Various races World 
〜第3話〜

林に近い野原の上で、獣族のジローは、羊モードで昼寝をしていた。そんなジローのもと
へ、たくさんのお菓子を抱えた虫族の樺地がやってくる。蟻モードの樺地は甘い物を察知
する能力に長けていた。しかも、この世界には『お菓子のなる木』なるものがあり、その
木になっているものは、全て普通のお菓子として食べれるのだ。
「ZZzzz・・・・」
眠っているジローの隣に腰掛け、樺地がジローが目を覚ますのを待つ。持ってきたカゴに
お菓子を入れていると、その甘い香りに気づいたのか、ジローの鼻がひくんと動く。
「んん・・・」
「・・・・・。」
早く起きないかなあとジローを眺めていると、パタパタとジローの手が動きだした。どう
やら匂いのもとのお菓子を探しているようだ。
「む〜、お菓子〜・・・むにゃむにゃ・・・」
その動作が何だか可愛らしくて、樺地は何だか和やかな気分になる。一つの飴玉をジロー
の手に乗せようと瞬間、ジローが目を覚ました。
「んー、はれ・・・?」
「おはようございます・・・」
「おー、樺地。おはよー。」
「お菓子・・・たくさんとってきたんで・・・一緒に食べませんか?」
「お菓子!?」
お菓子という言葉を聞いて、ジローはがばっと体を起こす。完全に目覚めたため、羊モー
ドから狼モードに変化した。
「うっわー、すっげぇ!!お菓子が超いっぱいあるC〜!!」
「何・・・食べます・・・?」
「えー、こんなにあると迷っちゃうなあ。チョコレートもいいし、クッキーも捨てがたい。
マシュマロも美味しそうだC〜。」
カゴに入っているお菓子をあさりながら、ジローは楽しそうな声をあげる。どれを食べよ
うか迷っていると、少し底の方に大好きなムースポッキーを見つける。
「おー、ムースポッキー発見!!まずはこれから食べようっと。」
カゴの中からムースポッキーを取り出すと、ハグハグとジローはそれを食べ始める。樺地
もチョコレートを取り出し、それを口に運んだ。
「うーん、うまーい。樺地、そのチョコも味見させて?」
「ウス。」
人が食べてるものは美味しく見えるもので、ジローは樺地の食べているチョコレートが食
べたくなる。まだまだお菓子はたくさんあるということで、樺地はすっと食べかけのチョ
コレートをジローに渡した。
「ん〜vvこのチョコもうまーい。俺だけもらっちゃってるのは不公平だから、樺地にも
あげるー。」
チョコレートを口に入れると同時に、ジローは自分の食べていたポッキーを樺地の口に押
し込んだ。
「・・・・っ!」
「美味しい?樺地。」
「ウ、ウス・・・」
半強制的に食べさせられたポッキーは、思った以上に甘く、樺地の胸をドキドキさせた。
そんな樺地の思いに全く気付かず、ジローはクッキーやマシュマロ、飴玉など、カゴに入
っているお菓子を次々に平らげてゆく。自分が食べている合間合間に、ジローは樺地に自
分の食べているお菓子を分けた。
「美味いな、樺地♪」
「ウス。」
「俺、お菓子も超好きだけど、それよりももーっと樺地が好きなんだぜ。俺がどこで寝て
たって見つけてくれるし、たくさんお菓子持って来てくれるし。」
「ウ、ウス。」
「だから、大好きな樺地と大好きなお菓子を食ってる時間は、超幸せー。寝てる時間以外
では、いっちばん好きな時間なんだぜ!」
何の照れもなく、屈託のない笑顔でジローはそんなことを言う。そんなジローの言葉を聞
いて樺地は何となく恥ずかしくなってしまう。しかし、樺地もジローのことは大好きなの
だ。そう言われて嬉しくないはずがない。その嬉しさをどう表わしたらいいか分からずに
困っていると、ジローがあることを尋ねてきた。
「樺地は、俺のこと好き?」
「ウス。」
「へへへ、うれC〜vvじゃあ、俺達両想いだな!!」
「ウス。」
自分がそう簡単に言葉には出来ないことを、たった二文字で答えさせてくれる上に、その
言葉を聞いて、本当に嬉しそうな顔をしてくれる。それが、樺地の悩みを全て解決してく
れた。多くの言葉を紡がずとも、しっかりと想いを伝えられる。それは樺地にとって、と
ても重要なことであった。
「樺地も何かして欲しいことがあったら、何でも言えよ?俺だって、一応いろんなこと出
来るんだからな!!」
