとちゃう?」
「うん。おいしいよね。やっぱこのバターがいいんだよ。」
岳人としてはこのバターのつけ方は納得のいくものらしい。だが、食べてるうちにそのバ
ターの所為で手も口の周りもベタベタになってしまう。食べ終わる頃にはどっちの口もバ
ターだらけだ。
「岳人、ティッシュ持ってへん?」
「持ってるよー。侑士、口の周りベタベタだな。」
「岳人だってそうやで。」
岳人は鞄からティッシュを出すとまず自分の口と手を拭き、また一枚出して背伸びをして
忍足の口を拭ってあげた。
「よし、キレイになったぜ侑士。」
「おおきにな、岳人。」
この二人もナチュラルにバカップルを醸し出している。一方、あんず飴を買ったジローは
その酸っぱさに嘆いていた。
「うえ〜、あんず飴すっぱい〜。」
見かけ的にはとても甘そうに見えるあんず飴は、実はとても酸っぱいらしい。ジローはも
うこれ以上食べられないと捨てようと考えていた。
「もう食べられそうにないや。捨てちゃおうかな〜。」
ジローがゴミ箱の方に向かおうとすると樺地がそれを止めた。
「何?樺地。」
「ウス。」
「えっ、あんず飴の残り食べてくれるの?」
「ウス。」
樺地はジローからあんず飴を受け取るとパクパクと食べ始めた。ジローはお金を無駄にし
なくてすんだとうれしそうだ。そのうえ、樺地はあんず飴を食べてしまったと自分の食べ
ていたお好み焼きをジローに差し出した。
「食べていいの?」
「ウス。」
「ありがと、樺地〜Vv」
樺地のくれたお好み焼きはさっきのあんず飴のよい口直しになった。あんず飴を食べても
らい、お好み焼きを食べさせてもらったジローはかなりご機嫌な表情だ。
「長太郎、何の味頼んだんだっけ?」
「俺、レモンっスよ。」
「じゃあ、一口頂戴。俺のも一口あげるから。」
「いいっスよ。滝さんのは何でしたっけ?」
「俺はピーチ。何か珍しい味だよね。」
かき氷の2人はお互いに味見をさせあっている。1回に2つの味が楽しむことが出来るの
で、何だかお得な感じだ。
「冷たーい。やっぱ、かき氷はいいね。」
「そうっスね。あっ、でもこのあとからあげとかフライドポテトは食べない方がいいです
よね?」
「何で?」
不思議そうな顔をして、滝は鳳に尋ねた。
「お腹こわすらしいですよ。冷たいものと油っこいものを一緒に食べると。」
「へぇ。そうなんだ。気をつけなきゃね。」
人から聞いた話なようで、鳳は伝聞系で滝にその理由を話した。確かに冷たいものを食べ
たあとはお腹が冷え、消化能力が落ちるので消化のしにくい油ものを食べるとお腹をこわ
すのは容易に想像出来るだろう。屋台で買ったものを食べ終えると、8人は再び歩き出し
た。しばらく歩いていくと、宍戸がゲームセンターを見つける。
「あっ、ゲームセンターがあるぜ。ちょっと、入っていかねぇ?」
食べ物を食べたばかりで、あまり屋台で買う気にならないメンバーはこの宍戸の提案を呑
んだ。中に入るとたくさんの人でごったがえしている。
「うわ、人いっぱいだ。」
「特にプリクラあたりがすごいみたいだな。」
「まあ、これはしょうがないやろ。」
あまりの人の多さにすぐに出ようと考えた跡部や忍足だったが、岳人とジローが何かを見
つけたようで、UFOキャッチャーのところで手招きをしている。
「なあなあ、これ1つ取らねぇ?何かに使えそうだと思うんだけど。」
岳人が指差していたのは女の子がコスプレ衣装として着るようなウェイトレスの服とチャ
イナ服だった。確かにあったらおもしろそうな一品だ。
「こんなの取ってどうするんっスか?」
「えー、何かのゲームで罰ゲームとして着せたりとか?」
「そりゃ楽しそうだな。」
この話に初めに乗ってきたのは跡部だ。他のメンバーも自分が着なければおもしろいかも
と結構乗り気だ。
「じゃあ、1人1回ずつやっていこうぜ。」
まず初めに挑戦したのは、言い出しっぺの岳人だった。だが、もう少しのところで取れな
い。
「あー、おしい!!」
次に忍足、宍戸、鳳、滝、ジロー、樺地とやっていくが意外と難しいらしくなかなか取る
ことが出来ない。
「結構難しいっスね。」
「ああ。何かくやしいな。」
「お前ら、全然ダメダメだな。」
「何だよぉー、じゃあ、跡部取ってみろよ。」
「取れるに決まってんだろ?」
跡部は200円を入れると余裕の表情でクレーンを動かした。開きながら下に下がるクレ
ーンはしっかりとブルーの服を掴む。そして、そのあとも落ちることなく取り出し口の穴
まで運ばれ、取ることが出来た。
「跡部すっげー!!」
「だから、言っただろ?絶対取れるって。」
「本当に取れちゃいましたね。」
「でもさ、これ取ったところで何に使うんだろな?」
『・・・・・・・。』
あったらおもしろいし、何かの罰ゲームなるだろうと思って取ろうと思ったが、いざ取れ
てしまうと本当にどうすればいいか分からなくなる。
「まあ、あとで考えればいいんじゃねぇ?」
「そう・・・だよな。」
「それよりさっさとここから出ようぜ。」
跡部はあんなものを取ったにも関わらず、全くいつもと変わらない。むしろ、他のメンバ
ーが出来なかったことが当然のように出来たことで優越感に浸り、満足そうな表情を浮か
べている。取った服をビニール袋に入れると樺地にそれを持たせ、ゲームセンターを出た。
『あっ。』
外に出ると降っていた雨がさらに強くなっていた。この中を歩くのは少しかったるい。
「なあ、カラオケかどっか入って雨宿りしねぇ?」
「そうですね。これだけ雨が強くなっちゃうとこの格好で歩くのは大変ですよ。」
というわけで、8人は近くのカラオケボックスに入った。

                     to be continued

戻る