ホテルに到着し、夕食やお風呂など一通りのことを済ませてしまうと二人は窓辺のソファ
に座った。滝が今日のために用意した部屋は最上階。窓から見える景色は、観覧車から見
た景色に匹敵するほど、素晴らしい夜景であった。
「ここからの景色もすごいですね。」
「うん。」
「でも、こんな部屋だったらすごく高いんじゃないですか?最上階で、窓から見える景色
もすごいですし。」
「うーんとね、この部屋タダだよ。」
「えっ・・・えー!!」
こんなに高そうな部屋がタダだと聞けば、誰でも驚く。鳳も例外ではなかった。ホテルに
泊まってタダとはどういうことなのか、鳳にはさっぱり理解が出来なかった。
「ほ、本当ですか!?」
「うん。長太郎、このホテル入るとき、ちゃんと看板見た?」
「いえ、そんなにちゃんとは見なかったです。」
「このホテルさぁ、跡部んとこで経営してるホテルなんだよね。もちろんあの跡部のこと
だから、タダで泊まらせてくれるなんて気前のいいことはしないんだけど。」
「じゃあ、どうして?」
「跡部がタダで一室貸してくれるなんて、どんな理由があると思う?」
これはもう一つしか答えはないだろうと滝はニヤニヤ笑いながらそんなことを問う。少し
考えて、鳳はあっと手を叩いた。
「宍戸さん絡みですか?」
「ピンポーン。正解。」
「確かにそれならタダにしてくれるのも分かりますね。でも、何したんですか?」
「幼稚舎の頃さ、俺、宍戸と同じクラスのときがあったんだよね。そのときの写真をね、
いくつか持っていったんだ。そしたら即オッケー。」
「さすが跡部さんですね。」
跡部らしいと鳳はくすくす笑う。どんな経緯があるにしろ、こんなに素敵な部屋に泊まれ
ることになったのだ。何はともあれ、跡部に感謝しなければならない。
「まさかこんなにいい部屋貸してもらえると思わなかったけどね。」
「そうですね。本当に綺麗な部屋ですもん。」
そんなことを言いながら、鳳はダブルよりも少し大きなベッドにボスンと体を預けてみる。
このベッドも普通のベッドとは違って、心地よい弾力性とふわふわ感があった。
「このベッドもすごく気持ちいいですし。」
「大きいしね。」
「滝さんも寝転がってみません?」
自然の流れであるかのように、鳳は滝をベッドへ誘う。単にベッドに寝転がることだけを
期待して誘っているのか、そのあとの展開を期待して誘っているのか、滝には分からなか
ったが、そんなことを言われて行かないわけにはいかない。様々な期待を含んだ笑顔で、
窓辺のソファからベッドへと移動した。
ポスンっ
鳳が寝転がっている横に腰を下ろす。座るだけでもそのベッドの快適さは感じられた。
「ホント、いい感じのベッドだね。」
「ですよね。このベッドなら気持ちよく眠れそうです。」
「もう眠い?長太郎。」
昼間のことを思い出し、滝は鳳の髪をかき上げながらそう尋ねる。そんな仕草に滝が何を
言いたいかを感じ取り、鳳の心臓はドキンと高鳴った。
「まだ・・・そんなに、眠くないです・・・」
「そっか。このベッドに寝転がってると本当に眠くなってきちゃいそうだもんね。眠くな
る前にさ、ちょっとやりたいことがあるんだけど。」
遠回しな誘いにもちろん鳳は気づいていた。それは、鳳自身もある意味楽しみにしていた
ことで、断るつもりなど全くなかった。
「お、俺も・・・眠くなる前にしたいことがあって。」
「本当?きっとさ、それって同じことだよね。」
「たぶんそうだと思います。」
お互いに何をしたいかはハッキリ言っていないが、したいことは共通している。これから
そういうことを始めるという雰囲気に、二人は自然と鼓動が速くなっていくのを感じてい
た。
「それじゃ、始めようか。」
「はい・・・」
さらっときっかけの言葉を述べる滝だが、内心はとても落ち着いているとは言えない状態
であった。もちろんそれは鳳も同じだ。座ったまま、上半身を屈めるように鳳に口づけを
すると滝はベッドの上に乗り上げた。
電気も消さず、ベッドの上で何度もキスを交わしている内に二人の気分はだんだんと高ま
ってゆく。お互いの唇が離れたときには、鳳の唇は赤く染まり、次にされることへの期待
感を示していた。
「ふ・・・はぁ・・・・」