「ウス。」
「じゃあ、今、樺地が一番して欲しいことは?」
今度はちゃんと答えなければならない質問だなあと思いながら、樺地をそれに対する答え
を考える。しかし、この質問には樺地は悩まなかった。
「ジローさんが側に居てくれれば・・・・それだけで、十分です・・・」
その答えを聞いて、ジローは少し驚いたような反応をした後、にかっと笑った。そして、
ぎゅっと樺地の大きな体に抱きつく。
「それは俺にしか出来ないことだな!!」
「ウス。」
「俺もいつでも樺地と一緒に居たいと思うぜ!起きてる時も寝てる時も!!」
起きている時も寝ている時も一緒に居たいという言葉は、樺地にとって最高に嬉しい言葉
であった。嬉しくて顔を緩むのが抑えられないでいると、顔の下からかすかな寝息が聞こ
えてくる。
「ジローさん・・・?」
「ZZzzz・・・」
「寝ちゃってる・・・」
お菓子をお腹いっぱい食べて満足したジローは、再び羊モードに戻ってしまった。そのま
ま寝てしまうとは何ともジローらしいなあと思いながら、樺地はふっと微笑んだ。このま
ま寝かしておくのもよいが、もう少し寝心地のいいところに連れて行ってあげようと、樺
地は蟻モードからカブト虫モードになり、ジローをひょいっと抱え上げた。そして、近く
にあるお花畑へと移動する。
「おやすみなさい・・・ジローさん・・・」
そんなことを呟きながら、樺地は自分の足を枕にさせ、ジローをお花畑の上へ寝かせた。
花のよい香りに包まれながら、樺地のぬくもりを感じ、ジローは幸せそうな寝顔を浮かべ、
いい夢を見るのであった。

お花畑から数百メートル離れたところには、砂浜があり、大きな海が広がっている。そん
な海の中で、魚族の甲斐と平古場は一緒に泳いでいた。
「凛、いつもの岩場まで競争しようぜ!」
「望むところやし!」
それぞれ人魚のような形態になる、クマノミモードとネオンテトラモードで勢いよく二人
は泳ぎ出す。いつもの岩場とは、二人のお気に入りの場所で、かなり沖の方にある。そこ
は、他の種族がなかなか来れない場所であるため、誰にも邪魔されることなく二人きりに
なるには、絶好の場所なのだ。
「ぷはっ、よっしゃー!!俺の勝ち!!」
「あー、負けたし。もうちょっとで抜かせそうだったのになあ。」
岩場までの勝負に勝ったのは甲斐の方であった。勝ったと言ってもその差はほんの数秒だ。
ここに来るたびにこんな競争をしているが、どちらが勝つかは日によって違っていた。ど
ちらもよきライバルなのだ。岩場に到着した二人は、尾ひれを海につけたまま、岩に乗り
上げ、そこに座る。
「はあー、今日は波も静かやし、空も晴れてて気持ちいーな。」
「そうだな。」
「そういえばな、この前この近くで、でーじキレイな貝見つけてさー。凛に見せたいと思
って、隠しておいたんだけど・・・」
そう言いながら、甲斐は完全に岩場に乗り上げる。海から上がると魚族の尾ひれは自然に
足に変わるのだ。ペタペタと裸足で岩の上を歩いていくと、少し奥の岩の隙間から、この
前見つけたという貝を取り出し、平古場のもとへ戻ってくる。
「ほら、これ。結構キレイだと思わねぇ?」
「おー、すっげぇ。でーじキレイやっし。形も変わってて面白いなあ。」
「気に入ったんなら、凛にやるよ。凛はそういうの好きだろ?」
「おう!うっわあ、しにキラキラしてるし。こんなの初めて見たさー。」
甲斐から見たこともない綺麗な貝をもらい、平古場はキラキラと目を輝かせる。嬉しそう
にしている平古場の様子を見て、甲斐は満足気に笑った。
「喜んでもらえたなら、よかったさー。」
「嬉しいぜ、裕次郎!あっ、そうだ。俺もな、裕次郎に渡したいと思ってたものがあるん
だよ。」
「渡したいもの?何か?」
渡したいものがあると言う平古場は、腰につけている小さな巾着の中からネックレスのよ
うなものを出した。皮の紐の先には、三角形に近い濁った白色をした何かがつけられてい
る。
「この間、海ん中潜ってたらよー、サメの歯見つけてさー。サメの歯ってお守りになるっ
て聞いたから、ネックレスにしてみたんだけど。」
「へぇ、やっぱ凛は器用だな!!でーじ、カッコイイし!これ、もらっちゃっていいの?」
「いいさー。裕次郎のために作ったんやし。」
「うわー、ありがとう。早速つけるし。」
平古場からサメの歯のネックレスを受け取ると、甲斐はそれをその場で首にかけた。日に
焼けた肌にサメの白い歯が映え、甲斐の魅力が存分に引き出される。
「やっぱ、裕次郎似合うな。」
「本当か?」
「うん。でーじカッコイイさー。」
「へへ、そう言われると結構照れるな。」
平古場にカッコイイと言われ、甲斐は照れ笑いを浮かべる。そんな感じで、しばらく他愛
もない話をしていると、ふと甲斐が何かに気づいたような声を上げる。
「あっ!」
「どうしたよ?裕次郎。」
「そろそろあの洞窟に移動しようぜ。もうすぐアレが見れる時間やし。」
「ああ、そうだな。忘れてたぜ。」
甲斐の言うあの洞窟とは、二人が今居る岩場のもう少し奥にある洞窟のことである。この
洞窟では、ある一定の時間帯になると、光と潮の流れの関係で、とても美しい光景が見ら
れるのだ。
「アレは何度見ても飽きないよな。」
「ああ。もう毎日でも見たいくらいだぜ。こんなとこまで来れるのは、俺達魚族くらいだ
から、ちょっと優越感感じるよな。」
「確かに。おっ、そろそろ見えてきたぜ。」
二人の視線の先には、一面真っ青な景色が広がっていた。その一面青の洞窟に入ると、二
人は再び水の中へと飛び込む。そして、その青い光が放たれている中心部へと移動した。
「うわー、やっぱ何度見てもキレイやし・・・」
「本当だな。」
青い光に包まれながら、二人はその幻想的な光景に目を奪われる。この素晴らしい景色を
二人だけで独占しているということをもっと感じたいと、甲斐は平古場の手をぎゅっと握
った。
「ゆ、裕次郎・・・?」
「こうしてた方が、二人きりでこの景色見てるって感じするかなあと思ってさー。」
「そ、そうだな。」
「凛。」
「何?裕次ろ・・・」
手を握られて少し緊張気味の平古場に、甲斐はちゅっとキスをする。いきなりキスをされ、
平古場の心臓は飛び出してしまいそうな程高鳴る。
「凛の顔、赤くなってるし。この真っ青な中でも分かるくらい。」
悪戯に笑いながら、甲斐はそんなことを言う。指摘されると、恥ずかしさが増すもので、
平古場の顔はさらに赤くなった。
「ゆ、裕次郎がいきなりちゅうなんてしてくるからだろ!!」
「嫌だったか?」
「・・・べ、別に嫌じゃないけど。」
「だったら、いいやし。こんなキレイな景色の中でキス出来るなんて、ちょっとロマンチ
ックだろ?」
「そうだけどさー・・・・するんだったら、先に言って欲しいし。」
いきなりは心の準備が出来ないと、平古場はボソボソとそんなことを呟く。それを聞いて、
甲斐はニッと笑い、平古場の髪に優しく触れた。
「キスするぜ、凛。」
「お、おう。」
言われるのもなかなか恥ずかしいと思いつつ、平古場はきゅっと目を閉じた。キスを待つ
平古場の顔も可愛いなあと思いながら、甲斐はもう一度唇を重ねる。一度気分が乗ってし
まうと、なかなか冷めないのが甲斐だ。一面が青一色の光という幻想的な景色の中、甲斐
は何度も平古場と甘い口づけを交わすのであった。

甲斐と平古場が沖の方へ出ている頃、浜辺の方では魚族の赤澤と花族の観月が話をしてい
た。魚族同士であれば、海の中で遊んだりすることが当たり前なのだが、花族は海に入る
ことをあまり好まない。そのため、この二人は砂浜に腰を下ろして話をするのが日課とな
っている。
「今日の海は波が穏やかで、色も綺麗ですね。」
「そうだな。晴れた日の海は外から見るだけじゃなくて、中も綺麗なんだぞ。本当は観月
にも見せてやりたいんだが・・・」
「気持ちは嬉しいですけど、塩水は苦手なんで。」
「ああ、分かってる。そうだ!いいことを思いついた。少しの間、ここで待っててくれな
いか?」
「えっ?はい。急にどうしたんです?」
突然何かを思いついたと、赤澤はすくっと立ち上がる。そして、何のためらいもなしに、
海の中へと入っていった。
「すぐ戻ってくるからな!」
「?」
人魚のようになるシャークモードで、赤澤は海に潜る。一体どうしたのかと観月はぽかん
として、赤澤の潜っていった海を見つめていた。
「一体何なんですかねぇ?」
とりあえず言われた通り、その場で待ってみる。しかし、赤澤は20分経っても、30分
経っても戻ってこなかった。魚族は、水中で魚と同じように息が出来るため溺れることは