「何かキスだけで、すっごいドキドキしてきちゃった。」
「俺なんか、キスする前からドキドキしちゃってて、もうずっとそれが治まらないんです
よ。」
「でも、このドキドキ感、すごく楽しくない?」
「はい。何度味わっても飽きないですよね。」
軽く呼吸を乱しながらも、二人はくすくすと笑う。この状況が楽しくて仕方がないらしい。
「そうだ。この部屋すごく暖かいじゃん。この暖かさならきっと全部脱いじゃっても平気
だよね?」
「たぶん大丈夫だと思いますけど。」
「じゃあさ、二人で脱がしっこしよっか。」
滝の突然の提案に少し驚く鳳だが、別に嫌というわけではない。ちょっと恥ずかしいなあ
と思いながらもコクンと頷いた。どちらもボタンのついたシャツを着ているので、なかな
か脱がし甲斐がある。お互いの服のボタンに手を伸ばすと、一つ一つそれを外していった。
「何か、変な感じだよね。」
「そう・・・ですね。俺、人の服なんてあんまり脱がせたことないんで、すごく緊張しち
ゃってますよ。」
だんだんと露わになってくる滝の肌に、鳳は顔を赤らめる。毎回見ているには見ているの
だが、自分が脱がせて見るというのはまた感じ方が違う。
「よし、終わった。」
「は、早いですよ!滝さん。」
「早く脱がさないと先に進めないよ?」
そう言われると焦ってしまって手が上手く動かない。顔を真っ赤にして、自分の服を必死
で脱がせようとしている鳳を見て、滝は可愛いなと思いつつ興奮する。まだボタンがあと
二つくらい残っているところで、滝は鳳のズボンに手をかけた。
「じゃあ、俺は下の方を脱がす準備でもしてようかな。」
「ちょ、ちょっと待ってください!あ、あともう少しなんでっ!」
「だって、何にもしてないの時間がもったいないじゃん?大丈夫、まだ全部は脱がさない
から。」
そう言いながら滝は鳳のズボンのベルトを外し、チャックも下げてしまう。そんなことを
されれば、余計に動揺してしまい、それこそ全く手が動かなくなる。
「あともう少しなんでしょ?長太郎。」
「で、でも・・・」
「ほら、早く脱がさないと長太郎だけいろいろされることになっちゃうよ。」
まだ脱がしはしないが、下着の上から鳳のそれに触れる。軽く触れるだけにも関わらず、
鳳はあからさまな反応を示した。
「や・・ぁ・・・やめてください、滝さん。」
「長太郎がちゃんと全部ボタンを外してくれたらやめてあげる。」
「そん・・・な・・・」
ボタンを外すことなど普通に考えたならそんなに大変なことではないのだが、今の鳳にと
っては非常に難しいことになっていた。緊張と焦り、興奮と中途半端に与えられる刺激、
これらがあいまって鳳の手は震え、動かなくなっている。それでも必死に外そうと四苦八
苦している鳳を見て、滝はさらに事を進めたくなってしまう。軽く触れている程度だった
その手を、本格的に愛撫をするように動かし始めた。
「んっ・・あ・・・滝さんっ!?」
当然そんなことをされれば、鳳も素直に感じてしまう。驚いたような顔で、滝の顔を見る
と、滝は実に楽しそうで、それでいてどこか嗜虐心を感じさせるような顔で笑っていた。
「早く外さないと、このままイカせちゃうよ?」
「嫌・・・です・・・ちゃんとっ・・・外しますから、も・・・少し待ってください。」
どうしてもそうなる前に滝の服を脱がせたいようで、鳳はそう懇願する。直接与えられる
刺激と、先程からの焦りから鳳の呼吸はだいぶ乱れていた。そんな状態で、必死で手を動
かし鳳は何とか残りの二つのボタンを外した。外し終わったときには、もう限界が近いの
ではないかという程に、滝に触れられている熱は高まっていた。
「ハァ・・・終わり・・ました・・・」
「えらいえらい。それじゃ、ちゃんと先に進もうか。」
先程までは下着の上からしか触れていなかったそれに、滝は直接触れ始める。そのままし
ていてもよかったのだが、やはりズボンや下着を必要以上に汚すのはよくないと完璧に脱
がせてしまった。
「んんっ・・・ぁ・・あっ・・・あ・・・」
「服脱がすの大変だった?」
「はい・・・すごく大変でした・・・」
「でも、気持ちよかったでしょ?」
「・・・・はい。」
脱がそうとしている間中、下を触られていたのだからそう感じるのも仕方がない。本当に