ないということは分かっている。そのため、そんなにも長い時間待たされている観月はだ
んだんとイライラしてきてしまう。
「遅い!何やってるんですか、赤澤は。」
普段は薔薇モードの観月であるが、イライラしたり機嫌が悪くなるとスズランモードにな
る。一見可愛らしいスズランも、その花や根には強い毒が含まれている。そんなスズラン
のモードになってしまうということは、相当イライラが溜まっている証拠だ。もう帰って
しまおうかと立ち上がった瞬間、バシャっと海中から赤澤が上がってきた。
「ふー、ちょっと手こずっちまった。」
上がってきた赤澤に尾ひれはついていなかった。海中で尾ひれがついていない状態になっ
ているということは、もう一つのモードになっているということだ。
「遅いっ!!今まで何やってたんですか!!」
「悪い悪い。本当はもっと早く戻ってくる予定だったんだけどよ、ちょっと気の荒い魚に
攻撃されちまって。そいつとケンカしてたら、遅くなっちまった。」
「ケンカって・・・ああ、だからシャークモードじゃなくて、ウツボモードなんですね。」
「そうなんだよ。泳ぐだけだったら、シャークモードの方が楽なんだけどよ、戦うとなる
とウツボモードの方が都合がいいからな。」
「で、こんなに僕を待たせて、何しに行ってたんですか?まさかケンカしに行ったわけで
はないでしょう?」
スズランモードになっているのを見て、相当イライラしているんだなあということが赤澤
にも分かった。とにかく機嫌を直してもらおうと、海に潜ってとってきたものを観月の前
に差し出す。
「待たせちまったことは謝る。すまない。でも、別にケンカしに行ったわけじゃないんだ
ぜ?観月に少しでも海の中の綺麗なものを知ってもらおうと思って。」
そう言いながら、赤澤が観月の前に出したのは、サンゴの欠片や真珠、綺麗な貝殻など海
の中にある綺麗なものの代名詞のようなものであった。それらのものを見て、観月は自分
がイライラしていたことなどすっかり忘れてしまう。
「すごく綺麗。」
「だろ?観月は綺麗なものが好きだから、こういうのをとってきたら喜ぶかなあと思って。
本当は景色とかを見せられたら最高なんだけど、今はこれで我慢してくれ。」
「我慢してくれだなんて、これだけでも十分ですよ。」
「それは全部お前にやる。そのためにとってきたんだからな。」
「赤澤・・・」
屈託のない笑顔を浮かべてそんなことを言う赤澤に、観月は少しきゅんとしてしまう。他
の魚とケンカしながらもこれらのものを自分のためにとってきてくれた。それが嬉しくて、
観月は薔薇モードに戻り、さっきまでの怒り顔が優しい笑顔に変わっていた。
「どうだ?気に入ってくれたか?」
「はい。ありがとうございます。」
「そうか。それならよかった。」
観月が喜んでくれたことで、赤澤も嬉しくなる。嬉しそうな赤澤の顔を見て、観月は何か
行動で感謝の気持ちを表さなければと考える。
「赤澤。」
「何だ?観月。」
名前を呼ぶと柔らかな薔薇の香りが辺りを包む。その変化に赤澤も気づいたようで、少し
驚いたような顔になった。そんな赤澤に、ふっと微笑みかけながら、観月はぐいっと赤澤
の頭を引き寄せ、優しく唇を重ねた。そのキスは甘い薔薇の蜜の味で、赤澤の心を鷲掴み
にする。
「さっき怒ってしまったお詫びと、綺麗なものたくさんくれたことに対するお礼です。」
「み、観月・・・」
「花族のキスは、蜜の味ですからねー、文字通りに。いいお返しでしょう?」
「不意打ちすぎるぞ。・・・心臓ドキドキしすぎて死にそうだ。」
「全く大袈裟ですね。でも、本当にありがとうございます。さっきのプレゼント、すごく
嬉しいですよ、赤澤。」
「お、おう。」
ニッコリと微笑む観月に、赤澤はさらにやられる。花族の蜜には、惚れ薬でも入ってるの
ではないかと思うほど、赤澤は観月に対してときめいていた。しかし、観月も観月で、赤
澤がナチュラルにしてくれる言動によって、赤澤と同じくらいときめき、胸を高鳴らせて
いるのであった。

                     to be continued

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