いい反応をしてくれるなあと思いつつ、滝は器用に鳳の熱を弄る。もともと限界に近かっ
たそれは直接触られ、すぐに限界に達してしまった。
「ひゃっ・・・あぁ・・・!!」
「俺の服を脱がすのには随分時間がかかったのに、イっちゃうのは早いんだね。」
「だって・・・滝さんが・・・・」
そう言われるのが相当恥ずかしいのか、鳳は顔を真っ赤に染め、半泣き状態になる。さす
がにいじめすぎたかなあと滝は少し反省をし、銀色の髪を優しく撫でた。
「ちょっと意地悪だったかな?」
「・・・・・」
羞恥心から目にいっぱい涙を浮かべながらも鳳は首を振る。確かに恥ずかしいとは感じる
がいじめられているとは感じていなかった。
「でも・・・」
「ん?」
「もっと優しくして欲しいです・・・」
「そうだね。ゴメンね、長太郎。じゃあ、こっからはいっぱい優しくしてあげる。」
謝罪を含んだ笑顔で、そんなことを言い、滝はちゅっとキスをする。そこからの滝の愛撫
はひどく優しいものになり、鳳を柔らかな快感の海へといざなっていった。
「ん・・・あ・・ふ・・・ぅ・・・・」
本当に感じるところとは少し外れた部分をゆっくり撫でられ、鳳は穏やかな快感の波に浸
る。焦らされるのとは違う甘く痺れるような感覚。そんな感覚に鳳は次第に夢中になって
ゆく。
「ん・・・滝さ・・ん・・・」
「すごくイイ顔してるよ。気持ちイイ?」
「はい。すごく・・・気持ちいいです・・・」
「もう少ししたら、こっちの方も慣らしてあげるからね。」
上半身から順番に愛撫を繰り返していた滝だったが、本当に気持ちよさそうな鳳を見て自
分自身も何だか気持ちいいようなそんな感覚に陥る。
「滝さん・・・」
「何?」
「さっきあんなこと言っておいて・・・あれなんですけど・・・・」
「うん。」
「もう少し・・・激しくしてもらっても・・・・いいですか?」
優しくされるのも心地いいのだが、やはり進んでいくうちに物足りなくなってしまったよ
うだ。そんな鳳の言葉を聞いて、滝はふっと微笑む。それならばと、今度は鳳の一番感じ
るポイントに、指を使い、唇を使い、舌を使い、順々に刺激を与えていった。
「あっ・・・あん・・・ふあ・・・・」
「優しくされるだけじゃ足りなかった?」
「・・・はい。」
「こういうのは少し激しいくらいがちょうどいいんだよ。さっきの反応より、今の反応の
方が俺は好きだな。」
「じゃあ・・・もっとしてください・・・・」
無意識なのか意識的なのか、鳳は平気で滝を誘うような言葉を発する。そんな言葉を聞か
されれば滝も我慢が出来なくなってしまう。少々荒々しく足を開かせると、今日はまだ一
度も触っていない後ろの蕾に濡れた指を持っていった。
「ひっ・・あ・・・」
「ゴメン、長太郎。俺、ちょっと余裕なくなってきちゃった。」
「大丈夫です・・・俺も余裕ないですから・・・」
「長太郎が余裕なくなるのと、俺が余裕なくなるのはまた別でしょう。」
「ん・・・同じ・・ですよ」
滝に内側を弄られながら鳳は答える。どう考えてもする方とされる方では違うのだが、鳳
は同じだと言い張った。
「だって・・・滝さんは俺に挿れたいと思うでしょう・・・?」
「う、うん。まあ、そうだね。」
「俺も滝さんに挿れて欲しいと思いますもん・・・」
「えっと、うん。」
「繋がりたい、欲しいと思って余裕がなくなってるんだったら同じじゃないですか。」
あまりにも率直なことを鳳が言ってくるので、滝はドギマギしてしまう。しかし、言って
いることは間違ってはいない。
「んっ・・・う・・・」
「確かに間違ってないね。でも、そんなこと言われたら今すぐにでも入れたくなっちゃう
よ?」
「まだ・・・無理ですよぉ・・・」
「分かってる。痛くするのは趣味じゃないからね。もう少しちゃんと慣らしてから入れる
よ。だから、そんなに不安そうな顔しないで。」
まだほんの少ししか慣らしていない状態で、いきなり入れると言われたら不安になるのは
当然だ。しかし、そんなことを滝が実行するはずがなかった。しっかりと指で入り口を解
したあと、入れても大丈夫そうなことを確認して、自分のモノをあてがう。
「それじゃ、いくよ?」
「・・・はい・・・」
入れることをちゃんと伝えてから、滝はゆっくりと身を進めてゆく。蕾が開かれ、熱い楔
が内側へと入りこんでくる感覚に、鳳は首を反らせ喘ぐ。全てが埋め込まれるとどちらも
ひどく呼吸を乱し、滝は真っ白なシーツを、鳳は滝の服をぎゅっと握った。
「はっ・・あ・・・あぁ・・・」
「くっ・・・マジで今日は余裕ないかも・・・」
「滝・・さんっ・・・・う・・あ・・・」
「ハァ・・・大丈夫?長太郎。」
「このままだと、ツライです。早く動いてください・・・」
胸を上下させ、苦しげに呼吸をしながら鳳はそう滝に頼む。動きたいのは山々なのだが、
滝自身もそれほど余裕があるわけではない。少し抜こうとすれば、抜かせるものかと言わ
んばかり鳳の腸壁は滝の熱をしっかり捉える。そんな感覚に滝は背筋に電流が走るような
快感を感じる。
「うっ・・・」
「あっ・・あぁん・・・!」
初めはその快感が強すぎてなかなか動けない滝であったが、ある程度慣れてしまえば、む
しろその快感を体が求めるようになる。内側を擦るように腰を動かしてやれば、それに合
わせて鳳の腰も揺れる。
「ハァ・・・ヤバイ、止まらなくなりそう・・・」
「あ・・・やぁん・・・あっ・・あぁ・・・」
「長太郎、ちゃんと気持ちイイ?苦しくない?」
「すごく・・・気持ちいいです・・・よすぎて・・・・体が追いついていかな・・・」
体は一応追いついているのだが、意識がついていっていないのだ。滝も鳳ももう無意識に
体を動かしている。相手を求め、探り、掴み、感じる。それがたまらなく気持ちよく、ど
ちらももう自分の行動がコントロール出来なくなっていた。
「長太郎・・・俺、もうっ・・・・」
「ひぁ・・・滝さんっ・・・・」
意識を越えて動く体は一気に絶頂へと向かっていった。ドクンと一際大きく心臓が高鳴り、
お互いの腹に精を放つ。その熱さが心地よく、どちらも全てが満たされるような満足感を
感じる。しかし、それはすぐに次の快楽を求める引き金となり、再び二人はお互いの熱を
求め始めた。
「ハァ・・・ハァ・・・どうしよ、長太郎・・・まだ全然おさまらない・・・」
「俺も・・・まだ全然足りないです・・・」
足りない分を補おうと二人はまた腰を揺らす。体位を変え、口づけを交わし、奥の奥まで
突き刺し、受け止め、感じ合う。そんなことを何度か繰り返すうちに本当に溶けて一つに
なってしまうのではないかというほどの快感の絶頂に達する。さすがにそこまでくると、
体力も底をつき、二人はこれ以上ない幸せと充足感を感じながら、ぐったりとベッドに倒
れ込んだ。
しばらくベッドの上で体を休めるとゆっくりと滝は起き出す。滝が起き上がるのに気づい
て、鳳は顔だけをそちらの方へと向けた。
「はあ・・・大丈夫?長太郎。」
「はい。体が重くてまだ起き上がれそうにないですけど。」
「そうだよね。俺もすごく疲れちゃった。でも、すごく気持ちよかった。」
先程までの甘く激しいひとときを思い出し、滝は満足そうに呟く。体はひどく疲れている
が、心はそれ以上に満たされていた。
「俺も・・・すごくよかったと思います。」
「ホント?ちょっと無理させちゃったっぽいけど。」
「全然平気ですよ。確かに今日はいつもより疲れちゃいましたけど。でも、滝さんとああ
いうことをするのはすごく好きですから。」
「本当に嬉しいこと言ってくれるよね。あっ、飲み物でも持ってくる?喉渇いちゃったで
しょ?」
「はい。お願いしてもいいですか?」
「全然オッケーだよ。ちょっと待ってね。」
あれだけ長い時間動き、声を上げていたのだから当然喉は渇く。まだベッドから起き上が
れそうにない鳳の代わりに滝は飲み物を取りに行った。
「ゴメン。冷蔵庫の中、水しかなかった。これでもいいかな。」
「全然構いませんよ。ありがとうございます。」
滝からミネラルウォーターを受け取り、鳳は重い体を起こしてそれを飲む。冷蔵庫で冷や
された水は鳳の疲れた体にじんわりと染み渡った。
「ふう・・・」
「長太郎、俺も飲んでいい?」
「はい。どうぞ。」
滝も相当喉が渇いていたので、鳳からペットボトルを受け取り、一口口に含む。冷たい水
を飲みながら、滝はキラキラ光る窓の外を見る。いかにもクリスマスらしい景色を見て、
滝はふとあることを思い出した。
「ねぇ、長太郎はサンタクロースっていると思う?」
「えっ?サンタクロースですか?」
「うん。」
「そうですね・・・いなくはないと思いますけど、実際にプレゼントを配って回ってるか
っていったら、それはないと思います。」
「そっか。」
何を思ったのか、滝は急にサンタクロースの話をし始める。
「サンタクロースってさぁ、実際本当にいたんだよ。」
「本当ですか?」
「うん。本当にずっと前の話なんだけどね。しかもそのときは、サンタクロースって名前
じゃなかったし。」
「えっ?どういうことですか?」
「中世くらいのヨーロッパにね、セント・ニコラスってキリスト教徒がいたんだ。その人
はクリスマスの日に、貧しい人に対してお金を配って回ったんだ。これがもとになって、
サンタクロースが生まれたんだよ。サンタクロースとセント・ニコラスって響きが似てる
でしょ?」
「へぇ、そうだったんですか。」
サンタクロースの起源を聞いて、鳳は感心する。プレゼントを与えるということとはちょ
っと違うが、確かにそれは今で言うサンタクロースだ。むしろ、名前からしてそうである。
「俺達くらいの年になるとさ、さすがにサンタさんが本当にいてプレゼントをくれるんだ
ってふうには思えないけど、存在は否定出来ないと思うんだよね。実際、本当にいたわけ
だし。でもさ、サンタクロースって存在があると思うだけで、クリスマスってすごく幸せ
な日になると思わない?」
「どういうことですか?」
「子供達はサンタさんを信じてプレゼントを楽しみに待つでしょ?そんな子供達のために
お父さんやお母さんはプレゼントを用意する。それってすごく楽しいし、幸せなことだと
思うんだよね。それから、何かの歌でもあるように恋人がサンタクロースみたいな考え方
もありだと思う。サンタクロースって、何か物をプレゼントするんじゃなくて、いろんな
人達に幸せを与える存在だと思うんだ。」
サンタクロースがいるとかいないとかそんな話ではなく、もっと現実的で、しかし夢いっ
ぱいの滝の話に鳳は真剣に耳を傾ける。確かにサンタクロースという概念がなければ、滝
が言うようなことは成り立たない。物ではなく幸せを人々に与える存在のサンタクロース。
そう思うのであれば、サンタクロースは確かに存在することになる。
「サンタクロースって、すごいんですね。」
「うん。俺はね、サンタクロースは絶対いるって信じてる。」
「確かに滝さんの言う話から考えればいますよね。」
「それに、サンタクロースは今日俺達のところにも来たと思うんだ。もちろん、見えたり
はしないけど。」
「えっ?」
もうサンタクロースが自分達のところへ来たということを聞き、鳳は少し驚く。確かに時
間はもう12時を回っているが、どうしてそんなことが言えるのか鳳には分からなかった。
「何で分かるんですか?」
「何でだと思う?」
「えっと・・・・分かんないです。」
「だって、俺、今長太郎と一緒にいてすっごく幸せだもん。」
ニッコリと微笑みながら滝はそんなことを言う。それを聞いて、鳳の胸はじんわりと温か
くなる。サンタクロースは幸せを与える存在。鳳の頭の中で先程滝が言った言葉が繰り返
された。
「サンタクロース、俺も絶対にいると思います!」
真っ赤になりながら、鳳はそう滝に断言する。いきなりどうしたんだろうと首を傾げる滝
であったが、次の言葉を聞いてそう断言した理由を理解する。
「だって、俺も今滝さんと一緒にいて、すごく幸せだって感じてますから。」
「長太郎。」
そんな鳳の言葉が嬉しくて、滝はぎゅっと鳳の体を抱き締める。鳳の言葉、表情、態度が
本当に愛おしく感じられる。
「まだクリスマス始まったばっかりですから、今日はきっともっと楽しい一日になります
よ。」
「そうだね。」
「サンタクロース、来年も俺達のところに来るといいですね。」
「うん。サンタクロースが来てくれるように来年のクリスマスもずっと一緒にいようね。」
「はい!」
抱き合ったままそんな約束をし、二人は笑い合う。色とりどりの光が瞬く聖なる夜。どこ
かに必ず存在するサンタクロースは、二人を幸せにしながら夜空を駆け抜けてゆくのであ
った。
END.
★他のも見てみようと思う方は・・・★
−跡宍− −岳忍−